科学の贈り物「自転車」
サイクリングの思い出、ロードバイクへの憧れと、その歴史。

神奈川県横浜市。飲食店や露店の並ぶ中華街。
そこを訪れて歩いたとき、赤い自転車が歩道の脇に置かれているのに気が付いた。「baybike(ベイバイク)」と書いてある。調べてみると、横浜市が実施主体となっているレンタル自転車サービスのようだ。きっと、市民や観光客の移動を手助けしてくれているのだろう。

サイクリングロードをめいっぱいに走った経験
自転車。人が歩くよりも気軽に素早く移動ができて、駐車場や一方通行にも悩むことのないこの乗り物が、ぼくはけっこう好きだったりする。歩くよりもずっと早く移動ができるし、漕いでいると運動もできる上、外の空気と吹き流れていく風が気持ち良くて、環境にも優しい。
そして、ふっと立ち止まったり、周りの景色を見渡したりできる良さ。車より小さいので、すっと人の生活圏に入ってゆくことができる良さ。それらも魅力だ。
去年、サイクリングロードを何キロも走ったことがあった。地平線まで広く日本海を見渡せるサイクリングロードで、潮の香りも心地良く、めいっぱいにペダルを漕いだ。スピードをあげてビュンビュンと風を浴びて走っていると、本当に気分が良くなった。

自転車の歴史
もともとの自転車の原案は、歴史上どこでどのように生まれたのか、まったくの謎だという。
正確な記録の残る史上初の自転車は、1791年にフランス人貴族のシヴラック伯爵が作らせた「セレリフェール」というものらしい。車輪部分も含めて全て木製で、ペダルもなく、ハンドルを左右に動かすことができなかったので、曲がるときにはその都度降りて車体の向きを変えなければならなかったという。地面を蹴ることによって進み、座部も木製だったため、乗っていると相当に股が痛くなったらしい。
それでも、当時は伯爵が乗り回す度に珍しがって民衆の人垣ができたそうだ。
もしかしたら、空を飛ぶことへの普遍的な憧れが飛行機を生み出したように、何らかの道具によって自分の足で歩くよりも素早く移動したいという憧れを、人は昔から持っていたのかもしれない。
その他にも、現代までの間に様々な形の自転車が開発されてきたようだ。トム・アンブローズ(2014)『50の名車とアイテムで知る図説自転車の歴史』(原書房)に詳しい。
ロードバイクへの憧れ
上記の本で様々な種類の自転車を見た影響か、「ボロボロのママチャリではなくて、もっといい自転車を買ってサイクリングすれば、もっと走りが良くなって、さらに気分も良くなるかもしれない」そう考え、近所のサイクルショップへ出かけて行ったこともあった。
店内に入ると、壁面高くに、立派なロードバイクがしっかりとくくりつけて掲げられていた。美しい青色のボディーに、どっしりとした骨組み、厚いタイヤが印象的で、これならば長い距離を走るのに気分が良さそうだと思った。
しかし、ついていた値札を見ると、20万円近くもした。
ぼくは貴族ではないので、18世紀の庶民の人たちと同じように憧れだけを抱いて、結局そのときは何も買わずにそのまま帰ってしまった。
科学の贈り物を馬鹿にしてはいけない
人に近いところにある「道具」の一つとして、それほど普段は意識されないかもしれない。それでも、庶民や貴族の憧れの対象であり続けたことや、ぼくたちの様々な移動と暮らしを助けてくれていることを、たまには思い出してみるのもいいかもしれない。
学校へ通う、通勤に駅まで乗ってゆく、日常のお買い物に、子供の迎えに、遊びに、エクササイズに、などなど、ぼくたちのいちばん身近にある乗り物、自転車。
股を痛がったって、決して馬鹿にして笑ってはいけない。19世紀、最大限の賛辞が記されていた。
自転車は、人間にあたえられた科学の贈り物のなかでも上位に入る。自転車があれば、人間はみずからの弱い力を途方もない力で補うことができる。 − サンフランシスコ・クロニクル 1879年1月25日