公共空間にみる賑わいの本質 ── 変化 / 安定 / 救い

三浦詩乃/The Essence of Vibrancy in Public Spaces ── Changes | Stability | Lifesaver for Local Communities / Shino Miura

三浦詩乃
建築討論
14 min readSep 30, 2020

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まちづくりや都市再生の現場で、必ずといってよいほど掲げられてきた「賑わい」。様々な立場の人々が、自らの取組に引きつけて解釈してきたために、その輪郭は曖昧である。本稿では、90年代以降から2020年現在の都市施策における、公共空間とその賑わいの位置付けを読み解くことで、賑わいの本質を見出したい。

地域に変化をもたらす装置としての「賑わい」

賑わいという語の都市施策への定着は、まちづくり3法の施行(改正都市計画法、大規模小売店舗立地法、中心市街地活性化法:1998年)が契機だ。この頃から、賑わいと地域やそこでの生業の活性化の関係性、賑わいづくりに必要な要件等について学術的にも扱われるようになり、現在まで研究数がのびている。

当時から、オープンカフェ等による国内の公共空間利活用を牽引していた都市計画家・研究者の北原理雄は、「「にぎわい」が都市に精気を吹き込む。街に人が集まるとき、人と人との交流が芽生え、情報が醸され、伝達され、個性ある文化が育つ。そして、にぎわいの舞台になるのは、都市の公共空間、とりわけ街路である。」1)と、地域と賑わいの普遍的な関係性を端的に表現している。ここには、公共空間における賑わいが交流の土壌となり、文化を生成することで、地域を活性化する役割を果たしている図式がある(図1)。

図1 北原による賑わいの定義

ところが、自治体の中心市街地活性化事業の現場においては地域商業者との協働が不可欠ということもあり、経済性を表す指標としての側面から賑わいに焦点があたり、達成されるべき定量的目標値となっていった(図2)。

図2 中心市街地活性化事業にみられる賑わいの解釈

a)b)の図式は文化の生成をはさむもので、まちには、ただ、多数の人々が集まればいいというわけでなく、バックグラウンドが異質な他者と出会うこと、その相互作用の発生が強く期待される。「量」と「多様性」の二重構造として、賑わいを解釈しているともみれる(図3・左)。北原が示唆したとおり、様々な属性の人々に開かれた公共空間は、こうした賑わいを受容する場として最適だ。その結果、もたらされる地域への効果は、必ずしも単年度で定量的に測れるものだけではない。例えば、来街者の行動変容、地元において新たな業態への転換や起業の意欲が高まる、といった現象も含まれるだろう。

図3 賑わいの二重構造

他方のa’)b’)の図式は、マーケティング的発想で、人々をマスの経済主体や消費者として捉えたものだ。ある一定期間の、各個人の購買頻度のばらつきは一定の確率分布に従うとされている(普及しているPareto/NBD モデルではポアソン分布に従うとされる2))。 確率論的に人々の集まりをみると、まずは「母数」が主眼、そして、人々の相互の差異は「誤差」となる。賑わいの「量」の力に期待が高まる。数を打てばあたる、のごとく、まちに訪れる来街者の母数を高めるほど、買物客の数が増えるかもしれない。または、小売業店舗数は歩行者量との相関が高い3)という統計的なデータに基づきながら、歩行者数や入込客数をあげていこう、という施策の流れになる。実際に内閣府のマニュアル4)では、「歩行者通行量」が賑わいを測る目標指標の設定例とされ、9 割以上の自治体がこれを指標としている3)。
この状態は2つの問題を孕んでいる。まず、指標をクリアして説明責任を果たせば成功とする、都市施策の短絡的な評価 ─── J.ミュラー5)の言う「上澄み」だけの評価 ─── に陥りやすいという点だ。例えば、鉄道駅前の大規模再開発が実現したとする。すると、歩行者量が見かけ上増加して、指標は達成するわけだが、「地域内でパイを取り合っている」可能性ものこる。従前従後の歩行者の目的地の変化まで丹念にみなければ、地域全体への影響を検証し、前向きな軌道修正ができない。また、定量的に測れる要素とは賑わいを構成する一部分だ(前出図3)。北原が描いたような地域の生業に創発的な変化をもたらす「他者との出会い」の意義が見落とされると、既存事業者に閉じた系の生業に、消費者を送りこんで生命維持するに留まってしまう。

