インタビュー|図書館家具・設備・用品の提供企業〈キハラ株式会社〉|「半歩先」の商品を提案していくこと

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建築討論
Published in
Mar 1, 2021

話し手:木原正雄、瀬良垣守人、須藤純司(キハラ株式会社)
聞き手:榊原充大(建築討論編集委員)

図書館を専門に家具・設備・用品を開発販売して100年以上の歴史を持つキハラ株式会社。図書館運営者と丁寧に話をしながら、専門機関と共同で実験をおこなって開発するという、ものづくりへの強い意識をお持ちです。設計者とも運営者とも異なる、家具・設備・用品の開発という視点から見る図書館のこれまでについておうかがいし、「これからの図書館」を考えるきっかけとしていきたいと思います。

— まずはキハラ株式会社の歴史からおうかがいできますか?

木原正雄(以下:木原):取締役でマーケティング部部長の木原です。キハラ株式会社は創業106年になる図書館家具・設備・用品の提供企業です。先先代が新潟の村上から出てきて、神保町や九段下でお兄さんの製本の仕事を手伝っていたようです。周りに大学が多く、そこで少しずつ大学の先生に呼ばれるようになり、図書館とも接点が出てきて、仕事が増えてきたというのがことのはじまりと言われています。

図書館との関係を結ぶにつれて家具や用品をつくるようになります。先代(現、会長)の時代、1980年代後半から90年代まで、好景気と相まって、市町立図書館も含めて、図書館施設の規模が増大して家具や用品の方にシフトしていくわけですね。ほとんど会長が基礎をつくってくれたというのがあって、わたしたちはそれをもっと違う方向に広げていくというビジョンで今やっています。

グラッパ書架

最近は防災にも力を入れています。私たちの製品に「グラッパ書架」という書架があり、2013年にグッドデザイン賞を受賞しました。グラッパ書架は、地震があったときに地震振動を減震させ、本の落下防止、書架の転倒を防止できるものです。

— 耐震ではなく減震ですか?

瀬良垣守人(以下:瀬良垣):マーケティング部設計室課長の瀬良垣です。最近は書架にも耐震と免震の構造がありまして、一般的に多く使われているのは耐震。倒れないためには建物に書架を強固に埋めつけ、揺れないから倒れないというのが耐震です。一方で免震・減震はそもそも書架に揺れを伝えないという考え方ですね。

地震は図書館にとって大きな災害になる危険性を持っています。図書館には本が多く、背の高い書架が連立しているので、その前に利用者が立っていて地震で書架が倒れてきたらと思うとゾッとします。本や書架が避難経路を防いで二次災害につながることも避けなければならない。私たちの命題として、書架が倒れないのはもちろんですが、本を落とさないことを重視して開発しています。

【動画】グラッパ書架の地震波による振動実験

木原:金沢大学、金沢工業大学と一緒に耐震、書架の強度について実験しています。とりわけ阪神・淡路大震災以降、書架の安全性に対してはすごく意識するようになりましたね。

須藤純司(以下:須藤):マーケティング部の須藤です。書架の可動式棚板の止め方も工夫して、棚板が前に飛び出さないことはもちろん、地震の突き上げの力にも対応しています。

木原:可動式棚板は12.5mmピッチで調整することができます。一般的な木製の書架だと25mmピッチなのですが、「あとちょっと」というときに対応できるように細かくしています。

瀬良垣:私たちは実験や検証で試行錯誤を繰り返してつくっていますが、そうして生まれた規格品を、設計者さんが図書館をつくりたいと言われたときは、その規格の性能が崩れないようにアレンジさせてもらっています。意匠上のお願いと工夫した点とがうまく両立しないときもあって、そこは戦うところですね。

しっかり説明すれば、設計者さんも意匠の方を工夫しようと切り替えてくれます。「私たちはこういう形でつくっています」ということを理解していただければ、あとはスムーズにいくことが多いように思います。

木原:私たちがつくった書架でなくても、地震対策が簡単にできるシート(安全 安心シート)の開発もしています。5段、6段書架の上段の棚板に敷いて、揺れたときにも本を滑らせない仕組みです。ただ、これも最初は全然売れませんでした。

