044|202006|特集:建築批評 第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示《ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡》

建築作品小委員会
建築討論
Published in
4 min readMay 31, 2020

Architectural Review : the Japan Pavilion Team for the Venice Biennale International Architecture Exhibition “ CO-OWNERSHIP OF ACTION : TRAJECTORIES OF ELEMENTS ”

目次

1. インタビュー|コロナ禍からの展開 ─── ビエンナーレ日本館チーム再始動へ《前編》 *5月19日先行公開

2. インタビュー|解体と移動の射程 ―ビエンナーレ日本館チーム再始動へ《後編》

3. 資料|動き続けること−展示制作プロセス|岩瀬諒子

前言

本特集では、第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示《ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」を取り上げる。日本館展示のメンバーは、キュレーターの門脇耕三氏、出展作家の長坂常氏、岩瀬諒子氏、木内俊克氏、砂山太一氏、元木大輔氏、デザイナーの長嶋りかこ氏、施工者の福元成武氏、リサーチャーの青柳憲昌氏、樋渡彩氏、松本直之氏、牧野徹氏、編集者の飯尾次郎氏、アドバイザーの太田佳代子氏で構成されている。

展示の主題は「マテリアルの移動」である。これは門脇邸(キュレーターの自宅)の向かいに建っていた木造住宅《高見澤邸》が偶然にも建て替えられることをきっかけに、そこで解体された部材を綿密に分析し、ヴェネチアに輸送し、現地で組み立てるというマテリアルの移動と再構成のプロジェクトである。建築構法や建築理論を専門とする門脇氏、マテリアルへの新鮮な眼差しでリノベーション等の仕事を手がける長坂氏と元木氏、土木と建築の両分野で活動を行う岩瀬氏、デジタルデザインに基づいた理論と実践を展開する木内氏と砂山氏、グラフィックデザインを手がける長嶋氏、建築施工のTANKを率いる福元氏といった様々な専門分野のメンバーがマテリアルに対して多角的に迫っている。

ここで過去のヴェネチアビエンナーレを振り返ってみたい。1996年の日本館展示「亀裂」において阪神・淡路大震災の瓦礫が移送された。2014年のレム・コールハースが総合ディレクターを務めた「ファンダメンタルズ」において、建築家の作品ではなく建築エレメントが収集された。こうしたエレメントやマテリアルの移動というテーマは過去のビエンナーレとの参照関係を持ちながらも、日本建築の現代史をマテリアルの側面から捉えられている点が本展示の特徴である。それは《高見澤邸》というひとつの住宅の来歴を綿密に調べることで、戦後の経済成長期に広がった産業的圏域を浮かび上がらせるというネットワーク的な思考から生まれたものである。

特集を企画し始めた2020年1月時点では、5月に開催される予定だったビエンナーレのオープニングに特集メンバーが訪れてインタビューを実施する予定だった。しかしコロナウイルスの感染拡大に伴い、一度オープニングが2020年8月に延期され、その後2021年に延期が決定された。コロナウイルスの世界的な感染拡大はグローバルな移動にも起因しており、日本館の「マテリアルの移動」のテーマとも図らずも関連している。そしてヴェネチアという場所はペストなどの感染症に悩まされた交易都市である。こうしたコロナウイルスの感染拡大の状況において、プロジェクトの実現に向けて模索するプロセス自体も展示制作の一部であるといえるだろう。

そこで本特集では、ヴェネチアビエンナーレ日本館展示のメンバーへのロングインタビュー、およびゲスト編集として迎えた岩瀬氏による論考から、日本館展示の制作プロセスを紐解いていきたい。

特集担当:能作文徳(建築作品小委員会)

©門脇 耕三

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建築作品小委員会では、1980年生まれ以降の建築家・研究者によって、具体的な建築物を対象にして、現在における問題意識から多角的に建築「作品」の意義を問うことを試みる。