構造設計者からみた構造ヘルスモニタリングシステム

056|202106|特集:「直後」の構造家──大地震後の緊急活動のひろがり

原田公明
建築討論
22 min readJun 1, 2021

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1.はじめに

<構造設計の限界>
私は1987年4月に日建設計に入社以来34年間構造設計の職に従事してきた。クライアントや社会に対して安心で安全な建物や構造を設計するため、世の設計者と同様に日々構造設計に真摯に向きあってきたつもりである。特に日本は世界でも有数な地震国であるため、日常の構造設計は、起きうるであろう地震を想定し揺れやその強さをもとに建物の構造体の性能や構造部材の仕様・断面を決めてゆく。しかし建物の場合、地震を受けた際、車の計器にあたる地震計つまり加速度センサー等が設置されることは稀であり、設計図どおり建物が揺れたかどうか即時にかつ正確に把握できず、構造設計者として地震後に歯がゆい思いをしてきた。つまり地震に対して大丈夫であろうと言う見なし設計しかできず、その点は構造設計の限界だと思っていた。

<私の強震観測への取り組みとジレンマ>
そんな中、2003年竣工の日建設計東京ビルの構造設計を担当する機会にめぐまれた。本社ビルということもあったので建物の振動性状を把握すること、地震時の安全性を社内に通知することの目的で、建物内外に加速度センサーを多数配置しデータの収集・分析を行ってきた。いわゆる強震観測である。本業は構造設計者なので、研究者が行う強震観測程のレベルではなく日常の業務の片手間で少し大きめの地震を受けた時に、分析および報告を行っていた。

具体的には、地震後しばらくしてから、収録装置のある1階の守衛室兼防災センターに足を運び、カードリーダーでデータを取り出し、自席のパソコンでそのデータを読み込んで地震波の周波数分析、建物の揺れの分析つまり層間変位や加速度を求め、その地震での建物の挙動や安全性を確認報告していた。この一連の行為はかなり手間のかかる仕事であり、時には締め切りの設計業務と重なった時など、中小地震の場合だいぶ時間たってからの対応だったというのが正直なところであった。

本社ビルの構造設計を担当できたことは貴重な機会であったものの、居住者の社員は皆がプロの設計者である。つまり親しい同僚とは言え専門家のクールな目でこの建物について評価してくれる。本社ビルのため大地震時の機能維持確保のため、構造体を無被害あるいは軽微な被害に留める耐震グレードを高めた制振構造とした。2003年3月竣工後、地震観測開始直後、さっそく中小地震を度々うけた。社内の同僚から、「この建物揺れるね。」と何気ない日常の会話を受けることがたまにあり、「引っ越す前は中間層免震の建物(飯田橋ファーストビル)だったじゃない。」とか「グレード高めた構造でもS造だから揺れるのは当たり前だよ。」など最初は言い返していたものの、冷静に考えると揺れや建物の安全性に対して全く「見える化」ができていないことが大きな課題であると薄々感じ始めた。また特に揺れの中でも加速度に関しては個人差もあり、体感なんていい加減というかばらつきもあるものだと思った。

地震はある瞬間突然やってきて短い時間で終わるため、安全性にかかわる構造体の揺れが具体的な数字で示されない限り、正直なところその判断や説明もできない。また十分な地震観測システムはあったものの、その分析にも手間と時間を有する。その分析結果と設計内容を照合させて安全性を具体的な数字で示し被災度の程度を平易な言葉で表して初めて、第三者が安全性の程度を理解することができる。

<構造ヘルスモニタリングシステムの開発と実用化へ>
そんなことから、分析や安全性の程度つまり被災度の判定が地震直後瞬時に提示できれば、その建物の安全性に加え人命を守るための避難指示や建物の継続使用の判断を迅速・的確に行えるようになるのではないか。また我々のような構造設計者を介さずともクライアント自身でその情報を手に入れる方法はないかと考えた。そうすることでクライアントや構造設計者はもちろん社会に対して非常に有益なシステムになるのではないかと。

