子ども食堂を「宣伝に使う」はアリなのか?

ビジネスと子ども食堂の可否を問う

森哲平
徳島に子ども食堂をつくろう!
6 min readSep 24, 2016

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徳島市昭和町は勤労者福祉会館わーくぴあで行われている子ども食堂のメニュー。子ども無料。おとな300円。

結論から言うと、宣伝、プロモーションに子ども食堂を使えるなら使っってもいいが、やり方を間違えると逆効果しかない。その覚悟はありますか?となります。以下で理由を説明します。

子ども食堂は宣伝になる?

子ども食堂は基本的に「慈善事業」であり「非営利活動」です。格安もしくは無料で子どもに(多くの場合は大人にも)食事を提供しますから、収益を生むことはまずありません。

米や野菜など材料を寄付してもらえる、スタッフはボランティアで賄えるといっても、やはりコストはかかります。収益は出ず、赤字を続ける子ども食堂も少なくないのではないでしょうか。

ところが、子ども食堂にはある意味で自社、自店のビジネス、宣伝に使えてしまう側面もあります。

①社会奉仕によるイメージアップ。②ターゲット顧客へのリーチ(子どもや子育て世代がターゲットの場合)③新聞やテレビ等プレスに取り上げられるのは大きなメリットでしょう。

プロモーションやマーケティングは悪なのか?

世の中にはプロモーション、宣伝、広告、マーケティングといった言葉を聞くだけで顔をしかめる人もいます。また、そうではなくても、慈善事業は隠れてやれ、名前を出すなという考えの人も少なくないでしょう。

しかし、筆者は慈善事業の目的さえ達成できるのであれば、それが同時に会社やお店、商品の宣伝になること自体は悪いことではないと考えています。問題はお店のプロモーションや商品の宣伝のために、あるべき子ども食堂の姿が歪められてしまうことにあると思っています。

また、筆者は子ども食堂に限らず、慈善事業は目立ってやったほうがいいという考えも持っています。

というのも、人間には「模倣性」といって周囲の人間の行動をマネる傾向があるからです。

災害時に皆がカップ麺を買い占めると自分もスーパーに走ってしまう、自己啓発セミナーや新興宗教の集会で周囲のサクラが入会申し込みをしていると自分も入らないとおかしい気持ちになってくるといった心理ですね。災害が起きても皆が日常を続けていると「大したことないのかな」と思ってしまう。3.11の原発事故以降「平常時バイアス」という言葉もよく耳にしました。

たとえば筆者は、募金するときには「募金したー」とSNSでつぶやいたり、周囲に吹聴するようにしています。別に自分が素晴らしい人間だと言いたいからじゃなくて、「それがフツー」「募金しても変じゃないんだよ」というメッセージ、つまり他の人に行動を模倣させるきっかけになるからです。皆が募金してもそのことを隠しているよりは、オープンにしたほうがお金が集まるんですね。

徳島に子ども食堂をつくる会では、食材を提供してくださった生産者さんにこのような事情や考えをご説明し、ご理解いただいた方には、食材提供者としてお名前クレジットを出させていただいています。それでも諸々の事情から名前を伏せられる方もいらっしゃいます。

名前を出している方も「商売目的だろう」「宣伝したいだけだろう」と言われるかもしれないことは理解しています。宣伝等を考えていらっしゃる方は一人もいません。全員が「それで子ども食堂が盛り上がるなら」「好きにしてください」というスタンスです。

子ども食堂が宣伝も「兼ねる」のは悪くない

板野町つむぎカフェでは2ヶ月に1回、定期的に子ども食堂を開催しています。今回のテーマはちらし寿司。子どもは無料。おとなは500円です。

以上の理由から、子ども食堂が、主宰する会社やお店、商品の宣伝も「兼ねる」ことそれ自体は、筆者は悪いことだとは思いません。

宣伝になることで、お店が儲かり、スタッフの士気も上がり、その分、子ども食堂にも前向きに取り組め、メニューの質が向上したり、肉の量が増えたり(笑)するなら、これほど素晴らしいことはない。「ガンガンお店も儲けてくれ」とすら思います。

そもそもの話ですが、収益や儲けが一切ない、それどころか、大きな赤字と疲労が重なるようでは、子ども食堂は継続できません。

貧困対策に乗り出したお店が貧しくなって潰れてしまうようでは本末転倒ですし、ボランティアだろうが給与を払って出勤してもらっていようが、本業がうまくいってないと、いずれ疲弊して「やっていられない」となるでしょう。

ただ、宣伝ありき、儲けありきでは困ります。

子どもや保護者が楽しく、快適に食事ができる環境づくりがまずは最優先。「ついで」に「良識的な範囲」ならよいですが、やたらと商品アンケートをとったり、チラシやイベント案内を配ったりすると、子ども食堂に来た人は「騙された」と思うでしょう。広告的にも逆効果です。

また、これは非常におもしろいことなのですが、いくら無料だろうが格安だろうが、人はおいしくないものを食べさせられると不満がたまる生き物です。子ども食堂をしていると、このことは本当に痛感します。

広告、宣伝のつもりで、自腹で食事を振る舞ったとしても、①量が少ない、②フードコストが明らかに低い(肉や魚がない、ケチってる)、③おいしくない、④提供スピードが遅い、⑤お店の人の感じが悪いと、そのこと自体に不満足を覚えます。すると、その不満足と主催するお店や団体、会社の印象がくっついてしまうため、広告のつもりがイメージダウンになってしまうのです。

子ども食堂も「宣伝」も成功させるためには?

「ではどうしたら、宣伝として上手くいくの?」

答えは「宣伝臭」を極力なくすことです。必要のない「宣伝」はしない。それが一番の宣伝になります。

そもそもの話なのですが、ユーザー、お客様はバカじゃありません。なんとなくの空気や満足度で、「商売ありき」の自己中心的なプロジェクトか否かなんて、誰にだってすぐにわかります。

また、この徳島は恐ろしいほどの口コミ社会です。いい噂も悪い噂もすぐに広まる。「あっこは感じよかったわよ」も「感じ悪かったんよ」も一瞬で伝わります。一瞬です。SNSなんてリアルなクチコミに及びもしません。

とにかく、子ども食堂は子ども食堂の成功を一番に、それだけを考えて、事業本来の目的に徹したほうが、陰口叩かれるリスクを最小限にできます。「せっかくだからついでに宣伝でも」と考えるより(「あっこは嫌。宣伝目的でやっとるだけやもん」って言われるだけです)、目の前の子どもやその笑顔だけをどこまでも見る。無理のない範囲で協力する。そのほうが、そんなことは意識してなくても、結果として自社やその商品の評価を高めることになります。

自分都合ではなく、相手目線。子ども食堂だって、要は他の飲食店とまったく同じなのです。ビジネスも慈善事業もその根本は同じです。

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森哲平
徳島に子ども食堂をつくろう!

1979年兵庫県生まれ。2011年より徳島に移住。2015年から徳島市沖浜町にて私設の図書館や子ども向けプログラミング教室を運営している。