終焉と再生 — 解体と建替えは可能か、転用、再生、そして将来展望は

連載:タワーマンションの寿命が尽きるとき──つくる責任と看取る責任(その6)

森本修弥
建築討論
Dec 25, 2022

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今まで5回にわたって、規制緩和と建設実態、商品化と維持管理、コミュニティと当事者意識、防災への対応と地域貢献、外観デザインの底流について論じてきた。今回は最終章として、タワーマンションが終焉を迎えるとどのようになるのか、そして建替えは可能なのかについて議論を進め、タワーマンションはどうあるべきであったかを述べて結びたい。

1.タワーマンションの衰退

建物の老朽化、管理不全、入居者の退去が同時進行すると、限界タワーマンションとして都市における深刻な負の遺産となる。初めてのものとされるタワーマンションが1971年に登場して以来すでに50年が経過したが、立地条件に恵まれていることもあり、写真1のように外観を見る限り劣化して荒廃した様子はない。

写真1 「三田綱町パークマンション」1971年竣工(著者撮影)

ところが、タワーすなわち超高層住棟そのものではないものの低層部の機能が衰退した例がある。千葉県佐倉市にある3棟のタワーマンション群は1990年から1992年にかけて建設され、写真2左のように駅に直結した人工地盤上に29~31階建て超高層住棟のほか14階建て住棟や低層の商業施設棟が配置されている。

都心部から離れた立地であることから、様々な形態の住棟や商業施設を複合させ、完結した一つの小さな都市を目指してきたかのようである。現在は、写真2右のように低層部のアトリウムはシャッターが降ろされ閉鎖された状態にある。

写真2 「スカイプラザユーカリが丘」の全景と閉鎖された低層部のアトリウム
(1990~1992年竣工)(著者撮影)

これに対し、一連の開発で最も新しい住棟は、街区が異なることもあるが、写真3のように敷地そのものにセキュリティー区画を設けて、居住者以外は立ち入ることができないゲーテッドシティである。

この事実は、タワーマンションの配置計画に一つの示唆を与える。住棟に様々な施設を複合させることを止め、居住空間に特化してしまったのである。

近年の大規模な複合開発にみられるように、低層部に商業施設や公共施設を複合させるよりは、超高層街区、商業街区というような形で、街区ごとにその施設用途を純化させた方が、計画上も管理運営上も効率がよく、容積率の移転も可能なのである。住宅部分と非住宅部分とは管理組織が別個に機能し、大規模修繕などの重要な決議に際しては相互の連携がスムーズに行われないという指摘もある★1。タワーマンションの住宅部分の管理組織の立場からみれば、商業施設や公共施設の複合は厄介なものに映るのであろうか。皮肉なことに、タワーマンションと地域とのつながりを絶った方が長寿命化に有利なのかもしれない。

写真3 「ユーカリが丘スカイプラザ」ミライアタワーのエントランス
(2013年竣工)(著者撮影)

2.タワーマンションは解体ができるのか

最も早く解体が議論されることになるのは、定期借地権付きのタワーマンションであろう。東京都中央区で2003年に竣工した地上25階建、180戸のタワーマンションでは定期借地権は50年存続とされ、2022年現在からみると30年後に解体されることになっている。販売パンフレットでは、期間満了後に更地にして返還することが条件で、買取請求や改築は不可とされている。

タワーマンションの具体的な解体例はまだみられない。非住宅用途で鉄骨系の超高層建築物には解体例がある。また、コンクリート系では1985年に竣工した地上19階、高さ約84mの東京医科大学病院の例がある。

東京医科大学の場合は、写真4のように一般的な中高層建築物の解体と同様に、外壁まわりに足場を組んで内部に重機を入れて解体された。では、同様のコンクリート系の構造でありながら、高さが200mに迫り、基準階面積が比較的小さいタワーマンションの場合ではどのように解体するのだろうか。

写真4 RC系超高層建築物の解体(東京医科大学病院 2020年解体)(著者撮影)

さて、前述のような定期借地権つきのタワーマンションでは退去が前提であり、解体積立金制度が導入されている★2とされる。所有者が公共機関や法人格である賃貸住宅を除くと、一般によくみられる区分所有の場合では、取り壊して建て替えるには、区分所有者と専有面積割合に応じた議決権の80%以上の多数が必要である。住戸数が非常に多いタワーマンションでは、建替え決議に至るのは非常に困難であり、さらに建替えを必要とするまでに老朽化している場合には、経済的な負担に耐えられない高齢者が多く居住していると予想され、決議は一層困難となる。

3.建替えでは容積率緩和を重ねて行うのか

タワーマンションを建替えた事例はまだみられないが、仮に建替えるとすれば、巨額の費用の調達のために、市街地再開発に類似した手法を用いるのであろう。市街地再開発では、従前の容積率制限を大幅に緩和して、新たに生み出された容積率に相当する床面積を保留床として売却することで事業費用の多くをまかなうが、これと同様の手法である。開発事業者が事業協力者として参画することになるのであろう。

ところが、そもそも容積率の緩和は可能だろうか。というのも、タワーマンションは新築時にすでに容積率制限を受けたものがほとんどなのである。つまり、建替えに際しては、容積率制限の緩和を重ねて必要とすることになる。

ここで、全国のタワーマンションの半数強を占める東京都区部と大阪市のケースについて、緩和前の基準容積率と緩和後の計画容積率の関係を図1でみてみる。

図1 基準容積率と計画容積率の比較(著者作成)

