プラスチック・マウンテンとエディブル・シティ

連載:「Afro-Urban-Futurism / 来るべきアフリカ諸都市のアーバニズムを読みとく」(その5)

初めてのアフリカ大陸でまず訪れた国は、西アフリカの小国・トーゴだった。南国の陽気に舗装されていない大地をサンダルで蹴り上げながら歩いていると、放し飼いの鶏やヒヨコ、ヤギなどが道端に捨てられたゴミをかき分けながらウロウロしている。鶏が走り回るたび、プラスチックと紙ゴミの山がガサゴソという音を立てる。

そう、ロメの街はゴミだらけだ。近年開発された目貫通りBoulevard Du 30 Aout沿いには、住民たちが土を掘って作ったゴミ穴があり、そこにペットボトルなどが無造作に捨てられている。街中を歩くと、ゴミの山を燃やす煙の匂いがする。

動物達が餌だと間違ってゴミを突いたりしているから、近所の食堂で焼いた若鶏なんかが出てくると、これは先ほど異臭を放つ道端でお菓子の袋を漁っていたあの鳥なんじゃないかなどと考えて、途端に食欲がなくなる。かつては沼であっただろう水辺なんかは、燃やされたゴミの残骸とプラスチックボトルが浮かんで、原型がない。

WoeLabが取り組む、ネオ・ヴァナキュラー・シティ

私が2021年12月にトーゴを訪れた理由は、建築家であり、文化人類学者であるセナメ・コフィ(Sénamé Koffi)に会うこと、そして、彼がロメに10年前に設立したインキュベーション施設であり、テック・ハブの「WoeLab」に2カ月滞在しながら、彼と共同でプロジェクトに取り組むことだった。

セナメが立ち上げた「L’Africaine d’Architecture(アフリカの建築)」は、アフリカの都市・建築に関わるコレクティブなリサーチと、実験的な活動を創発するためのプラットフォームとして機能している。「統合的建築」「プリミティブ・コンピテーション」「テクノロジカル・デモクラシー」「デジタル・コレクティビズム」といったオリジナルの概念を次々と生み出しながら、これからのアフリカの都市のあり方を探る興味深いイニシアティブだ。

そんなセナメに、ゴミだらけな街、という私のロメに対する第一印象を伝えると、残念そうに肩をすくませた。国連のレポートによると、アフリカで発生する廃棄物の90%以上は、管理されていな いゴミ捨て場や埋立地で処理され、その多くが道端で野焼きされている。一方で、世界最大のゴミ捨て場50カ所のうち、19カ所がサハラ以南アフリカにある。ごみを数十年にわたり中国に輸出してきた先進国だが、2018年に中国がプラスチックごみの受け入れを禁止してから、アフリカへの輸出量はかつての4倍に膨れ上がった。これは、「ゴミの植民地主義」とも呼ばれているらしい。

ゴミ問題は、セナメが取り組む領域の一つだ。例えば彼は、地元で出た電子ゴミ(e-waste)を使ったオリジナルの3Dプリンターの開発(初の“メイド・イン・アフリカ”の3Dプリンターと言われている)や、SCoPE(Sorting & Collecting Plastics in our Environment)というゴミの分別に取り組むスタートアップの支援などをしている。また、デジタルセンシングでコントロールされた都市型農園も運営するなど、アナログでローコストなアプローチと新しいテクノロジーをバランスよく取り入れてプロジェクトを生み出している。

私自身も滞在中によく活動を手伝っていたSCoPEは、アフリカにおけるエコロジー・イノベーションを通じて、プラスチック廃棄物問題の解決策を提供するプロジェクトだ。リアルタイムでステータスを管理できる独自の回収システムを使って、家庭から出るプラスチックごみの分別・回収を促す。

サインアップした住民たちは、オリジナルの回収キットを受け取る。ゴミが溜まったら、ビープ機能を使ってチームに知らせる。すると、SCoPEチームが回収に来てくれるというわけだ。現在、SCoPEの事務所を中心とした半径1キロ圏内に、役50人の利用者がいる。少ないかと思うかもしれないが、プラスチック分別と回収の意義やその方法を利用者に理解してもらい、実際そのプロセスをサポートしながら回収まで行うのは重労働だ。当時の彼 / 彼女らの課題は、サービスにサインアップする住民だけでなく、チームメンバーの拡張だった。

WoeLabから1km圏内のコミュニティ内で使用できるデジタル通貨もつくった。アプリで使用可能で、ボランティア活動やゴミの分別など、コミュニティへの貢献となる行動をすればポイントがたまり、WoeLab内のショップなどで使用できる。物々交換など、資本主義とはまた違うかたちでのコミュ二ティ内の消費を最終的なビジョンとしているようだ。