その後、2015年頃をターニングポイントとして、まちに集まる人々の数だけではなく、その属性や活動の多様性を考慮した賑わいの存在を捉えようとする試みが、各地の公共空間の社会実験でみられるようになった。居場所としての公共空間とその社会的価値を理論的に整理してきた海外のプレイスメイキングやタクティカル・アーバニズムの先駆者との交流をもちつつ、公共空間利活用の情報発信・共有や政策提言を担う「ソトノバ」や、全国の低未利用の公共的空間を発掘し、使い手とつなぐコーディネートを行う「公共R不動産」等、空間デザインとマネジメントの専門性をもった組織が立ち上げられた。
これらの持つWebプラットフォームを通じて、国内外の多様な公共空間の使われ方/場面が地域の暮らしにもたらす変化の姿が拡散され、変化の装置としての賑わいに光が当たりはじめた。加えて、前者のソトノバは、パブリックライフ研究の第一人者J.Gehl氏が提唱するアクティビティ調査の国内での普及を試みてきた。同調査を重ねれば賑わいを構成する活動について解像度をあげて分析できる(図4)。限られた予算ソースでの発注が調査手法の進化のスピードを抑制しているが、今後、取得されるデータの付加価値が広く認められ、精度の改良や対象地における長期的な調査成果の蓄積が進むなど、ツールとして各地に浸透するならば、先に論じた「上澄み」だけの賑わい評価による弊害を克服できるだろう。

図4 公共空間社会実験におけるアクティビティ調査のアウトプット例 ©︎SOCI inc.

デジタルネイティブ時代の安定的地域経営と公共空間

2010年代は上記のような取組みにより、公共空間とその賑わいの社会的価値が再評価されはじめた一方、SNSやスマホアプリケーションの普及が加速し、インターネットと日常活動の結びつきが強くなった時期でもある。デジタルネイティブ世代は、公共空間=リアル空間に価値を見出すのか?─── こうした問いかけは今後の都市の賑わいのあり方を考察する上では避けられない。

本稿では、GAFAの本拠地であり、ネット上での経済活動が日本よりも先に活発化した米国に目を向けてみる。2019年、ニューヨーク市では街を代表する目抜き通り・5番街からの老舗や有名企業の撤退が報道された6)。こうした現象も見られる中、市内の状況をひろく捉えるために、地価評価の異なる様々なエリアを対象に10年間の不動産動向を緻密に追った同市の都市計画局 『ニューヨーク市における地上階の空き状況に関する評価』レポート(2019年)を参照する。その結論から述べると、「実店舗の価値、特に飲食、美容・健康サービスに関しては、ネットで代替できない」だ。具体的には①店舗改修を行った上で5番街に残ったNIKE やTIFFANYによる、アプリ等と連携した独自の体験創出によるブランディング、②オンライン販売のショーケース(ポップ・アップ)としての実店舗活用や出店といった「オムニチャネル」型戦略をとるケースの増加、③1F飲食店舗の成長とブックカフェ、コワーキングによる活用多様化、といったまちの変化が報告されている。

同時に、10年間の間、常に空室率が低いエリアが浮かび上がった。ブロードウェイ、なかでもユニオンスクエア〜フラットアイアン(図5)区間が該当する。この要因として、①市場の変化に対応できる柔軟さをもった1階用途のゾーニング、②飲食の選択肢の多様性、そして③交通結節点、市民に親しまれてきた公園と2000年代に新たに創出された広場の存在、という地域特性が整理されている。デジタルネイティブ時代において、「変化」を重ねられることが却って地域経営の「安定」につながる、そしてその際に、公共空間と一体的にまち総体の過ごし方のリ・デザインができるエリアが強みを持つという知見が得られる。

図5 ニューヨーク市フラットアイアン地区の広場と公園

地域への「救い」

「変化」と「安定」を切り口に、公共空間やその賑わいの意義を整理してきたが、今年見舞われたCOVID-19の流行長期化を目の当たりにすると、まちが賑わう時代の終焉をみる見方も出てくるかもしれない。しかし、この見方自体、「量」の力を重視する賑わいのイメージに囚われていないだろうか。「賑わい」の原義に立ちかえると、「賑」の字義は「とむ/すくう」(『字訓』(白川静)より)。つまり、「豊さをもって人々を救う」という意味をもつ。賑わいの舞台とされてきた公共空間は、人を集められる余地があるからこそ、地域社会・経済の「救い」の空間として再認識されつつある。

コロナ禍で顕在化した公共空間の最小単位の賑わい:Activity Pocket

図6 NACTOによるパンデミック対策としての街路空間活用ガイドの一部7)
図7 ニューヨーク市路上客席(Open Restaurant)の様子 [写真Dumbo Improvement District]8)とその分布9)

感染による大きな被害と強度のロックダウン、社会混乱を経験した欧米都市では特に顕著だ。屋外のため感染リスクが小さいとされ、かつ、市民の住まいに最も身近な空間であるため、特に街路の多機能化や移動手段の転換が提言・実行されている。人を集める/集めないという1か0の議論というより、人の集まり方の質がさらに問われていくフェーズにある。

