民間投資と公共性の論理 ── 総合設計制度の評価

[201901 特集:都市と投資]

田村誠邦
建築討論
18 min readDec 31, 2018

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1. 総合設計制度の意義

総合設計制度は、建築物の500㎡以上の敷地内に、歩行者が日常自由に通行又は利用できる「公開空地」という半公共的空間を確保することにより、都市計画で定められた容積率、高さ制限、斜線制限などの制限について、特定行政庁が建築審査会の同意を得て許可することにより、特例的に緩和を認める制度である。もともとは、公共的空間に乏しい市街地において、敷地周辺に公開空地を設けることで市街地環境を改善することを目的として1970年に創設された制度で、建築基準法第59条の2に規定されている。

総合設計制度による容積率と高さ制限の緩和により、一定の条件を満たす公開空地を設置すれば、市街地において、都市計画の規定以上の大規模かつ高層の建物の建設が可能になる。このことは、市街地、中でも経済的なポテンシャルの大きな都心立地での民間投資を推進することになる。

総合設計制度の変遷をみると、1970年に創設された総合設計制度では、基準容積率の1.5倍かつ200%増以内だったのが、1983年に創設された市街地住宅総合設計制度では、基準容積率の1.75倍かつ300%増以内、1995年に創設された都心居住型総合設計制度では、基準容積率の2.0倍かつ400%増以内となるなど、容積率の緩和が一段と進み、その種類も多様化している。

総合設計制度の許可件数が最も多い東京都では、現在、一般型総合設計、市街地住宅型総合設計、都心居住型総合設計、業務商業育成型総合設計の5つの総合設計制度があり、都心等拠点地区などのエリアの特性に応じた適用を行っているほか、子育て支援施設などの育成用途の導入や、無電柱化などの取り組みに対して、公開空地での容積率緩和に上乗せの容積率緩和を可能としている。また、総合設計制度の目的も、市街地環境の整備改善に加え、良好な建築・住宅ストックの形成、公共施設の機能の補完、市街地の防災機能の強化、福祉のまちづくりの推進、都心居住の推進、職と住とのバランスのとれた都市の形成、少子高齢社会にふさわしい住まいの整備、敷地の集約による質の高い市街地形成、良好な都市景観の創造、緑化の推進、低炭素型都市づくりの推進、と多様化している。

図1:東京都における総合設計制度の許可件数の推移

図1は、東京都における総合設計制度の許可件数の推移をみたものであるが、これをみると、1990年ごろのバブルの時期と、1999年から2008年にかけての2つの大きな山があることがわかる。後者は2001年4月から2006年9月までの小泉内閣の時期とほぼ一致し、小泉内閣の規制緩和を背景に、東京都心部の大規模オフィスビルや湾岸部の超高層マンションが、総合設計制度を利用して数多く建てられたものと考えられる。また、2012年12月以降の安倍内閣の時期に、総合設計制度の許可件数が意外と少ないのは、総合設計の許可をめぐる近隣紛争の増加と、都市再生特別地区等の大幅な増加によって、総合設計制度によらない容積率の緩和の道が大きく開けたことによるものと推測される。

容積率の緩和は、東京都心部等の床需要の旺盛なエリアでは、オフィスビルなどの場合には賃貸可能な床面積の増加として、分譲マンションなどの場合は分譲可能な床面積の増加として、デベロッパー等の民間資本の事業採算性を大きく向上させる。また、市街地再開発事業などの多数地権者の合意により実現する開発事業においては、事業全体の事業採算性の向上により、地権者に還元できる条件が改善し、地権者の合意を促進することにより事業の実現性を高めることができる。

いずれにせよ、東京都の許可物件だけでも、2017年度末までに743件、生み出された公開空地の面積の合計が約198haと東京ドーム42個分の広さになるなど、総合設計制度が、市街地における民間建設投資の促進と公開空地の増加に寄与してきたことは間違いない。

2. 総合設計制度の課題

総合設計制度の意義は上記1に述べた通りであるが、反面、総合設計制度には多くの疑問点や課題が存在する。その主なものを列挙すると次の通りである。

① 総合設計制度は建築紛争を誘発しているのではないか?