そこで、「日建設計構造ヘルスモニタリングシステムNSmos(NIKKEN SEKKEI Structural Monitoring System)」(地震時建物被災度判定システム)(以降NSmosと表記)を2012年頃から開発に取り組み、2014年から実用化開始し2021年現在まで約60棟以上の建物にこのシステムが導入されている。

2.2011年 東北地方太平洋沖地震を受けた日建設計東京ビルの地震記録

NSmosの開発が急務であると思わせたのは、2011.3.11の東日本大震災の体験である。私は、東京JR山手線の大崎駅と田町駅間の走行中の電車の中で被災した。最初ガクンと電車に強い衝撃を受け、一瞬人身事故かと思った次の瞬間、電車が更に大きく揺れ止まった。大きい地震だとすぐわかった。線路両側の高層建物が揺れている様子も目に入ってきてただ事ではない、やばいと感じた。満員電車の中に2時間閉じ込められた後、田町の駅まで線路上をてくてくと歩いた。家族や自宅の無事と安全を聞き安堵した後、飯田橋の本社ビルの被害も気になり同僚に電話したが「全く被害もなく問題ないです」の一報を聞きこちらも安心した。30キロ遠方の自宅まで徒歩で帰ろうかとも一瞬思ったが幹線道路は多くの人で溢れかえり、その中に入ることは余震がまた起こるかもしれないなど考えると一抹の恐怖も覚え、結局、建築学会側田町駅前の雑居ビルの廊下に段ボールを敷いて帰宅難民として一夜を過ごした。

ここでは、日建設計東京ビルの強震観測記録のレポートで、地震後暫くしてから、得られた加速度センサー、変位センサーより様々な分析を行った。強震観測の一例として示す。建物内に設置した加速度センサーや、変形により、建物の挙動が具体的に示すことができる。また建物外に加速度センサーを設置することで、建物内外の地盤と建家の動的相互作用の効果も示している。建物全景を写真1、架構概念図を図1、建物構造伏図、制振部材写真を図2に示す。

2.1 建物概要

建 築 主:株式会社日建設計
所 在 地:東京都千代田区飯田橋2丁目18番地3
建築面積:1,497.75m2、延床面積:20,580.88m2
階 数:地下1階 地上14階 塔屋1階
構造種別:地上部 鉄骨造(柱のみCFT造)
地下部 鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造
軒高:59.85m
基礎:独立フーチング基礎 場所打ちコンクリート拡底杭
架構:座屈補剛制振ブレース(LY=100N/mm2級)及び粘性体制振壁付き柱・梁ラーメン架構
外装:ガラスカーテンウォール、PC版

写真1 建物全景 /図1架構概念図
図2 構造伏図,制振部材写真

2.2 地震観測システム

図3に示す如く、建物内11箇所、敷地内地表面近傍及び杭先端レベル(工学的基盤)各箇所に加速度計を設置し、定常的に地震動が計測可能なシステムとした。加速度計、収録装置写真を写真2、3、4に示す¹⁾³⁾。

図3 地震観測システム
写真2 加速度計(EPS内)/写真3 加速度計(杭先端)
写真4 収録装置

2.3 2011年3月11日14時47分 本震地震状況

・観測震度:震度5強(東京都千代田区)
・観測記録時間:600秒
・建物被害の概要:構造体、内外装材、設備機器共に全て無被害

2.4 建物の揺れの状況 ─最大加速度値による分析─

建物の設備コア内に設置された加速度計の時刻歴波形とその高さ方向の最大値を示す(図4、5)。高さ方向の加速度の増幅の程度がX(長辺)、Y方向(短辺)で異なる。これは地震動と各々の固有周期との関係が影響していると考えられる。上下動は水平動の0.4~0.53倍となっている。また14階大梁中央の上下動加速度はコア内に比べて2.28倍と増幅がみられた(図4)。

