もやす建築:木造建築の新しいパラダイムを求めて

043|202005|特集:構築と分解 _ 終わり方から考える建築デザイン

鷹野敦
建築討論
17 min readApr 30, 2020

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木造建築と輪廻

建築を“終わり方(EoL: End of life)”から考えるというテーマは、 “輪廻”を想起させる。ここでは、思想・宗教的な深度の意味合いでは無く、時間を超えて事物が連続することや、日頃の行いが後の出来事に影響するという因果の考え方を輪廻と呼んでいる。昨今、循環型の社会と円環的な思考への転換が求められている。本メディアの特集「木造建築のサークルオブセッションズを超えて」[link 1]では、単純化された平面的な円環思考に対する批判と、それを乗り越えるための多角的な議論がなされた。個人的に循環とは、いくつもの活動が複雑に相関し、時空を超えてつながっていく立体的な螺旋運動をイメージする。換言すると輪廻である。

輪廻的な視点で建物の生涯を捉えると、最後に燃える / 腐る木造建築が断然面白い。ヨーロッパの郊外で見かける木造の屋根だけが朽ちた、あるいは焼失した石造りの建物は象徴的である(写真1)。石は現世に在り続け、木は腐り、燃えて来世へ行く。屋根が無いことで在りし日の姿がより強く想像され、建物の前世ともつながる。

写真1 欧州の古城 木造部分は消失し石造部分は建ち続ける(©︎ analogicus)

また、日本で古来より行われる大嘗祭(皇位継承の儀式)では、神の仮宿である大嘗宮が儀式の最後に奉焼され、神は炎と共に見送られる。建物を燃やすことで、現世に生きる人々は皇族の継承という悠久の時の流れに接続される。

建物の終わりをデザインした現代の事例もある。「Land(e)scape」[link 2]と名付けられたプロジェクト( 写真2, M. Casagrande + S. Rintala, 1999)は、フィンランドの郊外に置き去りにされたログ小屋に4本の脚が生え、街へ移住したかつての主を追って歩き出し(死への行進)、最後は火が付けられ焼け落ちるという物語である[link 3]。

写真2 「Land(e)scape」 脚の生えた3棟のログ小屋(M. Casagrande + S. Rintala, 1999)

忘れ去られたログ小屋が命を与えられ、燃えて最後を遂げることで、フィンランドの原風景や農作業への礼賛と、郊外が過疎化し荒んでいく現状への異議を昇天させる。建物を過激に燃やすことで、前世と現世と来世をつなごうとする試みだと言える。これらの例に見られる通り、燃えたり腐ることで姿を変え、別の価値として次の世界(システム)に転生できる(つながりを持てる)のは、木造建築の大きな特徴だ。

木造建築を燃やす意義

このような質的な側面に加え、木造建築を燃やすことの量的な意義やその可能性について、LCA(Life cycle assessment)にもとづく環境的な側面から考えてみたい。なお本稿は、筆者が建築雑誌2020年3月号に寄稿した「材料と建物の環境性能」[1]の伸展でもある。

建物の環境負荷に関する研究の中で、EoLに着目したものはまだ多いとは言えない[2]。しかし、これまで明らかにされた知見から、適切な木造建築の終わり方を考える上でのヒントを見出すことはできそうだ。個人的には2つの視点: 1) 廃材の焼却によるエネルギー回収と、2) 代替効果による連鎖的な貢献、が重要だと考えている。エネルギー回収とは、解体後の木質材料をバイオマス燃料とみなし、焼却してエネルギーに変換することである。言い換えると、建物に貯蔵されている燃料の有効活用である。現在、産業廃棄物として排出される木くずの約30%は埋立や単純焼却されており、建物から出る廃材のエネルギー利用の割合も改善の余地がある。特に、CLT(直交集成板)などのマスティンバーを用いた構法は、木材使用量が多く威力が大きい。

