『時代建築 Time Architecture』:学術研究と批評のためのプラットフォーム

[翻訳:葛沁芸]051|202101|特集:建築メディアの条件そして効果 ──当代中国の場合

支文軍
建築討論
Jan 7, 2021

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隔月刊雑誌の『時代建築』は1984年に国務院教育部の監修の下、同済大学が主催するかたちで創刊された。学術研究と専門分野の発展、また国内外の学術交流の促進を目的とし、「学術性」と「専門性」の双方を重視している。学術的には「時代性・先見性・批評性」を指向し、「中国の命題について世界的な視野」をもって編集する、というビジョンを持っている。また、毎号のテーマ設定や特集記事を通じて、今日の中国の都市と建築における劇的変化によって直面している学術的・専門的な諸問題を鋭く捉えつつ、国際的な建築の発展の最前線、そして学術の新たな動向に注目している。建築学における核心的な問題に深く立ち入りつつ、独自性や思想性のある建築家とその設計作品を積極的に紹介し、奨励している。

『時代建築』ロゴ

『時代建築』は37年前の創刊から現在に至るまでに、178号を刊行してきた。当初より一貫して、中国建築における同時代的出来事を記録しつつ、その内に積極的に参与してきたため、中国当代建築の発展してゆく過程を通時的に目撃する存在である。本誌はメディアの核として批評性を有し、多層的・多角的なテーマを戦略的に選択し、高水準で安定した学術的クオリティ、また複数のメディア・プラットフォームを用いることによって、当代中国建築との間に良い相互作用を形成し、今日の中国における建築学分野の繁栄と発展を促進してきた。また、グローバルな視点からみた世界の建築システムの内で、中国当代建築が占めるべき地位と発言権をめぐる争いにおいても、積極的な役割を果たしている。『時代建築』は建築の学術研究の場であると同時に、コミュニケーション・プラットフォームであり、中国で最も重要な建築雑誌のひとつである。中国における最新の建築動向を世界が理解するための重要な窓口である、とも言えるであろう。

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『時代建築』編集部は同済大学建築・都市計画学院に属するひとつの基本的職能部門である。行政上は学院の管轄下にあるが、出版方針については編集委員会にも主導権がある。編集部は編集長に当たる執行委員会(編集長及び副編集長を含む)による意思決定制度を採用しており、その下に編集室、技術広告部、行政総合部、コンサルティング開発部などを有し、各自の職責分担は比較的明確である。

中国では、建築雑誌の編集に従事する人々の大半は建築学科、ないし関連学科を卒業した専門的人材だ。彼らは建築理論や言説、メディアやコミュニケーションに対して比較的強い関心を持っている。優れた編集者として認知されることは、建築学と建築理論の分野での成果となるだけでなく、編集技術やメディア意識、組織力にも優れているということになる。このような職業編集者は二種類に分類できる。ひとつは、テーマやコラムを発案し、寄稿を募集し、特別なイベントの企画など、フロントエンドの作業に従事するアカデミックな編集者。もうひとつは、建築の学術的・専門的コンテンツを編集・処理するフルタイムの編集者である。

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◉編集方針・コンセプトについて
当代中国において最も早く創刊された専門誌の一つとして、本誌の目標は、中国の当代建築をその地域的特徴としながら、国際的に通用するクオリティの高い雑誌をつくることであった。特に21世紀以降、国内の都市部と農村部の建設が進むにつれて、『時代建築』は中国当代建築とのあいだに良い相互作用を形成した。本誌の編集方針、理念と特色を整理するならば、以下の四側面から説明できるであろう。