安全 安心シートの振動実験

きっかけは東日本大震災で、途端に図書館側から注文が殺到しました。地震で本が落ちて危ないから、ということだけではなくて、図書館員さんたちが落ちた本を再度番号順に並べて戻すにもかかわらず余震でまた全部落ちてしまったという体験からだったようです。

私自身は偶然にも東日本大震災の時は学校の5階の図書室にいて、書架の状況をしっかり見ていました。「天つなぎ」といって書架の頭をつなぎ、上部を揺らさない仕組みがあるのですが、その図書室では天つなぎ材が壁(躯体)につながれていました。地震の時に建物が揺れるので、不適切な施工法でそのまま書架が押されて本が落ち、書架の転倒の危険性を目の当たりにしました。

そういった体験や実験が、今の書架の開発に役立っています。

瀬良垣:設計者さんは空間を意識するがために本の壁をつくるなどして、書架をインテリア的に見栄えあるものにする傾向にあります。ただ、これ以上は地震のときに非常に危険になりますよ、ということを丁寧に説明します。それを理解した設計者さんは、その地域に密着した地域の拠点となる、安全で安心な図書館をつくっていますね。

— 防災の意識とはまた違う観点で、開発に対してどういう思いを持たれていますか?

須藤:図書館で使う前提なので、場合によっては30年以上使われることになります。それゆえ、堅牢性、長く使えるという思いがまずひとつありますね。

歴史的図書館用品(木製カードケース)

木原:「歴史的図書館用品」の収集・保存を、弊社の会長が中心になって進めています。そのコレクションの中に、戦後から使われていた古い木製目録カードケース(積層型カード容器)があるのですが、直した形跡もなくしっかりとした状態で残っているのをみると、堅牢性・長く使えるものづくりの精神が感じとれます。

瀬良垣:目録カードを収納しておくカードケースは、キハラの売れ筋商品でした。情報媒体がパソコンにうつって出番が少なくなってきましたが、ベテランの司書さんにとっては懐かしく、若い人にとってはアンティーク家具として見ることができます。

その場にいる僕らは図書館の時間の流れが凝縮して見え、僕らはそういう仕事をさせてもらっていると思いますね。今後の開発・設計にも歴史的図書館用品は参考になります。

— 図書館家具のトレンドはどのようなものでしょうか?

瀬良垣:やはり東日本大震災から安全性第一になってきていますね。図書館は不特定多数の方が集まる施設ですしね。様々な人の居場所をつくろうとしていますので、家具はそこに寄り添うべきだと。普遍的な家具に、現代の流行のものを付け足すという感じでしょうか。いっときはスチールとガラスといった繊細なものが流行れば、今度は木の温かみ、という具合に繰り返しですよね。最近ですと素朴感。わざと節があるとか、切り出してきた丸太のようなものが好まれるように思います。

キハラ規格の図書館家具は30年間使ってもらうために、塗膜をしっかりのせてコーティングし長期間使えるようにしていますが、最近では天然木と樹脂製のイミテーション物の区別が一見してつかないくらいの素材もでてきているので、それゆえに「木を感じたい」という感性が出てくるのかもしれません。とはいえ、頻繁に手が触れる部分などについては「コーティングをこれだけ薄くしてしまうと3年後には手垢だらけですよ」といったやりとりをしながら決めていきます。

— 図書館員さんの声は寄せられるものなんですか?

木原:寄せられる時もありますし、直接お伺いすることもあります。「こんなものはありませんか?」「ちょっとつくってみます」というように。研究会や研修会にも顔を出して、その後の懇親会などで図書館について熱く意見交換をするということもあります。

須藤:とある学校の先生から、オープンスペースばかりで学生が一人でこもれる空間が少ないという指摘があり、それで新しいついたてを開発しました。

木原:その試作を会社に置いておいて図書館員さんに来ていただいてお話を伺うこともあります。私たちは小さな中小企業なので、大手メーカーさんの開発力にはかないません。では私たちには何ができるかと言ったら、図書館専門として図書館さんの使い勝手と利用者の使い勝手の両側面を聞いて「半歩先」の商品を提案していくことをしています。

