応募作品/Possible of Sharing Economy through the Iza Kamakura Guest House/香月真大

AT editorial board
Jan 25, 2017 · 9 min read

1.はじめに

観光産業は世界のGDPの1割を占め、総就労人口は13名に1名以上といわれている。(世界旅行ツーリズム協議会の調査)これは今まで世界最大といわれた自動車産業をはるかにしのぎ、世界最大の産業になりつつある。

これは日本でも言えることで、平成15年の小泉政権の「観光立国懇談会」に始まり、平成27年の安部政権の「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」にいたるまで内閣府レベルで観光立国化の流れが進んでいる。

特に新しい観光ビジネスとも言える「民泊」は私達にとってTBSテレビ「拝啓、民泊様」などのドラマなどが放映され、わたしたちにとってもなじみが深いものとなっている。

もともと「民泊」とは一般の民家に泊まることをさす。

観光客は観光業者を通してウェブサイトや代理店経由でホテルやホステルなどを予約して観光を楽しむのが一般である。しかし、それだけだとホテルが足らないなどの問題が出るので、2008年頃からカルフォルニアからAIRBNBと呼ばれるインターネットの仲介サイトを通して個人宅や投資用マンションを貸し出す新しいビジネスモデルが出現した。これが今ではこのAIRBNBなどの宿泊サービス等を総称して民泊と呼ぶようになっている。

題名にある「シェアリング・エコノミー」とはこれらを総称した新しい経済概念のことである。

2.シェアリング・エコノミーとは

「シェアリング・エコノミー」とは空いた場所、車、駐車場などをSNSを通してウェブに登録することでフィーを払えば誰でもその場所が使えるようにする経済概念のことである。AIRBNBなどの民泊だけでなく自家用車をウェブサイト経由でタクシーのように貸すUBER、自己所有の空いた場所をウェブサイト経由で時間貸しをするSPACEMARCKETなど様々なサービスがある。

近年では神山町や北九州等で地方創生が歌われているが、全体の総人口自体は変動がないので地方に人が住むようになれば、都心部の人は減るので全体的な空き家の数は変わらない。しかし、ウェブを基にして場所や空いた家などを共有して使うことで、空き物件を定期的に利用でき、維持管理にも有効なので、近年言われている空き家問題の解決の糸口になると考えられる。

3.アイザ鎌倉の簡易宿泊所 ~シェアリング・エコノミーの実践~

今回は実際に企画・設計・運営に携わっている集合住宅「アイザ鎌倉」の3.4階部分を転用した簡易宿泊所を事例に挙げて「シェアリング・エコノミー」について考えてみたい。

アイザ鎌倉の簡易宿泊所 タローズハウス鎌倉小町の写真
アイザ鎌倉の簡易宿泊所 タローズハウス鎌倉小町の写真
アイザ鎌倉の簡易宿泊所 タローズハウス鎌倉小町の写真

相談が来たときの事情

鎌倉駅から徒歩1分という好立地に位置する場所である。しかし、商業施設の裏口から集合住宅部分は入るという点もあり、2LDK(99㎡)に3年間入居者が無いという状況があった。相談がきたのは民泊コンサルタントからであり、たまたま手がけた民泊の収益事例を記事にしたというのもあって相談がきた。オーナーが3年の入居率が無いので困っているから簡易宿泊所転用して収益案件に変えられないかと設計の依頼がきたのである。

コンセプト

本プロジェクトでは、鎌倉駅から徒歩1分のアイザ鎌倉の4階住宅部分を転用してゲストハウスを運営し、簡易宿所許可を取得した。アイザ鎌倉は1階から3階部分が商業施設であり、小町通りなど、鎌倉の商店街は大徳寺、明月院等の寺社の時間に合わせて営業している。夏は観光地として由比ヶ浜などの海岸部分もあるが、ヨーロッパ、中国などのアジア系の観光客には日本の寺社を観光する方が多い印象がある。

そこで外国人観光客がメインに宿泊すると見越して、鎌倉にしかない空間に泊まるのが良いと感じた。寺社をいくつか見て廻ったが、鎌倉の寺院建築で一番良かったのが明月院である。明月院は鎌倉原産の花である紫陽花などの花々や日本伝統家屋の中にある円と緋毛氈という赤い布をモチーフにした美しい空間構成を作っている。

和室1の間仕切り(緋毛氈で円をかたどったもの)
和室1の間仕切り(緋毛氈で円をかたどったもの)
和室1の間仕切り(緋毛氈で円をかたどったもの)

アイザ簡易宿泊所はこの明月院の円の借景をモチーフにしてデザインした。2LDKには和室が2部屋併設されているが間仕切りを取り、緋毛氈と呼ばれる赤い布をくりぬいて間仕切りの役割を果たすことで明月院の借景を再現した。またリビングの天井には紫陽花寺と呼ばれる明月院をイメージして紫陽花を表現した天井画をアーティストに描いてもらった。なお鎌倉山に住む華道家に生け花を円の間仕切りの奥に配置してもらうことで間仕切りの円に中心性を持つ空間を再現した。今回の簡易宿泊所では宿泊すると同時に、鎌倉駅か徒歩1分という好立地なので華道教室やアートギャラリーとしても使用できるように計画している。

