ジェンダーバランスの変化を待つ──建築家・貝島桃代メールインタビュー

| 067 | 202301–03 | 特集:Mind the Gap

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建築討論
Feb 26, 2023

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日時:2023年2月8日-11日
質問:福屋粧子 (F)

貝島桃代(かいじま・ももよ)・・・1969年東京都生まれ。1991年日本女子大学住居学科卒、1992年塚本由晴とアトリエ・ワン設立、1994年東京工業大学大学院修士課程修了、1996~97年スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)奨学生、2000年 東京工業大学大学院博士課程修了、2000~09年 筑波大学講師、2009年~筑波大学准教授、2017年~スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)建築ふるまい学教授、2012年RIBA International Fellowship。スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ) (2005–2007)、ハーバード大学大学院 (2003,2016)、ETHZ (2005~07)デンマーク王立アカデミー (2011~12年)、ライス大学 (2014~15)、デルフト工科大学 (2015~16)、コロンビア大学(2017)で教鞭をとる。チアアート副理事長(2017)、ヴェネツィアビエンナーレ第16回国際建築展 日本館のキュレーター(2018)を務める。2022年ウルフ賞芸術部門(建築)。

F:1990年代初期からアトリエ・ワン(塚本由晴と共同)として建築作品の発表を始め、国内外の建築・教育分野で広く活躍する貝島桃代さんに、メールインタビューをお願いしました。

F:女性建築家は少ないと感じますか。

貝島:はい。建築学部などで現在女性学生は半数近くをしめているので、今後が楽しみです。

F:女性建築家が増えるために何が必要だと考えますか(教育・仕事環境・制度etc)。

貝島:制度や時代は変わりつつあるので、まずは時間。ジェンダーバランスが取れる様に、あらゆる場所で女性の割合が50%になるように、女性の積極的な採用、登用について意識すること。

F:自身のキャリアで、ジェンダーにより変わったことがありましたか。

貝島:ない。また気にしない様にしている。

F:建築作品とジェンダーの関係について、考えていることはありますか。

貝島:A+Uの特集号(★1)で検討した結果からは、特に女性建築家の作品にはビルディングタイプとして傾向が見られる。子供関連、高齢者関連、病院関連、シェアハウスなど、よりひろい社会像を求める建物が多い。

F:貝島さんが滞在しているスイスと日本で、国によって女性の設計者/教育者の働き方が異なる部分はあると感じますか。(そもそもジェンダーに関わらず、国によって働き方も異なりますが。)あるとしたら、それはどのような部分に表れているでしょうか。

貝島:スイスは女性の参政権が全土で認められるのたのが1990年と、遅かった。家制度、兵役、直接民主主義政治など、社会の仕組みが整えられていたためとも、言われている。現在ETHZ建築学部の学生の男女比はほぼ半々であるが、女性の建築家、教員は少なく、人事では、女性やマイノリティの登用が推奨されたり、コンペの参加の際の条件となっている場合もあり、私が教え始めた2017年以降、ETHZでも急速な改善が進んでいる。

こうしたジェンダーバランスの変化によって、学内の教育や研究の内容も変化しつつある。成績の付け方の透明性や、講評会の形式、スタジオや研究のテーマにジェンダーやマイノリティ、ケアが取り上げられ、学生組織や助手組織の学校運営への参画など、ETHZの物質や工学、コンストラクションを重んじる基本的な部分は守りつつも、あたらしい方法が模索されている。

F:関連した書籍があれば、教えてください。

2022年1月号『A+U』特集「住居学と日本の女性建築家」(2022)。 教育と女性建築家の関係を示した特集、また住居学の成り立ちについての特集です。関連書籍が最終ページにリスト化されています。

1 日本女子大学住居学科同窓会・住居の会編著『卒業生白書、2837人からのメッセージ』、住まいの図書館出版局(1994)
2 定行まり子、篠原聡子、平田京子、宮晶子、薬袋奈美子、浅見美穂、江川紀美子、大塚順子、小川信子、沖田富美子、鈴木賢次「日本女子大学における住居学教育の歴史」『日本女子大学総合研究所紀要』(第23号、2020)
3 宮晶子「日本女子大学家政学部住居学科」『GA JAPAN』(第170号、2021)
4 日本女子大学住居小川研究室の会『生活環境の探究:小川信子の世界』(ドメス出版、1998)
5 吉阪隆正『住居学汎論』(相模書房、1950)
6 佐藤功一『住宅雑集:佐藤功一全集第四巻』(丸善、1941)
7 石井孝重、小川信子、沖田富美子、後藤久、小矢部育子、志賀英、鈴木賢次、瀬沼勲、高橋公子『住居学:日本女子女子大学家政学シリーズ』(朝倉書店、1988)
8 小川信子、田中厚子『ビッグ・リトル・ノブ:ライトの弟子・女性建築家土浦信子』(ドメス出版、2001)
9 日本女子大学住居高橋研究室の会『時間の中の住まいー高橋公子と五つの住まいの現在』(彰国社、2003)
10 Noemí Gómez Lobo, “Gender perspective on architectural practice in contemporary Japan: Woman Architects, Houses and Cities” (東京工業大学塚本由晴研究室博士論文、2020)
(以上のリストは★1、p176 特集 関連文献より部分転載)

★1–fig.1 2022年1月号『A+U』特集「住居学と日本の女性建築家」(2022)■

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建築討論委員会(けんちくとうろん・いいんかい)/『建築討論』誌の編者・著者として時々登場します。また本サイトにインポートされた過去記事(no.007〜014, 2016-2017)は便宜上本委員会が投稿した形をとり、実際の著者名は各記事のサブタイトル欄等に明記しました。