020 | 201806 | 小特集:森美術館「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」レビュー
Reviews of “Japan in Architecture: Genealogies of Its Transformation”
目次
1 啓蒙から野蛮へ──森美術館「建築の日本」展について/土居義岳(建築史家)
2 アーカイブの似姿としての建築/西澤徹夫(建築家)
3 悪しき「遺伝子」のもたらすもの/黒瀬陽平(美術家・美術評論家)
森美術館で「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」が開催されている(会期:2018年4月25日~9月17日)。当該館の建築展としては、2007年の「ル・コルビュジエ展」、2011年の「メタボリズムの未来都市展」につづく3つ目のものであり、関係諸機関から集められた膨大な資料が一堂に会する、力の入った展覧会である。公式アナウンスによれば、展示されている古今の建築・都市プロジェクトの数は100、その資料数は400を超える。建築関係者にとっては必見の展覧会と言ってよい。とくに若い学生などにとっては、「日本」の「建築」がおりなす地平を大づかみに把握できるうってつけの機会となるはずだ。
他方で、本展は多くの議論や疑問を引き起こさざるをえないことも確かだろう。「可能性としての木造」「開かれた折衷」「集まって生きる形」など、本展は、種々異なるプロジェクトを個性的な9つのカテゴリーによって分類し、展示する。そうすることによって時代区分や個別の作家・作品性が後景化し、総合としての「日本の建築」あるいは「建築における日本的なもの」が漠然と立ち上がる…のだが、やはり気になるのは、結局のところここで提示されようとしている「日本」と「建築」を、我々はいかなる水準で受け止めればよいのか、ということである。キュレーターの意志と独自解釈にもとづくあくまでも批評的な手さばき? 初学者への啓蒙をねらったあえての紋切り型な日本建築特殊論? 金沢21世紀美術館の「ジャパン・アーキテクツ 1945–2010」や東京国立近代美術館の「日本の家:1945年以降の建築と暮らし」など、近年つづく「日本の建築」を題材とする建築展も、それぞれ特徴的なカテゴライズのもとで展示を構成していたが、それらとの相違類似点も気になる。論点はいくつもあるだろう。だいたいこのようなことを念頭に置きつつ、この意欲的かつ議論提起的な展覧会を検討しようというのが、本小特集の主旨である。
本小特集では3名の識者に展覧会のレヴューをご寄稿いただいた。土居義岳氏には建築史の立場から、西澤徹夫氏には美術館での展示計画の経験も豊富な建築家の立場から、黒瀬陽平氏には美術批評の立場から、それぞれ本展覧会を論じていただいている。建築の普遍性とその外部としての「日本らしさ」、美術館における建築展の困難さの克服としての階層化の手法、西洋対日本という固定化された構図の限定性、等々…。各論考では多くの重要な論点群が指摘されている。3本の論考が提示する3つの視線をつうじて、本展をより立体的なものとして捉えることが可能になるはずだ。
なお、本小特集を実現するにあたり、図版提供など、森美術館にはさまざまな方面でご協力をいただいた。最後に記して感謝いたします。(K.I)