1. 「当代+中国」という位置付けに焦点を当て、当代中国に根ざしたテーマを戦略的に選択する
メディアは何にも増して、時代の変化を最も鋭く捉える観察者・記録者であるべきであり、複雑な同時代の風景の中に新たな文脈とトピックを発見し、時代の特徴を描写しなければならない。今日の中国は特に、都市と農村部の建設において急速な変化を遂げている。私たちは「当代」と「中国」に焦点を定め、関心と研究の対象として当代中国建築を選んでいるが、鋭敏な感性が求められるこの時代においては必然的選択であると言えよう。「当代」の意味は十分に研究・認識されておらず、発展のただ中にある経験であり現象であるため、非常に複雑である。中国社会は驚くべき現象や新たな材料で溢れている一方で、学術界や産業界からの知識や研究の供給が不足している。このような背景により、本誌の選ぶ特集テーマはちょうど発生したばかりの出来事や、現在進行形の出来事であることがしばしばである。各号では、その特集テーマを軸にして編集された学術論文を通じて、異なる視点や、思考深度、視野の広さ、コミュニケーション強度などの、様々な角度から当代中国建築を解釈しており、「中国」に焦点を当てながら、国際的な文脈の中で雑誌の地域的特性を表現できるよう、努めている。改革開放以来、中国は次第に世界における建築実践の中心地ないし拠点となりつつあり、都市と農村部の建設は日を追うごとに進行している。当代中国建築には「大規模」「高速」「変異性」などの特徴があるが、同時に多くの問題を抱えており、省察が求められている。本誌は毎号のテーマがそれぞれに「中国の命題」という観点から切り込んでいるが、当代中国建築にとって最も切迫した実践上の問題を研究と報道の中心的内容としながらも、国際的思考の中にある地域性、という理念を鮮明に押し出している。

雑誌の核となる競争力はその思想性と感受性に依存し、それは雑誌編集者が当代中国建築とその理論をどう理解するかにも反映される。『時代建築』はその雑誌としての立ち位置にもとづき、一貫して現代中国建築における実際的問題をその研究と報道の中心的内容とし、テーマを設定してきた。都市と建築は複雑であり、中国都市では絶え間なく事件が発生し続けている。その急速な変化は、最もわかりやすい特徴であると言えるであろう。我々は身の回りの変化に敏感になって、深層に隠されている意義と価値を見出し、多層的で多角的なテーマと内容によって当代中国建築の内実を反映する必要がある。過去20年間には射程の短い微視的なテーマも論じられてきたが、それ以上に多かったのは、中国全体を視野に入れた巨視的なテーマであった。本誌では、様々な視点のテーマによって、諸問題に対する雑誌独自の見方を示しつつ、テーマ設定を通じて異なる階層、異なる角度の問題を結び合わせ、独自性のある言説間の連関を成立させている。このようにして、当代中国の都市と建築の発展についての実際を多層的・多角的に開示しつつ論じてきた。

2. 「学術性+専門性」という二重の特性に基づく、テーマ指向型の編集モデル
建築雑誌のメディアとしての特徴は、まずその専門的属性によって決定される。国によって一級学科に分類されている「建築学」は、専門分野としての特徴と専門職としての特徴の両者を有している。専門分野として、独立した知識体系と理論的枠組みを持つと同時に、専門職としては、体系的な専門知識と実践における技術を有する職業建築家を育成することが主な目標となっている。ゆえに本誌は一貫して「学術性+専門性」という二重の特性を重視し、双方向から介入を行うことによって、学術界と産業界の交流の架け橋となれるよう努めてきた。『時代建築』は学術雑誌として、学術における新たな動向を鋭く捉えつつ、高いレベルの学術性を維持する必要があり、また急速に発展する今日の建築の実践について批判や内省を行う、観察者・記述者・評論家としての役割を果たすため、批判精神を持たねばならない。いわゆる「流行」に縛られることなく、あえて独自の見解や考え方を示すことで、建築の本質を発見し保護することに力を注いでいる。このような高度な学術性を備えた明確な批評性という特徴は、貴重なものだと言えよう。これはまた、大学が主催する雑誌であり、建学の精神に則って真実を探求するという『時代建築』の創刊理念とも軌を一にする。一専門雑誌としては、時代の変化に呼応し、最先端の実践や専門的動向、職業上の特徴をも反映しながら、現在について議論することで現在に対して影響を与える必要がある。建築のさまざまな発展段階について、その現実を十分に映し出すだけでなく、時代の最前線に立って、主導的な役割を果たす必要があるのだ。

