Withコロナ時代の広域観光のあり方を「賑わい」から考える

清水哲夫
Sep 30, 2020 · 13 min read

清水哲夫/How do tourist destinations makes themselves lively during the spread of COVID-19 / Tetsuo Shimizu

賑わいとは何か?

「賑わい」の定義は何であろうか? 都市計画,建築学,土木計画学などの関連学術分野では,賑わいに関する多くの関連する論文が報告されているし,政府や行政の都市計画やまちづくりに関する資料などでも,その言葉を多く発見することができる.しかし,それらに目を通してみても,その言葉が定義なしに使われていたり,単に滞留人数といった単純な物理的指標で捉えられたりしていることが多いように感じ,困惑している.この分野の第一人者であるヤン・ゲール(Jan Gehl)の考え方1)などを考慮すれば,着目する空間で多様なアクテビティが展開され,その人数は多く,彼らの滞在時間も長く,これらのことが空間全体としてポジティブに捉えられていることが賑わいの条件である,と考えてよい.すなわち賑わいは,「アクティビティ数×滞在人数×滞在時間×満足度」のような複合的な指標で表現されるべきものであろう.

Beforeコロナ期,Withコロナ期の日本の観光をどう読むか?(注1)

観光は21世紀で最もその成長が期待される産業と認識され,日本でも東日本大震災後の2012年以降,インバウンド観光振興が国家の重要政策として位置づけられるまでになった.新型コロナウィルス感染症拡大の影響でその達成は事実上不可能となってしまったが,2020年に訪日外国人観光客数が4,000万人,消費額が8兆円と,極めて意欲的な目標も設定された.官民の努力により,2019年には訪日外国人観光客数は3,188万人,消費額が4.8兆円に達し,2012年のそれらが836万人,1.3兆円だったことを考えると,6年間で4倍近く成長した.一方で,観光地での受入環境整備が整わないままに訪日外国人観光客数が急増し,一部観光地では,訪日外国人観光客が生活空間や公共交通内で混雑やマナー違反の問題を引き起こし,オーバーツーリズムや観光公害という言葉が注目されることになったのは,記憶に新しい.

世界観光機関(UNWTO)は,「持続可能な観光には.ゲストとホスト,産業と環境のニーズに向き合いながら,現在および将来の観光地の経済的・社会的・環境的な影響に注意を払うことが必要」と論じている2).これを受けて日本でも観光庁が「日本版持続可能な観光ガイドライン」3)を公表し,多くの観光地がこれにしたがった取り組みを始めようとしている.筆者は,地域観光地は,自然・文化・生活環境を一定水準に維持しながら,観光生産額を拡大することを政策目標とすべきだと考える.観光が地域経済の浮揚に貢献できなければ,地域住民は観光客受入に対してポジティブな感情を持たないだろう.加えて,感染リスクの高い地域に居住する観光客を,医療体制が脆弱な観光地で受け入れることに対して,地域住民のネガティブ感情が大きいことは容易に想像され,観光がコロナ禍で大ダメージを受けた地域産業の浮揚に大きく貢献する絵姿をしっかり示していく必要がある.

地域の観光生産額は,観光消費額と地域調達率の掛け算である.観光地で観光客が多額の消費を行ったとしても,その消費に関連する材料や人材の多くが地域外から調達されていれば,地域が稼いだお金の多くは最終的に地域外に流れていく.観光消費額は観光客数と一人あたり観光消費額の掛け算である.すなわち,地域が観光生産額を高めるためには,1)地域調達率の増加,2)延べ観光客数の増加,3)一人一回あたり観光消費額の増加,の“三増”が必要となる.

地域調達率を体系的に把握することは難しいが,観光庁は2012年に観光地域経済調査を実施し,2011年現在で観光地内事業者にどの程度の観光関連売上があるのか全国的に調査した.例えば地域の観光関連事業者の典型である宿泊施設では,施設が所在する市区町村,あるいは都道府県からの材料費仕入先比率は全国平均で飲料,加工食品・調味料,農林水産物ともに85%を超えており(図1),当時からかなり地産地消が進んでいたものと考えられる.

図1 宿泊事業での仕入先別材料費の内訳(2011年)

2015年に観光地の観光づくりの舵取り役となる日本版DMOの制度がスタート(その後観光地域づくり法人(登録DMO)と名称変更)した.登録による財政面の支援も期待できることから登録数が順調に増加し,2020年9月現在で162組織が認定・登録されている.登録DMOはPDCAによる組織マネジメントが求められており,必須KPIとして旅行消費額,延べ宿泊者数,来訪者満足度,リピーター率の4つが設定されている.すなわち,登録DMOは,先の観光客数(あるいは宿泊者数)の増加と一人あたり観光消費額の増加に向けた努力が必要となる.

