Timber House Renovation through the Lens of Structural Engineering ── What Could be Brought about by the Repeated Hybridization?

AT editorial board
Aug 31, 2018 · 7 min read

目次

1.伊藤暁木造住宅ストックのマスと構造エンジニアリングの個別性

2.北茂紀生きている木造建築の構造改修 ── 住宅、文化財、産業化遺産、震災復興の場から

3.桝田洋子構造エンジニアが街場の木造住宅の改修現場で考えること

4.金田泰裕住宅改修の構造設計について、欧州との比較により考える


特集前言

はじめに
建物の改変や価値の向上を目的としたリノベーション、特に木造住宅のリノベーションは、既存材の撤去や新規材の付加がしやすいなどの理由で、構造エンジニアが深く関わって大がかりな構造改修がなされることが多い。一方で、改修における構造エンジニアの判断や改修された構造体そのものが着目される機会はきわめて少ない。

リノベーションの主対象となる築数十年の木造住宅のほとんどは、設計者や大工の経験にもとづいた知見と技術によってつくられたもので、現代のエンジニアがみると、長押や野地板など、構造材と下地材・造作材といった非構造材の区別をつけにくい。一方、現代の構造エンジニアは、新築でも改修でも工学的な視点と体系化された法令や技術基準に基づき詳細な設計を行う。構造計画では、構造性能のコントロールに主眼が置かれるため、構造材と非構造材が明確に区別される。

したがって、現代のエンジニアが木造住宅リノベーションの構造設計をおこない、既存の構造体に改修をほどこすことは、自身の工学的な視点と大きく異なる背景でつくられた既存建物に、建設当初とは異なる現代の工学による知見と技術を導入すること、すなわち、新旧の構造が「複合」する場である、という見方ができる。そして、建築主が新築や改築ではなく日常的にリノベーションを選ぶことになるかもしれない近い将来、こういった構造の複合の繰り返しが次々と起こるはずである。

本特集では、このような視点に立ち、構造体そのものを社会や都市の構成要素として考えた場合、「木造住宅リノベーションの繰り返しによってできる構造体はどのような性質を持ち、構造エンジニアリングの観点からどのような課題と可能性が生じるのか」について、実際に特徴的な木造住宅リノベーションに関わってきた建築家と構造エンジニアの方々に、事例をもとに論考していただいた。今までほとんど注目されることがなかった木造リノベーションの構造エンジニアリングと構造体そのものに光を当て、構造改修の考え方や方法、課題や可能性を共有することで、木造住宅リノベーションの発展に資する議論が喚起されることを期待する。

1.木造住宅ストックのマスと構造エンジニアリングの個別性
現在リノベーションの主対象となっている軸組構法は、構造改修しやすい汎用性と冗長性を兼ね備えているといえるだろう。とはいえ、元来備わっている特性と変容した状況を個別に把握するだけでも膨大な調査と検討が不可欠で、さらに改修を実現させるための構造設計には高度な技術と途方もない時間が必要となることは社会が共有しておかねばならない。一方、既存の木造住宅を仮に「都市のストック」と捉え、リノベーションをその活用手段であると考えた場合、個別の構造エンジニアリングではその量に対応できないことは容易に想像がつく。さらに近年の木造住宅は、構造体の汎用性が失われ、個別性が高まる一方である。では膨大な木造住宅のストックを活かし、安定したリノベーションを持続させていくために、現代の我々は何を考え、何をしなければならないのだろうか。新築、リノベーションにおいて、建設地の都市や地域の文脈を捉えて普遍的かつユニークな木造建築のプロジェクトの数々を実現させてきた伊藤暁氏に論考いただく。

2.生きている木造建築の構造改修 ── 住宅、文化財、近代化遺産、震災復興の場から
木造建築の構造改修の場として、木造住宅のリノベーション、文化財建造物の保存修理、震災復興の応急措置等があげられるが、置かれている背景や果たすべき目的が異なるため、構造改修に対する考え方や使用される技術は別のものとして考えられがちである。だが、両者に通底している課題や可能性を共有することで、互いに考え方や技術を応用できることがあるはずである。また、古い木造建築の構造エンジニアリングでつねに課題になるのが力学モデルへの置換における構造体と非構造体の仕分けでである。古い木造建築ほどモデル化の過程で多くの要素が切り捨てられやすいが、そのなかにも性能に影響を与える要素があるかを常に考える姿勢は重要である。以上を踏まえ、各木造建築の構造改修における現況や課題と可能性について、文化財保存修理、近代化産業遺産の保存活用に伴う構造診断・補強設計から耐震シェルターの開発まで幅広い活動を行っている北茂紀氏に論考いただく。

3.構造エンジニアが街場の木造住宅の改修現場で考えること
改修における構造設計において計画のストーリーを構築していくことは新築のそれと同じく重要であるが、自身が設計に関与していない構造体そのものが計画の絶対的な条件となる点が改修の大きな特徴である。このため構造エンジニアは改修現場でオリジナルの構造体の特性とその後の経年変化を第一に把握しようとする。オリジナルの構造体が後世の改修に対する大きな制約と可能性になることは容易に想像できるが、前世代の改修内容が次世代に与える影響も計り知れない。また、リノベーションを計画する木造住宅のほとんどは相続遺産であるため、長年住み続けた所有者の愛着と経済的事情の葛藤は、構造エンジニアの大きな拠りどころとなる。多様な条件をもった木造住宅の改修現場での経験から、改修の構造計画におけるストーリーの重要性と、所有者への深い洞察に基づく判断によって改修される構造体について、伝統的構法から在来工法の新築や改修のプロジェクトを数多く実現させるとともに、多様で先進的な構造デザインを手がける桝田洋子氏に論考いただく。

4.住宅改修の構造設計について、欧州との比較により考える
日本とヨーロッパの住宅における構造体の相違から、リノベーションに対する考え方と技術も異なっている。ヨーロッパの住宅が何世代にも渡って構造体が改修され続け、総じて住宅の耐用年数が長く成しえたのは、構造体と改修に対する考え方によるところが大きいであろう。では、日本と大きく異なったヨーロッパのリノベーションに対する考え方と技術を理解し、応用や組み合わせによって日本のリノベーションに活かせることはないだろうか。たとえば、木造住宅を新築する際に、構造体として固定部分と変動部分を盛り込むようなフィードバックも考えられる。日本とヨーロッパにおける住宅の構造体や改修に対する考え方と技術の違い、それらを融合させた改修、これからの提言などについて、香港を拠点にフランスや日本など世界的に活動する構造エンジニアである金田泰裕氏に世界的な視野で論考いただく。

山田憲明(建築討論委員会/山田憲明構造設計事務所)

豊崎長屋(改修設計:大阪市立大学 竹原・小池研究室、構造設計:桃李舎、2008年竣工/写真: John Barr)

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建築討論委員会(けんちくとうろん・いいんかい)/『建築討論』誌の編者・著者として時々登場します。また本サイトにインポートされた過去記事(no.007〜014, 2016-2017)は便宜上本委員会が投稿した形をとり、実際の著者名は各記事のサブタイトル欄等に明記しました。

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