成功した学術雑誌となるためには、現実を反映すること以上に、国内外の学術の発展に敏感となって、当該分野でリーダーシップを発揮し、高度な学術性を確立し、専門分野の構築と理論の発展に貢献することが重要である。『時代建築』が学界に良好な学術的影響を持っているのは、特集テーマの記事がそのような学術的影響と貢献を保ってきたことに基づく。「特集テーマの選択+特集記事」という編集モデル、つまり論文と著者による「双方向」のグループ化が、雑誌の高度な学術性を担保する鍵だ。テーマに基づく特集では、各記事間の構造・関係と全体的な関係性に注意を払っている。そのため編集者は、テーマに込められた意図と思考の深さを反映するために、そのテーマに関連したレベルの高い研究論文を集め、纏め上げることが仕事となる。テーマに関連する記事の取捨選択を行い、またより重要な役割として、研究能力と学術的蓄積を備えた関連著者を選び、既存の研究に基づいてさらなる研究がなされ、論文が書かれるよう促す。こうした編集方法は雑誌の全体的な傾向と価値基準に基づいたものであり、編集者は国内外の建築界における学術の発展と著者リソースを十分に理解し、各号のテーマに沿って積極的に世界中から寄稿を募り、編集にあたる必要がある。他の重要な役割として、歴史と理論を取り扱うコラムの活性化、学術研究討論会の定期的な開催が挙げられる。このような研究会は、関連する学術的問題についての議論に大きく焦点を合わせたもので、重要な意義のある学術イベントとなっている。

本誌の学術性は、最新の現象を捉える鋭敏性とメディアを解釈する視点の革新性から生じたものである。また大学の建学精神と上海の地域的特徴にも基づくものであり、編集部が学術的文脈を深く理解し、厚い学術的蓄積によって可能となる、独創的で批評的な視点を保持していることで、『時代建築』は多様性があり、先進的で進取性に富んだメディアとなっている。

3. 「作品+建築家+組織」という三位一体の専門的標準を打ち立て、雑誌を中心とした建築メディア・プラットフォームを構築する
革新的で優れた設計作品の発掘と解釈:
本誌は作品、特に前衛的な設計作品に一貫して注目してきた。作品からテーマを導出するにしろ、テーマから作品研究を引き出すにしろ、常に新しい建築作品が報道の中心となっている。作品を批評的かつ詳細に分析することによって、本誌の視点を明確にしつつ、作品の意味についての理解を深めている。数多くの実験的で革新的な設計作品が最初に詳しく報告されたのは、本誌においてであった。

独立性と批評性のある、優れた若い建築家の発掘と推薦:本誌は若い建築家グループを積極的に紹介し、彼らの活力と革新に満ちた作品に焦点を当て、彼らの成長に関心を注ぎ続けてきた。この若い世代の建築家たちは、実践を通じて成長している。豊かな建築体験と異なる学歴背景を持つ彼らの作品からは、彼らの追い求めるものと、独自の考え方を見出すことができる。彼らの成熟は、中国のグローバル化プロセスにおける重要な一歩となっている。建築的創造の主体としての建築家の重要性は自明であり、本誌は常に建築家の成長に注目してきたが、近年の代表的な報道内容としては、1950~80年代生まれの中国人建築家の世代間研究、また中国における第4世代の建築家[張永和や劉家琨ら文革終焉後に建築教育を受けた世代]と第5世代の建築家[MADアーキテクツの馬岩松ら1970年代生まれの建築家]の研究がある。当代中国建築において影響力のある建築家たちの全体像を描き出し、当代中国建築の諸問題に対する彼らのアプローチに着目することで、中国当代建築の発展と建築思想の変遷を一望することが可能となり、中国建築界に自己省察を促すことができるのではないかと考えている。

優れた設計組織を宣伝推奨する:中国経済の急速な発展と都市建設の増加に伴って、国内の建築設計産業もまた力強く成長しはじめた。業界の発展と蓄積、市場からの膨大な需要が、設計組織が発展するための道筋と空間を広げたが、同時に業界全体の管理システムやメカニズムにも急速な変化が生じ、設計組織も分離と統合を繰り返す中で進化を続けている。本誌では業界や設計組織について継続的に取り上げているが、このテーマを通じて国内外の建築事務所についてのより深い理解を得ようとしている。テーマによる議論、建築設計組織へのインタビューコラム、別冊の計画、中国職業(実践)建築家フォーラムの企画、および『建築中国』シリーズの出版を通じて、市場経済の発展システムに対応した変化という観点から、中国における建築家の職業システムが変化すべき必然性を検討し、またその変化の必要性を示している。

