図書館をつくり、運営を継続する ── 岡崎市図書館交流プラザ りぶらを事例として

三矢勝司
建築討論
Published in
Mar 1, 2021

1.はじめに

岡崎市図書館交流プラザ(愛称りぶら)を事例として取り上げる。りぶらは愛知県岡崎市(註1)の中心市街地西端に立地する図書館を核とした文化複合施設である。開館から12年が経った今、改めて図書館に求められる機能や役割、さらに市民参加のあり方について私見を述べたい。

りぶら西側の風景

りぶらは2004年に基本設計が始まって以降、運営に関するワークショップ等も開催された。施設が開館した2008年に、ワークショップに参加した市民らが中心となって施設を活性化するグループ「りぶらサポータークラブ(以下:LSC)」が活動を開始する等、計画段階から運営段階に至るまで多様な市民参加の場が設けられてきた(詳細は参考文献1を参照)。

岡崎市は、りぶらの設置目的として「生涯学習の拠点施設」と「中心市街地の再活性化拠点」の二つを掲げた。前者は、市民の知りたい、学びたい、という多様なニーズに応えること。後者は、空洞化が進む中心市街地に人々が足を運んでもらうきっかけとなること、である。当初の導入機能は、図書館、生涯学習センター、市民活動センター、男女共同参画センター、国際交流センター、ホール、スタジオの他、内田修ジャズコレクション展示室(註2)等で、施設面積は約18,000㎡(面積の半分が図書館)である。

筆者は、上記ワークショップを企画運営する立場で関わった後、りぶら内に設置された市民活動センターの運営にも関わってきた(ワークショップや市民活動センターの企画運営を筆者が所属するNPOが受託)。建築設計者はプロポーザルで選定され、佐藤総合計画と千里設計(地元・岡崎の建築事務所)の共同企業体(JV)が担当した。

りぶらWSの様子

2.図書館に求められる機能

りぶらのワークショップ参加者に向けて「この施設(図書館等)に求めるものは何ですか?」というアンケートをとったことがある。最も高いニーズは「静かに本が読める、調べ物ができる」であった。この他「こういうことを知りたいと思った時に、それに詳しい人に出会える」といった人材マッチング的なニーズも語られていた。今のりぶらを概観すると「当時の市民ニーズにほぼ応えられている」と僕は考えている。

第一に、調べ学習支援。りぶら内の図書館には「レファレンスライブラリー」があり、落ち着いた空間を提供し、調べ学習相談に対応している。筆者が所属するNPOでは市内各地のまちづくりに関わり、地域の歴史や文化に関する資料を必要とすることがあるが、こうした資料を探す際に頼りになるのが図書館である。特に、市場に出回っていない郷土資料や行政関係文書が蓄積されている図書館固有の機能と重要性を実感している。

第二に、ボランティアマッチング。りぶら内の市民活動センターには、小学校の先生から「地域の歴史を紹介してくれる方はいませんか?」とか、市民活動団体の方から「こういう活動を手伝ってくれる人が欲しい」といった問い合わせが寄せられる。事前に登録されているボランティアの方々の情報をもとに「ボランティアを受け入れたい団体(教育機関含む)」と「ボランティアをしたい人」をつなぐサービスを提供している(年間約90件、3,000人のマッチング実績)。最も多くのボランティアを受け入れているのが図書館(書架整理等)であり、社会参加の入り口としての機能も見逃せない。

第三に、外国人の生活支援。岡崎市の人口38万人の内1万人程度は外国籍の方である。りぶら内の国際交流センターが主催する日本語教室はもちろん、日本の生活に関連する各種困りごとの相談の対応を行っている市民活動もりぶらを拠点にしている。リーマンショック後には再就職支援に関する活動をりぶら内で展開したこともあり、岡崎で暮らす外国籍の方々には心強い存在だ。

