40代から始めたレガシーボディ改善物語

レガシーコードと日々戦うプログラマーに送る、もっとも身近なレガシーシステム改善のススメ

Takeshi Kakeda
kkd’s-remarks
16 min readAug 12, 2017

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https://www.flickr.com/photos/giuseppemilo/18553677950

Web公開によせてのまえがき

本記事は、2016年のAgile Japanで配布されたEM ZERO Vol.9に寄稿した「ある40代男のレガシーボディ改善の物語」を加筆修正・改題したものです。

当時、久しぶりに真面目に書いた記事だったので、ちゃんと公開したいなぁと思いつつ、1年以上が過ぎてしまいました。たまたま見つけたので、今回ここで加筆修正して公開することにしました。

オリジナル記事は、マナスリンクの野口さんにレビューして頂きました。重ねてお礼申し上げます。

はじめに

久しぶりのEM ZEROへの執筆ということでワクワクしています。今回は、ここ数年取り組んでいるヘルスハック(健康増進の工夫)について触れてみたいと思います。

失敗の数々

これまで、人生の中で多くの失敗をしてきました。その中でも特筆すべきなのはダイエットの失敗です。

子供の頃から大柄だった私は、高校の頃には最大86kgの体重を記録し、それ以降も78kg付近をいったりきたり。たまに一念発起して、75kgくらいに減らしては戻り、戻っては増え、そしてまた減らしては戻る、そんなジェットコースターのような体重変化を20年くらい繰り返してきました。その失敗談は自分のブログにまとめています。

なぜ、うまくいかなかったのでしょうか?当時の私にはなぜ体重を減らしたいのか減らした先にどうなりたいのかという具体的ななりたい姿がなかったからだと感じます。

ランへの目覚め

2010年に東京から愛媛に越してきましたが、それまで当たり前だった通勤をしなくなったため、身体が明らかに重くなっていきました。代わりに自転車によく乗るようになりましたが、それでも毎日の通勤の運動量には遠く及びません。

そんな状況を、なんとなく「まずいなぁ」とは思っていましたが、具体的な行動としては、万歩計を買って、一日1万歩を目安に歩くことを意識する程度でした。

そんな私ですが、2012年(当時40歳)から突然走り始めました。シューズもウェアも買わず、ありあわせのスニーカーとTシャツで。それまで「走るという習慣」なんてものは、人生の中で一度もなかったにも関わらず、です。

小さなきっかけはいろいろありました。

マラソンなどに興味が一切なかった自分が、実は愛媛マラソンが(当時)50回目の開催(=50年前から開催している)だったことに驚いたこと、その愛媛マラソンを走る市民ランナーの姿をTVで見ると多くは「普通の人」だったこと、活動量計+スマフォアプリで歩数や消費カロリーの目標達成を楽しそうにやっている妻の姿、そんな小さなことが積み重なって、走り始めました。

「XXキロ痩せる」だの「マラソンに出場する」など大きな目標ももたず、なんとなくやってみたいから、楽しそうだからというだけでした。

初日は3kmを20分くらいで走りました。翌日は足が筋肉痛で、階段の昇降にとても苦労しました。それでも、3km走れたことが嬉しくて、足が痛ければ歩き、痛みがなくなればまた走りだしました。走るたびに距離や時間を伸ばしていきました。3kmが5km、そして10kmへ。20分が、30分、そして1時間に、少しづつ伸びていきました。

10km以上が普通に走れるようになってきたので、「ハーフマラソンも走れるかも?」と思い、ハーフマラソンレースに出場してみて、案外走れることに気づいたのは、走り始めてから5ヶ月後のことでした。

これまでまったく習慣のなかった自分でも、少しづつ遠くまで走れるようになる、自分が成長する歓び・楽しさに導かれていきました。

走るために生まれてきた

また、走り始めた頃、たまたまカフェで見かけた『BORN TO RUN』という本を手にとりました。

タイトルは、邦訳すると「走るために生まれた」となります。少し読んでみましたが、その時はピンとくるものはありませんでした。しかしタイトルがどうしても気になって、結局自分で購入して最初から読み始めました。すると、読み進めるうちに、どんどんのめり込んでいきました。

この本では、人間は、他の動物と比べると、長距離を走るということに最適化された構造にデザインされているという事実、靴を履くことで本来の身体の動きと異なってしまい、その結果として問題(怪我、身体の使い方の欠如)が発生していること、裸足で走ることが本来の人体の構造に適していること、世界には走ることを当たり前としている人々が住んでいるということ、フルマラソンを越えた超長距離の山を走るレースがあるということ、などなど。どれもが今まで聞いたこともない新鮮な驚きばかりでした。