4.雑誌を中心とした建築メディアプラットフォームを構築し、それを基とした多元的な事業を展開する
建築雑誌の核となる競争力は、長期にわたる刊行によって蓄積されたリソースに基づくものである。雑誌を中心とする建築メディアのプラットフォームを確立し、雑誌のメディアとして特性を拡張するとともに関連するメディアとの連携関係を築き、メディアのプラットフォームという形で複数のリソースを統合することによって、建築メディアは多元的かつ複層的な影響力を十分に発揮できるようになるはずだ。

『時代建築』は、テーマ企画、特別研究、年次レビュー、学術会議、展覧会、特別公開討論会、設計競技、建築見学会、書籍出版、学生向けの研修など、さまざまな企画活動を通じて、多様な媒体手段によって、雑誌を中心とした建築メディアのプラットフォームを構築している。このように形式を多元化させることによって、有益な各種リソースへのアクセスが可能となる。建築業界内にあるそれぞれの接続点を分類し、業界との関連性を構築することによって、効果的な統合が実現され、学術貢献度と専門的な影響力との間の平衡点を見出すことが可能となる。これはメディアへと移行する学術雑誌の持つ主要な特徴のひとつであると同時に、建築雑誌の実力と能力を示すものでもある。外部の優れたリソースは、雑誌により新しく広範な学術的・専門的リソースのプラットフォームを提供するとともに、読者へのより包括的で詳細な報道の提供も可能にしてくれる。

健全で成熟した建築雑誌は、コンテンツの制作とマーケティングというふたつの基本的なタスクを同時に担う必要がある。両者が互いに補完し促進し合うことで、好循環と持続可能な発展が実現する。雑誌のマーケティングはその段階とバリューリターンの種別を反映した、低~高までの3つのレベルによって説明することができる。ひとつ目は最も基本的な事業活動である雑誌の販売だが、紙媒体の雑誌は一般的に定価が安く、また売り上げが減少しているという困難に直面しているため、雑誌販売のみに頼ることはますます難しくなってきている。ふたつ目は雑誌広告の販売で、3つ目は雑誌のブランドマーケティングである。最も効果的な雑誌のマーケティングは、これら三レベルのマーケティングを立体的に統合することであると言えよう。雑誌を中心とした建築メディアのプラットフォームを確立することにより、三方面からの立体的なマーケティングのための、強固な基礎が築かれることとなる。

◉雑誌にとって最重要となる側面
本誌において最も重要なのは「中国の根幹的テーマからの演繹」、つまり特集テーマによって個別的な研究とその発表を導くことである。これは『時代建築』が国内外の建築界から高い評価を得て、影響力を発揮するためにも重要な要素である。本誌において1998年から始まった特集記事による編集戦略は、雑誌の役割を全く違うものへと変えることになった。投稿論文の受動的な編集者と発表者というかつての関係性から、学術的議論や専門的な討論の積極的な主催者と生産者へと変化し、編集者、特に編集長の思想性や学術的リーダーシップが十分に発揮され、雑誌の時代性、先見性および指導性が反映されるようになったのだ。各号にはそれぞれに特集テーマがあり(これまでに累計130号を刊行)、「テーマ設定+特集記事」という編集スタイルと、毎号約80ページ、約6〜10の学術論文(約40〜50%)を通じて、思考の深さ、視野の広さ、拡散力などのさまざまな方面において、建築専門雑誌としての役割を積極的に果たしている。これまでに取り上げた特集テーマとしては「当代中国の実験的建築」、「群としての建築設計」、「中国の若い世代の建築実践」などが挙げられる。

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既刊の『時代建築』 1~176号には、読者に人気があり引用もなされている個別の論文が数多くある。しかし本誌が着目するのは雑誌の全体的な価値と影響力であり、それらは主に各号のテーマ設定やテーマに関連した記事の内容のうちに反映されている。3つ選ぶならば、「当代中国の実験建築」(2000年第2期)、「中国の位置付け:当代中国建築の国際的影響」(2018年第2期)、及び「第5世代の中国建築家」(2020年第4期)を取り上げたい。