第四に、ビジネス支援。2013年、りぶら内に岡崎ビジネスサポートセンター(通称オカビズ)が開設された。ワークショップでも国内の「ビジネス支援図書館」の流れを受けてその必要性が指摘されていたが、こうした専門窓口の効果は大きい。オカビズは年間2,900件超の相談に対応する国内屈指のビジネス支援センターとして活躍している。

こうした多様な「こんなことが知りたい、人に出会いたい」という市民ニーズに応えているのが、りぶらであり、これからの図書館の目指すべき形の一つ、とも思う。

逆に言うと、図書館の職員がボランティアや外国人相談、ビジネス支援をしているのではない。りぶら内の「図書館と共にある施設機能(市民活動センター等/ウィズ図書館)」によって、あるべき図書館機能(ポスト図書館)の一端が具現化されている。

3.図書館の社会的役割

「㎡当たりの集客効果が大きい公共施設」という理由で、岡崎市では図書館が中心市街地再生の起爆剤として選ばれた。りぶらは(新型コロナ以前は)最近でも年間140万人程が来館しており、集客という点では、その目論見はおよそ成功した。市内で類似のセミナーを開催しても、りぶらの方が集客が良く、展示会の会場として選ばれるのもりぶらである。

昔語りの会

市民活動センターが図書館と同居していることの効果もある。例えば、登録されている200名程度のボランティアのうち4人に1人は20代である(一般的にボランティア登録制度を運用すると高齢者等が中心となる例が多い)。近年、ボランティア活動が単位になる大学も増えてきているため一概には言えないが、りぶら東口にあるメインエントランス脇にあるボランティア募集掲示板の広告効果も無視できないと考えている。

しかし、こうした定量的な評価だけでは図書館の本質をみていると言えない。数字だけでいうなら、イオンをもう一つ作ればいい、という考え方もあろう(10数年前のイオンモール岡崎でも年間1500万人超が来客があった)。しかしワークショップの場で確認されたのは「今回の施設に期待されるのは、消費の活性化というよりも、文化・創造の活性化ではないか」という方向性であった。

都市の持続可能性とは何だろうかと考えた時、岡崎市の場合特に、歴史と文化に磨きをかけることが重要である。徳川家康公の生誕地としての歴史や、生涯学習や教育に熱心な土地柄を考えると、文化活動を活性化する施設こそがこの計画敷地には相応しいと考えていた。30年前に遡ると、りぶらが建っている敷地界隈は若者文化(ファッションや音楽)が生まれ、発信される場所であった。こうした歴史を継承することが、りぶらに期待されていることであり、実際に、りぶらのスタジオが若きミュージシャンたちによく利用されていることは重要なことだ。

はたまた、図書館である前に公共施設とは何だろうか、という視点も重要だ。この点については、参考文献2に詳しいので割愛するが、端的に言うと、事業者や行政に丸投げするのではなくて、市民も関りながら作り、運営され、市民性を涵養する場が公共施設であり、図書館のあるべき姿ではないか、というのが僕の意見だ。

以上から僕が言いたいのは、図書館の真価は「市場原理からはこぼれ落ちてしまうが、都市の持続可能性には欠かすことのできない社会的活動(歴史や文化に関するもの)を守り育むこと」であり「市場原理からの解放、自由の砦となること」だ。

4.図書館と市民参加

りぶらの市民参加を振り返ると、建築設計段階における主な成果として「敷地西側のせせらぎとの連続性」「岡崎城のお堀跡の文脈を引用した共用空間デザイン」等がある。運営段階における主な成果は「LSC」の組成である。開館準備段階において、開館後の市民サポ―ター活動(託児サービスや歴史を伝えていく活動)の重要性が確認され、実際に市民プロジェクトが10程度生まれ、それが結集してLSCが生まれた。開館後もLSCは、りぶらの諸機能(図書館や市民活動センター他)と連携をして事業を展開してきた。図書館に関連したプロジェクトの例としては「シネマドりぶら」がある。これは図書館に収蔵されている映像資料をみんなで視聴して、その後調べ学習につなぐものだ。LSCの自主企画として始まり、図書館との連携することで時にはホール(定員約300名)を埋め尽くす程の人気企画となった。