図4 最大加速度分布(※2は1F/地表の比率を示す)
図5 設備コア部加速度波形

2.5 入力地震動

2011年3月11日14時47分本震の速度応答スペクトルを示す(図6)。1秒以上は30cm/sec程度の概ね平坦な地震動の形をし、観測点の違いによる差はみられない。1秒以下の短周期成分においては観測点の違いで地震動の大きさの違いがみられた。杭先端(GL-16m)、建家内(1F)、地表(GL-1m)の順に大きくなっている。杭と地表は表層地盤の増幅、建家内と地表は地盤と建家の動的相互作用の効果と考えられる⁴⁾⁵⁾⁶⁾。

図6 速度応答スペクトル(地表(GL-1m)、杭先端(G-16m)、建家内1F)

2.6 建物の揺れの状況 ─最大変位による分析─

建物全体の揺れは76.1mm、1/788(X)、69.8mm、1/855(Y)、最大層間変形角は1/500(X)(5F、層間変位8mm)、1/667(Y)(6F、層間変位6mm)と揺れの大きさから判断しても無被害であり、高い耐震性能が確認された(図7、8、9)。なお制振構造としての性能をより正確に分析するため6Fの制振部材の変位を測定した。粘性体制振壁が2.52mm(長辺)、1.91mm(短辺)の変形が確認され、制振構造としての減衰性能を発揮した(図10)。鉄骨制振ブレースは1mm未満(0.55mm短辺)であり、弾性範囲内の挙動であったと考えられる。

図7 最大変位(1Fからの)
図8 最大層間変形角
図9 変位波形
図10 粘性体制振壁変位波形

3.構造設計者が開発した構造ヘルスモニタリングシステム「NSmos」

「NSmos (NIKKEN SEKKEI Structural Monitoring System)」は、日建設計が開発した地震時の建物の揺れや損傷状況を判定するシステムである。NSmosは、建物内に地震計(加速度センサー)を配置し、得られたデータから建物の揺れをリアルタイムで把握、損傷状況を即時に分析・簡易判定を行うシステムである。実務構造設計者の目線で判定項目、判定のための閾値の算定方法などを取り入れたことに大きな特徴がある。地震後の建物の安全性や被災度状況に関する情報を迅速に提供することで、被災度後の迅速な避難指示や建物の事業継続の的確な判断が可能となる。

3.1 構造ヘルスモニタリングシステム「NSmos」

3.1.1 システム概要

本システムは、地震時に建物に複数設置した3軸加速度計により計測した加速度と加速度をもとに算定した層間変形を設計時に決定した判定値(閾値)と照らし合わせることにより、建物の被災状況の判定を行うものである。各加速度計の計測記録はLANケーブルなどを介して、収録装置であるパソコンに集計され、パソコン内に予め導入された被災度判定ソフトにデータが伝達される。加速度計の設置位置、および、被災度を判定するための建物情報の入力は、建物を熟知した構造設計者が行っており、適切な判定を行うことが可能となっている。地震が発生してからのシステムフローを図11に示す。

図11 地震計測システム図

3.1.2 被災度レポートとシステムの役割

被災状況の判定結果は、地震の揺れ収束して2~3分後にレポート形式で建物管理者等に提供される。判定レポートは、フラッシュレポート、簡易判定レポート、および、詳細判定レポートの3種類がある。簡易レポートの例を図12に示す。簡易判定レポートは、地震直後に状況が端的に把握できるように、建物概要、地震情報、計測結果(加速度、変形)、被災度判定、判定内容、総括をA4×1枚のレポートとしてまとめたものである。なお、クラウドを介して建物外においてもレポートを閲覧することが可能となっている。

図12 簡易レポート(2011.3.11.東北地方太平洋沖地震の観測データをNSmosシステム完成後入力し、出力したレポートである。)

