インタビュー|図書館総合支援企業〈株式会社図書館流通センター(TRC)〉|流通をベースに、多様なサービスへと展開する
話し手:全智恵里(株式会社図書館流通センター(TRC)広報部)
聞き手:榊原充大(建築討論編集委員)
図書館の運営業務を全国で担当し、各地の図書館の立ち上げにも関わる、図書館総合支援企業である図書館流通センター(TRC)。図書の流通をベースにし、図書館に多様なサービスを提供するお立場から、「これからの図書館」に向けた運営のあり方などについておうかがいしました。
— まずは株式会社図書館流通センター(以下:TRC)の業務内容について教えてください。
実は1962年設立の株式会社学校図書サービスという首都圏の学校図書館を中心に図書を納品する会社からスタートしています。その後、1979年にTRCが設立され、1993年に株式会社学校図書サービスと合併しました。全国の公共図書館、学校図書館などに図書館用図書を納品するという流通サービスが業務の中心で発展し、納品する図書はTRCが独自に在庫し、図書館で利用するための装備(バーコードの貼付や図書にフィルムコーティングを施す作業)をおこなった上で発送しています。また、利用者の求める情報を検索するために必要な“書誌データ(MARC=目録)”も作成しており、図書と併せて提供することで、図書館現場ですぐに書架に並べて利用することができる状態になっています。
こうした図書館に必要なインフラをワンストップで提供し、これまで各図書館で司書がおこなっていたバックヤード作業を支援・軽減する形で、発注から短期間で利用者へ装備付き図書を届けられるシステムを構築しました。加えて、1997年には委託業務、2003年の地方自治法改正で指定管理者制度ができるとその翌年には指定管理者として図書館運営にも携わるようになりました。今は、インフラ整備のバックヤード作業も含め、直接・間接的に図書館の運営に関わらせていただく「図書館総合支援企業」として、MARC、物流から受託運営まで、トータルで図書館サービスのご提案をおこなっています。
— 元々はどんな思いからはじまったのですか?
1979年当時の設立趣意書には、会社の設立目的を「出版界と図書館界の協力に基づき,現行の出版流通基盤を原則として尊重しつつ,主として公共図書館への新しい専門的流通システムを開発して流通コストを低減せしめ,その流通を円滑にする」と記してあります。図書館の現場では以前より、購入した図書を自館で装備したり、図書の目録(MARC)を作成したりするなど、図書館ごとに非常に多くのバックヤード業務がありました。勤務時間の大部分をそれらの作業に費やすことも珍しくなかったと聞いています。目録の作成、図書の装備をTRCが各図書館に代わって集中的に自社でおこなうことで、バックヤード業務の負担が軽減され、その分の時間を選書や利用者対応、レファレンスなどに使っていただけるようになったと考えております。
— TRCの物流は、どのように支えられているのでしょうか。
埼玉県新座市の図書在庫・装備センター「新座ブックナリー」が主な拠点です。在庫や各作業工程の管理はほぼ電算化されていますが、装備作業やフィルムコート掛けは熟練スタッフの手作業でおこなっています。意外に思われるかもしれませんが、“本”は一冊ごとに大きさや厚さ、重さなどの仕様が異なるので、今のところ、手作業の方が効率が良いのです。
新座ブックナリーはバックヤード作業のサポート専門部署で、全国約3000館の公共図書館の図書購入・装備・図書データの提供を手伝う窓口になります。TRCが指定管理者として運営する図書館であっても、自治体の職員が運営していても、他社が運営している図書館であっても変わりなく、全国の図書館それぞれに合わせたご対応、ご提案をさせていただいています。
— TRCには図書館総合研究所という部署もありますね。
図書館関連のコンサルティングをおこなっています。自治体が図書館の整備や改修を計画する際、何に力を入れるかによって重視するサービスやその実現のための空間や機能も変わってきます。図書館は社会教育施設ですが、多くの市民が利用する施設として集客への期待もあるでしょうし、まちづくりの拠点に、という期待もあるかもしれません。また、学校教育との連携を求められることもあると思います。商業・経済に力を入れる施設なのか、そこに暮らす知的好奇心を沸き立たせる場所として図書館をとらえるのか。また、自治体の現状から、図書館に所蔵する図書のコレクションをどうするかという方針を決めるお手伝いなど、図書館総合研究所は、自治体にとって望ましい図書館づくりの提案や構想・計画づくりのお手伝いをしています。
— 指定管理を選択する理由は自治体によって変わりますか?
