福島県内の仮設住宅の現状と再利用に関する報告

浦部智義+芳賀沼整 [ 201801 特集 「造」と「材」]

浦部智義
建築討論
12 min readDec 31, 2017

--

現状と再利用の概説
東日本大震災及びその後の原発事故の影響によって、福島県内に建設された仮設住宅は約16,800戸、そのうち県による買取りで整備したものが約13,400戸、プレハブ協会によるリースが約3,400戸である。それらの仮設住宅は、平成29年10月末時点で、約2,600戸が撤去され約14,200戸が残っている。そのうち入居戸数は約3,000戸で5,000人弱の方が、未だに避難生活を送っている状況である。

それらの仮設住宅の供与期間は、平成28年7月15日付で原則平成29年3月末までとなっていたが、楢葉町・富岡町・大熊町・双葉町・浪江町・葛尾村及び飯舘村の全域、南相馬市の避難指示区域及び究避難指示区域(H28年7月12日解除)、川俣町の避難指示区域、川内村大字下川内字貝ノ坂及び荻のすべての区域(H28年6月14日解除)は1年の延長とされた。主な理由としては、避難指示解除の見通しや、復興公営住宅の整備、自宅の建築・修繕等住居の確保の状況を踏まえてのことである。なお、いわき市・相馬市・南相馬市(上記以外)・広野町・新地町においても特別の事情がある場合平成30年3月末までとしている(特定延長)。また、平成30年4月以降の延長に関しては、楢葉町以外の9市町村は今後の判断とし、楢葉町において原則延長はしないが、各状況を踏まえ個別に延長することを検討している(特定延長)。

その様な状況の中で、上述した県による買取りで整備した仮設住宅約13,400戸(プレハブ協会分約6,600戸・地元公募約6,800戸)が再利用の対象とされた。県が制定した仮設住宅の再利用制度としては、「無償譲渡」と「解体入札」があり、基本的に前者が公共機関及び個人事業主、後者が建設業者を対象に行われる。無償譲渡では、コンクリート基礎で造られた仮設住宅の災害公営住宅への転用したもの(川内村)のほか、後述する、大平農村広場応急仮設住宅団地(二本松市)の一部を浪江町が「いこいの村なみえ」内一時宿泊所として整備したもの、同団地(二本松市)の一部を県外一般社団法人「石巻日本カーシェアリング協会」が宮城県石巻市に自社事業所として整備したもの、さらに、恵向公園応急仮設住宅団地(本宮市)の「グループホーム虹の家」を浪江町が窓口となって本宮市街地へ移設再整備したものの他、何件かの計画が進行中である程度である。解体入札後の再利用に関しては、県内の工務店により入札された斎藤里内仮設住宅(三春町)の一部が塙保育園(塙町)の増築に再利用されている例などがある。

なお、以前建築雑誌2015年1月号でお話しした、会津若松市の県営城北団地の板倉構法の仮設住宅の再利用は、県が公共工事として行ったもので、現在、県が展開しようとしている上述した再利用とは仕組みが異なるものである。

再利用の手順としては、まず県のホームページにより無償譲渡の公募が行われる。応募の資格として、①当該応急仮設住宅の管理市町村、②前号以外の市町村、③自治会、④公益法人又は特定非営利活動法人、⑤前号以外の公共団体又は公共団体のうち、利用目的が被災者の支援若しくは復興事業に寄与すると知事が認めるもの、⑥利用目的が本県の産業振興又は地域振興に寄与すると知事が認める企業(個人事業主を含む)とされている。

次に、無償譲渡に応募がなかった物件について、建築工事業の許可を有している者、また本店又は支店、営業所が福島県内にあることなどの条件を満たしている建設業者向けに、応急仮設住宅撤去業務の一般競争入札が行われる。入札金額は、基本的には撤去・処分業務であるが、再利用を促すために、再利用が可能と判断した部材等がある場合には買取費用を引いた金額で入札を行うことができる仕組みとなっている。

具体例の報告
ここでは、これまでに再利用が実現している無償譲渡の事例のうち、筆者らが係っている、浪江町内滞在者向けのコテージ「いこいの村なみえ」、県外一般社団法人が自社事業所「石巻日本カーシェアリング協会」、本宮市街地の福祉施設「グループホーム虹の家」のログハウス型仮設住宅団地を対象とした3つの事例について報告する(図1)。

