データ分析チームを育てる

私がデータ分析を始めた十数年前と比べ、データ分析のビジネス領域が広がってきているように感じています。そして、国内でも組織内にデータ分析チームを作ることは、めずらしいことではなくなりました。その一方で、チーミングには様々な課題が潜んでいます。

この記事では、データ分析チームの内製化と育成について考えてみます。

なぜデータ分析の内製化が必要か

データ活用の初期段階では、外部の協力者の力を借りてプロジェクトを回してくこともあると思います。しかし、意思決定やオペレーションの改善にデータを組み込んでいくためには、チーム内で分析を回せるようになることが理想です。

例えば、A/Bテストを駆使してSaaS型のビジネスをグロースさせているWeb企業は、データサイエンティストや分析者を組織内に抱えています。自社のサービスを市場に素早く柔軟にフィットさせていくには、短いスパンで分析タスクを回していく必要があるからです。

もし、組織にデータ分析者がいなければ、技術コンサルティング会社や分析専門会社の分析リソースを都度調達することが必要になります。

調達ベースでのデータ分析プロジェクトは、しばしば3ヶ月から半年を区切りとして実施されます。このサイクルごとに組織内で予算を確保し、調達要件を詰めることになるわけですが、必ずしもそのリズムが業務課題の解決にフィットしているとは限りません。また、調達先が変わった場合はプロジェクトを立ち上げるたびに、時間がかかってしまいます。

データ活用が上手くいっている組織の多くは、データ分析人材を内製しているか、もしくは外部リソースを含めて継続的なチーミングができているように思います。

チームには「思い」が必要

データ分析を業務にビルドインして効果を上げるためには、組織内でデータ分析チームを育てることが肝になると考えています。

ただし、ここでいう「データ分析チーム」は、単にデータ分析スキルを持った人材の集まりというわけではありません。所属する組織のミッションに共感しながら業務改善をドライブし、ステークホルダーと一緒にゴールを目指すことが大切です。

目的なき分析はどこにもたどり着きません。
もし、そのチームの目的がとにかく分析をしたいというだけなら、いずれ消滅してしまうでしょう。つまり、データ分析チームにはプロジェクトや業務への「思い」が必要だと私は考えています。

もちろん、データ分析者は常に冷静でなくてはなりません。思いがあるからといって、統計的にいかがわしい知見を飾り付けるわけにはいかないのです。それをやってしまうと、データ分析者としての軸を失ってしまいます。

そうではなく、ここでいう「思い」とは、データ分析の先にある業務や人の疑問や課題を解消し、よりよい組織とビジネスを作っていくことへのコミットメントに他なりません。プロフェッショナリズムといってもよいでしょう。

チーミングにおける課題

ここでいうプロフェッショナリズムは、人とチームそれぞれで醸成する必要があると考えています。単にスキルの高い人材を一人二人配置すれば済むというものでもありません。

私はこれまでに、社内および社外のクライアントに対するデータ分析チームをマネジメントした経験があります。その経験の中で、個と集団のプロフェッショナリズムのバランスが大切だと痛感しました。ここでいうプロフェッショナリズムとは、スキルとマインドの両面を含んでいます。

チーミングの個と集団のそれぞれの課題背景を掘り下げてみます。

個の観点:データ分析者の生産性には大きな差がある

データ分析は学ぶべき範囲が膨大で暗黙知も多く、熟練に時間を要します。そのため、生産性の高いの人材とそうでない人材の差が大きくなりがちです。

例えば、正解ラベルのついたテーブルデータをもとに、分類モデルを作成することを想像してみます。もし、前処理がほぼ不要で単に分類器を作るだけなら、初学者と熟練者の生産性はそれほど大きくないかもしれません。第3次AIブームが来る前はこうした作業にも暗黙知が存在していましたが、今では入門書の前半で触れられるような内容になりました。コストが許容できればAutoMLも利用できますね。

