ぼっこでっこ建築隊、下瓦町の事務所兼住宅へゆく。

建築家の自邸訪問/Bokko Dekko Kenchikutai goes to‘House(office) in Shimokawaracho’/奥和田 健

ぼっこでっこ建築隊
建築討論
7 min readDec 14, 2018

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連載第9回/2017年3月26日/設計:池井健

一人暮らしの時を含めると5回くらい引っ越しをしている。職場が変わったなどの理由ではなく、近場だけど遊びに行った先で、その街の豊かさを知ると、そこに住みたくなり、自由が利く若い時は引っ越すたびに嬉しくなった。

2017年の3月、ぼっこでっこ建築隊で訪問した「下瓦町の事務所兼住宅」に住んでいる建築家の池井健さんも、先ず四条大宮という街に惹かれ、この街に移り住むことが最初の目的だったらしい。

ぼっこでっこ建築隊とは、建築家が設計した住宅に料理と酒を持参し、食事のひとときを通じて住空間をも味わおうと目論むパーティ(メンバーは、ヤベ隊長、ブン隊員、オオタ隊員、オクワダ隊員、そしてリョーヘイ顧問の5人)。

この日は集合場所に着くと4人しか居なくて、今日はこの編成なのかなと思っていると、物陰に隠れていたオオタ隊員が周りを気にしながら現れた。

「あのスミマセン、この場所は昔…、とにかく早く移動してください」

他のメンバーは久しぶりに訪れた四条大宮の空気に触れて、楽しく歓談していたのだが、オオタ隊員は辛い思い出があるらしく、一人だけ早足で目的地へと駆けていった。

街って、本や音楽と同じように人生にリンクしていて、そこに重ねる思い出も人それぞれなのだなと思いながら、我々も池井さんの自邸「下瓦町の事務所兼住宅」へと向うことにした。

駅から歩くこと5分「下瓦町の事務所兼住宅」が見えてきた。四条大宮に住むために場所を探していた池井さんが、古家を購入しリノベーションした建築で、1階に事務所、2階3階が住居になっている。

図面提供:池井健建築設計事務所

1階の東側が玄関だが、角に昔の理髪店で見かける三色のクルクル回るサインポールが残っていた。この部分を取り払うと外観は整頓されるのだが「過去に理髪店だったことが不鮮明になる」という池井さんの説明を聞きながら、池井さんが建物を受け継いだだけでは無く、時間も受け継いでいるのだなと感じた。

玄関扉を開けると、打合せスペースがある。池井さんの事務所だ。平面図だけを見ると、空間の幅は3250mmなので狭いように思えるのだが、1間半より少し広めの空間なので、南側に机と椅子を置き、背面に収納棚があっても、通路幅が十分に取れて使い勝手がよい。しばらくオフィスの椅子に座ったりしながら、この平面レイアウトがベストだなと思っていると、2階から声が聞こえてきた。

「早く上がってきて下さいよ」 先に入っていたオオタ隊員の声だった。

図面提供:池井健建築設計事務所

実は1年ほど前に「下瓦町の事務所兼住宅」を、皆で訪問したことがある。その時は夜間で我々も酒が入っていて、空間と内部樹木の相互関係が解りづらかったこともあり、今回は昼間に再訪問することになったのである。本題でもある樹木が存在する上部の住居スペースへと、上がることにした。

外から見ていた時に気になった南側の大きなガラスの開口部。光は程よく採れそうだが、この大きさと南面という方角と高さを考えると、少し暑いし影も欲しくなる。ただ、昼間に中に入って確認すると、開口部の内側に樹木が茂っており、心地よく光を調節している。矩計と平面を同時に眺めながら空間をくまなく見ると、池井さんの丁寧なペリメーターの設計が解る。

ひととおり建物を見学した後、いつものように乾杯し、食事が始まった。 オオタ隊員も、この頃になると緊張がほぐれたのかギターを弾き、それに合わせてヤベ隊長が唄い、ブン隊員がリズムを刻み始めた。 皆が、それぞれ池井さんの空間を楽しんでいると、しばらくして “ ピンポーン ” とインターホンが鳴った。

池井さんが「はいっ」と受け答えする間もなく、階段を上がる音が聞こえて来て、池井さんの先輩である森田一弥さん(第2回ぼっこでっこ訪問)、魚谷繁礼さん(第4回ぼっこでっこ訪問)、川井操さん、そして一緒に布野修司さんも現れた。

「ちょっと近くまで来ましてね」

布野さんが話し出す。

「ぼっこでっこ建築隊の試み、これを建築討論に寄稿しなさい」

ヤベ隊長含めた全員が戸惑いはじめた。

いままでアーカイブすることをあまり考えず、ただ自分達の為に活動していたのが一変、記録をしっかり取らねばという重圧に押されてモゾモゾしていると

「よし、街にでよう四条大宮へ」と布野さんの掛け声で、近くの酒場へ出かけることになった。

京都在住の建築家に案内され、四条大宮の街へ。 酒場は沢山の人で、ごった返していた。

様々な年齢そして話し言葉などが交じり合い、その人達のドラマが見えてきそうな空間は、心の琴線に触れるというか、このような場所で説得されると前向きに考えてざるを得ない。この場所で、ヤベ隊長含め全員が建築討論へ寄稿しようと誓うことになった。

帰り道。

ギターを肩にかけるオオタ隊員が

「今回、下瓦町の事務所兼住宅へ来て、この街に対する思い出の上書きができました」

と語っていたのが印象的だった。

この街に住みたいと思える日が彼にも来るのだろう。

そして僕たち「ぼっこでっこ建築隊」もまた次の建築そして街へと向かうのであった。

ぼっこでっこ建築隊とは、建築家が設計した住宅に酒と料理を持参し、食事のひとときを通じて住空間をも味わおうと目論むパーティである。
隊員:矢部達也(隊長)、岡文右衛門、奥和田健、太田康仁、石井良平(顧問)

奥和田 健
建築家。1970年生まれ。2004年奥和田健建築設計事務所設立。

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ぼっこでっこ建築隊
建築討論

ぼっこでっこ建築隊とは、建築家が設計した住宅に酒と料理を持参し、食事のひとときを通じて住空間をも味わおうと目論むパーティである。 隊員:矢部達也(隊長)、岡文右衛門、奥和田健、太田康仁、石井良平(顧問)