地震が発生した際、建物管理者にはまず即時に、建物利用者がその建物に留まるべきか避難するべきか、判断が求められることになる。本システムを用いて、1クリックで判定レポートを出力することで、地震後すぐに、建物に生じた揺れの大きさの程度を確認できる。判定レポートに示された情報と現場の状況を合わせて確認することで、建物管理者が適切な判断および対応を行うことができる。

建物内のどの部分にどのような被害が生じているか、地震直後に把握することは困難であり、実際には地震がおさまった後に、目視にて建物内を順番に確認することとなる。本システムを導入することで、建物の高さ方向の被害の大きさの分布の目安を確認することができるため、より被害の大きいと考えられる階から合理的に状況確認を行うことができる。内外装で隠ぺいされ、点検が難しい構造体については、定量的な判定結果を元に、被害状況調査や補修の要不要を判断することができる。さらに、地震記録データと設計時の構造解析モデルを用いた2次詳細分析を行うことで、より確実な補修・修繕計画が立案可能となる(図13)。

図13 被災その後のシステムの役割

3.1.3 計測および計算方法

計測に用いる加速度計は、経済性、および、建物固有周期(低振動数領域)における計測精度を重視し、サーボ型、静電容量型、MEMS型のいずれかの加速度計を用いる。

加速度計は各層に設置することはなく、建物の振動性状をもとに、複数階おきに設置する。例えば、重量、剛性ともに均一な30階建て程度の超高層建築物であれば、1階と最上階に加えて、6~7層ごとに合計6層に加速度計を設置することとなる。

次に計測した加速度より各層の加速度、変形を算定する手順を示す。計測した加速度をTrifunacの手法²)により積分し、計測階の変形を算定する。算定した変形を用いて3次スプライン補間を実施し、全ての階の変形を算定し、それらを微分することで、全ての階の加速度を算定する。

3.1.4 被災度判定方法

判定項目は、構造体、外装材、天井材、設備機器、家具の5項目で、各項目について、A~Eの5段階の被災度の判定ランク付けを行う。判定ランクA~Eは、無被害、軽微な被害、小破、中破、大破に対応する。総合判定は構造体、外装材の判定を重視して判定される。構造体、外装材がDランク以上となった場合は、避難の必要があると判定する。構造体、外装材は層間変形を用いて、天井材、設備機器、家具の判定は加速度を用いて行う。

各項目の閾値は階とフレーム方向ごとに設定することが可能である。各項目の閾値(各ランクの境界値)の決定方法を以下に示す。

構造体:静的増分解析より各階の荷重-変形曲線を算定し、この曲線をもとに各判定ランクの閾値となる層間変形を決定する。図14の荷重―変形曲線をもとに、躯体の閾値の決定方法の一例を示す。無被害が否かの境界となるA/Bらンクの閾値は、短期許容耐力に到達したあたりで、小破と中破の境界であるC/Dランクの閾値は崩壊メカニズムに到達したあたりとしている。建物によって構造上の特徴は異なり、ブレースなどを設けて変形を意図的に小さくしている建物、階によって構造種別が異なる建物、または、中間層免震など特定層の変形が大きい建物などがあることから、構造図、計算資料をもとに構造設計者によって適切に閾値を決定する必要がある。

図14 荷重一変形曲線と閾値の関係

外装材・天井材・設備機器・家具の判定方法、閾値の設定方法は紙面の関係で割愛する。

3.2 実大三次元振動実験による検証

3.2.1 実験概要

国立研究開発法人防災科学技術研究所は、「実大三次元震動破壊実験施設を活用した社会基盤研究」の一環として、2015年12月に10階建て鉄筋コンクリート建物の骨組振動台実験を実施した。本システムを試験体建物に導入し、被災度判定を行い、システムの妥当性、測定精度および判定内容を検証した⁷)。