自分の身体で検証したい仮説

これまでまともに運動していない自分でも、人類の本来の動きを取り戻せば、裸足で走れるようになるのだろうか?という仮説を検証したい欲求がふつふつと湧いてきました。

その結果、「走ること自体・走ることで自分が成長できる歓び・楽しみ」に加えて、人の身体の可能性を生かして走れる(=裸足で走る)ことを検証する、という新たな目的が生まれ、走ることにどんどんのめり込んでいきました。

裸足でも走りました。一時期度が過ぎて怪我もしましたが、今は日常生活からレースも含めて、できるだけ薄底でフラットなソールのシューズしか履きません。ロードなら100kmマラソンも体育館履きのような靴で走ります。

ランから食生活への目覚め

走るという行為で身体に興味を持った結果、食生活にも目を向けるようになりました。

人は食べたものを身体に取り入れ、日々の過ごし方の積み重ねによって、身体がどのように構成・成長・維持されるかが決まります。文字通り人は食べたものでできているのです。

これを仕事に言い換えてみると、どんな経験をして、日々どのように考え仕事に取り組み、何を学んで、何に取り組んでいるか、その日々の積み重ねによって、仕事の成果や、その人の成長が決まる、ということです。至極当たり前な仕事感でしょう。

「何かをインプットし、処理をして、何かをアウトプットする」と抽象的に考えてみると、「食べて、運動して、成長する」も同じことです。もっとも大事である自分の身体・健康について、仕事と同じような意識で取り組んでいる人はどれほどいるのでしょうか?

炭水化物、タンパク質、食物繊維、などなど、様々な角度から、様々な情報が溢れています。今まで完全糖質オフを含め、様々な取り組みを経て、現実的にできる範囲で、身体にできるだけ自然な様々なものを食べるようにしています。極端な食事制限・制約は不自然だということに気づきました。

脳を鍛えるには運動しかない?

また運動することが、脳科学の分野でも注目されていることも知りました。有名なのは、ジョン・レイティ氏の『脳を鍛えるには運動しかない!』です。

この書籍では、「運動すると、なぜ脳によいのか」という点を、様々な角度から科学的な結果を元に説明しています。

思えば、2006年頃に一部で話題になったライフハックである腰リールメモは、歩きながらふと思いつくアイデアを記録するためのガジェットでした。

歩いている時に、アイデアが思いつきやすいのは、脳が活性化しているから。以前の職場が新宿御苑の近くだった時に、散歩しながらミーティングを頻繁に行っていたのも、歩きながらのほうがいろんな考えがまとまるからではないか?、これまで、「なんとなくそっちのほうがよさそう」という感覚で行ってきたことの、裏付けができたと感じました。

そのため、今では、思考が煮詰まった時には、意図的に走りに出たり、走りながら考え事をしたり、走りながらミーティングをすることもあります。

体質・習慣改善はシステムの改善である

改めて思うのは、自分の身体を変える、生活習慣を変えるということは、自分というシステムの改善であるということです。

自分や自分を取り巻く環境は、そのシステム改善の前提にしなければならないし、自分というシステムの過去をなかったことにして、ゼロから作り直すことは不可能です。

現状をみつめて受け入れた上で、ありたい姿を描き、 そこに向かうために、ひとつひとつ階段を登っていく。うまくいかない所は、うまく行くように少しづつ変えて、小さな成功体験を積み重ねていく。古い習慣を徐々に、新しい習慣に変えていくのです。

最初は週に一度のジムに通っての運動だけかもしれなません。ジムに通うのが難しいのであれば、自分の部屋や、近くの公園から始まるかもしれません。いつしか週一が週二となり、仕事の進め方も、運動する時間をどう捻出するか、という思考に変わるかもしれません。

皇居に走りに行き始めたら、徐々に仲間ができてランニングクラブに参加する。クラブの皆と週末に合同練習をすることになる、というようになるかもしれません。

これらのように、最初は自分の周囲の制約の中で始めた行為を皮切りに、漸進的に、自分や、自分を取り巻く環境がゆっくりと変わっていくのです。

「今を変えたい」だけでなく「こうなりたい」を作る

ここで重要なのは「〜を変えなければならない」という強迫観念だけでは続かない、ということです。

私の場合、「いつか裸足でマラソン走りたいなぁ」というぼんやりとした未来像と共に、近い将来の目標としての「ハーフマラソンを完走したい」、「フルマラソンで4時間切りたい」という、明確な、ちょっと先にあるなりたい姿に向かうことになりました。

そういった小さな「こうなりたい」を追いかけているうちに、いつしか「100kmマラソンを完走したい」、「100マイル(160km)のトレイルレースを完走したい」という、最初は思いもよらなかった、ちょっと先〜かなり遠い先の「なりたい姿」が見えてきました。