指定管理者制度は、公の施設を民間事業者等のノウハウを活用することにより、住民サービスの質の向上を図っていくことで、施設の設置の目的を効果的・効率的に達成するため2003年9月に設けられた制度です。制度の導入から20年近くが経過し、自治体側もそれぞれのご要望にあった形での導入が進んでいます。自治体が持つ悩みは、地域によって様々です。全国の図書館や自治体とお仕事をさせていただき、お悩みやご要望を伺ってきた弊社では、それぞれの自治体にあわせた形で図書館運営のご提案をおこなってまいりました。
2021年2月現在TRCでは、公共図書館374館を指定管理者として運営しております。
— 図書館運営において重視しているのはどういうことですか?
それぞれの地域に寄り添った運営を心がけています。そのうえで、全国370館の運営をおこなっているTRCのネットワークを活用し、ノウハウの共有化をはかっています。スタッフ間の交流研修や、ノウハウの共有システムを構築し、全国のどこでも質の高いサービスが提供できるよう、人材育成に力を注いでいます。
— 運営におけるトレンドはありますか?
2010年の震災以降、耐震診断で強度不足が判明するなどして公共の建築物の建て替え需要が生まれました。この際に都市計画を含めて複合施設に図書館機能を追加する試みが盛んになり、「滞在型図書館」や「まちづくりの拠点」といった言葉が使われるようになりました。複合施設ということでこれまで以上に多彩な層の利用者が図書館を利用することになり、「子育て支援」や「ビジネス支援」などについての需要も生まれています。
また、2017年の学習指導要領の改訂により、子どもたちの学びに「自ら学び,自ら考える力を育成すること」がより強く求められるようになりました。弊社では、「図書館を使った調べる学習コンクール」を初回から後援しており、「調べる学習・自ら学ぶ学習」に力を入れています。
— 「図書館のこれから」についてどう思われますか?
新型コロナウイルスの感染拡大によって、図書館サービスは形を変えつつあります。昨年の緊急事態宣言以降、自粛の要請もあり多くの図書館が休館しました。再開後は、新しい生活様式を踏まえ、感染防止対策として「3密」を避けるために入場制限をおこない、座席数を減らし、イベントやセミナーは動画配信やオンラインで開催するなど、様々な対策が求められています。この1年で大幅に、図書館における非接触・非来館サービスが拡充されました。図書にICタグを貼付しシステムと連動させて、WEB予約から予約棚で本を取り出し、自動貸出機や自動返却機を利用して人の手を介することなく図書を入手する方法や、図書の宅配などの制度も広がりました。
また、電子図書館サービスを導入する自治体も急増しており、電子書籍の貸し出しも大幅に増加しています。これらのサービスは以前から存在していましたが、コロナ禍で多くの自治体から導入のご希望をいただくようになりました。また、コロナ禍で新たに生まれたサービスとしてバーチャル図書館(※)があります。今後は図書館自体が、リアルとバーチャル(デジタル)の両方を使いこなし、利用者がいつでも・どこでも図書館サービスにアクセスできるよう選択肢を増やすことが重要だと考えています。
※現在β版として公開中
全智恵里(ぜん・ちえり)
1989年生まれ。2020年株式会社図書館流通センター入社。入社以前は数年にわたり、図書館総合展においてTRCのブース設計を担当。TRCを社外から見てきた経験を活かし、広報部に在籍。