しかし、分類モデルを作る場合でも、以下のような場面では経験が必要になってきます。

  • 特徴量を工夫しないと精度が上がらない場合。
  • データのレコードが独立でなく何らかのグループを形成している場合。
  • 時系列や地理的な自己相関があるか、もしくは、繰り返し計測されたデータである場合。
  • 予測モデルに対して大局的もしくは局所的な説明性を求められた場合。
  • 推論処理の計算リソースを節約する必要がある場合。

また、分類タスクのようにわかりやすい仕事でなく、意思決定支援のために因果関係を考察することや、教師なし型のアプローチで潜在的な構造を洞察していくような仕事は、現在でも難しい側面があります。

以上は技術的な観点ですが、問題設定や分析アプローチの吟味、クライアントへのレポーティングは初学者にとっては難しいものでしょう。

私自身もSEからデータサイエンティストに転身して七転八倒した経験があり、技術習得の難しさは身をもって実感しています。

集団の観点:経験者を集めても上手く行かないことがある

データ分析者個人によって生産性が大きく異なるとなれば、マネジメントサイドとしては、できるだけ専門性が高い人材を採用したくなるはずです。初学者を育成するよりも経験者を集めた方が効率的に感じられるからです。

この考え方には正しい側面がありますが、以下の点で課題があります。

  1. 豊富なデータ分析経験があって、なおかつ自分たちの業務に共感してコミットしてくれる人材を探すのは容易ではない。スキルが高い人材ほど自分の専門性を発揮できる職場と高いサラリーを求めるため。
  2. 上の課題を解決して人材を迎い入れたとしても、チームとして機能するためには他のメンバーのキャッチアップが必要になる。

端的にいうと、専門性が高い人材が必ずしもチームや業務ドメインにフィットするとは限らないということです。私がこれまでに見聞きしてきた例をあげてみます。(少し細部を変えています)

  • バックエンドの業務を担っている組織にデータ分析人材を中途で採用したが、短期間で離職してしまった。データ分析環境が未整備であり組織間調整に労力を割くことがストレスになっていた。
  • 初学者中心のデータ分析チームの底上げのために、経験豊富なデータサイエンティストを他部署から異動させた。経験者には人材育成を期待したが本人にそのモチベーションはなかった。当人がチームメンバーとのコミュニケーションを軽視したこともあり、チーム全体のエンゲージメントが低下してしまった。
  • 新たにデータ分析専門のチームを立ち上げ、社内外から経験者を集めた。そのチームには全社横断的な貢献を求められていたが、他部署の協力を得にくい状態だった。データ分析プロジェクトの立ち上げが遅れ、経営陣からプレッシャーが高まっている。

これらを見て、まだこんな例があるの?と思う方もいらっしゃるでしょうし、よく聞く話だなと感じた方もいらっしゃるでしょう。

特に、これまでデータを意思決定プロセスを組み込んでこなかった組織では、しばしばこのような問題が生じます。近年盛り上がりを見せているピープルアナリティクスへの取り組みは、その典型例といえるかもしれません。

データ分析チームを育成する

上で取り上げた例はマネジメントの課題、とりわけ人材育成と組織開発の課題といえます。

したがって、データ分析の内製化を実現するためには、自部門の業務に根ざしたデータ分析チームをじっくりと育てる必要があるのです。チーム内の方向性をあわせながら、お互いの理解を深めていきつつ、メンバーのスキルとマインドを底上げしていくようなアプローチです。

そして、忘れてならないのが組織への貢献です。ステークホルダーと良好な関係を築きながら、ときにはQuick-Winを得て弾みをつけつつ、長期的な改善に根ざしていく。そうすれば、そのチームは組織にとってなくてはならない静脈のような存在になるでしょう。

このアプローチには時間がかかりますし、組織の理解も必要です。必然的に、チームをマネジメントしている管理職には、専門人材をまとめるセンスと忍耐力が求められることになります。

こう考えると、データ分析チームをマネジメントする人材が内製化の鍵を握るのでしょう。

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武田 邦敬
クニラボ技術ブログ

データサイエンティスト&マネジメント経験を活かして独立。人事データ分析チーム育成支援、製品強化のための機械学習活用支援を行っています。本と本屋と読書と積読が好き。 クニラボ https://ku2t-lab.com/