榊原充大
Feb 15, 2018 · 25 min read

[From Foreign Editors 02]

Diego Grass

世界各地、オンラインオフライン問わず、メディア実践を行う編集者にその国のメディア状況について聞く企画「From Foreign Editors」。第2回目はチリを拠点に活動を行うディエゴ・グラスさんにメールアンケートを行いました。

チリの建築デザイン事務所Plan Comúnの創設メンバーであり、現在でもチリ在住の仏人建築家トマ・バチェンシュラーガー【「Batzenschlager」読み方がよくわからないので詳しい方教えてください】との共同で建築プロジェクトを進めつつ、他方で「Audiovisual Archive for Institutions」をうたう映像メディアのプラットフォーム『OnArchitecture』の機関や施設への販売をおこなう建築家&映像作家です。『OnArchitecture』が提供するラインナップには建築作品の映像や建築家へのインタビュー映像などあり、また日本の建築もとりあげられています(が、登録制です)。同じチリ発の建築ウェブメディアである『ArchDaily』との対比から自国のメディア状況を説明し、また自身の実践を語ってくれています。

OnArchitecture

Q1:あなたのメディア実践はどのように始まりましたか?

A1:私とパートナーのフェリペ・デ・フェラーリはチリはサンティアゴにあるPUC【註:Pontificia Universidad Católica de Chile】の学生でした。当時2006年頃といえばYouTubeの始まる前の年で、建築家として何か言うことは — — それがなんであれ — — 実際よい機会でした。というのも私たちはその時明確な立場を持っていなかったからです。当時私たちが使っていたコードネームは「0300TV」で、それに意味は全くありませんでした。その時は無料で映像を公開していて、世界中の建築ウェブサイト — — 日本だとarchitecturephoto.netdezain.net — — で流通していました。最初私たちの映像はとてもゲリラ的で、建築写真の洗練された基準に疑義を呈そうとしていました(それはイワン・バーンが世にでる前までは正しかったと思います)。

4年が経ち、100本の映像がたまり、建築学校を卒業した私たちも生計を立てる必要がありました。そこで基本的には3つの選択肢があったと思います。a)私たちよりもちょっと年上で同じチリ発のメディアである『ArchDaily』に吸収される。b)公開型のウェブサイトをつくって彼らに勝つ。c)ペイ・パー・ビュー方式のサイトをつくる。最後の選択肢はそれほど明白なものではなかったのですが、いろいろ考えると一番妥当な選択かと感じていました。

そういうことで『OnArchitecture』というサイトをスタートしました。ビジネスモデルは映像一覧全部を世界中の建築学校に販売する、というものです。そうすることで私たちの編集に関する独立性が保たれますし、毎日投稿するタイプのウェブサイトよりも落ち着いたペースでできますし、コントロールが効きやすい。今では『OnArchitecture』に登録する機関が世界で100を超え、2018年の終わりには映像一覧に入る私やフェリペが撮影した映像も500に到達しそうです。

Q2:自国の出版状況について教えてください。

A2:一概にいってチリにおいて出版はとても小さなマーケットです。書籍への課税が重いのでどうしても本が高くなってしまうのです。

10年以上続く建築雑誌は、私が学び、いま教えている学校PUCがベースになっている『ARQ』だけです。1990年代後期から2000年代前半にかけてチリでもっとも目立っていた建築家のキャリアをスタートさせる手助けにはなったものの、いまでは学術ジャーナルに近いものになっています。その編集チーム「Ediciones ARQ」がいま興味深い小本のシリーズを刊行しています。『ARQ Docs』という名前です。2014年に始まってからとても好調です。でもそれをのぞいては建築関連のチリの出版シーンはとても弱く、日本に比べて小さいと言わざるを得ないです。

『ArchDaily』や(そのスペイン語サイトである)『Plataforma Arquitectura』は局地的にとても強い。彼らが5年前に持っていた勢いは失っていますが、今なおとても影響力が高い。彼らが受けている主要な批判は、商業主義すぎるということでしょう、私もそれは同意します。そして彼らがすべてのトピックに関して意図的に弱い立場を取っているがためにチリや海外での建築の一般的な議論に寄与していない、ということです。

Q3:自国の建築・都市に関する批評をどのようにとらえていますか?