ここで,Beforeコロナ期の観光市場の構造について説明しておきたい.観光庁の発表では,2019年の国内旅行消費額は27.9兆円となっており,日本人国内宿泊旅行が17.2兆円,日本人国内日帰り旅行が4.8兆円と,併せて全体の8割弱を占める一方で,訪日外国人による旅行は4.8兆円で,全体の17%程度を占めるに過ぎない(図2).Withコロナ期は訪日外国人の消費がほぼ期待できず,80%を占める日本人による国内旅行消費をいかに拡大してくかが重要となる.

図2 日本の旅行消費額の内訳(2019年:単位は兆円)

日本人の国内旅行の消費構造を,観光庁の旅行・観光消費動向調査で確認する.2019年は,観光・リクリエーション目的の宿泊旅行単価は60,995円/人回,同目的の日帰り旅行単価は16,780円/人回であった.うち交通費はそれぞれで12,676円/人回,4,690円/人回と20〜25%程度を占めている(図3).交通費の中で,観光地への幹線アクセス交通が占める割合は60〜70%程度である.

図3 日本人国内旅行での消費費目の内訳(2019年:データラベルの単位は円/人回)

例えば星野リゾートの星野佳路代表が提唱する「マイクロツーリズム」は,氏のメディアでの関連する発言から判断すると,宿泊施設の近隣に居住する,海外旅行ができなくなった日本人を積極的に取り込み,アクセス交通費用が小さくなることでより多くの宿泊関連消費を導く戦略が伺えるが,まさに上記のような市場・消費構造を意識しているからであろう.結局,日本は世界的に内需の割合が大きい観光市場であるからこそ,日本人自体がWithコロナ期にいかに旅行をするかが観光産業復興への鍵を握るのである.

では,Withコロナ期の日本人の旅行意識はどうなっているのか? 例えば,(公財)日本交通公社が継続的に関連する調査を行っている.緊急事態宣言解除日を含む期間の旅行意識調査4)では,コロナ流行収束後,海外旅行は7割以上がネガティブであった反面,国内旅行は約7割が行きたいと答えている.旅行に行きたいと答えた人の4割強が,あまり行きたくない地域として人が密集している地域を選んでいる.また,旅行実態調査5)を5月と7月に実施し,今後3ヶ月で旅行実施予定または旅行に行きたいと答えた割合が2ヶ月で10ポイント増加した反面,コロナ禍の影響の長期化が懸念され,収束後の旅行意向が同期間でわずかに低下している.筆者は,観光地は感染対策の徹底で潜在的旅行者の懸念を払拭していけば,国内旅行意向は大きく減退することはないと感じている.

観光と観光地は新たな生活様式にどう対応するか?

“三密”を回避する新たな生活様式の考え方は観光にも大きな影響を及ぼしている.今後しばらくは,宿泊施設では食事会場の混雑対策などのために宿泊人数を制限せざるを得ないだろうし,同様に集客施設は入場者数を制限せざるを得ないだろう.空間制約のある施設単体は,これまでと同レベル,あるいはこれまで以上の集客数を見込めないと考えるべきかもしれない.従前同様の事業収入を得るためには,一人あたりの消費単価を上げていくしか道はない.

ここで,観光地において,魅力の高い観光資源が広範に点在するような状況を考えてみたい.オーバーツーリズムに苦しんでいた観光地でよく見られたように,ある資源の混雑が激しくなり密が発生する危険性がある状況で,近隣の他の資源が同等に魅力的であれば,混雑時にそこへ誘導できるかもしれない.単独資源としては集客数がBeforeコロナ期より減少するが,観光地全体としてはBeforeコロナ期以上の集客を可能とするための戦略がWithコロナ期には不可欠ではないだろうか? 局所的に密にならない「賑わい」のある広域観光地づくりは,その空間全体として「アクティビティ数×滞在人数×滞在時間×満足度」を最大化していくことで実現できる.施設や地域での滞在時間が大きくなれば消費額も相応に大きくなる調査結果6)もあり,賑わいは同時に一人あたり観光消費額の増加ももたらしうる.

広域観光で賑わいを実現するために何ができるか?(注1)

賑わう広域観光の実現に向けた一丁目一番地の取り組みは,結局,アクテビティを質量ともに高めていくことに尽きるのではないだろうか? このことが誘客につながり,滞在時間を延ばし,結果として満足を高めると考えられるからである.加えて,密が回避されれば安心感にもつながる.そのために考えられる戦略は,「資源の磨き上げ」と「観光地の広域化」に集約される.

