維持管理と都市景観からみたタワーマンションの外観デザイン

連載:タワーマンションの寿命が尽きるとき―つくる責任と看取る責任(その5)

森本修弥
建築討論
Oct 22, 2022

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タワーマンションの外観デザインは、その巨大さと圧倒的な高さゆえに、維持管理も容易ではなく、都市景観に与える影響が大きい。

前回では防災拠点として有効と考えられる空中のコミュニティスペースが、タワーマンションの外観デザインに好ましい影響を与える可能性があるとした。ゲーテッドコミュニティとして地域から隔絶していても、タワーマンションの外観は否応なしに人々の視界に入るので地域の風景としての公共財の役割もある。

今回は、タワーマンションの外観デザインの特性とその底流にあるものに着目して課題をみてみたい。

外壁の維持管理

超高層建築物では15年前後の周期で外壁の大規模改修が行われることが多い。具体的には、シールの打ち換えや外壁塗装の塗り替えなど主に樹脂系素材の自然劣化部分の補修である。

鉄骨造が主体で層間変位に追随できるカーテンウオールを用いた超高層オフィスビルと異なり、タワーマンションでは鉄筋コンクリート造の構造躯体が直接外部に面し、タイルや塗装などの仕上げが施されている。

一度、大地震に見舞われると、層間変形角が大きいために構造躯体にクラックが発生し、仕上げ材料のタイルに剥落の危険が生じる。放置すればクラックから雨水が侵入して内部鉄筋が発錆し、構造躯体の寿命を著しく縮める。したがって、タワーマンションの場合には、樹脂系素材の自然劣化部分の補修だけでなく、構造躯体の改修も必須となる場合がある。

タワーマンションの外壁の改修では作業用足場の確保が大きな課題となる。中高層建築物とは異なり、作業用足場は写真1のようにガイドレールを取付けた昇降式足場や屋上から吊るされたゴンドラなどが必要になる。工事は天候に大きく左右され、突風や落下物などの危険や高額な仮設工事費がともなう。

写真1:外壁改修の昇降式足場(ゆめりあビュータワー2021年、著者撮影)

ここで、タワーマンションの外壁を詳しく見てみる。

表1のように、外周部の構造躯体、すなわち柱や梁とバルコニーとの位置関係から、外周部の 架構形式はインナーフレーム型とアウターフレーム型に大別される。

そしてアウターフレーム型では、構造躯体の外面まで住戸として専有面積を拡大するのが容易である。

表1:外周部の架構形式とバルコニーの配置(著者作成)

永井(2015)★1では、いくつかのモデルケースによるシミュレーションから、外周部の架構形式と外装の改修コストの関係が導かれている 。

これによれば、改修コストはインナーフレームよりもアウターフレームの方が高価であり、連続バルコニーよりも非連続バルコニーの方が高価となることが予想された。

連続バルコニーであっても住戸ごとに隔板で区画されているので、水平作業動線としての自由度は高くはないと考えられるが、バルコニーはガイドレールの取付けのほか、作業上の手掛かりや足掛かりスペースとして有利であり、アウターフレーム型に多いバルコニーのない平滑な壁面での作業はより困難になると評価されたのであろう。

タワーマンションの外観デザインの変遷

タワーマンションの外観デザインを概括すると、かつては写真2のように建物形態が複雑でシンボリックなものがみられたが、近年は写真3のように建物形態が単純になる一方で外壁の色彩が華美になっている傾向にある。

写真2:形態は複雑で外装色彩は単色(ザ・ガーデンタワーズ, 東京都江東区, 1997年竣工)(著者撮影)
写真3:形態は単純で外装色彩は複雑(パークタワーグランスカイ, 東京都品川区, 2010年竣工)(著者撮影)

著者は東京都中心部で2021年までに竣工した高さ100m超のタワーマンションのほぼ全てとなる168棟について、表2のように建物外形のセットバック状況を調べた。

ここでいうセットバックとは、基準階の平面形を上層部で小さくしたものである。賃料や分譲価格がより高価な上層部の床を削減することは、ディベロッパーにとって抵抗感があると思うが、セットバックは特徴あるスカイラインを創出するデザイン上の意図によるものが多いと考えられる。

それを裏付けるかのように、 隣地斜線制限を天空率緩和でクリアしたもの、隣接する公園への圧迫感低減に配慮してセットバックを行ったものは それぞれ1例みられるにとどまっている。

表2:都内で高さ100m超168例でのセットバックのパターン(著者作成)

図1でセットバック出現の状況の推移をみると、2005年以降に急激にセットバックが少なくなり、特に平面形を大きく切除する平面切除型のパターンはみられないようになった。

図1:セットバックのパターン別竣工棟数の推移(著者作成)

この背景には住棟全体の構造種別と構造架構方式の変化があると考えられる。

図2のように、2004年以降、構造種別はそれまでの鉄骨鉄筋コンクリート造からコスト的に安価な鉄筋コンクリート造に移行し、高強度コンクリートを使用して住戸内に柱のない架構方式が普及し始めた。