A3:チリの建築批評の権威となるような人物として、例えばフェルナンド・ペレス(アラヴェナの師匠)※1 、アルベルト・サト※2 、そしてホラシオ・トレント※3 がいますが、彼らのほとんどは1990年代に現在的な議論をなしていました。現在ではフランシスコ・ディアス※4 のような人物が台頭していますが、全体の雰囲気として建築批評に関してさほどの関心がないような状況のなかで、いまだ前の世代がかなり支配的だと思います。

都市批評も完全にパラレルな状況だといえるでしょう。そして巨大産業(建設、不動産、木材セメント企業などなど)の圧力に汚されているので、さほど面白くなく討論の場として豊かではありません。左翼だったりバイシクル・アクティヴィズムに近い新たな批評家グループもいますが、立場的に主流のロビイストたちからあまりにも距離があり偏向しているために、それら2つのグループの間で生産的なシーンが生まれているようには思えません。

※1:Fernando Pérez Oyarzún:1950年チリ、サンティアゴ生まれ。1977年チリのPUCで建築学学士取得。1987年から1990年までPUC建築学校ディレクター。1990年から2000年まで、建築・ファインアート学部の学部長。現在では19世紀から現在までのチリ建築の包括的な要約書の第3巻と第4巻を完成させた。

※2:Alberto Sato Kotani:1943年アルゼンチン、ブエノス・アイレス生まれ。1972年ラプラタ大学で建築学士取得、1996年ベネズエラ中央大学で建築修士取得。アルゼンチンのラプラタ大学やベズエラ中央大学、チリのPUCなどの大学で教授や学部長の職につき、近代建築やインダストリアルデザインの分野で集中的なリサーチや執筆を行っている。

※3:Horacio Torrent:1959年アルゼンチン、ペルガミーノ生まれ。1985年アルゼンチンのロサリオ国立大学で建築学士取得、2001年チリのPUCで建築修士取得。2007年アルゼンチンのロサリオ国立大学で建築博士取得。チリのPUCの建築・デザイン・アーバンスタディーズ学部教授。南米の近代建築や南米における同時代の建築家の仕事について多くの著作を書いている。

※4:Francisco Díaz:1980年チリ、クリコ生まれ。2006年PUCにて建築学修士を取得。2013年コロンビア大学GSAPPで批評・キュレーション・コンセプチュアルプラクティスを学び、現在ではPUCで教え、Ediciones ARQの編集長をつとめている。

Q4:自国で興味深い批評を行っている人について教えてください。

A4:チリでは私が称賛するような特定の批評家はいません。割とありきたりな立場を取る人が多いのです。

海外に目を向けると、政治的合意形成に挑戦する建築的思想家を、たとえ彼らのアイデアには賛同できないとしても、多くフォローしています。アーロン・ベッキー※1 やパトリック・シューマッハー※2 のような人物たちは読み手に見解を示させるでしょうし、より広い心理的枠組みをもってそこに関わるよう投げかけます。それは、建築に限らず政治や他の分野においても全てが段々と偏向しているこの時代に、私たちが本当に必要とするものだと思います。

※1:Aaron Betsky:1958年生まれの建築・デザイン批評家。20世紀の建築家に関する多くのモノグラフを著している。2008年ベネチアビエンナーレ国際建築展の総合ディレクター。

※2:Patrick Scumacher:ザハ・ハディド事務所を代表亡き後に引き継いだ建築家。現職に就く以前から建築やデザインに関する理論家としても知られ、「パラメトリシズム」を提唱する。

Q5:今後どのような展開を考えていますか?

A5:私のメディア実践は私にとって、世界中で建築家がなしていることにコンスタントに関わる手段なのです。そうすることで現在、トマ・バチェンシュラーガーと協力して私がデザインしている建築プロジェクトが育まれているように思います。それが原動力ですね。

私にはこれといった長期的なプランはありません。それはさておき、現在では販売は情報産業におけるビッグ・プレイヤー(私たちのディストリビューターであるEBSCO※1 )に任せており、それが『OnArchitecture』の編集的・オーディオヴィジュアル的な質に集中するためのさらなる余裕を確保してくれるのです。

※1:EBSCO:1944年創立のアメリカに本社を置く、図書館・政府・企業・病院などへの情報提供サービスを行う会社。EBSCO傘下のEBSCO Information Services 社は、あらゆる分野にわたる300種類以上のデータベースを制作・販売している。

Q6:(もしあれば)おすすめのメディアを教えてください。

A6:私が知っている最高の建築関連のタンブラーのひとつ、『OfHouses』が本当に好きでリスペクトしています。いくつかのシリーズは外部エディターがキューレーションしていますが、ほとんどの記事は編集長であるダニエル・チューダー・マンテアーヌがつくっています。

このタンブラーの背景にあるのは『ArchDaily』のような主流のサイトのより商業的アプローチに対する強い反応であり、若い実践のなかには、ファラ・アトリエのように、自身のデザインのこうした態度を利用するところもあります。


