DIYの現在地

072│2024.01–03│季間テーマ:生きつづける建築への道

溝尻真也
建築討論
Feb 23, 2024

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2024年1月から3月にかけては「生きつづける建築への道 — 使い手の関わりが生み出す愛着と許容」をテーマに記事を掲載する。テーマ解説はこちら。

近現代におけるDIY

DIY (Do It Yourself)は、住まい手が自分の手で自身の住まいを維持・補修したり、日用品を製作したりする行為を指す。歴史を遡れば、このような行為は日本でも戦前から提唱されていた。たとえば家具デザイナーで木工教育者の木檜恕一(1881-1943)は、欧米の人びとが自分で住まいの補修や日用品の製作を行なっている姿に感銘を受け、この行為を家庭工作と呼んで日本での普及を図った。良妻賢母思想が広がりつつあった大正~昭和初期の日本では、家庭を維持管理するのは女性の役割とされたため、木檜は当時始まったばかりのラジオを通して主婦向けの家庭工作番組を放送したり、女性読者に向けた一般書で家庭工作の意義を説いたりと、さまざまなメディアを使った普及啓蒙活動を展開した。

戦後も家庭工作という言葉は使われ続けたが、1950年代に入ると日曜大工という言葉も使われ始めるようになる。当初は夫婦や家族で協働して行なう手づくりというイメージで語られることも多かった日曜大工だが、その後次第に男性的な行為として位置づけられ、1970年代には「お父さんの趣味」として流行現象になった。

1969 年に一般会員の募集を始めた愛好者団体である日本日曜大工クラブは、1976年までに公称4万人を超える会員を獲得するに至ったが、その9割以上は男性だったと推察される★1。週末には家族みんなでレジャーやショッピングに出かける余暇の過ごし方が定着する一方で、日曜大工は夫や父が家庭内でその男性性=Domestic Masculinity★2を発揮する場になっていった。1970年代後半になると郊外型大規模ホームセンターの出店も始まり、「お父さんの趣味」としての日曜大工は本格的に拡大していくことになる★3。

DIYの現状とその担い手

しかしながら、現在のDIYは必ずしも「お父さんの趣味」とは呼べない営みになっている。特に2000年代以降になると、100均DIYなど身近で手軽な手づくりとしてのDIYが再認識されるとともに、男性のみならず女性の行為者も多様なメディアを通して可視化されるようになった。

2022年1月、筆者らは日本に在住する15~79歳を対象としたWeb調査を実施し、992名から有効回答を得た★4。その結果、現在DIYに関心を持っている人の割合は55.9%で、性別による差は見られなかった。またこれまでにDIYをおこなったことがある人の割合は男性の方が高かったが、女性でも41.2%が経験ありと回答していた(表1)。

表1 :DIYへの関心と経験の有無

さらに過去1年間で1回以上DIYをおこなった人の割合(参加率)は、女性27.4%、男性41.5%であった。同じ年の『レジャー白書』に掲載された女性の日曜大工参加率が3.0%だったことを考えると、やはり日曜大工とDIY、それぞれの言葉が持つジェンダーイメージに大きな差が生まれていることが窺える(表2)。

表2: 1年間に1日以上DIY/日曜大工をおこなった人の割合

なお、過去1年間で1回以上DIYをおこなった人の世代別/性別ごとの分布を見ると、女性は全世代で3割前後が参加しており、世代による差は見られなかった。一方男性は40代以上で4~5割程度が参加しており、中高年層の方がよりDIYに参加している傾向が見られた(図1)。

図1 :性別/世代別のDIY参加率

DIY行為者の動機

では、現在のDIY行為者はどのような動機でDIYに取り組んでいるのだろうか。過去1年間で1回以上DIYをおこなった回答者に対し、ふだんどのような理由でDIYをおこなっているのかを聞いた結果を一部抜粋したのが、表3である。

表3 :DIYに参加する動機 (n=340, p<.01**, p<.05*, ☨<.10)

DIYに参加する動機として最も多く挙げられたのは「作業やものづくり自体が楽しいから」で、性別を問わず半数近くがこの項目を選んでいた。本連載のテーマとも関連する「作ったものや直したものに愛着がわくから」は全体の29.1%が回答していた。

性別による違いを見ると、女性は男性に較べてインテリアへの関心からDIYをおこなう傾向が見られた。実際、これまでにどのような内容のDIYをおこなったことがあるかを質問したところ「壁紙を張り替える」「内壁を塗り替える」というインテリア改善に関する2項目のみ、女性の方が男性よりも経験者が多かった。一方、男性は女性に較べて実利的な動機でDIYをおこなう傾向が見られた。

