大会中止の意志決定はなぜ遅れるのか?〜意思決定に関する2つの視点

奥四万十ウルトラトレイルの中止を受けて、レース中止のリスク、タイミング、意思決定を考えてみてわかってきたこと

Takeshi Kakeda
kkd’s-remarks
10 min readOct 30, 2017

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難しい荒天による大会の中止決定時期

先週末(2017/10/29)は、高知の奥四万十ウルトラトレイルに参加予定だった。このレースは四国で開催される数少ない長距離トレイルレースで、かつ今年はITRA(国際トレイルランニング協会)の大会ポイントが付加されると聞いて、参加を楽しみにしていた。

残念ながら週末に日本列島を襲った台風のせいで、前日の午前中に開催中止が決定した。ちょうどその時、自分は高知駅で、受付会場の多ノ郷に向かう電車の発車待ちの車中で中止の報に気づいて、同乗していたランナーに伝えて列車が発車する前に飛び降りた。

奥四万十ウルトラトレイルは、昨年が第一回の大会で9月開催予定だったが台風で一度中止になり、急遽11月の順延を決定した。しかし急な変更のせいもあり、参加者も減り、協賛各社もいないという寂しい状況でなんとか開催に漕ぎ着けたという経緯があった。そのため今回はなんとしてでも開催したかったという主催者側の思いはよくわかる。

一方、今回列車に同乗して間一髪で電車を降りたランナーの方々は千葉県から来ていたが、もし中止の決定が2日前、あるいは当日の早朝出発前であれば、彼らは交通費と時間を掛けて高知に来る必要もなかったのも事実だ。

「前日朝の時点で開催と告知したからには、コース変更を余儀なくされても、開催する方向で進めてほしかったし、参加者としてもその覚悟で現地に来た」というのが参加者側の言い分だ。

自然には逆らえないとは言え、参加者側、とくに遠方からの参加者としては、早期決定が望ましいというのは多くの人が思うところだろう。

どんなリスクがあるのかを考えてみた

自分も、愛媛に住んでいながら、遠方へのレースに参加することもあるので、この問題は他人事ではない。そこで、悪天候についてどのようなリスクがあるのかを少し考えてみた。

主催者側、参加者側のリスク一覧(推測)

図1リスク一覧

主催者側、参加者側でそれぞれリスクを、中止ないしは強行開催のタイミングでどのようなものがありそうかを考えてみた(図1)。自分はレース主催者側のことは知らないのであくまで勝手な推測に過ぎないのはご了承頂きたい。

レースも地元の参加者メインなのか、国内から参加者が集まるのか、国際大会なのかによっても変わると思うが、ひとまずは「国内から参加者が集まる」という前提でリスクを洗い出してみた。

主催者側の思い

主催者側としては、次年度移行の開催にも関係するので「開催実績を作っておきたい」というのは重要なことなのだろう。またあまりに早く中止を決定したり、レース中の事故(特に死亡事故など)があると、参加者だけでなく主催関係者(地元の方々、協賛各社)への対応が多いと推測する。ここの対応に失敗すると、次年度移行の開催が危ぶまれる、あるいはスポンサーが減ってしまう、ということもあるのかもしれない。

参加者側の思い

他方、参加者側とすると、今回の奥四万十ウルトラトレイルのように、ITRAポイントが付加予定のレースについては、参加し完走することでポイントを取得することを念頭においており、各自のレース計画としてはできれば開催してもらってポイントを取得したいという意向が働く気がする。

もちろん、開催されるのに越したことはないが、参加者側としては大会の開催如何に関わらず、自分の意志で参加するかどうかを決める、というカードを持っているのは主催者側とは大きく異る点だろう。

最も困るのは「現地に移動したのだけど、着いたら中止になっていた」というものだ。もちろんレース中に事故に合う(死亡如何にかかわらず)のも困るが、最悪自己責任での参加となっているし、ある程度スポーツ保険も降りるので、このあたりは人によって感覚は違うのかもしれない。

宿泊費のキャンセルは当日だと100%負担になってしまう。飛行機や電車で移動する場合は、前日に移動することが多いはずなので、前日出発前に開催可否が決定されているのが望ましい(海外レースの場合はその限りではないが)

中止になっても参加費返金がないという点は、参加者も承知しているし、当日強行開催するような場合も、参加者はそこまでの覚悟をして自己責任で来る人が対象と考えてよいだろう。

どのタイミングにどれだけのリスクがあるか?