次に、エネルギー回収の直接的な効果に加え、付随して生じる間接的な影響まで見込むのが代替効果(Substitution effects)の考え方である。ある建物から発生する廃材を全て燃料として再利用すると想定した場合、まず、EoLで得られるエネルギーは、この建物が持つ環境的な利益として評価される(エネルギー回収: 直接的効果)。加えて、このエネルギーが次の生産システムで、例えば、石炭から作られた同量のエネルギーを代替するというシナリオを仮定する。そこで、石炭の採取・運搬・加工に本来必要となるエネルギー消費や、燃焼による温暖化ガス(GHG)の排出をキャンセルできるとして、建物の評価にそのマイナス分まで組み込む。つまり、解体後の廃材が再利用されることで得られる利益を、副次的な可能性まで含めて先に勘定し、建物の環境負荷から差し引くという評価方法である(図1)。

図1 木造建築の生涯を通した木材の流れと廃材利用の例図 [3, Fig.6を加筆修正]

多くの研究で、廃材の再利用はエネルギー消費量やGHG排出量の削減に大きく貢献すると報告されているが、木造建築の場合、この代替効果が大きく影響する[例えば4]。この考え方は建築物のLCAに関する欧州規格EN15978[5]で定められており、廃材の再利用を考える上で重要な枠組みとなっている。

建物の材料や構法の選択、設計、建設、運用時のメンテナンスなど”現世”での行いは、EoLでのエネルギー回収量や、”来世”での環境影響というかたちで現れる。量的な側面から見ても、この木造建築の輪廻的な在り方が面白い。最後に燃やすことができる木造建築にしか無い大きな可能性である。

ただ、木は再生可能な資源ではあるが、当然、無限に得られる資源では無いことを忘れてはいけない。よって、木材を建物に沢山使い、最後は全て燃やしてエネルギーを回収すれば良いという単純な話でも無い。建物の生涯だけではなく、森林の成長状況や丸太・製材の加工生産量、建設需要、建物内の木材貯蔵量など、総合的かつ中長期的な資源の連関を考慮しながら、廃材のカスケード利用も含めた適切なEoLのデザインが必要である[6]。材料として廃材を建物に再利用することで、バージン資源の消費や加工エネルギー、建設廃棄物を削減でき、木材が固定しているCO2の放出を遅らせることができるなど、直接・間接両面でのメリットが期待できる。現状、ほとんどが埋め立て、焼却、またはチップに加工される廃材を、極力大きなサイズの材料として再利用するための研究開発はここに動機づく。

太い・厚い・重いデザイン

上記を踏まえ、燃やすという観点から見た木造建築のデザインの展開可能性について、事例も示しながら書いてみたい。結論から言うと、木を大きな“塊”として建物に組み込むのが良いと考えている。断面が大きければ、材料としての再利用にも対応しやすく、塊として木材を建物に貯蔵しておけば将来的なメリットが生み出しやすい。

そもそも、伝統的な建物の多くは、外皮が重厚な木や石の単層で構成されていた(図2、写真3)。

図2 外皮が重厚な木や石の単層で構成されていた伝統的な建物[7]
写真3 外皮が重厚な木や石の単層で構成されていた伝統的な建物

また、鎌倉時代までの日本の木造建築は、巨大な断面の架構によって、十分な構造性と耐久性を備えたと言われる[8]。これは、入手可能な資源と加工技術、気候風土とのバランスにより導き出された、最適な構法の解と言える。しかし、近代の技術革新や新素材の誕生により、建物外皮は薄く軽い方向へシフトする。軽薄な外皮は、透明性と開放感を建築にもたらした反面、熱や光など環境的な面で大きな課題を生んだ[9]。その課題に対し、断熱や気密、防風などの機能を担う材料を重ねることで外皮性能を改善する方法がとられた。その延長線上に、高気密・高断熱という現代の標準的な環境建築の仕様がある(図3)。

図3 高気密・高断熱仕様の外壁の構成例。構造や気密、断熱の役割を担う8層を重ねた構成

しかし、外皮の多層化・複雑化は、使用する資材の増加や建設、維持管理、解体作業の煩雑化を招く。さらに、設計と施工に高い精度を求め、小さなミスが部材や建物の寿命に致命的な影響を及ぼすリスクを増加させる。構法的に見ると、現代の建物の構成は少し神経質に感じる。伝統的な建物の外皮は、その厚みで複数の機能をゆるく、一挙に満たしていた。厚さのおかげで耐久性や耐候性は高く、内外の環境応答も緩和される、おおらかで冗長性の高いつくり方である。EoLの最適なシナリオを考える上でも、細く・薄く・軽くという近代以降の価値観から、太く・厚く・重くという方向性を再考することに大きな可能性を感じている。昨今、大きな注目を集めるマスティンバーは、この可能性を広げる材料だと個人的には捉えている。