試験体建物の平面は13.5m(X方向純ラーメン)×9.5m(Y方向耐力壁付きラーメン)、全体高さ27.45mである。加速度計はMEMS型で、奇数階に配置した。加振実験は基礎すべりと基礎固定の2種類で行った(写真5)。

写真5 Eディフェンスにおける精度検証実験

3.2.2 応答値の算定の検証

応答値の算定を検証するため、各階に設置している高性能のサーボ計加速度の測定値と比較した。本実験は、基礎固定実験が実施され、入力地震動の振幅を徐々に大きくし、柱梁接合部が損傷するまで加振した。

図15 振幅25%、100%の最大応答加速度および最大層間変形角分布(基礎固定)

図15に振幅25%、および、100%の基礎固定実験時の最大応答加速度、および、最大層間変形角分布を示す。振幅、架構の方向によらず、加速度、層間変形角ともに実験値と良く一致しており、本システムの測定、補間計算が高い精度を有することが確認できる。また、100%加振時では、最大加速度=1500gal以上、最大層間変形角=約0.33(1/33)となっている。実験値と本システム計測値はほぼ一致しており、大変形時まで高い精度で本システムが対応可能であることを確認した。

3.3 2021年4月現時点でのNSmos実績

本システムNSmosは2014年に導入開始してから2021年までに高層の鉄骨造を中心に60棟以上の建物に導入された。図16に導入建物の一覧を示す。導入時期(新築時、既設時)、用途、構造種別、設計者(自社、または、他社設計)ごとに割合を示している。

新築と既存建物では、2014年実用化開始時期との関係もあり、既存への実績比率が高い。用途はテナントビルへの導入比率が高い、大地震の際のテナントへの避難指示および地震後の建物調査等、建物所有者のBCP対策意識が向上していると思われる。構造種別は耐震構造、制振構造がほとんどであるが、一部免震構造の実績も有する。設計者別では、他社設計事例に30%以上導入されている。写真6にNSmos導入建物事例を示す。

図16 導入建物一覧(新築・既設、用途、構造種別、設計者(自社、他社))
写真6 NSmos導入建物事例

なお、図17にモニタリングの普及状況の図を示す。資料は2018年10月末時点で、モニタリング用の強震観測850棟と急速に増えている様子が確認される。建物を確実に被災度判定しようという動きが社会に浸透しつつあると言えよう。

図17 モニタリングの普及状況(2018年10月末時点)(第6回強震観測データの活用に関するシンポジウム(日本建築学会)資料より)

4. おわりに

2011年3月11日東日本大震災は東京首都圏内は震度Ⅴ強の地震であったが、幸いにも建物の被害はあまり報告されなかった。しかし、電車は止まり街は帰宅困難者で溢れ都市機能は麻痺した。一早く以前からモニタリングシステムを導入していた西新宿地区の工学院大学では、モニタリングシステムが機能しそれを有効活用し、帰宅困難者の受け入れを行うことができたことを報告会で耳にした。日建設計東京ビルもNSmosが完成し稼働していれば、社員だけでなく一般の人々を受け入れることができたかもしれない。また、非常時のことだったため地震直後に建物外に退却指示したクライアントの声も聞き、もしモニタリングシステムがあれば建物内に留まるなどの適確な避難指示が可能となったはずである。

日本の耐震基準の確からしさは過去の大地震の被害状況から見ても証明されている。ただ、法律の中で設計されていて安全であろう建物に対しても数値化されない限り、地震後の避難指示の判断はばらつきも出てくる。従来の目視による応急被災度判定も重要なよりどころではあるが、隠蔽された構造体などの判定は限界がある。東日本大震災の際、一部外装材の損傷を受けた建物に対して、建物全ての外装の損傷確認をするべきか否か判断に苦慮されているビルオーナーの声も聞く機会があった。点検の程度によっても費用の負荷が変わってくるからだと。構造体だけでなく外装材の被災度判定情報があれば有益となる。