図1:仮設の移設前後の比較

「いこいの村なみえ」
平成27年9月頃に浪江町からのアプローチでスタートし、新築と仮設の移築にかかる費用の比較検討などを経て、平成29年6月に二本松市にある浪江町の大平農村広場の仮設住宅団地のログハウス型の4戸1棟の仮設住宅(図2)5棟20戸を解体(図3)して、同年7月に浪江町内のいこいの村にて着工し10月に完成したものである(図4)。

図2:4戸1棟の仮設住宅
図3:解体時の風景1
図4:いこいの村なみえ

いこいの村は、役場や浪江駅がある町の中心部から10分以内の距離に位置し、震災前、町民にとって休暇(日帰り温泉・宿泊)やレクリエーション(テニス等)の場所であった。そういった場所に、浪江町に何らかの用事で帰町した際、安心して一時的に宿泊できる施設として整備したもので、町民の帰町への一助となることが期待されている。なお、同敷地内にある元テニスコートの管理棟を改修し、宿泊施設の管理事務所としている。

数多くの住民が暮らした仮設住宅とはいえ、それらを再利用して町の施設に利活用するといった計画は、役場の判断がないと出来ないことであるが、2013年11月の建築雑誌でも触れた、2012年に会津若松市の仮設住宅をいわき市に仮設住宅として移設した前例とその時のスタディが参考にされたという。

なお、建築としては、復興期の公共建築としてのクオリティの確保を意識して、屋根勾配に沿った室内の空間構成としたり、新しい衛生器具の選択やログ材の磨きによって経年変化を感じさせないことを目指した。

「石巻日本カーシェアリング協会」
津波被害を受けた石巻市北上川河口付近の病院跡に拠点を置き、交通弱者の人々への車の貸出や高齢者の買い物への同行等のサポート事業を行っていた複数のNPO法人が、北上川河口堰改修工事に伴う病院跡の解体退去に伴って、新たな拠点施設を必要としていた。

平成28年12月頃に、上述した新たな拠点施設づくりの打診があり、その計画・設計がスタートして暫くたった平成29年4月頃には、その整備を木造仮設住宅の再利用で行う方向となった。同年9月には、二本松市にある大平農村広場の浪江町の仮設住宅団地にある4戸1棟のログハウス型仮設住宅が1棟解体(図5)され、同年10月に工事し、11月には一室空間を意識した間仕切りの少ない事務所として完成した(図6)。

図5:解体時の風景2
図6:石巻日本カーシェアリング協会

このプロジェクトでは、コストを予算範囲内で抑えるためにボランティアを募集し、内装等をボランティアが作業するなど、徹底した人海戦術による職人のコスト調整が試みられた。それに関連して、細かい仕分け作業が出来たことで、元の部材の再利用率が高まったほか、コンセント器具等も最大限に活用できた。

図7:恵向公園内の仮設住宅団地内にあったグループホーム虹の家(撮影:藤塚光政氏)

「本宮グループホーム 虹の家」
震災直前まで、浪江町内で施設を運営していたグループホームが、震災後の平成23年9月から本宮市の惠向公園にある仮設団地内の仮設建築で施設を再開し、近隣の仮設住宅とみなし仮設住宅に暮らす浪江町内からの避難者を対象として運営していた(図7)。

図8:グループホーム虹の家

惠向公園内の仮設住宅は、一次公募時のログハウス型のタイプであるが、仮設団地内で唯一軸組構法で作られたグループホームが、それらの仮設住宅より先に平成29年5月に2キロ程度離れた本宮市内に移設されたのである。平成27年4月に、その計画・設計の打診があってから、予算のシミュレーションや計画・設計などに1年半かけ、平成29年1月に再利用部分の着工をした。施設の移転に当たっては、第1期として仮設グループホームと同規模の新築棟を建設し仮設団地で運営していた施設機能を先に移行し、その後、第2期として仮設再利用棟の工事を行い、新築棟と仮設再利用棟をL型につなぐ計画とした(図8)。