上記の一覧を、もう少し時系列に並べてみたのが次の図だ。これを見ると、主催者側は、どこで中止・開始を決定しても、リスクの数はそれほど変わらないことがわかる。他方、参加者側は、前日・当日中止発表の際にリスクの数が増えるようだ。

図2 リスクと発生タイミング

この図は単にリスクの数をカウントしただけなので、あてずっぽうだが重み付けをして、どうなるのかを考えてみることにしたのは図3だ。

図3 リスクのざっくり重み付け

このあたりは、金銭的重み付け、社会的影響の重み付け、リスク回避の手段などなど評価指針がいくつもあると思うが、今回はざっくり3段階で重み付けしてみた。

主催者側の場合、中止の際に一番リスクが高そうなのは、2日前の中止決定による説明責任の部分と推測した。理由は先にも言及したが、関係各社・参加者への説明だ。この部分は、今年の丹後ウルトラでかなり炎上したらしい。

逆に、当日強行開催して大きな問題になったのが、2016年のUTMF/STYだった。

定番レースならともかく、新しいレースだとレース実績を作るというのも大事なのかもしれない。社会的責任・人命に関わるリスクという意味で主催者側の事故リスクを最大のリスク要因としてみた。

同じ事故リスクでも参加者側の場合は、自己責任で参加可否を選べるかつ、当日でも自分の意志で不参加を選択できるため低めにしている。旅費負担が遠方を考えた時に最も高いリスク要因となるとしてみた。

その結果を日付ごとにマッピングしてグラフにしてみたのが、図4だ。

図4 リスク変動グラフ

これをみると、主催者側のリスクは当日に近づくほど徐々に軽減していくが、参加者側のリスクは前日・当日中止決定の場合、二日前決定、強行開催のときよりもずっと高まるように見える。

ここまでをまとめると

  1. 大会開催・中止のリスクは意思決定タイミングによって異なる
  2. 主催者・参加者の視点でリスクの内容や重み付けは変わる
  3. 主催者側は、決定をできるだけ遅らせることでリスクを軽減できるが、参加者側は、早めの中止か、(自己責任においての)強行開催のみでしかリスクを回避することは難しい

ということのようだ。

意思決定の観点は何か?

リスク変動グラフを元に、主催者観点と参加者観点を総合すると、ベストな意思決定タイミングは「二日前〜前日早朝まで」で、意思決定内容は「中止/強行開催」が最もリスクが低いように思える。

現在のレースの中止決定において参加者視点のリスク要因がどの程度考慮されているのだろうか?主催者側の言い分(今回見えてないリスク要因とその影響度)もあると思うが、参加者視点を加味した上で、開催可否の決定時期を決めていただくのが良いのではないだろうか?。

また、その判断基準が曖昧、ないしは不透明というのは、意思決定プロセスが見えないため、余計に関係者の不満を生み出す。例えば、降雨量、風速、気温という項目の基準数値を規定・公開し、そしてその規定を毎年見直しながら、天気予報の情報を元に合理的・論理的に最適なタイミングで意志決定することが、関係者説明責任を果たす上で重要だと感じる。

デメリットを考えた時の意思決定〜プロスペクト理論

意思決定について、ダニエル・カーネマン氏の提唱するプロスペクト理論がある。

プロスペクト理論(Prospect theory)とは、人は利益を得る場面では「確実に手に入れること」を優先し、反対に、損失を被る場面では「最大限に回避すること」を優先する傾向があるという行動心理を表した理論です。

リスク変動グラフとプロスペクト理論を合わせて考えると、大会可否のの意思決定判断の遅れは、主催者側のリスク回避を中心に考えて行われてはいるためではないか?というように見えざるを得ない。

主催者・参加者にとって納得のいく意思決定を

安全にレースを開催して益を得たい・楽しみにしているのは主催者も参加者も同じこと。自然相手では予測は困難。そういう前提を共有した上で、損失回避の観点では、主催者だけでなく、参加者視点も含めたリスク回避を考慮した意思決定を望みたいし、主催者側も参加者側も納得のいく形のレースが増えることを期待したい。

最後に一言。奥四万十ウルトラトレイル、来年こそ無事開催を期待して待ってます!!

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Takeshi Kakeda
kkd’s-remarks

I’m Thinker, Doer, Maker, iki-iki Generator and Runner in Ehime, Japan. My blog is https://tkskkd.com/