究極のふりかえり〜学び続け変化し続ける民の話

「人が学び変化する」ことについて多くの深い示唆を与えてくれる本の話

Takeshi Kakeda
Dec 25, 2019 · 9 min read
書影

一万年の口承史とアジャイルとの関係

今年読んだ本の中で一番おもしろかったのが翔泳社の『一万年の旅路』だ。

本書はネイティブ・アメリカンのイロコイ族のある一族に伝わってきた口承史を書籍にしたものだ。

一族は自分たちのことを<歩く民>と呼び、最初に定住していた土地が大災害で住めなくなってしまい、そこから安住の地を目指して何代にも渡ってあるき続けてきた。(原著のタイトルは『The Walking People』)

500ページを超える大著であるが、本書を読んだ時に「変化するとは」「学ぶとは」「共生するとは」「協調するとは」l0l00「生きるとは」どういうことなのかが生き生きとした物語として描かれている稀有な本であると感じた。

アジャイル開発、そして、ティール組織のような現代の最新の流れにも大いに役立つと直観したのでぜひ紹介したい。

ある一族の一万年の物語

驚くべきはその内容だ。一万年も前に地中海付近の地から、アジアを過ぎてベーリング海峡(当時は陸橋)を渡り北米大陸へ渡り、西海岸を南下した後、大陸を横断して東に進み、五大湖付近の永住の地を見つけるまでの出来事が描写されている。

<歩く民>の道程(書籍に掲載されていた地図を元に作成)

内容の真偽については色々と反論もあるようだが、それを差し引いたとしても、その物語から得られるものは大きく「根拠なし」と捨てさるのはあまりにも惜しい。

一族はその悠久の時の中で、様々な出来事、様々な部族との出会いがあり、その中で彼らは多くを学び、その知恵を物語として語り継いできた。

たとえば、荒波の中すでに水没しかけていたベーリング陸橋をひとつの綱でつないで渡る話、栽培の起源となる物語、障害を持つ息子を背負って進むことを選んだ母子の物語、全く価値観の異なる一族とのやりとり、ネアンデルタール人と推測される人々との邂逅、部族紛争に巻き込まれ戦いと平和の間を揺れ動く物語、どの話もとても示唆に富む話だ。

変化する民と、変化に抗う民の違い

物語の中で、この一族はさまざまな民と出会うが、それぞれの民が、彼ら「歩く民」との違いが描かれる。

ある場所に長く住み最適化されすぎたが故に、新しい知識を拒み、視野が狭くなった民、目的を伝えずに巨大建造物を作る働き手のみ欲して他の民の知恵の交流を望まなかった民、石の建造物を作るのに集中しすぎて自分たちの技を持たないものを卑下する民、男女に明確な役割を分担する民、自分たち以外の道には、学びも、知恵も、いかなる価値も認めない民。

そんな考え方、価値観の全く異なる民と出会い、殆どが変化に対して拒否反応を起こす相手に対峙しながらも、<歩く民>はその出会いからも様々なことを学んでいった。

人類は、何千年も前から、変化を受け入れる人と、変化を拒絶する人に分かれていた。その両者を分かつのは、新しい変化を受け入れ、新しい知恵を受け入れ、多様性を受け入れ、みずから変化を望む姿勢だった。

失敗から学ぶ

また彼らは、その旅路の中で何度も失敗をして、その教訓から学び一族とし伝えてきた。こんなストーリーがある。

ある時、別の民から「明日中にその地を去れ」と言われ砂漠を越えないといけなくなった。その際に幼い子供たちが足手まといになると判断し、そのまま置いていっても別の民に殺させるくらいなら、自分たちの手を下して責任を取ることを決めた。

その時、少年が声を上げた。

ここでわれらが決めようとしているのは、われら自身の生死ではなく、あの幼い者たちの生死だ。知恵をいうなら、一番強く影響を受ける者たちの想いを含んでこそ知恵たりうるのではないだろうか?