解体時には仕上げ材等の再利用も意識し、表皮の張り替えの有無も相談してから判断しコスト調整を図った。なお、新たな工事としてコンクリート基礎工事を行ったほか、設備工事の際は給排水配管、電気設備配線等の再利用はせずに廃棄処分とした。

以上の事例のうち先の2例に見られる様に、校倉構法的に木材を積み上げ、ある程度の耐震性能、断熱性能を持つ木材が内外あらわしというシンプルさを特徴とするログハウス構法が、仮設住宅建設当時の想定通り、新しい用途に応じてカスタマイズしながら再利用されたことは、意義あることではないだろうか。

今後に向けて
木造仮設住宅は、各部位の構成数を少なくすることで、再利用時の解体・移築時の施工工程を減らし、現場での施工性の向上・運搬のしやすさに影響を与えると云える。その部材構成数を減らす具体例として、ログハウス構法の様に一つの材料で内壁・外壁・断熱の機能を持つ様な多機能部材で構成しているもの、木造パネル化構法の様に、断熱材を一体的に組み合わせた壁パネルを用いているもの等がある。一方で、仮設住宅としての使用期間が長期化することで、外・内壁等の劣化により再利用率が下がることも予想される。

再利用時の部材の判別は、特に事業者(設計・工務店)の再利用への意識の差により左右されるであろうが、再利用をあらかじめ想定する場合には、接着材の使用を極力避けたり、乾式工法による施工等に注力して施工に当たるなど、再利用時を意識した周到な準備が必要となろう。

また、例えばログハウス型仮設住宅の場合の壁面の断熱性についてみると、現在一般的になりつつある次世代省エネ基準相当の約1/3の性能値であり、そのレベルの断熱性能を満たす事は出来ない。即ち、一定の断熱性能を持った建築として再利用する際には、ログ壁の内外どちらかに断熱層を付加したり、屋根及び床下面についての断熱性能をより強化することで、家全体として断熱レベルを確保する必要があろう。

なお、上述した様な事業者の再利用への意識の温度差や、移設費用負担もあり新築と比べて格段のコスト縮減につながるとはいえない状況もあり、仮設住宅の再利用は現在のところ冒頭で述べた事例が主なもので、そう頻繁に行われている訳ではない。一方で、無償譲渡の制度や先行事例を情報発信することで、徐々にではあるが興味を持つ人があらわれている例として、最後に筆者らが取り組んでいる計画について報告する。

「沖永良部島への移転計画」
熊本地震以降に、太平洋と東シナ海に挟まれた沖永良部和泊町の人達と縁が出来た。沖永良部は、大規模開発ではなく小さな点をつないで魅力を作り出す観光を目指している島である。

その島民の方が興味を示されたのは、ログハウス型仮設住宅を再利用した沖永良部型の環境住宅建設である。建築材料の多くは、島外から持ち込まれ建設されること、また、ある程度プレファブ化され建設時に高度な技術を要しないログハウス構法が離島での建設に適しており、その再利用に興味を持たれたと云える。

現段階の構想では、桁上から屋根までの上段を風の通り道として確保し、床下からサンゴ礁起源の石灰岩によって通年20℃前後に保たれた空気を取り入れ、エアコンの負荷を最小限に留めるといったものである。2017年12月末には、二本松市の大平農村広場の仮設住宅団地からログハウス型仮設住宅2戸1棟が解体され、屋根用ガルバリウム折板、ログシェル構造体、開口部アルミサッシュ、内装床下材等をコンテナ積みして、島へ運搬される予定である。

*本稿は浦部智義と芳賀沼整の共同レポートである。

芳賀沼整
はがぬま・せいはりゅうウッドスタジオ取締役。建築設計・都市分析。作品:『家業(柏屋)』、『都市計画の家2』、『希望ヶ丘プロジェクト』ほか。著書:『木造仮設住宅群−3.11からはじまったある建築の記録-』ほか。

--

--

浦部智義
建築討論

うらべ・ともよし/日本大学准教授。建築計画・施設計画。著書:『木造仮設住宅群-3.11からはじまったある建築の記録-』、『建築計画を学ぶ』、『劇場空間への誘い』ほか。作品:『地形舞台』『ロハスの家3』、『希望ヶ丘プロジェクト』ほか。