創造的なアーカイブとは何か──鹿島出版会の本・雑誌と活動の記録として(評者:大西麻貴)

大西麻貴
Feb 28, 2018 · 3 min read

たとえば好きな小説家の一生を調べるとしよう。幼い頃の家族写真、加えて青年期の一枚と晩年の一枚、数枚の手紙のやり取り、何人かの知人の証言、暮らした家の間取り、愛用したペンや椅子、好きだった音楽、毎朝の朝食のメニュー。星と星とをつなぎ合わせてひとつの星座を生み出して行くように、その一生に肉薄しようとする一方で、その情報のあまりの僅かさに愕然としてしまう。きっとここに残された何枚かの写真の間に何万時間もの異なる瞬間があり、怒りや喜び、悲しみや驚きがあり、些細な思いつきや忘れ去られるに仕方ない出来事があって、今はもう動かないその過去の事実が、絶えず変化する生きた時間だったということに気がつく。人間が生きていく間に過ごすこの時間、この活動、この思考は一体どのようにして残して行くべきなのだろうか。創造的なアーカイブとは一体どのようなものなのだろうか。

「百書百冊」というタイトルのつけられたこの本は、日本の建築界に書籍および展覧会を通じて大きな役割を果たして来た鹿島出版会の活動をアーカイブするための本と言える。

本書は大きくふたつの内容で構成されている。「百書」にはこれまで鹿島出版会が刊行してきた書籍に対する書評が、「百冊」では雑誌『SD』と『都市住宅』の各号と、展覧会「SDレビュー」の関係者が当時を振り返って思いを語るという文章が掲載されている。ここには膨大な数の著者による、膨大な数の文章が載っている―少なくとも、著者があまりに多様で個性的であるためにそのような印象を受ける―ため、すべてをひとつずつ順番に読んでいくことは、ほとんど不可能に近いように感じられる。しかし、ページを繰っていくと、文章の鮮やかさと瑞々しさに心を打たれ、思わず手をとめて読みふけってしまう。

たとえば『百書』の中に収録されている原広司氏のSD選書015『ユルバニスム』(ル・コルビュジェ著 樋口清訳)の書評のなかにある、「機械が美しく見え、人間の友あるいは延長であることと映ることは、ギリシア的な人間美の賞賛や労働の創造性を評価するのと同様に人間的であるように思われる」という言葉、そこから「ヨーロッパを生きようとする態度は、理性の輝きを信じる態度である」と続いていく文章にはとても感動した。原氏の言葉を通じているからこそ感じられる、コルビュジェの、そして建築の素晴らしさについての文章だと感じた。

SD選書そのものは、これからも建築学生がまずはじめに図書館で出会うべき本として残り続けるだろうし、『SD』や『都市住宅』は伝説の雑誌として参照され続けるだろう。しかしあえて物として完結している出版物そのものではなく、書評や当時の思い出話といった、書籍を取り巻くものを集めることで、より鹿島出版会の本や雑誌、そして展覧会が、文字を書くことを通して、あるいは本という物、展覧会という場を通して一体何を切り開こうとして来たのか、その可能性と輝きを垣間見られる本となっている。

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書誌
編者:伊藤公文
書名:百書百冊 鹿島出版会の本と雑誌
出版社:鹿島出版会
出版年月:2017年11月

建築討論

建築をめぐる幅広い批評的議論のプラットフォームを提供する日本建築学会のウェブマガジンです。

大西麻貴

Written by

おおにし・まき/1983年愛知県生まれ。建築家。大西麻貴+百田有希 / o+h共同主宰。横浜国立大学大学院Y-GSA客員准教授。主な作品:「二重螺旋の家」(2011)、「Good Job! Center KASHIBA」(2016)ほか。主な著作:『8 stories』(共著、LIXIL出版、2014)ほか

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