② 公開空地による市街地環境の改善効果は、容積率や高さ制限の緩和による市街地環境へのマイナスの効果を上回っているのか?

③ 総合設計による公開空地等の開発コストを、容積率や高さ制限の緩和による経済的利益が上回っているのであれば、その開発利益の配分はどうあるべきか?

④ 公開空地という物差しで、容積率や高さ制限の緩和を図ることが正しいのか?

⑤ 総合設計の許可プロセスに、周辺住民の関与はどうあるべきか?

これらの疑問点・課題は、相互に関係するものであるが、ひとまず、順次これらの点について検討してみたい。

① 総合設計制度は建築紛争を誘発しているのではないか?

総合設計制度は、都市計画に定められた建物の容積率や高さの制限を、一定要件を満たす公開空地の設置により緩和するものであるが、周辺市街地の環境とは隔絶した大規模や高層建築物を建てることが可能となるケースも多く、とくに、住宅地においては、総合設計制度で建てられた建物の周囲に、景観、風害、圧迫等の環境悪化、いわゆる外部不経済をもたらす可能性がある。このため、総合設計による建物建設をめぐって、周辺住民の反対運動や建築紛争が発生することが多い。

河村★1によれば、2003年~2007年までの5年間に東京都の建築審査会に対してなされた大規模建築物(延べ床面積1万㎡以上)に係る審査請求の件数を見ると、総合設計を除く大規模建築物1,261件のうち、審査請求を受けたものは37件、審査請求率は2.9%にすぎない。これに対し、総合設計による大規模建築物135件のうち、審査請求を受けたのは11件で8.1%もある。これは、総合設計による大規模建築物が一般の大規模建築物と比べ、約2.8倍、審査請求を受けやすいことを意味しているという。

富田★2によれば、この総合設計制度をめぐる建築紛争は、規制緩和による市場の失敗の再現を原因としているという。所有権に基づく建築行為を個々人の自由に委ねると最適な資源配分とならない市場の失敗(外部不経済)が生じるので、公共部門の市場介入が必要となる。都市計画法、建築基準法は、用途地域に応じた容積率、高さ制限、日影規制等を定め、外部不経済を予防しているが、総合設計制度は、公開空地の設置等を条件に、都市計画の定めた容積率、高さ制限等の規制を緩和するため、周辺地域と断絶した規模や高さの建物の建設が可能となり、周辺環境悪化、外部不経済が発生し、建築紛争を誘発するという。すなわち、「総合設計制度は制度内在的に建築紛争を誘発する」としている。

こうした指摘は、地区計画を定めた地域における総合設計制度の運用において、とくに大きな意味を持つのではないだろうか。地区計画は、住民の合意に基づいて、それぞれの地区の特性にふさわしいまちづくりを誘導するための計画であり、特定の地区について、建築物の用途や形態・意匠の制限、容積率の最高限度・最低限度、建ぺい率制限、敷地面積の最低限度、建物高さの最高限度・最低限度、壁面の位置、外壁後退を独自に定めることができる制度である。また、また計画決定の主体が市町村であるため、地区の実情に応じてきめ細かいまちづくりが期待できるという特徴を持つ。

このように、地区計画の定められた地区では、本来は、当該地区計画に基づく建築制限が行われ、地区にふさわしい形態の建築物が誘導されるべきと考えられるが、こうした地区においても、総合設計制度の適用は可能となっている。例えば、東京都中央区のホームページに掲載されている「地区計画・機能更新型高度利用地区の概要」には、「総合設計の許可を受けた建築物は、地区計画で定める容積率及び高さの最高限度を超えることができます。」と記載されており、総合設計制度により地区計画に定められた容積率や高さの最高限度が緩和されることが明記されている。これは、地区計画に基づいた街づくりや建築規制が、総合設計制度により事実上なし崩しになり得ることを示しており、地区住民の参加・合意による地区計画の形骸化をもたらしかねない総合設計制度は、確かに、制度内在的に建築紛争を誘発する可能性があるといえよう。

② 公開空地による市街地環境の改善効果は、容積率や高さ制限の緩和による市街地環境へのマイナスの効果を上回っているのか?

