オススメの本 第7弾
<続>史上最大の暗殺集団デンタルプラーク
口腔内に跋扈する魑魅魍魎の正体
奥田克爾 著
医歯薬出版
口腔内の細菌が誤嚥性肺炎の原因となり、さらには全身を巡ることでさまざまな疾患を引き起こすことが知られている。
80歳で20本の歯が残る者が半数を超えたとされる時代において、口腔内の細菌からなるデンタルプラークにどう立ち向かうか。口腔内と細菌、さらには全身疾患との関係を解き明かし、8020運動や歯科の「次の役割」を示す、大好評『史上最大の暗殺軍団デンタルプラーク』の続編!
目次
第1部 命を奪うデンタルプラーク細菌温故知新
第2部 デンタルバイオフィルムの生態を暴く
第3部 マイクロバイオーム崩壊の恐怖
第4部 歯周ポケットから侵入する軍団がもたらす疾患
第5部 化学的プラークコントロールの検証
はしがき
超高齢社会であるわが国における8020運動は、健康日本21の後押しもあって、歯の健康づくりを国民に広く浸透させることに成功してきました。
一方、高齢者などでは歯周ポケット内バイオフィルム細菌集団によって健康破綻がもたらされ、命さえ狙われていることにも目を向けなければなりません。こうした内容について、2016年に『史上最大の暗殺軍団デンタルプラーク』(医歯薬出版)を発行し、最新の分子生物学・免疫学的解説を加えて詳述しました。
WHOが1994年に東京で開催した世界保健デーのテーマは「健やかな生活は口腔保健から」でした。
その後、歯周ポケット内最近が冠状動脈疾患部やアルツハイマー病患者の脳内で検出され、それらの部位における病原性が解明されました。歯科を受診する患者の全身の状態を把握する臨床検査は、「木を見て森を見ず」にならないため、そして医歯薬連携強化のために不可欠と思っています。本書では「歯科医療は、血液検査が普遍的になされるべきである」と主張し、その根拠も盛り込んでいます。
デンタルプラーク細菌は、クオラムセンシング(QS)機構を使って他菌種とも会話しながら歯面や歯周ポケットにバイオフィルム集団の牙城を築き、唾液や歯肉溝液などを主な栄養源として増加します。
デンタルプラークを「歯垢」とする用語が全く実態を表しておらず、デンタルプラークという言葉を使わずデンタルバイオフィルムとすべきであるとして、2010年に発行した『デンタルバイオフィルム 恐怖のキラー軍団とのバトル』(医歯薬出版)において解説しました。
江戸時代からのわが国における教育には、良書を的確に読む習慣があったからこそ、その後の発展があったと信じています。ところが、近年出版されている本のなかには、根拠のない思い込みや製品の宣伝だけが強調されるものが少なくありません。また、ネット上での不確かな情報の氾濫は、歯科界を混乱させているようにも感じています。
その一例として、歯周治療やインプラント治療における抗生物質の中・長期内服使用を勧めるものもあります。抗生物質の投与は短期間には有効であっても、長期的に見れば腸内細菌フローラを撹乱することでマイクロバイオームを破壊し、ディスバイオーシスによる健康被害を引き起こすことになります。
医療や薬剤などが有効と証明されるEBM (Evidence Based Medicine:根拠のある医療) の基盤となるのは、数ランクに分けられる臨床研究です。次の図には、臨床研究のランク付けのヒエラルキーを示しました。臨床研究におけるランダム化比較試験(RCT)は、信頼度が高く評価されています。さらに、RCT研究を中心に臨床試験を集めてデータベース化し、さらに系統的レビューによって臨床研究の質・再現性・客観性を総合的に判断するメタ解析は、最も信頼性の高い評価がなされています。
1992年より、英国政府の支援で世界中の論文をデータベース化してEBMレベル明らかにする作業が始められ、世界中の医療者に広く受け入れられています。この計画の提唱者は疫学研究者のアーチボルド・コクラン博士(1909〜0988年)で、プロジェクト自体はコクラン共同計画と呼ばれています。コクラン共同計画は国際NPOとして組織されて3万人を超えるボランテイアが参画しており、そのレビューは常に更新されて提供されています。
コクラン共同計画には約3千人からなるオーラルヘルスグループがあり、口腔、歯科、顎顔面の疾患や障害の予防、治療、リハビリテーションに関するメタ解析されており、臨床家にとって欠かせない情報源になっています。
こうしたコクラン共同計画を見習って、本書では根拠のある情報を提供すべく、査読制のある雑誌に掲載された客観性の高い臨床研究を中心に取り上げました。参照とした文献が多くなり難しくなった箇所があります。筆者のわがままとのお叱りを受けるかもしれませんが、読者のリテラシーに期待しながら執筆しました。
NPO 恒志会
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