変容する商品価値、難航する維持管理

連載:タワーマンションの寿命が尽きるとき──つくる責任と看取る責任(その2)

森本修弥
建築討論
Apr 21, 2022

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前回(その1)では、経済施策を背景とする規制緩和の後押しによりタワーマンションが近年急増し、地域の環境に与える影響を明らかにした。

タワーマンションは、維持管理費が高額であるといわれている。エレベーターはもとより機械式駐車装置など、数多くの重装備な設備が常時稼働することで成り立つ建築物である。それだけではない。市場での商品価値を維持し向上していくためには際限のない要求に応えていかなければならない。カタログを飾るロビーラウンジなどの華麗な共用施設の充実のほか、目に見えないかたちで維持費が嵩むような姿に変貌してきたのではないだろうか。今回はその実態と要因に迫りたい。

タワーマンションにおける維持管理とは

すべての建物がそうであるように、タワーマンションも通常は経年的に価値が低下する。この場合、価値とはリセールバリュー、すなわち売却価格のことであると考えると明確であろう。

図1のように、日常のメンテナンスだけでは避けられない経年的な価値低下に対して、約15年周期で行われる大規模修繕がその価値を大きく復活させる。逆に居住者減少や滞納などで管理費や修繕積立金が不足すると大規模修繕が行えなくなり、老朽化が進行して価値が低下し居住者の退去を招く。するとさらに維持管理費が不足するという悪循環に陥る。将来的には、少子高齢化や人口減少社会の中で、タワーマンションが供給過剰にならないか、また年金の受給水準の低下により維持管理費の負担に耐えられるかなど、潜在的リスクは大きい。

図1 タワーマンションの価値喪失の概念[作成:筆者]

オーナー心理をくすぐる商品プレゼンテーション

近年のタワーマンションの華麗さには目を見張るものがある。それが維持管理にどう響くのか、その前にまず現状を見てみたい。

マンションギャラリーと称するタワーマンションのモデルルームを訪れたことがあるだろうか。入館すると街区全体の広大な周辺建物の模型の中で、アクリルで造られた販売対象のタワーマンションのボリュームが光り輝いている。

順路に従い入ったシアタールームでプレゼンテーション映像を観終わると、スクリーンが両開き扉のようにドラマチックに開き、目前のホールに縮尺50分の1の巨大な模型が威容を誇っている。そこを抜けると、いくつかの住戸のモデルルームへと誘導される。

モデルルームのインテリアは、TVドラマに登場する富裕層のそれのようであるが、よく見ると小さな文字でオプション内装と記されている。したがって、住戸の標準仕様は実際には凡庸なデザインとなる。顧客に対しては、モデルルームで印象に残った豪華なインテリアデザインが、完成後のロビーやラウンジなどの共用部に施されていることで納得させる販売戦略なのであろう。

共用施設と複合施設

それでは、タワーマンションの住戸以外の部分の実態はどのようになっているのだろうか。筆者は、かつて東京都中心部での高さ100m超のタワーマンション99棟の施設構成を調べた★1。

表1をみると、居住者が利用する共用施設は、民間では展望ラウンジ、ゲストルーム、集会室、ジムの設置が多く、プールやスパなどの重装備施設もみられる。一方、民間のタワーマンションに複合される、地域で誰もが利用できる非住宅施設の複合としては、小売店舗が非常に多い。

地域の商業集積度にもよるが、タワーマンションが容積率緩和を受けている以上、保育園や日用品小売店舗など地域の利便性向上に貢献できる地域貢献施設の設置は必要と考えられる。適用例が多い総合設計制度では、たとえば地域集会所や図書館などを整備すれば、地域社会の文化、教育等の向上に貢献する施設として、その部分の容積率を緩和するメニューが整備されている。それにもかかわらず、小売店舗の複合は多いものの、地域集会所や図書館などの地域社会に貢献する施設の複合がないものが多い。

表1 タワーマンションの共用施設[作成:筆者]

法令の緩和による基準階平面計画の変化

華麗な共用部や重装備な設備以外に、気づかないところで維持管理費に影響を与える要素はないだろうか。基準階の平面計画がそれである。

基準階の平面計画はタワーマンションの建築計画の根幹であるが、法令の緩和によりその形態は大きく変わった。まず、表2でタワーマンションの基準階平面の特性、すなわち住戸とコアの配置や規模との関係に触れる。

基準階が大規模化すれば住戸の奥行きには限度があるので、必然的に吹抜を内包する平面形となる。その場合、写真1のように吹抜に面した廊下は従来の板状住棟と同様に外部廊下とすることができる。

一方、この吹き抜け部分に機械式立体駐車装置を設置するならば、内部廊下となるものが多い。コアを中心に4面に住戸を配置すれば、北面住戸が発生するものの、限られた面積の中で最大限の住戸面積を確保できる。

表2 基準階平面の分類[作成:筆者]
写真1吹抜内の様子(大型のため半屋外廊下としながら立体駐車場を設置)[撮影:筆者]

写真2(2–2,2–3)のように、バルコニーが少ないタワーマンションを見かけたことがあると思う。居室から眺望を直接享受できるような意図によるが、一方で、形態規制上の理由もある。

道路から一定の距離で建物を後退させると、斜線制限が適用されなくなる場合があるが、その場合、平面形は拡がりに制限が生じるが、高さは無制限となる。特に小規模敷地での計画では、バルコニー部分を住戸部分に置き換えて、最大限の面積を確保するのに有利となる(写真2–3)。

写真2 バルコニーの配置[撮影:筆者]