想定外の地震はいつ何時起こるかわからない。社会全体で構造ヘルスモニタリングを採用しやすいよう、国や自治体レベルで補助金等のサポートなどの施策を考慮してほしいものである。今回、私がかかわってきた強震観測、日建設計地震時被災度判定システムNSmosを一例として紹介した。現在、他社の構造ヘルスモニタリングシステムも複数開発実用化されており、NSmosを含めたこのようなシステムが多くの建物に導入され、災害に強い建築や構造や街がつくられることを切に願う。また性能設計⁸)が求められる中で、民間建物の記録は個人情報のため一般公開は難しい側面はある。しかしながら、モニタリングの設置が義務化・推奨された公共施設の観測記録などは積極的に利用し、得られた記録を用いて設計時の解析結果と比較分析する等、今後の構造設計技術の向上の一助となる活動が建築業界で広がっていけば更に良いと思う。

参考文献

1) 原田公明他;地震観測記録に基づく日建設計東京ビルの振動性状(その1)~(その6)、日本建築学会学術講演梗概集、2004年

2) Trifunac、 M.D.、 Udwadia、 F.E. and Brady、 A.G.: Recent developments in data processing and accuracy evaluations of strong motion acceleration measurements、 Proc. 5th WCEE、 Vol.1、 1973.6

3) Hiroaki HARADA、 Masato ISHII、 Takashi YAMANE、 and Toru KOBORI、 A Study on Dymamic Behabior of Passive Emengy Dissipation Systems Based om Seismic Obsevnation records (part1)、 9th WSSI (9th world Seminar on Seismic Isoration、 Enengy Disspation and Active Vibratin Control of Structure Kobe、 Japan)、2005.9

4) 原田公明、石井正人、篠原達巳、風間宏樹:東北地方太平洋沖地震を受けた日建設計東京ビル地震記録(その1 2011年3月11日 本震での観測記録及び分析)、日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.1149–1150、2012.8

5) Hiroaki HARADA、 Tatsumi SHINOHARA、 and Keita SAKAKIBARA、 A Study on Dynamic Behabior of Nikken Sekkei Tokyo Building Equipped with Enengy Dissipation Systems when Struck by the 2011 Great Wast Japan Earthguake、RERM (Yokoha、 Japan)、 2012.8

6) Hiroaki HARADA、 Tatsumi SHINOHARA、 and Keita SAKAKIBARA、 A Study on Dynamic Behabior of Nikken Sekkei Tokyo Building Equipped with Enengy Dissipation Systems when Struck by the 2011 Great Wast Japan Earthguake、15WCEE (Lisbon、 Portugal)、 2012.10

7) Imaeda、 H.、 Harada、 H.、 Shinohara、 T.、 Ishizaki、 T.、 Sasaki、 T.、 Tosauchi、 Y.、 Kajiwara、 K. and Sato、 E.: Performance assessment of a damage estimation system based on full scale 3D shaking table experiment、 Summaries of technical papers of annual meeting (2017)、 pp. 1095–1098、 2017. (in Japanese)
今枝祐貴、原田公明、篠原辰巳、石崎樹、佐々木智大、土佐内優介、梶原浩一、佐藤栄児:実大三次元振動実験による被災度判定システムの検証その1、その2、日本建築学会学術講演集(中国)2017年8月

8) Mizutani、 M.、 Koitabashi、 Y.、 Yoshie、 K.、 Giron、 N.、 Kiyomoto、 R. and Torii、 S.: Performance-based seismic design in Japan、 7th SEWC2019 International congress

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原田公明
建築討論
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日建設計エンジニアリング部門構造設計グループダイレクター/ 一級建築士、技術士(建設部門)、構造一級建築士、工学博士/ 1987年 ㈱日建設計入社、2008年~2021年 慶応大学・日本大学非常勤講師、2000年「さいたまスーパーアリーナ」、2012年「立教大学新座キャンパス新教室棟(JSCA賞)」、2014年「YKK