1.2000年第2期:「当代中国の実験建築」(Contemporary Experimental Architecture in China)
当代中国の「実験建築」が求めるものは、今日の都市や建築の現状に対するさまざまな省察であり、過去の建築概念、理論、形式の束縛から解放されて、新たな建築創作をつくり上げようとするものである。それは、人間の自由な状態を取り戻し、広がりゆく可能性によって世界の多極化と多様化を解釈し、「商業化」の汚染によって歪められた建築形態と空間を復元せんとするものであった。この特集号でテーマとしている当代中国の実験建築は、建築の個性化や独創性を探求し、前衛的で先駆的な精神による創造を提唱した。中国の実験建築に対するレビュー、またいくつかの人物と作品へのコメントなどの、この号の記事を通じて、我々はメインストリームの外側にいて探究を行うグループの創造を理解し、発見することができるだろう。彼らの前衛的な精神と創造性は未来の建築動向を予見するものである。かつてはコンセプトなどの観点から建築も実験的芸術の影響を受けたが、やがて中国の実験建築は独自の個性によって実践と理論を展開しはじめ、詩的な空間表現と豊かな形態言語などのユニークな表現によって、新たな風景を描き出している。

2.2018年第2期:「中国の位置付け:当代中国建築の国際的影響」(Orienting China: International Influences of Contemporary Chinese Architecture)
2018年は中国の改革開放からちょうど40年の節目であった。中国経済の台頭に伴い、産業と技術が発展してゆく大きな流れの中で、中国は世界という舞台の中心に移動し、中国と世界の関係は複雑かつ根本的な変化を遂げた。中国の建築実践と言説もまた、一種の独立性を保ったまま世界の建築システムに統合されてゆき、建築を更に多様化させ、今まさに文脈と視点の変化を引き起こそうとしている。国際的な舞台における当代中国建築の発展を十分に呈示し、中国建築を新たな文脈に「位置づけ」るため、本誌はこの時点において回顧と展望を行い、マクロな視点で議論の枠組みを構築したいと考えた。

3.2020年第4期:「第5世代の中国建築家」( The Fifth Generation of Chinese Architects)
『時代建築』では、海外から帰国した建築家や若い建築家、あるいは1950、60、70、80年代生まれの建築家に限らず、改革開放後に台頭してきた中国の建築家に継続的に焦点を当て、彼らをグループとして捉え、研究してきた。中国の都市建設において重要な役割を果たしている建築家の群像を描き出すため、分析と議論を続けているが、研究が深化するに従い、「新三届」[文革終焉直後に再開された1977〜79年の三度の入試に合格して大学入学した世代]の建築家グループの研究など、より詳細な方向へと研究は移行している。中国が急速に発展する時代に建築家の成長と変容は大幅に加速したと言え、新世代の建築家たちの社会的・文化的属性や個人的価値観が、次第に彼らの特徴を浮き上がらせてきている。このグループは、1970年代生まれの建築家を中心として、一部60年代後半生まれの建築家を含み、大半が1986年から1999年の間に高等建築教育を受け、[鄧小平南巡講話後の]1992年の経済体制改革後に実務を開始している。彼らは今日の中国建築界において徐々にその重要性を増しており、国際的にも注目されていることから、我々は彼らを「第5世代の中国建築家」と呼んでいる。本号ではこの新興建築家グループに焦点を当て、彼らの研究と実践について議論したいと考えた。

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『時代建築』誌の発行部数は減少傾向にある。もっとも多かった20,000部近くから、現在は一号あたり6,000部余りとなっている。各号の直接的な印刷コストは約20元/冊で、販売価格は45元/冊。一般論として、雑誌の売上のみを頼りに雑誌の経営を考えることは不可能である。

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『時代建築』では、プリント版を刊行した後、微信公衆号[WeChat公式アカウント]と中国知網[CNKI]にて各号の掲載記事を無料で公開することによって、雑誌の影響力を一層高めている。いずれにせよ、編集部は雑誌販売によって資金バランスを確保することを望んでいない。

『時代建築』には雑誌の売上以外にも出版資金を得るためのルートが3つある。ひとつ目は、雑誌創刊以来、同済大学(建築都市計画学部)が主催組織として、主要編集者らのために資金と空間が提供され、雑誌の運営と発展のための基本的条件が確保されている。ふたつ目は、本誌が長期にわたって主要共催者や他の共催者、理事会等、数多くの建築界の発展に熱心な専門組織によってサポートされていることで、これにより大学が雑誌を主催する場合の資金不足が緩和され、雑誌が発展する上でも重要な助けとなっている。3つ目は、建築メディアのプラットフォームとしての役割を十分に発揮できるよう、編集部が積極的に活動していることであり、多様な専門技術サービス(研究プロジェクトやコンサルティング、イベントの主催、書籍コンテンツの制作と出版、雑誌広告やブランドマーケティングなどを含む)からの収益も、学院が雑誌を刊行する際の資金不足を補填するものとなっている。