基準階平面計画におけるこのような変貌の要因を規制緩和の視点で探ってみる。

1998年の法改正により住宅の居室は必ずしも日照を受ける必要がなくなった。ただし、従来でも北側住戸はみられたので、、廃止された日照に関する規定自体にも、具体的にどの時期に何時間日照が必要なのかといった基準はなく、夏季であれば北側から多少の日照も受照可能であるとしていたと考えられる。しかし、改正後は全く考慮する必要がなくなった。これにより、北面を含む4面住戸型の基準階平面が増加したのである。

次に1997年の法改正により、共同住宅の共用廊下や階段は容積率制限の対象から外れることになった。前述の、吹抜を内包する基準階平面での外部廊下は、空調や換気、グレードの高い内装が不要になるといった低コストと吹抜側からの採光による平面効率向上を目的に今でもみられるが、この改正により吹抜周りの廊下を容積率から除かれる外部廊下にする必要性が少なくなり、高級ホテルのようなインテリアデザインの廊下を演出したり、立体駐車場を組み込むなどの内部廊下型が増加した。

さらに、2001年の通達により、それまで高さ31m超の高層建築物の計画で求められていた防災計画指導、すなわち行政の外郭団体で組織された有識者による委員会で防災計画の審査を受けることを義務付けた通達が廃止された。地方分権の推進により、防災計画指導の採否が自治体に委任されたためである。東京都では超高層建築物の防災計画指導がなくなった。ちょうど内閣に都市再生本部が設置された時期でもあり、集中的に都市改造を推進する意味での規制緩和であったと推測される。

さて、防災計画指導ではコアは外気に面することと、バルコニーが連続していることが推奨されていたが、廃止にともないその必要性はなくなった。ただし、後述するように維持管理コストには大きな影響を与えている。

タワーマンション―維持管理の実態

筆者は以前、新都市ハウジング協会(以下ANUHTと呼ぶ)★2での委員会活動として、タワーマンションの管理会社やディベロッパーに維持管理の実態についてヒアリングを行った。

図2のように平均的な一カ月当たりの管理費は300~400円/㎡、修繕積立金も同程度以上で、年次的に漸増傾向にあるが、住戸数との関係については、戸数が増えれば金額が安く済むというわけにはいかないものであることがわかる。たとえば70㎡クラスの住戸では毎月40,000~50,000円が住宅ローンのほかに必要になる。

図2 管理費と修繕積立金の実態[作成:筆者]

タワーマンションの管理費は、公共料金、人件費、点検費、清掃費の順に割合が大きいとされる。

内部廊下型では外部廊下に比べて空調しなければならない分光熱費が多くなる。スパやプールがある場合は水道料金のほか、法的に必要なプール監視員の人件費もかかる。バルコニーがない部分の窓は、ゴンドラなどでの高所作業が必要となるので清掃費が嵩む。

多くのマンションでは、購入時の見かけの費用を抑えるために、5~10年毎に修繕積立金の単価を増額する段階増額積立方式を採用している。15 年周期で大規模修繕を行うとなると、短い場合で5 年毎に修繕積立金の単価を上昇させねばならない。かといって、大規模修繕を見越して当初より高額な積立金を徴収することは難しい。

管理会社の更新契約時には、管理組合から管理費や修繕積立金の圧縮が提案されることも少なくない。何度も管理会社の変更を強いる管理組合もある。もはや、正常とはいえない維持管理を余儀なくされるタワーマンションも存在するのである。

超高層住宅を評価する

前述のANUHTでの活動で、タワーマンションを多角的に評価しようと考えたことがあった。かなり複雑なプロセスや統計処理を経て検証したシステムでありここではその全容を紹介しきれないが、詳細は別稿★3を参照されたい。要約すれば、この評価システムのユーザーが、配置計画から住戸計画に至るまでの、87項目の選択肢、たとえば免震・制震構造の採用や、プール・水景施設の有無などに回答すると、どのような面を重視した計画なのかが、10本の評価軸でのスコアとなってアウトプットされるものである。

既存の14事例を用いてシステムのテストランを行ったところ、図3のように、第8軸ステータス軸のスコアが高い事例では、第4軸維持管理軸のスコアが低下しているといったトレードオフの関係となることがわかった。テストランを行ったデータを調べると、たとえばプール・水景施設が導入されていたり、住戸数に比してエレベーターが多く設置された計画では、ステータスや居住性の軸のスコアが向上し、逆に維持管理の軸のスコアが低下していることがわかった。

図3 超高層住宅総合評価システムのテストラン結果[作成:筆者]

次回の連載に向けて

タワーマンションが、商品価値向上と維持管理負担の絶え間ない奮闘の上に成り立つ実態を明らかにした。しかし本来は、住む人々が愛着を持ち世代を超えて受け継いでいけることが基本ではないだろうか。次号ではそのような取組みに焦点を当てて、議論したい。

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★1:森本修弥、宮本文人:東京都中心部における超高層集合住宅の低層部分の計画 日本建築学会大会学術講演梗概集 2016.8
★2 一般社団法人新都市ハウジング協会(Association of New Urban Housing Technology)は国土交通省住宅局所管の団体で、会員企業から任命された委員により都市居住環境に係る調査研究を行っている。
★3 森本修弥、青山勝、清水悟:設計・計画のための超高層住宅総合評価システム構築の試行 日本建築学会大会学術講演梗概集 2019.9

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森本修弥
建築討論

もりもと・しゅうや/1959年東京都生まれ、東京工業大学大学院理工学研究科修了。日本国有鉄道を経て日本設計勤務。専門は高層・超高層住宅。博士(工学)。受賞歴に茨城県建築文化賞優秀賞(水戸プラザホテル)、グッドデザイン賞(釜石市上中島町災害復興公営住宅Ⅱ期)、都市住宅学会論文コンテスト博士論文部門優秀賞など。