ほとんどのタワーマンションが容積率の緩和を受けていることがわかる。また、市街地再開発で多く活用される「再開発等促進区を定める地区計画」では、基準容積率の2.5倍もの計画容積率となっている。もし、建替え事業を採算に乗せるには解体前の容積率の2倍以上の緩和が必要だとすると、容積率2000%を超える建替え計画も現れる。制度上それが認められても、建物高さは著しく高くなり、構造技術上の限界を超えるか、航空法による高さ制限に抵触することになる。高さを抑えるために基準階を大きくした場合には高い建蔽率となり、敷地内に空地が少なくなって環境の悪化を招くだろう。

従前敷地内での建替えが困難になると、周辺の既成市街地の建物更新の機会を見計らって、近接敷地に容積率を売却する制度の導入が必要になるかもしれない。現行法でもマスタープランに基づいて一帯的に地区計画等が導入されている区域では、街区間での容積率移転は可能である。ただ、明確な将来ビジョンを欠いたまま容積率が市場で取引されるようになれば、都市計画に与える影響は計り知れない。

4.タワーマンションはコンパクトシティに貢献できるか

タワーマンションの役割の一つは高密度居住への対応であり、人口の集中度との関係性が予想される。立地都道府県別に人口集中地区人口割合とタワーマンションの棟数との関係を図2でみると、人口集中地区人口割合が高まると棟数が指数関数的に増加することがわかる。

この関係から外れたところに東京都が位置付けられている点に注目したい。ここから、東京都は人口集中地区人口割合に比べて、棟数が過大であり居住以外の需要が多いと推測されるが、それが投資需要なのか、それを見極めるのは非常に困難である。

図2 人口集中地区人口割合とタワーマンションの棟数(著者作成)

つぎに、大都市圏以外で2000年以降に移行した政令指定都市で、タワーマンションの立地が多い都市の状況をみる。岡山市にはタワーマンションが8棟あり、図3上はその地理的分布を示したものである。幹線以外の鉄道は非電化単線で利便性が良くないため、タワーマンションは岡山駅からの徒歩圏に集中している。岡山市のマスタープランを参照すると、2020年以降は人口減少に転ずるとされ、岡山駅周辺で「土地の高度利用や都市機能の更新を図る」ために、容積率緩和の施策が推進される。

図3下は浜松市での5棟の分布で、いずれも浜松駅からの徒歩圏である。マスタープランには「コンパクトで暮らしやすい持続可能な都市」の記述がある。同様な状況は、新潟、静岡、熊本のように近年政令指定都市に移行した各市にもみられる。人口減や急速な高齢化が迫り、山間部までの広域に居住域が及ぶこれら各市では、行政サービスの集中化は不可避であり、タワーマンションによる集中高密度居住は有利な面がある。

一方で、IT化の進展や新型コロナ対策による在宅勤務の定着は、分散、低密度居住を可能とする。地方都市でのタワーマンションにとっていずれの影響を強く受けるようになるのかはまだ分からない。

図3 地方都市でのタワーマンションの分布(岡山市、浜松市の例)(著者作成)

5.津波避難ビルとしてのタワーマンション

東日本大震災の津波被災地の復興では、写真5のように広域に及ぶ高台の造成や巨大な防波堤がつくられてきた。将来発生が危惧されている東南海地震での津波避難予想地域では、事前の備えとして同様の取組みがなされるのであろうか。

写真5 高台の造成と巨大な防潮堤(岩手県釜石市)(著者撮影)

もしタワーマンションを津波避難ビルとしたらどうなるであろうか。図4がその構想案である。東南海地震での津波避難予想地域では、前述のような地方の政令指定都市よりも人口減や高齢化の面で地域の活力低下は深刻な状況といえる。さらには地形上、建物の建設用地が少ないことも課題である。特に漁業従事者にとって身近に潮目を感じる住宅でありながら、安全に居住できることを両立した案となっている。即時の避難が可能であり、高台の造成や巨大な堤防よりも安価な工事費で、景観の阻害もない。ただし、戸建て住宅が中心の地域で受容されるかが課題である。

図4 津波避難ビルとしてのタワーマンション構想(著者作成)

6.さいごに

タワーマンションはどうあるべきであったか。タワーマンションがその価値を存続し、さらには再建の可能性を視野に入れるのであれば、当初の計画において冗長的、非効率的、非合理的な面を受け入れる必要がある。すなわち、都市計画や建築計画上の配慮としては、過度な容積率緩和を抑え、空地面積をはじめ各部のスペースに余裕を持たせ、性能的なアップデートの余地を残すことである。

タワーマンションの計画では、高い容積率を前提とした効率性が追及される。行政側も短期的には人口回復の効果を期待する。ただし、一旦その道に進めば後戻りは容易ではない。都市開発にとってタワーマンションは麻薬のような面がある。

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★1: 著者の属する一般社団法人新都市ハウジング協会での2021年7月分科会にて、大和ライフネクスト マンションみらい価値研究所 久保依子は「管理組合での会議体は住宅部会と店舗部会に分かれていて、年一回の形式的な総会以外には、両者が同じテーブルにつくことがない。タワーマンションに特化した管理規約が必要である。」と指摘した。
★2: 大木祐悟:タワーマンションは建替えができるのか?, 齊藤広子・浅見泰司編著『タワーマンションは大丈夫か⁈』株式会社プログレス, 2020.4

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森本修弥
建築討論

もりもと・しゅうや/1959年東京都生まれ、東京工業大学大学院理工学研究科修了。日本国有鉄道を経て日本設計勤務。専門は高層・超高層住宅。博士(工学)。受賞歴に茨城県建築文化賞優秀賞(水戸プラザホテル)、グッドデザイン賞(釜石市上中島町災害復興公営住宅Ⅱ期)、都市住宅学会論文コンテスト博士論文部門優秀賞など。