象徴的な施策として、再び米国になるが、NACTO(全米都市交通担当者協会)の取組みを紹介する。NACTOは、タクティカルアーバニズムのアプローチを採用し、米国内外各地の街路空間の現況共有、活用試行を推奨し、原則をガイド(図6)としてまとめた。この空間像は食・健康・学び等の機能をつなぎとめるインフラとして、近隣地区の人々が集まれる1街区を、再定義しつつも、大勢の人数を集めるものではない。実際の活用の現場は、6フィート(約1.8m)のフィジカルディスタンシングを意識したものにもかかわらず、活気を醸している(図7)。

この施策は、C・アレクザンダーの『パタン・ランゲージ』でいう「Activity Pocket」を創出し、最小単位の賑わいを地域に分配していると言えるのではないか。『パタン・ランゲージ』は、①歩行者1人あたり14㎡の空間、②周辺の土地性状(広場ならば長手約20m以下)、③人々の集まり方、④動的な活動の存在を、日常的に活気が感じられる空間の条件とする。図7のようにフィジカルディスタンスをとったとしても、①に関しては利用者1人あたり4~12㎡におさまる上、②に1街区というユニット単位が適合している。③、④についても、単独利用/親密な人との利用など人々の多様な関係性の混ざり合いにより、利用状況に疎密や動きが発生する。

官民連携によるマネジメントにおける行政の役割

こうした空間づくりは、ビフォー・コロナの街路活用手法と同様、地域性(空間資源、文化資源、人的資源、解決すべき地域課題)を反映した活用を可能にするため、住民や事業者が申請し、管理を担うことが原則だ。しかし、数ヶ月間の運用を経て、エリアによる施策の浸透度の分断が現れた。マイノリティである女性経営の事業所や有色人種居住区では導入が進まない自治体がみられ、市行政が技術的支援に力を入れている。ガイドのような空間規範を示すことに加え、こうした偏在を是正することが行政のミッションとされている。日本においても、飲食店の経営継続、そして地域にとってより安心な食の機会を確保できる路上席設置が実践され、制度上の規制緩和も進みつつある。「Black Lives Matter」運動のような深刻な社会課題が顕在化した米国の経験は極端に見えるかもしれないが、地元民間組織と行政が互いに役割を明確に持ちあうパートナーシップのあり方が、生業に開かれはじめた公共空間が商業空間の延長線に留まらず、「救い」の空間たりうるかを左右することを示唆している。

賑わいの解釈の転換がもたらすもの

以上、本稿では公共空間とその賑わいについて、地域の「変化」「安定」「救い」という3つの切り口に、本質的価値を求めた。コロナ禍による幕開けとなった2020年は、賑わいの片翼である「多様性」の確保が先に立ち、それに最低限必要な「量」を規定するという、これまでとは逆回転のアプローチに舵を切ることになった(前出図3右)。他者への身体的・心理的接触への渇望を満たせるまでには至っていないが、これまで当たり前のように単一の機能が割り当てられてきた都市のハードウェアのあり方が見直される兆しが国内外で現れている。

参考文献・URL

1) 北原理雄:にぎわいの再生とルール,18,(財)名古屋都市センター,pp.25–32,2000
2) 阿部 誠: 消費者行動理論にもどついた個人レベルのRF分析-階層ベイズによるPareto/NBDモデルの改良, 日本統計学会誌,37,2pp.239–259,2008
3) 国土交通省都市局 都市計画課 :まちの活性化を測る歩行者量調査のガイドライン,2019
4) 内閣府 地方創生推進事務局:中心市街地活性化基本計画認定申請マニュアル <平成29年度版>,2017
5) J・Z・ミュラー:測りすぎ なぜパフォーマンス評価は失敗するのか? THE TYRANNY OF METRICS,みすず書房,2019
6) Nathaniel Meyersohn:Why retailers are fleeing fifth avenue, CNN Business,2019(https://edition.cnn.com/2019/01/12/business/calvin-klein-store-gap-nike-new-york/index.html)
7) NACTO: Streets for Pandemic Response & Recovery,2020
8) Devin Gannon:10 iconic streets and spots in NYC open for outdoor dining,6sqft,2020 (https://www.6sqft.com/best-outdoor-dining-restaurants-nyc/ )
9)NYCDOT:OPEN STREETS(https://www1.nyc.gov/html/dot/html/pedestrians/openstreets.shtml)

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三浦詩乃
建築討論

みうら・しの/1987年長崎県生まれ。専門は公共空間のデザイン・マネジメント。東京大学新領域創成科学研究科特任助教。主な著書に『ストリートデザイン・マネジメント: 公共空間を活用する制度・組織・プロセス』(編著)『ストリートファイト: 人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』(翻訳)。