今では100kmマラソンも何度も完走できるようになりました。次は「100kmのトレイルレースの完走」を目標とし、そして来年、再来年には「100マイルのトレイルレースの完走」という、当初は思いもよらなかったビジョンが徐々に形になってきたのです。

ビジョンは最初から明確でなくてもよいのです。少しづつ前に進みながら、徐々に現れてくる創発的なものでよいのです。

今を楽しむ・工夫する

2つめは、未来を見据えるだけでなく、今ここを楽しむことです。いくら向かいたい未来が魅力的でも、その過程の一日一日、一瞬一瞬が、退屈であったり楽しめなかったら人はなかなか継続することができません。

ただし、この部分はその人のタイプによるのかもしれません。大きく分けると、目標達成を至上とする目標至上主義の人は、目標達成のためにすべきことを淡々とやり遂げることが出来ます。

しかし、私のような目標至上主義というよりも、その過程をより重視するプロセス至上主義では、「目標の達成」だけを見据えて物事を前に進めることが苦痛です。そのため、その目標までの過程に意味を見出すことで達成感を得て、その過程自体をも報酬とします。

そのため、今をどう楽しみ、よりよく、充実させるための工夫を継続的に考えておこないます。

例えば、「畑に走っていって水やりしてみよう(水やりラン)」とか「走りながらミーティングしてみよう(ランミーティング)」といった自分の環境に合った小さな改善を考え実施したり、スマフォやGPSウォッチで自分の走った記録をつけて分析するといったガジェットの利用、自分で草鞋(わらじ)を編んで走ってみよう(ワラジラン)といった、自分で思いついたり、何処かで聞いたことのある、プロセスをより楽しく、効率化し、有意義にする工夫をしながら、日々のラン生活を楽しんでいます。

試してみる、ふりかえる、改善する

変化の過程では、アジャイルと同様にフィードバックループを回すことが不可欠です。なにか新しいことを試したら、評価してみて継続するかを判断します。レースに出て失敗すれば、そこから学んで次に生かします。まずは試してみて、自分の体験を元に評価する、そういった試行錯誤を意図的に行います。

健康や運動に関する情報はいまや溢れんばかりにあります。情報のインプットも大事ですが、それらの情報に振り回されるのではなく、自分でひとつずつ試し、ふりかえり、次のステップを自分自身で見出していくフィードバックループが一番重要だと信じています。

健康はすべてにつながる

さて、話をプログラマーという文脈で考えてみましょう。プログラマーは、テストが整備され、日々テストが実施されてグリーンを維持し、可読性が高く、品質が高いコードを「健康的なコード」と喩える場合があります。健康的なコードは、持続的に価値を提供することができるためです。

次にメタファーではなく、プログラマが関わっている開発対象のシステム・プロダクトは、関わっている人も含めてひとつのシステムと考えてみてください。

プログラマが自身の健康をまったくないがしろにして、日々仕事だけに没頭しているとすると、短期的にはコードの健康状態は維持している、つまり「技術的負債」は返済しているとしても、中長期的にみた場合には、プログラマの「健康的負債」を、システムに対して日々借金しているのかもしれません。

世界保険機関(WHO)は、健康を以下のように定義しています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

(健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。)

仕事で成果を出すこと、社会的に認められたり、人と繋がること、精神的に満たされること、それらと同じように、肉体的に充実させ、その状態を維持することが、すべてが満たされた状態にあるということになります。コードも身体も実はつながっていると考えることができます

健康的なコード、健康的なシステムとは、ソフトウェアシステムのことだけでなく、あなた自身をも含んだシステムの健康度を指すと考えた方がよいのではないでしょうか。

もしも、あなたが、40歳を過ぎて身体のことをまったく考えていないのであれば、少しづつ、できることを始めてみてください。自分が「楽しい」と感じることだけをまず行い、自身の身体と対話しながら、頭ではなく身体が求めること、自分がなりたいと思う姿を描いて、工夫してみてください。

肉体的のみならず全方位的に健康な状態を作って維持し、充実した仕事や充実した人生を送るために、一歩を踏み出してください。

Web公開によせてのあとがき

著者紹介に書いた2016年度の目標(100kmマラソン完走、70kmのトレイルレース完走)は無事にクリアしました。2017年度の目標は、100kmのトレイルレース完走と、裸足でのフルマラソン完走だけまだクリアしていないですが、今シーズンに自作ワラジでのフルマラソンの完走をまずは目指そうかなと思っています。

この4年の体重変化の軌跡などは以下のスライドを参照してください。

全走歴の記録はこちら↓

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Takeshi Kakeda
kkd’s-remarks

I’m Thinker, Doer, Maker, iki-iki Generator and Runner in Ehime, Japan. My blog is https://tkskkd.com/