和室2(華道家の作品を設置)
和室2(華道家の作品を設置)
和室2(華道家の作品を設置)
リビングの天井画(明月院に咲く花)
リビングの天井画(明月院に咲く花)
リビングの天井画(明月院に咲く花)
アイザ鎌倉の簡易宿泊所 タローズハウス鎌倉小町
アイザ鎌倉の簡易宿泊所 タローズハウス鎌倉小町
アイザ鎌倉の簡易宿泊所 タローズハウス鎌倉小町

基本的な収益の取り方
1.ウェブサイトでの誘致(WIXなど)
2.口コミ・関係者から
3.宿泊サイトの登録による予約(BOOKING.COM)
4.SNSによるリンクから(facebookからの誘導)
5.周辺の情報誌や広告から(チラシ等)

ゲストハウス収益で予約を取りやすいのは体験上、3.宿泊サイトの登録による予約である。

宿泊サイトはウェブサイト上の予約サイトであるBOOKING.COM、エクスペディア、アゴダ、AIRBNB、HOSTELWORLDなど主にウェブサイトに運営しているゲストハウスの情報・部屋の写真などを登録することで利用できる。鎌倉の簡易宿泊所はAIRBNBとBOOKING.COMを中心として1泊を家族貸しで2万円ほどで提供することで利益を得ている。3ヶ月の経過では7割程度の予約率である。

ゲストハウスのコツは宿泊サイトの企画設計4割、立地3割、運営3割と言われるぐらい最初の「企画設計(写真)」、「立地」、「運営」が重要になってくる。特に最近のゲストハウスはデザインが良いものが多くなってきているので少し特殊な差別化が必要である。近年では陶芸工場内に作るゲストハウスなど体験型の民泊が主流になりつつある。

登録したAIRBNBのウェブサイト
登録したAIRBNBのウェブサイト
登録したAIRBNBのウェブサイト

鎌倉の簡易宿泊所許可取得の経緯

鎌倉の簡易宿泊所の許可申請の経緯は合法化することによるメリットがあるからである。簡易宿泊所の許可証を手にすることでBOOKING.COM、expedia、ジャラン、楽天などの宿泊サイトに物件登録できる。観光客が予約するときはインターネット予約をするのでこれらの誰でも知っているメジャーな宿泊サイトに登録することは予約の回転率を上げることができるからだ。

立ち上げに重要な3つのポイント

最初にこういうホテル施設の転用案件をやるときに大事なのはデザインではなく、収益計算書の作成である。宿泊でもっとも大事なのはコンスタントに予約を入れてもらい、安定的に利益を出すことである。

とくに簡易宿泊所の設立で重要なものは「立地」、「企画・設計」、「運営」の3点である。

大事なのがまずは立地である。特にアイザ鎌倉の場合は破格の好立地ということもあって物件選びはクリアしている。商業施設などで大事なものは人目につく場所というのがあるがこれが当該敷地はとても条件が悪かったである。ようするに見えないし、集合住宅そのものがあると周辺で認知されていないからである。これらはインターネット・SNSを用いて解決することにした。

また次に大事なのは企画・設計である。企画・設計は簡易宿泊所の予約で最も重要な「写真」を掲載するときに必要なものだ。今回は鎌倉という場所を想定して外国人観光客にとってなじみの深い円の明月院の借景をモチーフにして世界観を構成した。今回は円の間仕切りを中心とした写真を利用することでここは和の空間なのだけど他のゲストハウスとの差別化を図った。

なお運営は収益を上げるために最も重要な要素である。宿泊の予約は基本的にはウェブサイト上の宿泊サービスを通して行う。メッセージのやりとりや、実際の部屋の内容等についてやりとりをする。利用者からは運営の対応や簡易宿泊所に対するレビューが書かれるのでこのレビューの評価がとても重要になってくる。良い評価をもらえればそれだけ予約率は高くなっている。

4.シェアリング・エコノミーの可能性

あいているスペースを貸し出すことで利益を出すシェアリング・エコノミーは空き家問題や維持管理の問題の解決策となりうる。地方には観光資源が多く眠っているのでそれらの特徴を生かしてニーズを掘り起こして民泊として貸し出すのは維持管理の点からも解決策になる。日本は内閣府から観光立国化を目指しているのでオリンピック以後も規制緩和が進むと考えられる。

今回は空いていた集合住宅をホテルとして転用し、スペースを共有することで利益を生み出す事例を紹介した。ストック事業では既存のオフィスビルや集合住宅を転用してホテルへリニューアルし、投資家等に販売する事業も増えている。

日本の空き家問題は様々な試みがなされているが、シェアリング・エコノミーも新たな活用方法の1つとなりうるだろう。

建築討論

建築をめぐる幅広い批評的議論のプラットフォームを提供する日本建築学会のウェブマガジンです。

AT editorial board

Written by

建築討論委員会(けんちくとうろん・いいんかい)/『建築討論』誌の編者・著者として時々登場します。また本サイトにインポートされた過去記事(no.007〜014, 2016-2017)は便宜上本委員会が投稿した形をとり、実際の著者名は各記事のサブタイトル欄等に明記しました。

建築討論

建築をめぐる幅広い批評的議論のプラットフォームを提供する日本建築学会のウェブマガジンです。

Welcome to a place where words matter. On Medium, smart voices and original ideas take center stage - with no ads in sight. Watch
Follow all the topics you care about, and we’ll deliver the best stories for you to your homepage and inbox. Explore
Get unlimited access to the best stories on Medium — and support writers while you’re at it. Just $5/month. Upgrade