ディエゴ・グラス
1983年生。チリの建築家&映像作家。PUC建築プログラム修士過程助教(チリ、サンティアゴ)。2006年に設立された、500以上のオリジナルレコードを持つ建築映像データベース『OnArchitecture』共同ディレクター。Plan Común共同創設者。2016年より建築プロジェクトではトマ・バチェンシュラーガーと協働。


【おまけ】

ディエゴさんに「A3」で挙げられた人たちについてのリファレンスを訪ねてみたところ、以下の応答をもらいました。

Fernando Perez has a lot written in English. For instance, the introduction to the last Arquitectura Viva on Pezo von Ellrichshausen has a text by him. http://www.arquitecturaviva.com/en/Shop/issue/details/452

That is very recent. There is also a small book on his writings published in 2014, but it is out of print (lot of demand!).

Just so youunderstamd him better, he is a protegee of Rafael Moneo, whom he still admires and references a lot.

As for Sato, here you can find a collection of his writings in english: https://edicionesarq.bootic.net/products/alberto-sato-kotani-cara-sello

Here is also an essay by him: https://www.japlusu.com/shop/product/au-200607

And here: https://www.bookdepository.com/2G-44-Smiljan-Radic-Alberto-Sato/9788425222023

Horacio Torrent has not only written about Chilean architecture but also about Argentinean, Uruguayan, Paraguayan, Brazilian, etc.

He is argentinean -so is Alberto Sato- so he has a broader scope in that sense.

Here is one book you might find with his texts: https://www.amazon.com/Mathias-Portfolio-Horacio-Piovano-Alberto/dp/8425217202/ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1518091100&sr=8-2&keywords=horacio+torrent&dpID=41K5TXPEB6L&preST=_SX218_BO1,204,203,200_QL40_&dpSrc=srch

This one is similar: https://www.abebooks.com/servlet/BookDetailsPL?bi=22550510015&searchurl=ds%3D20%26sortby%3D17%26kn%3Dhoracio%2Btorrent&cm_sp=snippet-_-srp2-_-title12

And this: https://www.abebooks.com/servlet/BookDetailsPL?bi=21367145280&searchurl=kn%3Dhoracio%2Btorrent%26sortby%3D17%26ds%3D20&cm_sp=snippet-_-srp1-_-title19

And this one: https://www.abebooks.com/servlet/BookDetailsPL?bi=11736648763&searchurl=ds%3D20%26sortby%3D17%26kn%3Dhoracio%2Btorrent&cm_sp=snippet-_-srp2-_-title7


: How did your media practice begin?

My and my partner Felipe de Ferrari were students around 2006 at PUC -Santiago, Chile-. The year before YouTube started and it was a good opportunity to say something as architects -anything, actually, since we did not had a clear position back then. Our codename back then was “”0300TV””, which has no meaning at all.

Our vídeos were free back then and they were widely published in architecture websites all over the world like archotecturephoto.net or dezain.net in Japan. At the beggining our videos were very guerrilla-like, challenging the polished standard of architecture photography (this was right before Iwan Baan got visible).

After 4 years we had like 100 videos and had to make a living after finishing architecture school. We had basically 3 options: (a) we either got absorbed by ArchDaily -they were a bit older than us and also Chilean-, (b) compete with them with an open website or © make a pay-per-view site. Last option seemed less obvious and we felt it was the right choice because of that very reason.

That is how we started OnArchitecture (onarchitecture.com), whose business model is based on selling our entire catalogue to architectural schools worldwide. It gave us more editorial independence, a slower pace than a day-to-day-posting website and more control. Right nos we have more than 100 institutions worldwide subscribed to OnArchitecture and we will reach 500 videos in our catalogue by the end of 2018 -all of them filmed by me and Felipe.

: Please share with us the current state of practice in architectural and urban publishing in your country.

Publishing at large is a very small market in Chile. Tax on books is heavy, so they are expensive.

The only on-going architecture magazine with more than a decade is ARQ, based in PUC -the school I studied and now teach in. It helped launch the career of some of the most visible archotects from my country in the late 1990’s and early 2000’s but now is more like an academic journal. There is an interesting new series of small books from their editorial house (Ediciones ARQ) -named ARQ Docs- which has been very successful since it started in 2014. But besides that, I would say our publishing scene in architecture is very weak and small compared to Japan.

ArchDaily and Plataforma Arquitectura (their spanish website) are very powerful locally. They lost some of the momentum they had 5 years ago, but still very influential. The main criticism they get though is that they are too commercial oriented -I agree on that- and that they do not contribute to the general debate of architecture in Chile and abroad due to their deliberately weak position on all topics.