本の除菌BOX

今、売れ筋である本の除菌機(除菌BOX)などは、開発されて10年以上経っていますが、当時口蹄疫の問題で図書館が閉館されたことがあり、これからの図書館にはパンデミック対策の商品が必要になるであろうということで開発された商品だったんです。

瀬良垣:世の中に意識がない状態ではすぐ外されます。一歩先でなく、「半歩先」が大事なんだと感じます。

— 社会的状況が追いついてくるわけですね…

木原:ネスティングブックトラックも昨年、グッドデザイン賞を取りましたが、その背景にあったのは働き方改革で、働く人がバックヤードも含めて働きやすい環境・空間で、図書館はよりよくなるという思いから商品化をしました。

ネスティングブックトラック

— バックオフィスからよくしていくというところは一つ設計に携わる人間にとってもすごく重要な提案ですね。

瀬良垣:私たちは家具を販売させていただいていますが、一番大事なのは図書館さん自体の人の力ですね。本の力もありますけど、人の力。熱意のある図書館さんは家具がどうあっても施設がワクワクするんですよね。どんなにきれいな建築や家具をつくっても、設計者さんの思いがうまく図書館員さんに伝わっていないとチグハグな残念なものになってしまいます。

図書館建築の中でも地元の方からの声や図書館さんの現場を真摯に見つめていらっしゃる設計者さんも大勢いらっしゃいます。そういう方々がつくる図書館は本当に魅力的ですね。「本棚を並べればいいんでしょ?」という意見に対して、「そうじゃないんですよ」と、私たちの力でなんとかするのが役目だと思っています。

最近で言えば、須賀川市図書館は設計者さんたちが100回ぐらいワークショップされて、意見を聞いてつくられていますね。ハードウェアとソフトウェアの間に入る人の熱意が、すごく魅力的な図書館になりました。使う人たちと年月をかけて一緒に付き合って欲しいですね。

図書館という施設は特殊かもしれないですね。期待値が高いと言いますか、可能性が高い。その土地の魅力をギュッと詰め込んだような期待感をもたれるので、そう言われると設計者さんも気合が入るだろうと思います。

木原:S.R.ランガナタン博士による「図書館学の五法則」第5法則「図書館は成長する有機体である」ではないですが、図書館は時代と共に常に形を変えていくものだと思います。

瀬良垣:そういったところで、「図書館」を軽んじてはいけないと、設計者さんは真摯に向き合いますので、図書館専門でお手伝いさせてもらっている私たちが呼んでもらえる状況があるのだと思います。

木原:図書館は建てて終わりではないですから、最初から最後まで、お客様とお付き合いできるということが私たちのいちばんの強みです。

— 最後に「これからの図書館」はどのようなものになると思いますか?

瀬良垣:人が活動する居場所として、一番目が自宅、二番目が勤め先や学校、そして三番目の居場所として図書館が注目されてきました。インテリアの質の向上やICT活用での利便性があがり、人が集うリアルな「場」として近年の図書館の進化はものすごいスピードだと感じています。

図書館はその地域で暮らす・働く人にとって、まちづくりのための重要なインフラとして期待されると思います。ですので、弊社もいろいろな方法で安全で安心、そして快適な場としての図書館をサポートしていけたらと思います。

キハラ株式会社
https://www.kihara-lib.co.jp/
我々の夢は、日本中の図書館を元気にすることです。
そして、図書館の良きパートナーとなり、日本で一番お客様から喜ばれる数の多い会社になることです。
キハラは、図書館家具・設備・用品の提供企業として地球環境の保全が人類共通の最重要課題の一つであることを認識し、地球にやさしく環境の保全に配慮して行動します。

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建築討論委員会(けんちくとうろん・いいんかい)/『建築討論』誌の編者・著者として時々登場します。また本サイトにインポートされた過去記事(no.007〜014, 2016-2017)は便宜上本委員会が投稿した形をとり、実際の著者名は各記事のサブタイトル欄等に明記しました。