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『時代建築』の競争力の核となるのは、各号における特集テーマの設定と特集記事の内容である。ひとつの記事が独立したものとして提示された場合、雑誌全体の影響力が低下してしまうことは事実だ。そこで我々はふたつの方向から改善と調整を行っている。すなわち、テーマ記事の長さをかつての約40~50%に抑えること、また各記事の学術的価値と研究の質を担保すること、である。加えて、小規模な特集コラムも追加して、各号の内容がより多様性のあるものとなるようにしている。

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中国建築界はいまなお建築雑誌を創刊することに大変な熱意を注いでおり、新たな刊行物が絶えず登場している。だが、新しい雑誌の性格はそれぞれ異なるものだ。既存雑誌のクオリティも全体的に向上してきている一方で、新たな建築メディアはユニークでより大きな役割を担いつつある。これら全ては良い面であると言えよう。

一方で比較的深刻な問題となりつつあるのが、中国の建築雑誌の均質化という現象である。雑誌数の増加や注目の高まりにより、中国のスターアーキテクトらとその作品が一般にも注目され、複数の雑誌が一時に同じ作品を掲載することもままあり、雑誌の表紙すら被りかねない状況が発生している。各誌の独自性と報道の深度をどのように維持するかは、熟慮すべき問題であろう。国レベルでは科学技術ジャーナル、特に英語ジャーナルの発展を大々的に奨励しているが、国や地方政府が支持する科学技術ジャーナルはすべて、インパクトファクターによる評価の導入や、SCIなどの国際的検索システムへの参入を指向するものであり、建築雑誌は往々にして建築分野の独自性や差異を理由に過小評価され、重要視するに値しないと見做されがちである。

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当代中国の都市と建築の発展は際立った複雑さとで困難を孕んだものであり、専門的なメディアとメディア関係者の任務は重く、前途は遠い。中国当代建築の発展について整理し、研究・記録することは喫緊の課題であり、国際的にも国内的にも求められていることであろう。それはまさに、ある中国人学者がこのように指摘するように、である。「当代中国研究のこの豊かな原石に対しては、未だ十分な発掘がなされていないと強く感じる。我々はここ数十年間、西洋を深く研究し学んできたが、自らの問題についての研究は何ら満足のいくものではなかった。我々による資料と事実の整理は不完全であり、研究方法の成熟や批判的視点の深度も不足している」。

外の世界からみれば、20世紀を通じてそのほとんどの期間、中国当代建築は西洋の理論の中には「存在しない」ものであった。西洋で書かれた世界近現代建築史に関する数多くの著書の中では、巨大な中国は常に目に見えない存在だったのである。一方で、中国は驚くべき速度で発展し、建築と都市とは、この時代の中国の速度を最も直観的な形式で表現する存在となった。それに伴って、中国当代建築の発展に対する西洋の関心と注目も、大きく惹き起こされることになっている。

国内から見ると、中国は改革開放この方40年間、未曾有の成果を上げてきたが、未だ世界最大の発展途上国である。中国の建築家はさまざまな矛盾や困難に直面しており、中国建築界もその複雑な状況の中、模索しつつもがいている。国内外の多くの学者は、中国が巨大かつ複雑であるとして、中国の発展趨勢を客観的に評価するには西洋的基準だけでは不十分であり、中国という国の具体的な国情を深く理解すると同時に、グローバルな視点から世界の建築体系における中国当代建築の位置づけを行う必要があると訴えている。

中国当代の都市と建築は、依然として多くの重要な学術的・専門的問題に直面している。本誌ではテーマ設定と特集記事という手法を通じて、いくつかの重要なトピックに焦点を当て、専門家や学者を集めて、共に研究と議論を行っている。今のところ、以下のいくつかの考察が提示できるのではないかと思っている。