公開空地による市街地環境の改善効果としては、歩行者が日常自由に通行できることのほか、周辺住民の憩いの場となることや、緑地空間の増加による心理的効果や地球環境への貢献、防災性の向上などが考えられる。たとえば、東京都23区内の都市公園の規模は合計で2,741haであり、総合設計制度による都内の公開空地の合計値198haは、その7.2%にあたる。ただ、都心三区の都市公園の総面積に限って言えば134haに過ぎず、都心部での公開空地の役割は相当大きいものと考えられる。

しかし、住宅地ではたとえ都心部であっても、従来の街並みや景観と断絶した容積率や高さの緩和は、周辺への圧迫感やビル風、日影、景観などの面で、公開空地による市街地環境の改善効果を上回る外部不経済を発生している可能性が高い。すなわち、都心部の商業・業務立地においては、総合設計制度に基づく公開空地による市街地環境の改善効果は認められるものの、それ以外の立地では、公開空地による市街地環境の改善効果以上の外部不経済を発生させているのではないだろうか。

③ 総合設計による公開空地等の開発コストを、容積率や高さ制限の緩和による経済的利益が上回っているのであれば、その開発利益の配分はどうあるべきか?

総合設計制度は、公開空地の設置など市街地環境の向上に資する整備を行う代わりに、その整備コストを補い得る容積率や高さ制限の緩和などのインセンティブを与え、こうした整備を促進しようとする制度と捉えることができる。しかし、敷地内に歩道状空地や広場状空地を設けても、そのコストは建築工事費全体に対して微々たるものであり、建物の形状が塔状化することによる工事費や維持費の上昇はそれほど大きくはないものと考えられる。したがって容積率や高さの緩和というインセンティブも、それほど大きくする必要はなく、基準容積率の2割程度を容積率緩和の上限としても開発コストを十分に上回り、市街地環境改善のインセンティブとなるのではないだろうか。

表1:東京都心部における総合設計制度による容積率緩和に伴う開発利益の試算

たとえば、現在の東京都心部におけるマンション開発を例にとると、表1のように、総合設計による容積率緩和に伴う開発利益の試算ができる。表1の設定条件の下では、総合設計制度による容積率の緩和により、デベロッパーの粗利率は、23.6%から42.4%に高まり、1㎡当たりの粗利益の増加額は292万円/㎡と、もともとの地価300万円/㎡とほぼ同等にまで高まっている。現実の市場では、総合設計可能な土地の取得価格は、総合設計の実現可能性をふまえた価格に増額されるはずであるが、その場合にも、開発利益が元々の土地所有者とデベロッパーに配分されるだけで、開発利益の増加額には変化はない。

もし、この総合設計制度による開発が、周辺の住環境の改善に多少は寄与しているとしても、この開発利益を開発業者であるデベロッパーと、元々の土地所有者のみに配分することは、公共の福祉の観点から望ましくないのではないだろうか。

④ 公開空地という物差しで、容積率や高さ制限の緩和を図ることが正しいのか?

総合設計制度は、基本的には公開空地の質の質と量に係る敷地内の数値(接道長さ、建ぺい率、公開空地の面積や比率等)によって、容積率や高さ制限の緩和の程度が規定される。言い換えれば、公開空地の質そのものの評価は定量的な数値に置き換えられており、また、敷地とその周辺地域との関係性や、その敷地の存する地域の歴史的・文化的特性や市街地環境の質などとの関係性は、総合設計制度の許可要件や、容積率や高さ制限の緩和の程度にはほとんど考慮されていない。また、これは次に述べる⑤の点にも大いに関係するが、公開空地が周辺住民をはじめとする不特定多数の人々が日常的に通行・利用できる空間であるべきにもかかわらず、周辺住民の公開空地の質に対する評価は、総合設計制度の許可プロセスの中に、ほとんど反映されていない。このような総合設計制度の許可条件および容積率や高さ制限の緩和条件の決め方は、審査基準の事前明示性の観点からは望ましいものだが、反面、市街地環境の改善という制度本来の目的をかなえる上では望ましくない面も少なくない。少なくとも、地域の個別性を反映した裁量的もしくは定性的な判断基準の導入が必要なのではないだろうか。

⑤ 総合設計の許可プロセスに、周辺住民の関与はどうあるべきか?