結局、大人たちは、子供たちに相談をすることはなく、その苦しい決定を行った。

子供たちは宴会の終わりにで長い眠りにつく(=死ぬ)杯を飲み、そして二度と起きなかった。

異を唱えた少年は、こう叫んだ。

おれの言葉を携えて行ってほしい。

それらに込められたおれのすべてが、みなとともに行くのだから。

みなの生存の代償をよく噛み締めてほしい。みなは明後日のために明日を犠牲にするのだから。

自分たちの考えと違うことを恐れ、おのれの一族の<新しい目の知恵>(子供)に耳をふさいだ。

俺はみなの目的に敬意を表する。目的地に到達したときに俺の言葉を思い出してほしい。それを深く考えてほしい。

みながいまなろうとしているような一族になることが、本当にみなの目的なのかどうかを自問してほしい

そう言うと彼は杯を飲み干し、外に出て二度と戻らなかった。

一族は出発し目的地に無事たどり着いた。そして、その少年の言葉を思い出しこう誓った。

二度とふたたび、<新しい目の知恵>に耳を傾けられない民にはなるまいぞ

二度とふたたび、決定の影響を一番強く受ける者たちに耳を傾けられない民にはなるまいぞ

二度とふたたび、急かなくていいときに急いた決定をしてしまう民にはなるまいぞ

いざ、学ぼうではないか。いざ、心にとどめようではないか。

こうやって、一族は悲しい出来事、小さな失敗から学び、その教訓を物語として語り継ぎ、二度と繰り返さないようにしてきたのだ。

知恵を伝えるイメージの力

<歩く民>は、その知恵を伝えるために文字を使わなかった。口伝えの歌として物語として、そして音声として聞いた物語を一字一句記憶するのではなく、イメージとして徹底的に想像、追体験して記憶し、それを伝えてきた。

現代に生きるものとしては、文字、画像、動画といった媒体に外部化してに頼ってしまうところを、人の身だけで一万年も語り継いできたというのは驚愕だ。

一万年といはず二千年前の出来事ですらも、我々がどれほどありありと語ることができるだろうか?

彼らはどのように変化してきたのか

<歩く民>は、物事をよく観察し、情報を集め、それを元に一族で話し合い、最終的に合意をする。異なる民に出会ったら、慎重に近づき彼らの価値観や考え方を学び、可能であれば知恵を交流させようとする。

目的を明らかにして、その目的が綱となって全員を結びつける。今日明日だけではない、先を見つめて決断する。ある絶対的な指導者に従うのでなく、全員の話し合いの元決断する。

慣習に染まっていない新参者の意見に耳を傾け、そこからも学ぼうとする。一人ひとりの個性の違いを受け入れ、変化を押し付けるのでなく、変わっていくのを待つ。そしてそれまでの慣習があったとしても、新しい学びを得て変えることを厭わない。

学びには、かならずそこに至る物語があり、その物語を伝えることで、なぜ必要なのかも含めて知恵を伝え続けてきた。

変化するとはどういうことか

実は、口承史として伝えられてきた物語が本となって出版されたのには訳がある。それは<歩く民>の末裔であるイロコイ連邦オナイダ族は、アメリカ合衆国建国まもない頃に、キリスト教と伝統的信仰との折衷を説く宗教改革を受け入れ古来伝承をきっぱりと捨てることを決めた。つまり、古来からの伝承者もろとも捨て去ることを決めたのだ。

オナイダ族の伝承者であったツィリコマーは、その決定が下されるとすぐに席を立ち、クエイカー教徒の知人の所に身を寄せ逃げ延びた。自分の命を守ろうとしたのではなく、一族の口承史を守ろうとしたのだという。

その後、ツィリコマーから5世代後の子孫にあたる作者(実は直接血の繋がりはないのだが)が、その口承史を書籍にしたというわけだ。

つまり、変化する民は、自ら守ってきた伝統を捨てるという変化を受け入れたのだ。変化を受け入れるということは、それまで大事に守ってきたことを必要とあらば捨ててまでも変化することなのだと、皮肉にも彼らが捨て去ろうとした伝承や歴史から学んだことになる。

日本との関係

最後に、このイロコイ連邦の一族に伝わる口承史がどのように日本人と関わっているかを述べて筆を置きたい。

イロコイ連邦は、アメリカの独立と建国、そして合衆国憲法に重要な影響を与えているという。つまり世界の民主化に影響を与えているということだ。そして戦後の日本国憲法にもその影響があるという。

一万年の旅路は遠く離れた日本にもつながっている。

アメリカ建国とイロコイ連邦との関係については『アメリカ建国とイロコイ民主制 』に詳しいそうだ。これは入手してぜひ読んでみたい。

まとめ

アジャイルは変化に適応するためのものであり、ふりかえりはその「変化に適応」するためにデザインされた活動だ。変化に適応するといことは、新たなことを学びそれを活かすということでもある。

もちろん、彼らのたどってきた変化の道は、今僕らが直面している変化の速度とは全く異なるのは事実だが「変わる」という点においては本質は変わらないし耳を傾ける価値がある。

ふりかえりを行う人達は、表面上のフレームワークの差し替えに溺れることなく、人がどのように学ぶのか、どう変化していくのか、について本書から得られるものがあるはずだ。

本書を紹介して早速読んでくれたkawakawaさんも本書についてまとめてくれているのでそちらも参考にしてほしい。

本書を読んだのは今年の前半であり、自分の再勉強のために整理して、読書会なども企画したいと思う。それだけの価値はあると思うから。

いきいきとした人生のために考え、行動し、生成される何かについて書き留める。

Takeshi Kakeda

Written by

kkd’s-remarks

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