『建築学報 Architectural Journal』──建国初期から続く伝統的学会誌

[翻訳:楊光耀]051|202101|特集:建築メディアの条件そして効果 ──当代中国の場合

黄居正
建築討論
Jan 7, 2021

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『建築学報』4は1954年に創刊され、中華人民共和国の最初の建築専門誌だ。A4判型、128ページで、銅板紙カラー印刷によって毎月20日に刊行されている。

『建築学報』ロゴ

本誌は中国建築学会の主催、中国科学技術協会の監修による全国レベルの学術誌で、中国のコアジャーナルである。創刊より60年以上にわたって、中国の高度な建築理論研究の論文と重要な建築の実践事例を幅広くカバーし、現代中国での建築の創作と発展の歴史の記録してきた。中国の建築分野でもっとも権威ある雑誌として、発行部数は建築業界のなかでもトップである。

『建築学報』1964年第5期。本誌は毛沢東時代(1949〜1976年)の建築文化を記録したほぼ唯一のジャーナルである

また『建築学報』は中国国内に軸足を置き、中国建築の今までの発展のプロセスを俯瞰的に反映することで、中国の建築理論と設計実務の健全な発展を促進すること、また国の建設政策に奉仕することで、民主のための学術の提唱を方針とすること、そして総合性、学術性、権威性を特色としている。国内の建築分野における重要な活動、学術研究や実践が、本誌が主要に取り上げる対象である。学術分野や読者の特性に基づいて、理論と実践の双方のバランスに配慮しながら、事例を取り上げている。

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編集部は、編集長と編集長、副編集長が1名ずつ、編集者は合わせて6名(うち2名は建築作品のレポート担当)、そして毎号のレイアウト担当のアートエディターが1名、発行部数や入稿記事の管理などを担当する事務1名で構成されている。通常、建築雑誌の編集者は、建築学科や建築学専攻卒であり、言語感覚に鋭くコミュニケーション能力に優れていることが求められている。

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私たちの雑誌は「総合性、権威性、専門性」を方針としている。学術理論の方面では、重点的に「古典の再読」と「中国近現代建築史学の研究」のふたつの内容のコラムを組んでいる。

「古典の再読」のコラムでは、国内・海外を含め、古典的なテキストの再解釈のみならず、その作品の新たな分析や研究も含めて扱っている。 「中国近現代建築史学の研究」のコラムでは、共時史的には伝来してきた西洋建築が中国でいかに土着したのか、通時史的には伝統的な職人による営造の体系が新たな技術的・文化的条件の下でいかに変容したのか、そしてこのふたつの歴史が100年後の時代の変化のなかでいかに互いに浸透し、関連することで中国建築の現代的形態を形成しているかに注目している。

作品レポートに関して、本誌では事件性、実験的な研究性、技術的な突破性の3つのタイプの作品に注目している。そして作品の基本的な情報だけでなく、批判的で批評的な論評記事を編成し、作品に関連する社会的・文化的・経済的・技術的な要因を十分に提示し、明快で豊かな内容を徐々に構築している。各号における作品欄の割合は全体の4分の1程度となっている。

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①『建築学報』2014年第9+10期 特集:《建築学報》と中国近現代建築史

②『建築学報』2017年第6期 特集:佛光寺発見60周年

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《建築学報》は発行部数と売上高ともに建築専門誌では中国で第一位であり、おそらく中国で唯一、実売だけで十分な利益を得ている建築専門誌である。具体的な数字については、企業機密なので出すことは難しい。現在、雑誌各号にかかる制作の費用は10元前後で、販売価格は46元としている。

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本誌は雑誌販売をつうじて印刷費をすべてカバーするだけでなく、総収入の約半分の利益を得ることができている。 しかし、雑誌の売上だけではスタッフの給料やボーナス、オフィスやレンタルスペースなどの諸経費のすべてを賄うことはできず、他の収入源に頼らなければ、収支バランスを取って編集部を維持することができないこともまた事実である。現在の[実売以外の]その他の収入源としては、投稿料、広告料、12の建築設計会社からの寄付金などがある。

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我々は雑誌の刊行後に、各号から4~5本の論文や建築作品を選定して、『建築学報』の微信公式アカウントで公開している。CNKI上での公開については、紙版から一定時間遅れておこなわれる。よって、現在に関して言えば、紙の雑誌の発行や売上に対する特別大きな影響は感じていない。

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悪い点:流行を追いかけ、消費も早いこと。思考の深さや踏み込んだ報道が欠如しており、視点が単一的であること。

良い点:新たなメディアが大量に登場し、メディアの形式がますます多様になってきていること。

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中国の建築家たちの創作活動に「中国性」をどのように反映させるか、また中国の伝統的な建築空間に見られる先人の設計理論や考え方を、どのように現代の建築言語へと翻訳するか[に関心を向けている]。今後も中国の伝統建築の古典的事例をいくつか選び、建築家や研究者と組みながら、現代的な視点からこれらの事例の再解釈する特集号を何冊か継続的につくっていきたいと考えている。

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まず悪い面から言うと、もしかしたら増々多くの「写真建築」が出現させているかもしれない。いわゆる「写真建築」というのは、ただ写真上は良く見えて、しかし実際の体験は良くない建築のことだ。良い面は、いくつかの新しい素材や構造の技術、建造の手法、また環境基盤への良い戦略や対策が、メディアをつうじてタイムリーかつ多面的に発信されていることで、建築家同士に迅速で十分な交流がおこなわれるようになっている。

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黄居正
建築討論

Huang Juzheng/1965年生まれ。中国建築学会《建築学報》主編。東南大学卒業、筑波大学大学院博士前期・後期課程修了。上海交通大学設計学院、山東建築大学建築学院で客員教授を務める