タヌキ御殿

おはなしかご
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8 min readSep 13, 2018

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昔(昔) あるところに喜八さんという若者がおった。
喜八さんは気のいい若者で(心のやさしい若者で) 毎日、山の畑で一生懸命働いておった。

そんなある日・・・いつものように山道歩いとると(登っていくと)茂みの中にタヌキがおった。
ほして(こっちこい。こっちこいと)手招きしておる。
(喜八さんは)その様子みて「何ぞおらに用でもあるかもしれん」そう思ったもんでんタヌキの後に
ついて行った。・・すると山の奥に立派な屋敷があった。(あってな)そこはタヌキ御殿じゃった。
(喜八さんは)「はぁ!話には聞いておったがなんとも立派な御殿じゃ!」とたまげていると
「どうぞお入り下され」といって屋敷の大広間に通された。
そして、しばらくすると大層なごちそうが運ばれてきた。まぁ!そのうまいこと!うまいこと! 今まで食べたことのないものばかりだった。
そのうち笛や太鼓が鳴り出し、大勢のタヌキ達が唄や踊りを見せてくれた!
まあ!その楽しい事!楽しい事! いつの間にか喜八さんもタヌキ達と一緒に踊っておった!
けど、しばらくすると(喜八さんは)ふと・・「なんでおらにこんなにいい思いさせてくれるんかいの?」・・・と不思議に思ったので、そばにいるタヌキに聞いて見た。
すると「それではわけをおはなしいたします。どうぞお座り下さい」・・と言うと笛も太鼓も鳴り止み、辺りは静かになった。

そのうち、奥からじいさまタヌキが出てきて、喜八さんの前に座ると頭を下げて
「いつぞやは、孫を助けてくださりありがとうございます。」と言うた。
みるとじいさまタヌキの隣にちいせえ(小さい)孫のたぬきが(座って)おってぴょこんと頭を下げた。
(けど)喜八さんはなんのことを言うとるのか(さっぱり)わからんかった・・・
するとじいさまタヌキは(続けて)「タヌキは泳ぎができないもので、孫達にいつも川には気をつける
ように言うておったのですが・・この子が川岸で遊んでおりましたところ、足をすべらせ川の中に落ち
おぼれかかっておりましたところ、あなた様に助けていただきました。」
それ聞いて喜八さんは「ああ、あの時のタヌキか・・」とひと月ほど前の出来事(を)思い出した。
「ほんにあの時は危なかったな・・」と言うた。
するとじいさまタヌキが「今日はそのお礼をさせていただきたいと思いまして、お招きいたしました。
(お越しいただきました。)」・・・(喜八さんは)それを聞くと
「なんも、なんも当たり前の事しただけじゃ。ごげにごちそうになってしまい申し分けないこっちゃ。これからもなんぞあったら言うてくだされ。」・・(とそう言うた。)
するとじいさまタヌキが「それではひとつ御願いがございます。タヌキはどうしたわけか、昔から泳ぐことができません。そこでぜひ!(タヌキの)孫達は泳げるようにしてやりたいのです。どうか泳ぎをおしえてやってくだされ」・・じいさまタヌキは頭を下げて一生懸命に頼んだ。
喜八さんはその様子見て「ああ‥・じいさまタヌキは孫のことをほんに思うておるな・」そう思ったもんで「ああ、そげなことならかんたんなことじゃ」と言うた。そう言ったとたん「わ~い!」と賑やかな声がしたかと思うと、あちこちから大勢の孫タヌキが出てきて喜八さんの前に座ると、皆声を合わせて
「よろしゅうおねがいいたします」と頭を下げた。孫タヌキがあんまり大勢なので喜八さんたまげたがまあ!なんともその姿が可愛くて・・・「よ~し。(よっしゃ)まかしとけ」と言った。
ほして早速、次の日から喜八さん畑仕事の合間に川へゆき タヌキの孫達に泳ぎを教えてやった。
一匹ずつ丁寧に教えてやった。
けど、ひとりで畑仕事しながら大勢に教えるもんで、なかなかはかどらん。
ところ(な)そのうち大人のタヌキ達が畑仕事手伝いにきてくれるようになった。
だもんで喜八さんは(孫)タヌキ達に思う存分、泳ぎを教えられるようになった。

(まあ)タヌキ達は覚えが良くてな・・どんどん泳げるようになっていった。
そして夏が終わることには大勢の孫タヌキはみんな泳げるようになった。
じいさまタヌキは毎日見に来ておったもんで、孫達がスイスイと泳げるようになってゆく様子見て
それはそれは喜んだ。

ほして最後の日に喜八さんに「お礼です」と言って木の実を三つくれた。そして
「これはタヌキの宝の実と言われておる木の実です。このまま庭に埋めて下され。芽が出れば必ず良いことがあります」とそう言った。
喜八さん(は)その木の実をもらい家に帰ると、早速庭に埋めた。

