032 | 201906 | 特集 :木造建築のサークル・オブセッションズを超えて

Beyond Circle Obsessions on Timber Architecture

KT editorial board
May 31 · 5 min read

⽬次

  1. 春日亀裕康+小見山陽介|木造建築をめぐる環状ダイアグラムの収集
  2. 松本直之 |戦前の木材生産と利用の展開|勃興期諸産業の競合から材料の転換へ
  3. 角倉英明|思い思いのキ・ヅカイが織りなす地域の木造住宅生産
  4. 後藤豊|環の解像度を上げることで見えてくる課題|ヨーロッパにおける循環型経済と建築の関係
  5. 青島啓太|東南アジアのいびつな木材マテリアル・フローと建築家たちの試行

特集趣旨

2016年から2018年にかけていくつかの媒体で連載・特集記事に携わり、世界の木造建築動向を取材する機会を得た[1]。そうしたなかで、世界各地において状況は違えども、木造建築プロジェクトのスローガンとして提示されるダイアグラムの多くが「円環状」であることに気が付いた[2]

環状のダイアグラムは、建設分野からの持続可能な循環型社会への寄与を示す。しかしこの単純化された図式は、わかりやすさと引き換えに木造建築をめぐる物語を単一化しているようにも思える。ともすると建築プロジェクトの免罪符であると同時に木造建築の在り方を自縄自縛してはいないか。この「サークル・オブセッションズ(閉じた環への強迫観念)」とも呼べる世界的現象の背景とオルタナティブの可能性を、木造建築をめぐるマテリアル・フローから検証したい。いま目の前にある曖昧な「正しさ」への依拠を超え、前提条件の変化にも耐えうる真に多様性ある木造建築の在り方を求めて。

本特集の構成

本特集は、問題提起を兼ねた研究記事と、4本の寄稿記事からなる。

1. 研究記事

木造建築をめぐる環状ダイアグラムの収集では、世界各国の木造建築プロジェクトにおける環状ダイアグラム(サークル・オブセッションズ)を収集し、分類を試みた。本研究の途中経過は日本建築学会にて行われた「地球環境委員会「地球の声」デザイン小委員会展@建築会館(2019年4/14–21)においても展示された。

2. 寄稿:日本の状況:戦前〜戦中まで

松本直之(東京大学)は、災害対応や性能要求の視点から、日本近代木造建築の構法変遷研究に携わる研究者である。戦前の木材生産と利用の展開|勃興期諸産業の競合から材料の転換へでは、戦前〜戦中までの近代日本における木のマテリアル・フローに関する意識と変遷を寄稿いただいた。 木材利用の産業的な多様化や、木材の生産体制の変化が建築にもたらした影響。限られた木材資源を燃材と用材が分け合い、さらに用材の中でも他産業と建築が競合するという、森が飽和した現代とは異なる状況下でのマテリアル・フローを描いている。

3. 寄稿:日本の状況:戦後〜現在

角倉英明(広島大学)は、小規模生産における建築構法の地域性や、地域の住宅生産の組織・システムの再編手法の研究に携わる研究者である。思い思いのキ・ヅカイが織りなす地域の木造住宅生産では、地域の工務店が差別化のために取り入れた多様な資源へのアクセスや施主を巻き込んだ生産方式が、結果として小規模住宅生産者が持つ資源統合機能を生み出すに至った背景を実態ベースで寄稿いただいた。工務店という組織・営みを、森林との多様な関係の中で生態系の生き物のようにとらえる視点を提示している。

4. 寄稿:欧州の状況

後藤豊(チャルマーズ工科大学、Timber Hub)は、東京大学木質材料学研究室を修了後、スウェーデンを拠点に木材のバリュー・チェーンの研究に携わる研究者である。環の解像度を上げることで見えてくる課題|ヨーロッパにおける循環型経済と建築の関係では、研究者さえ魔法の言葉のように唱える「循環型」に対して、欧州における木材マテリアル・フローの実態をルポいただいた。現在のまま木材利用が進むと2030年に需要が供給を上回る…と予測した研究報告「EUウッド(2010)」を受け、欧州各国で進められている「解体可能デザイン」の動向にも触れている。

5. 寄稿:東南アジアの状況

青島啓太(芝浦工業大学、bask design)は、「Green, Green and Tropical 木質時代の東南アジア建築展」(2019、建築倉庫)をキュレーションした研究者/建築家である。東南アジアのいびつな木材マテリアル・フローと建築家たちの試行では、東南アジアの「木だけでは完結できない」逼迫したマテリアル・フローをルポいただいた。 木質時代とも呼べる現代にありながら、「森林面積の減少」と「多様性の保全」といった東南アジア諸国が抱える深刻な課題に対して、建築家や研究者が担う責任と試行の広がりをとらえている。

小見山陽介(建築討論委員会/京都大学)

「Tanah Teduh #4」 ラバーウッドと再利用材料のウリン,設計:アディ・プルノモ

[1] 小見山陽介ほか「CLTの12断面」(『新建築』連載2017年1月〜2018年2月)、小見山陽介ほか「「造」と「材」 木造/木材のあわいを剖く」(『建築討論』2018年1月号特集)、小見山陽介「世界の動向【環境・木造・森林】」(seinweb連載2018年6月〜2019年1月)、小見山陽介ほか「木造建築の正しさと、その危うさ」(『建築雑誌』2018年10月号第1特集)

[2] 小見山陽介「世界の動向【環境・木造・森林】」(「木の国際化 Glocal Timber Studies」所収、2019年4月)

建築討論

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建築討論委員会(けんちくとうろん・いいんかい)/『建築討論』誌の編者・著者として時々登場します。また本サイトにインポートされた過去記事(no.007〜014, 2016-2017)は便宜上本委員会が投稿した形をとり、実際の著者名は各記事のサブタイトル欄等に明記しました。

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