このような考えにもとづき、筆者が設計に携わった建築事例を3つ紹介したい。1つ目の事例(事例①)は、2階建の個人住宅で(図3、写真4)、マスティンバー(集成厚板パネル)の外壁と、軸組による床・屋根を組み合わせた架構を持つ。

図4 事例①「木質混構法の家」(Architecture Studio Nolla / 鷹野 敦 + 鷹野真紀子 + 福山弘構造デザイン, 2015)
写真4 事例①「木質混構法の家」(Architecture Studio Nolla / 鷹野 敦 + 鷹野真紀子 + 福山弘構造デザイン, 2015)(写真(上2枚): 針金洋介)

105mm厚のマスティンバーが全ての水平力を負担することで、可変的な内部空間をつくり出すとともに、外壁に求められる断熱、調湿、気密、仕上げの機能を一石五鳥で担っている。このおおらかな構成で、木材使用量の増加、化石燃料由来材料(プラスターボード、断熱材等)の使用削減、現場での工期短縮(コストと施工品質の最適化)、メンテナンスの容易化、建物の長寿命化およびEoLでの解体および分別の容易化を図ることを設計の主眼とした。

2つ目の事例(事例②)は、事例①と同じく複数の役割を果たすマスティンバーで外皮を構成した平屋の整骨院併用住宅である(図5、写真5)。

図5 事例②「木板の合掌」(鹿児島大学環境建築研究室 / 鷹野敦 + 福山弘構造デザイン, 2017)
写真5 事例②「木板の合掌」(鹿児島大学環境建築研究室 / 鷹野敦 + 福山弘構造デザイン, 2017)(写真(上2枚): 針金洋介)

ここでは、90mm厚のCLTによる三角形のシンプルな架構とし、部材の数をさらに省略した。形態的に構造合理性の高い合掌状のユニットをずらしながら配置する単純な平面構成とし、内部の機能に応えている。

事例①、②の材料製造段階における環境負荷(1次エネルギー消費量)と直接的な環境利益(EoLにおけるエネルギー回収量)を評価した結果が図5である。

図6 環境負荷(1次エネルギー消費量)と直接的な環境利益(EoLにおけるエネルギー回収量)[10, Fig. 9を加筆修正]

特徴を相対的に理解するため、事例①を在来軸組工法で建設した場合(事例①-在来)も評価し、比較を行った。事例①では集成材を使用しているため、事例①-在来に比べて木質材料にまつわる負荷が増加する反面、化石燃料由来の材料が削減されるため、建物全体での負荷はほぼ同等となっている。加えて、多くの木材を使用することで環境利益が増加するため、収支(消費量−回収量)で見ると事例①の負荷はより小さくなる。事例②は、平家であるため基礎が大きく条件は不利であるが、構成をさらに合理化したことにより、事例①に比べ負荷は小さく、利益は大きくなった。一般的に、在来軸組は他に比べて環境負荷が小さな工法であるが[11]、ここで示した事例の通り、マスティンバーが複数の機能を担い、建物の構成をシンプルにすることで、より環境的な造り方となる可能性が生まれる。

3つ目の事例(事例③)は、地域で入手可能な木材と在来の技術(プレカット+大工の手加工)によるこのアプローチの展開である。大学の研究室と地元の製材所との共同で、120mmを標準とした軸組に、105mm角の製材を平積みしたマスティンバー(ログパネル)を耐力面材として嵌め込む構法を開発している(図7、写真6)。

図7 「軸組と小角材を平積みしたログパネルを組み合わせた構法」
写真6 「軸組と小角材を平積みしたログパネルを組み合わせた構法」の設計・建設実証の例(写真(上2枚): 中尾有希)