それかまもなく、一つ目の実から芽が出て、ぐんぐんぐんぐん伸びてゆきあっという間に木になった。
そして可愛らしい桃色の花を枝いっぱいに咲かせた。今まで見たことの(も)ない花だった。
喜八さん(は)毎日その花を眺めていた。
けどひとり暮らしが時々淋しく思える時があり、ある日ふと・・
「ああ・・嫁さんがおったら、この花も一緒に眺められるのにな・・」と独り言言うた。

それからしばらく経ったある晩、喜八さんの家の戸を 「トントン」 「トントン」 と叩く者がいる。
「今頃だれじゃろ?」と思って戸をあけてみると・・・なんとも可愛い娘がおった。
そして「嫁様になりにきました」・・と言う。喜八さんたまげてな・・・
「おらが嫁さんほしいって思っていること誰に聞いたんじゃ」と言うと、娘は庭の木を指さして
「この木に呼ばれました」と言う。
そしてその木は「嫁さん来い来いの木」と言う木だと教えてくれた。
(そして)その日から娘は、喜八さんの嫁さんになり一緒に暮らす事になった。
働きもんの嫁さんで気立て(心)もやさしく、喜八さん、ほんに喜んだ。

ところがそれから間もなく喜八さんが病で倒れてしもうた。高い熱がでてとても苦しそうだった。
するとその時、庭に埋めた二つ目の木の実から芽が出て、ぐんぐんぐんぐんのびてゆきあっという間に
木になった。そして枝いっぱいに緑色の実をならせた。
嫁さんは(すぐに)その実をもいできて、喜八さんに食べさせた。
するとなんと!見る見る間に病は消えてゆき、翌朝にはもとの元気な体にもどっておった。
喜八さんがたまげていると嫁さんが「この木は・病よさよならの木・と言うのだ」・・と教えてくれた。

それからしばらくして三つ目の木の実が芽を出した。そしてぐんぐんぐんぐんのびてゆくとあっという間に木になった。なんとその枝には色とりどりの葉がついていた。・・・・なんとも美しい木だった!
嫁さんにこの木はなんという木だ・‥と聞くと嫁さん嬉しそうに木を眺めて
「この木は・・・色々いいことあるよの木・・・と言うのだ」 と教えてくれた。
ほしてそれから、ほんに喜八さんの家にはいいことが続いた。
三人も子宝(子ども)に恵まれ、どの子もみな丈夫にスクスクと育っていった。
ほして畑の実りも(ぐんぐん)よくなり、不思議にどこからか風に乗って種がとんできたのか、今まで見たこともない新しい作物も実るようになった。

そこである日、喜八さんは村のみんなに自分の家の庭に不思議な木があることを話した。
その木は「嫁さん来い来いの木・病よさよならの木・そして・色々いいことあるよの木」と言う木で
困った時に、きっとみんなの役に立つと思う。・・と(そう)言うた。
まぁ!村のもんはみな喜んでな、早速嫁さんほしい!と思っているもんは喜八さんちの庭の一本目の
木の桃色の花を自分の家に持って帰った。
すると、なんとそれからまもなく、なんとも願った様な嫁さんがきてくれたんだと。

ほして足腰が痛とうて歩くのもままならんかったじいさまやばあさまが、なんと喜八さんとこの二本目の木の、(木の)実を食べると、見る見る間に痛いとこ(は)消えてゆき、畑にも出られるようになったんだと。
まあ家のもんも喜んでな・・

そして風が吹くたび、ひらひらひららと三本目の木の色とりどりの木の葉があっちの家、こっちの家と
飛んでゆき・・・みんなのとこに、順番にいいことが起きる様になったんだと・・・

そのうち、隣村からも、山越えた遠くの村からも、この木の噂聞いて病の人達や、なんかしらん困ったこと(が)ある人達が、喜八さんちの木に会いに来るようになった(んだと。)

タヌキのじいさまも山からその様子みておってな、タヌキの宝の実が皆の役に立っておるのを喜んで
おった。

けどな・・少しだけ、気になることがあった。
それは喜八さんちの嫁さんも子どもも、(ほして)村のあちこちの家の嫁さんも、こども達も・・
みなぽっちゃりした顔と体つきをしておって、どこかしらんタヌキに似ているような気がすることじゃった・・・

けどそんな事はたししたことではなかった。
どの家の嫁さんも働きもんで気立てがやさしく、みな仲良う幸せに暮らしておった。

ほして、それからというもん、タヌキはどこの山のタヌキもみな泳ぎがなんとも上手くなったんだと!

めでたしめでたし・・・・!

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おはなしかご
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