: What is your opinion of architecture and urban criticism as a practice in your country? “Diego Grass (OnArchitecture):

We have some very strong figures of authority in architectural criticism here -most of them were already relevant in the 1990's- like Fernando Pérez (Aravena’s mentor), Alberto Sato and Horacio Torrent. There are emerging figures such as Francisco Díaz, but still it is very much dominantes by them in a scene that does not really much care about architectural criticism.

Urban criticism runs on a conpletely parallel track, and It is much more contaminated by big industry’s lobby (construction, real estate, wood, cement company, etc.), so It is not so interesting and fertile as a debate. There is a group of new critics closer to the left and bicycle activism, but their position is so distant and polarized from mainstream lobbyists that there is not so much happening in a productive sense between these two groups.


Fernando Pérez Oyarzún (1950, Santiago, Chile) B.Arch PUC (1977, Chile), Ph.D ETSAB UPC (1981, under the guidance of Rafael Moneo). Director of PUC School of Architecture between 1987 and 1990. Dean of the Faculty of Architecture and Fine Arts from 1990 to 2000. He is currently completing the third and fourth volume of a comprehensive recap of Chilean Architecture since the late XIX century up until today.

Alberto Sato Kotani (1943, Buenos Aires, Argentina) B.Arch Universidad de La Plata (1972, Argentina), M.Arch Universidad Central de Venezuela (1996). With a long-span career first in Caracas, Venezuela and then in Santiago, Chile, he has done extensive research and writing on the fields of modern architecture and industrial design, serving as professor and Dean in institutions such as Universidad de La Plata (Argentina), Universidad Central de Venezuela, Universidad Andrés Bello, Universidad Diego Portales and PUC (Chile).

Horacio Torrent (1959, Pergamino, Argentina) B.Arch Universidad Nacional de Rosario (1985, Argentina), M.Arch PUC (2001, Chile), Ph.D Universidad Nacional de Rosario (2007, Argentina). Professor at the School of Architecture of the Faculty of Architecture, Design and Urban Studies of PUC (Chile). Has written extensively on South American Modern Architecture and also on the production of contemporary architects in the region.

Francisco Díaz (1980, Curico, Chile) B.Arc and M.Arch at PUC (2006, Chile) and and Master in Critical, Curatorial and Conceptual Practices at the Graduate School of Architecture, Planning and Preservation, Columbia University (2013, U.S.A.). He currently teaches at the School of Architecture at PUC (Chile) and he is the Editor in Chief at Ediciones ARQ -the in-house editorial house of that same institution.”

: Who do you think is the most interesting architectural or urban critic. And why?

In Chile I do not have a particular critic I would admire. Some of their positions are a bit too predictable.

Abroad, I follow a lot those architectural thinkers who challenge the political concensus, even if I do not like their ideas. People like Aaron Betsky or Patrick Scumacher force you to take a position and demand you to engage them with a broader frame of mind, something we really need in these times in which everything is increasingly polarized -not only in architecture but also in politics and other fields.

: What is your vision for the future in terms of your media practice?

My media practice is for me a way of being constantly engaged with what architects are doing all over the world. Ir nurtures the architecture projects I design today in association with Thomas Batzenschlager. That is what keeps me going.

I do not have a particular long term plan, other than nowadays my sales are handled by a big player in Information Industry (EBSCO, our distributor) and that leaves me much more room to focus on the editorial and audiovisual quality of OnArchitecture.

: If you have, please share with us any online or real media of your recommendation.

I really like and respect OfHouses (http://ofhouses.tumblr.com/) which is one of the best architecture Tumblrs I know. Some series are curated by externalizar editors but most of them are organized by the chief editor, Daniel Tudor Munteanu.

This scene of tumblrs is a Strong reaction to the more commercial approach of mainstream sites like ArchDaily, and some young practices have embraced this attitude ok their own designs, like Fala Atelier.


Diego Grass (1983-) Chilean architect & filmmaker.
Assistant Professor at PUC Master in Architecture Program (Santiago, Chile).
Co-director of OnArchitecture (www.onarchitecture.com), architecture video database established in 2006, with +500 original records.
Co-founder of Plan Común (www.plancomun.com). Since 2016 collaborates in architectural projects with Thomas Batzenschlager.

建築討論

建築をめぐる幅広い批評的議論のプラットフォームを提供する日本建築学会のウェブマガジンです。

榊原充大

Written by

さかきばら・みつひろ/建築家、リサーチャー。1984年愛知県生まれ。2007年神戸大学文学部人文学科芸術学専修卒業。建築や都市に関する調査・取材・執筆、提案、ディレクションなど、編集を軸にした事業を行う。2008年建築リサーチ組織RADを共同で開始。

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