1.中国当代建築の発展においては、建築実践の隆盛が建築理論の探求よりも先行していることが多い。いかにして中国の建築理論のための言説体系を構築し、また独自の地域性、歴史、文化に根ざした建築設計の論理をつくり上げるかについては、更なる関心と進展が求められる。

2.国際的な文脈から眺めた際、当代中国建築の発展はどのようなユニークな貢献をしたのか、また世界の建築発展史上にいかなるマイルストーン的思想、出来事、作品、建築家等を残したのかについても、更なる注視と総括が求められる。

3.中国の都市建設は全体として、大規模なスクラップアンドビルドという急速な発展段階から、ストック形成を主とし、都市と建物の品質を重視する段階に既に移行している。これに関連して、旧市街の有機的な更新、建築遺産の保存と再生、都市の公共空間、コミュニティの構築、人間らしさのある空間とディテール、健康と福祉のための施設等のトピックはみな重視に値する。

4.農村部は中国を構成する重要な部分であるが、過去数十年間の建設プロセスの中で、農村部と都市の利益はしばしば相反し、農村部の利益は常に無視され、蚕食されてきた。農村部の建設をどのように重要視してゆくべきか、特に農村部自身の利益の尊重を前提とした、持続可能な開発については、十分な関心が払われるべきである。

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中国の建築メディア、特に専門雑誌は、中国当代建築の発展において独自の文化作用と拡散作用を果たしており、それらは主にその強力な文化的統合力において示されている。建築メディアに携わる人々は、メディアの観点から中国の都市と建築における劇的変化に焦点を当て、絶えずそれを社会的・文化的有機体の中へ植え付け、社会の発展過程での建築と都市のダイナミクスを示すことで、建築の専門知識や情報の普及におけるパイオニアの役割を果たしている。しかしそれ以上に重要なのは、建築メディアとしての視点とコンテンツの選択によってもたらされる、建築と社会に対する専門メディアの考え方と、それによって社会全体の建築と都市に対する認識程度の向上を目論む、切迫した願望である。この種の公共による認知は、建築メディアが放出する大きな言論エネルギーの下、社会参加と文明の発展を推進する重要なエンジンとなった。

『時代建築』は中国の多くの建築雑誌と同様に、1980年代に創刊された。そして立ち位置の再調整を経て、専門雑誌としてのテーマに基づく批評モデルが生まれた。論文を発表するという元々の役割から、徐々にメディア指向型の言論体系と批判的報道へと移行したのである。歴史的観点に立って見るならば、この時期の『時代建築』は当代中国建築との相互作用によって発達し、中国当代建築の発展過程を通時的に目撃する存在となっている。当代建築の発展を報道すると同時にこれに参与し、メディアの強力な統合力を用いて実践に対して疑問を投げかけ、節目となる出来事や事件を追究し、更には直接建築的事件を形成することもあった。独自の視点と価値観によって建築観念を広め、学術的な記述と整理、及び学術的な遺産の継承を通じて、また新たな概念に基づく核心技術を呈示することによって、多様な思考プラットフォームを構築し、専門的な関心領域と、核となる言論をある程度確立してきた。また専門的訓練にも関心を寄せ、建築家が自己認識するためのプラットフォームを提供し、建築業界と職業との間の重要な差異が維持されるようにしてきた。本誌は自らのテーマ性のある視点によって、建築批評が発展してゆくための一種の可能性を拓き、批判精神を持ったメディア従事者や若い学者らに寄与したと言えるだろう。そして彼らは、そのオープンな姿勢と、学術、時代の流行、建築的実践、大衆的出来事への積極的な参与、またそれらに対する多面的な取り組みによって、建築批評の上澄みを構成する専門家グループを活性化する上で、重要な役割を果たしてきた。以上の全てによって、『時代建築』は代替不可能な役割を持った、最も主要で重要な建築メディアとなっている。本誌がその創刊理念とスタイルを引き続き維持し、知識体系や専門的情報によって人々に刺激を与えるだけでなく、思想や概念、認識の面でも建築界に良い影響力を及ぼすことを期待したい。

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支文軍
建築討論

1962年生まれ。同済大学建築都市計画学部教授、『時代建築』主編。同済大学卒業、同大学院修了。香港大学やプリンストン大学で訪問学者を務める。『中国当代建築2004–2008』、『メディアと批評――建築研究のための一ビジョン』など、20冊以上の専門書を編著・出版