伝統的な板倉工法[link4]と縦ログ工法[link5]の合いの子のような造り方で、現在は設計と建設のケーススタディを繰り返しながら、構造・環境・意匠の面から汎用化に向けた改善を行っている。本構法の材料製造段階におけるGHG排出量と炭素貯蔵量を、他の一般的な工法と比較した結果が図8である。

図8 事例③と他工法との比較: GHG排出量と炭素貯蔵量[12]

同じ建物の躯体を本構法、在来軸組、CLTパネル、鉄骨(S)、鉄筋コンクリート(RC)で造ると仮定し、比較を行った。ここでは、本構法の床と屋根を在来軸組と同様の仕様としたため、排出量と貯蔵量共に若干の過小評価となっているが、CLTパネル工法と比べて負荷は小さく、利益は同等の造り方になる可能性がある。1次エネルギーの消費量についても、基本的には同様の傾向となる。地域の資源を地域の技術で無理なく加工し、シンプルでおおらかな建物を作ることで、適切な循環の生成に貢献できないかと試行している。経済的にも、丸太の歩留りを上げて価値を高め、木材を大量に建物に使うことで、川上・川中・川下の全方向に利潤をもたらす地域循環につながればと願っている。

Less is More + More is More

最後に燃やせる木造建築の意義と建物の生涯を超えたEoLの視点、さらにそこからのデザインへの展開可能性について述べてきた。木造建築を適切な森林資源の循環の中に位置付けると、木を“使えば使うほど”環境にも人にもメリットが生まれ得る。これは、パラダイムシフトである。これまで培ってきた、より少ない資源でより多くの成果を生み出す“Less is More”のアプローチに、この“More is More”の発想を加えることに大きな可能性を見ている。

参考文献
[1] 鷹野敦. 2020. 材料と建物の環境性能. 建築雑誌 2020年3月号. Vol.135. №1734. p.45

[2] Hossain M.U. and Ng S.T.: Critical consideration of buildings’ environmental impact assessment towards adoption of circular economy: An analytical review. Journal of Cleaner Production. 205: pp.763–780. 2018

[3] Takano A. et al.: Life cycle assessment of wood construction according to the normative standards. European Journal of Wood and Wood Products. 73: pp.299–312. 2015

[4] Sathre R and Gustavsson L: Energy and carbon balances of wood cascading chains. Resources, Conservation and Recycling. 47: pp.332–335. 2006

[5] EN15978:2011, Sustainability of construction works — Assessment of environmental performance of buildings — Calculation method, European Committee for Standardization

[6] Werner F. et al.: Carbon pool and substitution effects on an increased use of wood in building in Switzerland: First estimates. Annals of Forest Science. 62(8): pp.889–902. 2005

[7] Apiala R.V.: Hirsitalo. Rakennusalan Kustantajat. Helsinki. 1996

[8] 内田祥哉 他: 建築構法. 市ヶ谷出版社. 1981

[9] レイナー・バンハム: 環境としての建築 建築デザインと環境技術. SD選書260. 鹿島出版会. 1981

[10] Takano A: Wood in sustainable construction — a research and practice, World Conference on Timber Engineering. pp.1–8. Vienna. 2016

[11] Takano A et al.: A multidisciplinary approach to sustainable building material selection: A case study in a Finnish context. Building and Environment. 82. pp.526–535. 2014

[12] 相木雅史, 鷹野敦, 安長瑠人: 伝統建築を参照した新しい木質構法の開発 その3 -カーボンフットプリントの評価と比較-. 日本建築学会九州支部研究発表会. 59号. 2020年3月

Links
[link 1] https://link.medium.com/HWBVsHt6U5

[link 2] https://www.casagrandelaboratory.com/portfolio/landescape/

[link 3] https://www.youtube.com/watch?v=fqzx1Nj_6SU

[link 4] http://www.itakurakyokai.or.jp

[link 5] http://www.tattelog.com

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鷹野敦
建築討論

1979年生まれ。アアルト大学木質材料学科修了。理学博士。鹿児島大学大学院修了。修士(工学)。建築設計。木質材料。環境評価。受賞歴に2020年日本建築学会教育賞(教育貢献)、第14回木の建築賞(活動賞)、ウッドデザイン賞2019優秀賞(林野庁長官賞)など