これからのDIY

以上本論では、現在のDIY行為者がどのような属性の持ち主で、またどのような動機でDIYに取り組んでいるかをごく簡単に概観した。ものづくりの楽しさがDIYの動機になっている傾向は家庭工作や日曜大工の時代から連続していると推察されるが、一方で参加者の属性にはやはり大きな変化が生じていると考えられるだろう。

最後に、このような変化が起きた背景として考えられることを2点挙げておきたい。1点目は女性を中心としたハンドメイド文化の盛り上がりである。

2020年11月、フィギュアスケートNHK杯で女子シングル初優勝を果たした坂本花織選手は、試合後のインタビューで今後の目標を聞かれ「DIYを極める」と答えた。驚く男性インタビュアーに、坂本選手は続けて「折り紙とか女の子っぽいものをずっと作ってたんですけど、木工とかしてみたくて」と語った。かつて手芸と呼ばれていた、女性を中心とした手づくり趣味=ハンドメイドの延長線上にDIYが位置づけられている現状を象徴する語りといえるだろう。実際に筆者らの調査でも、これまでにDIYを行なった経験がある女性の92.6%が、ハンドメイドも経験していた。

ただし2000年代以降のハンドメイドは、かつての手芸が纏っていた「お母さんが家族のためにおこなう手づくり」というイメージから脱却し、不特定多数に向けて自身の作品を発表する場になっており、その作品を売買する市場も拡大している★9。こうしたハンドメイドの文化とDIYが融合したとき、DIYは新たな領域に突入するのかも知れない。

2つ目はSNSやWebメディアの存在が挙げられる。Instagramを開いて「#DIY女子」で検索すると約60万件の投稿がヒットし(2023年1月5日現在)、当然その投稿者の多くは女性である。自分の住まいを自分流にアレンジするとともに、その成果を広く発信・共有するような状況、そしてそれを見たユーザーがさらに自身の住まいに手を加えるといったスパイラルが、SNSを起点に広がりつつある。これらを鑑みたとき、現在の女性行為者は、かつての家庭工作や日曜大工とは異なる意義や可能性、そして何より現代的な「楽しさ」を、DIYに見出しているといえるのではないだろうか★10。

★1 溝尻真也,2019「日曜大工の社会史―男性の手作り趣味と家庭主義」神野由紀・辻泉・飯田豊編『趣味とジェンダー―〈手づくり〉と〈自作〉の近代』青弓社, p.299.
★2 Gelber, Steven M., 1997, “Do-It-Yourself: Constructing, Repairing and Maintaining Domestic Masculinity” American Quarterly 49(1).
★3 溝尻真也,2023「家庭工作から日曜大工へ―日本におけるHome Improvementイメージの変遷」『生活学論叢』42, 日本生活学会.
★4 調査は2022年1月7日~14日の8日間、インターネットリサーチサービスFASTASKを利用して実施した。
★5 「あなたは現在、DIYに関心がありますか」を4件法で回答してもらったうち、「関心がある」と「やや関心がある」の合計。なお図表中の検定結果はすべてχ2検定による。
★6「あなたは、これまでにDIYをおこなったことがありますか」を「ある」「ない」「わからない」で回答してもらったうち「ある」と回答した人の割合。
★7「あなたは、この1年間でDIYを何日ぐらいおこないましたか」に対する回答の中の、「年に1日」「3~6ヶ月に1日」「1~2ヶ月に1日」「月に2日以上」の合計。
★8 日本生産性本部2022『レジャー白書2022-余暇の現状と産業・市場の動向』p.39.
★9 神野由紀,2021「承認としての生産=消費―新たな『プロシューマ―』の生成過程」橋本努編著『ロスト欲望社会―消費社会の倫理と文化はどこへ向かうのか』勁草書房.
★10 なお本論は関東学院大学人間環境研究所2021年度研究助成「住まいへの眼差しとジェンダーに関する考察―1990年代以降のインテリアの実践から」(研究代表:神野由紀)およびJSPS科研費JP23K11689の助成を受けて実施した調査結果に基づくものである。

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みぞじりしんや/目白大学メディア学部准教授。専門はメディア論、文化社会学。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。日本におけるDIYの社会学的研究に取り組んでいる。著書に『趣味とジェンダー:〈手づくり〉と〈自作〉の近代』(共著,青弓社,2019年)など。