④で述べたように、公開空地の本質は、周辺住民等の日常的な通行・利用を可能にすることにより、周辺地域に貢献することである。そのため、周辺地域の住民の公開空地の質に対する評価や、公開空地の在り方に対する意見を、総合設計制度の許可プロセスの中に明示的に反映することが望ましいのではないだろうか。総合設計制度の許可プロセスでは、建築審査会の事前の同意が必要となるが、建築審査会の同意は、専門的技術的見地から行政の恣意的な処分を防ぐことが目的であり、周辺住民の同意や意見の反映を担保するプロセスとは言えない。

このような視点から参考になるのは、米国の都市計画制度の一つであるインセンティブ・ゾーニングである。インセンティブ・ゾーニングとは、都市開発事業において、事業者が公開緑地などの公共・公益施設の設置や、歴史的な建築物の保存などを行った場合に、見返りとして高さ制限や容積率の緩和などのインセンティブを与えることで、公共・公益施設の充実を奨励する制度である。具体的には、適用地区を定めて当該地区固有の詳細な緩和基準を、地区や都市全体に対する緩和の影響を環境影響評価等により事前に十分吟味した上で、地域住民や市民の合意を踏まえ、自治体において決定し運用する制度であるので、総合設計制度に地域住民や市民の意見を反映するプロセスとして参考になる点が多いと考えられる。

3. 総合設計制度の今後の展開に向けての提言

以上述べたようなことから、総合設計制度の今後の展開に向けて、次の5つの事項を提言したい。

① 地域の特性や敷地条件等に応じたきめの細かい制度の運用

総合設計制度による容積率や高さ制限の緩和に伴う外部不経済の発生は、都心商業・業務地域と住宅地とでは全く異なっているなど、地域の特性や敷地条件等に応じたきめの細かい運用が必要と考えられる。また、わが国全体の人口減少が加速する中で、都心部での居住人口の回復等の政策目標は既に達成された面もあり、都心居住型総合設計制度等の容積率の上乗せの上限は、減少させる方向で見直すことが必要であろう。

② 総合設計制度の評価基準の多様化

現行の総合設計制度による容積率の割り増しは、主として公開空地の数値的指標に重点が置かれていたが、今後は、公共公益施設の設置や緑化への貢献、歴史的・文化的建築物の保全等の多様な評価基準を導入することが望ましいと考える。また、敷地内の公開空地や施設導入などの評価だけでなく、周辺地域との関連性や周辺地域への貢献の観点から、容積率の割り増しを評価することが望ましい。

③ 従来の定量的な評価基準に加えての裁量的・定性的評価基準の導入

上記②に関連して、従来の公開空地等の定量的な評価基準に加えて、周辺環境との調和や市街地環境の改善の観点から、定性的評価基準もしくは考慮事項を明示し、それらを踏まえた裁量的な判断で、総合的に総合設計制度の許可や容積率の割り増しの程度等を定める仕組みを導入することが望ましいと考える。ただしこの場合、事前明示的な判断基準から逸脱しないことが条件となるであろう。たとえば、マンション建替え等のプロジェクトでは、区分所有者の5分の4以上の賛成による建替え決議の成立を、実務上、総合設計の許可条件としている自治体が多いが、建替え決議の際の区分所有者の合意は、総合設計による容積の割り増しを前提条件とした事業計画に基づくものであり、総合設計による容積率の割り増しの程度が大きく低下した場合には、そもそも建替え決議の合意内容の前提条件が担保されないことになり、建替え合意そのものが崩壊する可能性が高いからである。したがって、裁量的判断基準を導入する際にも、その判断のもととなる定性的基準もしくは考慮事項を事前にできるかぎり明確に示すことが不可欠となる。