これは、官学民共同の研究開発プロジェクトであるNewRC総プロ★2の成果である。時期を合わせるかのようにセットバックが減少したのは、住戸平面計画の自由度向上を最優先した結果といえる。

図2:基準階の構造種別と架構形式の推移(著者作成)

その一方で、外壁、といっても柱と梁が主体となるが、その色彩構成をみると、表3のように単色から複雑なものまで多岐にわたる。

表3:都内で高さ100m超168例での主要立面の色彩構成パターン(著者作成)

セットバックが少なくなるのは2005年以降であったが、図3で時系列的にみると、色彩構成パターンが複雑化するのはそれよりも早く2000年辺りからとなっているが、それはなぜであろうか。

図3:主要立面の色彩構成パターン別竣工棟数の推移(著者作成)

商品価値向上のための外部デザイナーの起用と設計の分業化

第2回でタワーマンションのパンフレットやモデルルームのプレゼンテーションの華麗さに触れたが、ここでもう一度 タワーマンションのパンフレットを見てみよう。

外観デザイン、インテリアデザイン、ランドスケープデザイン、アートワークなどのデザイナーとして、国内外のデザイナーが顔写真とプロフィール入りで名を連ねている。そこで、 同じ調査対象の168棟について、外観デザインへの外部デザイナーの起用の状況を調べた。

図4のように、2001年以降は外観デザインを外部デザイナーに委託することが常態化し、近年は特にその傾向が強い。つまり、構造架構上の要因がセットバックの減少に現れる以前から、外観デザインを外部デザイナーに委託するようになっていた。

図4:立面デザインを外部デザイナーに委託した棟数の推移(著者作成)

インテリアデザインやランドスケープデザインのようにそれぞれの分野がある程度異なる場合はともかく、同じ建築設計の分野で外観デザインだけが切り離された設計の体制となっている。

タワーマンションの設計では、多くの場合がデザインビルド、すなわち設計施工による。タワーマンションは商品であり、エンドユーザーにとってクレームの要因が設計責任なのか、施工責任なのか、その境界線を引くことが難しいためである。

この場合、建築基準法や建築士法に規定された設計者とは巨大な施工組織の設計部門であり、設計者個人の顔が顕在化しにくい。むしろ設計者を匿名化することによって、外観デザインを手掛ける有名デザイナーを際立たせることができるのかも知れない。

都市計画に必要な手続きが与える影響

設計の分業化は外部デザイナーの起用だけではない。タワーマンションの多くは、総合設計、高度利用地区、地区計画の適用による容積率制限の緩和を受けていて、東京都内ではほぼ同数ずつの適用がみられる。

このうち高度利用地区と地区計画は都市計画決定が必要な手続きであるが、これらは法制度に熟知し交渉力に長けた設計者やプランナーでないと不可能な業務である。したがって、この業務、すなわち容積率制限緩和を勝ち取る業務も分業化されることが多い。

都市計画決定のためには、予定建築物の計画を具体的に示し、周辺環境への影響などを検証することが必要になる。ただ、実際の建築設計や工事着工はずっと先のことになり、設計者も異なることが多い。その場合には予定建築物の計画は暫定的なものとして当たり障りのない単純な建物形態としがちである。

ところが、都市計画決定段階で一旦決めた建物形態を変更することは、多岐にわたる変更の手続きが必要になるため、暫定的な建物形態のまま建築設計や工事着工などの次の段階に移行する。タワーマンションの建物形態が単純になってきた背景には、構造架構だけではなく手続き上の問題も内在する。

つまり、外観デザイン上の特徴創出は、セットバックがなくなって建物形態が単純化するのに対し、色彩構成を複雑にすることで補っている傾向がみられる。

皮肉なことに、 維持管理面だけを考えれば、建物形態が単純化することで改修工事の作業効率は良くなる。

次回の連載に向けて

タワーマンションの外観デザインが流行り廃りによって陳腐化したとされても、資産価値の低下には無関係であろう。デザインの巧拙は別問題で、外部デザイナーのプロフィールがパンフレットを飾り、購買意欲を促すことが重要なのである。実際問題として深刻なのは、外装の大規模改修に必要な高額な費用の負担に耐えられるかどうかである。

さて、タワーマンションの寿命について、建設実態、維持管理、コミュニティ、防災、都市景観の面から課題に触れてきたが、次回はどのように終焉を迎えるのか、再生は可能なのかなど、その将来を展望したい。

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★1:永井香織:超高層集合住宅の大規模修繕の現状と課題,月刊REFORM,2015年9月号, テツアドー出版,2015.9
★2: 1988年から1993年にかけての官学民共同の建設省総合プロジェクト「鉄筋コンクリート造建築物の超軽量・超高層化技術の開発」のことである。

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森本修弥
建築討論

もりもと・しゅうや/1959年東京都生まれ、東京工業大学大学院理工学研究科修了。日本国有鉄道を経て日本設計勤務。専門は高層・超高層住宅。博士(工学)。受賞歴に茨城県建築文化賞優秀賞(水戸プラザホテル)、グッドデザイン賞(釜石市上中島町災害復興公営住宅Ⅱ期)、都市住宅学会論文コンテスト博士論文部門優秀賞など。