観光地での資源の磨き上げについては,訪日外国人観光客の急増に対応するために,彼らに訴求する新たな資源コンテンツや体験プログラムの開発を誘導するような各種支援策が導入されてきた.一方で,日本人対策は相対的に軽視されてきたが,訪日外国人観光客の受入が期待できない状況で,観光庁は「誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成実証事業」を展開し,当面は日本人観光客を対象としたWithコロナ期に対応する新たなコンテンツづくりに対する支援を行うなど,支援の方向性が一時的に国内旅行向けにシフトしている.各観光地には,このような状況変化に臨機応変に対応し,またこのような事業の枠だけに留まらず,自助努力を含めて新しい生活様式に対応する資源の磨き上げを徹底的に行うことを望みたい.

観光地の広域化には,観光地単体で魅力的な資源の充実化が短期的に図れない場合に,周辺観光地と組むことで短期的に見かけの資源の充実化が図れるメリットがある.このような施策として,2008年に始まった観光圏整備制度がある.21世紀に入り日本人の宿泊を伴う旅行発生回数や宿泊日数の減少が続き,旅行一回あたりの宿泊日数を延ばしてもらうための考え方として,宿泊拠点となる観光地と周辺観光地が連携した圏域を観光圏として設定し,認定観光圏に対して圏域内での滞在を強化する旅行商品開発などに財政的支援を行っていた.本制度はその後,新たな国際的観光地域ブランドを育成するための支援,インバウンド誘客のための支援と,その趣旨が変更されていたが,複数市町村の連携により認定される枠組み自体は不変であり,複数観光地が広域連携して新しい魅力を創造してもらう意図自体は当初から変わることはない.登録DMO制度が登場してから,観光庁内でも観光圏への注目度が低下しているのは残念であるが,その意義をもう一度見直してみることを薦めたい.

写真1 雪国観光圏(新潟県,群馬県,長野県)は「真白き世界に隠された知恵と出会う」というブランドコンセプトの基に,例えば,長い歴史に育まれた雪国の独特な食文化を生かした本当の食を追求する「雪国A級グルメ」に取り組んでいる.
写真2 八ヶ岳観光圏(山梨県,長野県)は「1,000mの天空リゾート八ヶ岳〜澄み切った自分に還る場所〜」という高低差を意識したブランドコンセプトを掲げ,観光案内所や観光施設で標高が分かるプレゼンテーションを徹底している.

最後に,近年調査研究や実践が進んでいるMobility as a Service(MaaS)について触れたい.MaaSを簡単に言えば,複数の交通事業者にまたがる移動を統合アプリにより一括で検索・予約・決済するサービスである.例えば,一部地域で実践が進んでいるEMot(注2)では,輸送と施設利用を組み合わせたフリーパスが利用可能となっており,数年程度内には,移動と目的地でのアクティビティが観光客のコンテクストに応じて動的に商品提案・予約・決済が行えるようになるだろう.このような仕組みを観光地での密の回避と広域の賑わいを同時に実現するキラーツールとして是非位置づけたい.例えば,資源の混雑情報をモニタリングし,混雑に応じた利用料金を設定するとともに,似たコンテクストの混雑していない近隣資源の利用料金とそこまでの移動料金を割り引く,といったサービスが実現できるとよいだろう.

(参考文献)
URLは2020年9月20日現在
1)Jan Gehl: Cities for People, Island Press, 2010.
2)UNWTO Sustainable Development. https://www.unwto.org/sustainable-development
3)観光庁・UNWTO駐日事務所:日本版持続可能な観光ガイドライン,2020. https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001350848.pdf
4)公益財団法人日本交通公社:新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向(その4),2020. https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2020/08/covid-19-japanese-tourists-4_JTBF20200730.pdf
5)公益財団法人日本交通公社:新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向(その6),2020. https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2020/08/covid-19-japanese-tourists-6_JTBF20200827.pdf
6)信金中央金庫総合研究所:地域調査情報19–1,2007. https://scbri.jp/PDFtiikijyouhou/scb79h19l01.pdf

(注1)観光庁の実施する施策や統計調査は観光庁ホームページ(https://www.mlit.go.jp/kankocho/)を参照されたい.
(注2)EMot,https://www.emot.jp

建築討論

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清水哲夫

Written by

しみず・てつお/1995年東京工業大学大学院理工学研究科土木工学専攻修了,博士(工学)(東京工業大学).東京大学大学院工学系研究科准教授等を経て,2011年より現職.2017年より(公社)日本観光振興協会総合調査研究所所長を兼務.専門は交通学,観光政策・計画学.官公庁や自治体の多数の専門委員会で委員等を務める.

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