④ 容積率と高さ制限の緩和により生じる開発利益の公平な配分

2の③で述べたように、現在の総合設計制度では、容積率と高さ制限の緩和により生じる開発利益は、ほとんどすべて、開発業者であるデベロッパーと元々の土地所有者に配分され、周辺地域や地域住民に直接還元されることはない。このような制度のままでは、開発利益の増大を目的にした総合設計の許可申請ばかりが増加し、市街地環境の改善という本来の目的を達成することは難しい。このため、総合設計制度による容積率と高さ制限の緩和に伴う開発利益を、周辺地域や地域住民に還元する方策を講じることが望ましいと考える。

具体的には、個々のプロジェクトの開発利益を客観的に把握し、その一部(例えば10%程度)を徴収することを総合設計制度の許可条件とし、エリアごとにエリア内の開発利益の一部をプールする公益目的の基金を設け、エリア内の市街地環境の改善や、公共・公益的施設の整備、歴史的・文化的価値のある建物の保全・活用、街並みの整備等に必要な資金を、その基金から拠出する仕組みを作ることが考えられる。この場合、総合設計制度に限らず、高度利用地区、再開発等促進区、特定街区、都市再生特区などの容積率緩和を伴う制度に共通した制度とすることが望ましい。

⑤ 総合設計制度の許可プロセスへの住民参加の明示

理想を言えば、2の⑤で述べた米国のインセンティブ・ゾーニングのように、適用地区を定めて当該地区固有の詳細な緩和基準を、地区や都市全体に対する緩和の影響を事前に十分吟味した上で、地域住民や市民の合意を踏まえて自治体で決定し運用する制度に変えていくことが望ましいと考える。しかし、現行の制度を一度に大きく変更することは現実には困難であり、建築審査会の運用において住民の意見を反映する協議会方式を取り入れることや、地区計画の中で、地区の特性を踏まえた詳細な緩和基準を定め、その制定プロセスの中に住民の意見を反映する場を設けることが考えられる。この場合は、当然のことながら、地区計画に定めた容積率や高さの上限が、総合設計制度の容積率や高さの上限となる、もしくは地区計画に定めた上限から逸脱しない範囲(たとえば、10%増しまでの範囲)とすることが必要であろう。

以上、民間投資と公共性の観点から、総合設計制度の評価や課題、今後の方向性などについて論じてきたが、総合設計制度のあるべき姿は、詳細な数値基準に基づく容積率や高さ制限の緩和にあるのではなく、市街地環境の改善や周辺地域への貢献の観点から、気持ちの良い市街地空間を創造することなのではないだろうか。

図2:旧フジイ一番町ビル(現住友不動産一番町ビル)と公開空地

東京都千代田区一番町に、私が個人的に好きな総合設計の建物がある(図2)。緩い南傾斜の坂道沿いに公開空地が設けられ、元々の敷地にあったケヤキなどの樹木が保存され、自然な溜まりをつくる歩行者空間とベンチ、そして緑地帯の調和が心地よい。昼下がりには、周辺のオフォスで働く人々がベンチでお弁当を広げ、くつろぐ姿が都心の喧騒を忘れさせる。このビルの総合設計の許可は1985年で、東京都でも初期の事例の一つである。わずか650㎡ほどの公開空地であるが、道路空間や周辺環境とも見事に調和し、周辺地域の市街地環境の質の向上に間違えなく貢献している気持ちのいい空間だ。こうした事例が増えていくことを、心から願っている。

★1「総合設計制度における高さに起因する紛争の抑制に関する研究 : 東京都区部を事例に」河村 茂, 日本建築学会関東支部研究報告集79巻,pp.149-152,2009年3月

★2「総合設計をめぐる紛争と制度的解決に向けての考察」富田 裕,日本不動産学会誌第24巻,pp.78-85,2011年4月

同上公開空地

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田村誠邦
建築討論

㈱アークブレイン代表取締役、明治大学研究・知財戦略機構特任教授。1954年生まれ。東京大学工学部建築学科卒業 博士(工学)、一級建築士、不動産鑑定士。マンション建替え・建築再生等、各種建築プロジェクトのコンサルティングを専門とする。