私自身、SCoPEの代表やチームメンバーと共に、地域住民からのゴミの回収に同行させてもらった。トーゴでよく飲まれている、プラスチックの水の袋をアップサイクルしたオリジナルのゴミ袋に、生活で出るプラスチックゴミを分別して片付け、ゴミ袋がいっぱいになったらアプリを使って回収依頼を出すというシステムになっている。家の敷地内に入れてもらえて彼らの生活の場を見学させてもらう良い機会にもなった。

反応は住民によってさまざまだ。家畜としてヤギや鶏などを複数飼っている家庭では、ヤギの誤飲が亡くなったことで急に死んでしまうことが少なくなったという。なぜプラスチックだけをわざわざ分別する必要があるのか、外で燃やしてはいけないのかを、いまいち理解しないまま、それでも参加している住民もいる。家の前のポイ捨てが気になるという住民女性は、ストリートの清掃活動を強化すべきだと意見する。

エディブルシティ構想

一方で、ロメの街がゴミだらけで自然がないかというと、そうではない、先述のように、舗装されていない道路を放し飼いの鶏やヤギなどが歩き回っていたり、そこらじゅうに、いつでも収穫できそうな豊かな実をたわませた椰子やバナナ、マンゴーの木などが生えている。日本ではスーパーフードと言われる貴重なノニの木も、多くの家庭に植えられていた。招かれて食事をご馳走してもらったセナメの母親の家にはさまざまな香草もあり、調理に使ったり、それらを混ぜ合わせて漬けて作った手作りの香草酒を飲ませてもらった。

成長した樹木だけでなく、若木も多い。それらは、ヤギに食べられてしまわないように、ワイヤーで囲まれていたり、石で境界が作られていたりと、創意工夫で守られている。

複数の動物を飼っている家庭が多いのにも好感を持った。そこら辺を走り回っている鶏は、確かにゴミの野焼き跡で雛たちを遊ばせているかもしれない。私が夕食に誘われて出てきた鶏肉料理は、その雛で作られているかもしれない。けれど、人間の家庭から出た生ごみを突いて、ゴミだらけのストリートを歩き回って育った鶏が、工場で生まれ育った鶏に比べて”汚い”かというと、そうでもないと私は思うのだ。

ボストン大学で教鞭をとる歴史家・アンドリュー・ロビショー(Andrew A. Robichaud)の初の著作である『アニマル・シティ:アメリカの家畜化(Animal City: The Domestication of America)』(2019)では、19世紀のアメリカにおける都市発展の歴史と、それに伴う人間と動物達の関係史が語られているが、現代の都市を理解するうえで、”動物”という視座は非常に重要だ。

プラスチックだらけの煙っぽいゴミ山と、その隣で力強く繁げる、エディブルな実をつける木々たち。その合間を駆け回る動物たち。この状況は、整備された環境のなかで、植物とも動物とも遠い存在になってしまった日本に暮らす私たちのリアリティとは、真逆のものかもしれない。数年後にロメに戻ったら、街はどうなっているのだろうか。ゴミ回収のシステムが整備されて、ストリートからゴミが消えているのだろうか。同時に、剥き出しの土も、アスファルトに塗装されて姿を消しているかもしれない。その上を歩き回る、放し飼いの動物たちも。無造作に生えているマンゴーの木は、新しい都市開発で切られているかもしれない。この街の未来のシナリオは予想がつかない。

セナメに話を戻そう。彼が生み出した概念のなかで特に興味を引かれたのは、「ネオ・ヴァナキュラー・シティ(Neo-Vanacular City)」という言葉だ。そもそも「ヴァナキュラー(vernacular)」という言葉には、「土着の」「その土地固有の」という意味がある。気候や立地、そこに住む人々の活動といった風土に応じて造られる建築物を指す「ヴァナキュラー建築」という言葉は、聞いたことがある人も多いはずだ。彼が提案するのは、ヴァナキュラーな、いや、“ネオ(=新しい)”・ヴァナキュラーな都市である。「ローカルな消費。脱酸素を意識したビジネス。通貨のない経済。代表のいないデモクラシー。未来の脱植民地化。そんな世界観を体現したくて、この場所をつくっている」と、セナメは口癖のように何度も言っていた。そんな世界観を総称したものが、彼のいう「ネオ・バナキュラー・シティ」だとしたら、私はその姿を一刻も早く見てみたい。それは、西欧式のスマートなごみ収集システムが導入された汚れのない優等生みたいな街ではなく、住民たち同士がああでもないこうでもないと言いながら、時には唖然として立ち止まりながら、少しずつ変化していく街なはずだ。その未来には、アボカドの木も、砂を蹴ってバイクから逃げる鶏とその雛たちも、まだ現役で存在している、と私は信じている。■

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杉田真理子/Mariko Stephenson Sugita
建築討論

An urbanist and city enthusiast based in Kyoto, Japan. Freelance Urbanism / Architecture editor, writer, researcher. https://linktr.ee/MarikoSugita