託児サービス

その後「りぶら講座(教えたい市民と学びたい市民を結びつける企画/年間100を超える講座の開催実績)」や「外国人が日本語の歌を歌うのど自慢(市外県外からもエントリー者が集まる人気企画)」といった新しいコンテンツもいくらか生まれた。

こうした取り組みの背景において、専門家(市民参加のコーディネーター)がどのように関わってきたのかは参考文献3(筆者の学位論文)の3章に詳しいのでそちらを参照してほしい。概要としては「参考事例紹介」「サポーターの拠点づくり」「参加型イベントのコーディネート」「ボランティアや関連団体の巻き込み」「施設周辺のまちづくりとの接続」が重要である。

自分は16年前から、りぶらの設計や運営あるいは周辺の中心市街地まちづくりに携わってきた。幸いにして今でも、りぶら内の市民活動センターの運営に携わっている。その立場からみて、一定の成果を上げてきた自負もあるが、課題があるのも事実である。

例えば、LSCも当初メンバーの高齢化や一定の入れ替わりが進んだ他、りぶらの運営側に立つ市職員は全員が入れ替わった。このため現時点で、市民と行政が同じ方向を向き、当初コンセプトを堅持して事業展開をする体制が維持できているとは言えない。

言葉を選ばずに言えば「市民参加の劣化」がある(この点については、自分の力量不足を率直に反省したい)。建築関係者の一人として課題設定したいのは「公共施設の計画段階や運営初動における市民参加手法は確立されたが、市民参加の経年劣化を補修、修繕する手法が確立されていない」という現実である。10数年もすれば防水シートを張り替えるように、施設開館から10数年経った時点で、改めて公共施設運営に関わる市民参加をやり直す仕組みがあるべきと思う。

5.おわりに

以上から、皆さんにお伝えしたい知見を3つ振り返っておきたい。

第一に「ポスト図書館はウィズ図書館で」。りぶらのように、図書館に加えて各種専門的な相談窓口を併設することで進化系図書館のような機能を発揮させる方法がある。

第二に「リバティこそ図書館の真価」。指定管理者制度やPFI等、民間活力を活用する図書館運営のあり方が問われる今こそ逆に、図書館はぶれずに自由を希求すべきだ。

第三に「シームレスな市民参加の必要性」。設計段階、運営初動段階に加えて、施設開館後の市民参加を修繕する方法論の開発が必要だ。

上記3つのキーワードの頭文字を束ねると「ポ・リ・シー」となる。建築家、建築関係者は、ポリシー(政策的ビジョン)をもって図書館づくりに向き合っていこう!

冬のコンサート

〔註釈〕

註1:人口約38万人の中枢中核都市。徳川家康公の生誕地。八丁味噌が特産品。

註2:内田修氏(1929–2016)は岡崎市出身の外科医、通称「Dr.JAZZ」。氏が集めた膨大なジャズコレクションが岡崎市へ寄贈され、りぶら内にて展示、活用されている。

〔参考文献〕

1)三矢勝司:協働都市文化をもたらす図書館づくり-Libraと中心市街地の6年,りたブックレット,2010.9

2)三矢勝司:〔特集〕融合施設はまちを変えるか-須賀川市民交流センターtette 開館 1 周年,小論考「市民協働による公共施設の運営とまちづくり」,ライブラリー・リソース・ガイド(LRG),2020.9

3)三矢勝司:(学位論文)公共空間の協働型マネジメントにおいて中間支援組織に求められる役割と支援技術, 名古屋工業大学大学院,2015.3

--

--

三矢勝司
建築討論

岡崎まち育てセンター・りた事業推進マネージャー/名古屋工業大学コミュニティ創成教育研究センター研究員。岡崎市出身。2006年にりたを設立(国土交通大臣賞受賞)。専門は参加のデザイン、まちづくり支援組織論。博士(工学)。