人事データ分析をはじめよう

武田 邦敬
クニラボ技術ブログ
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Feb 28, 2024

はじめまして。
ニュースレター「人事データ分析入門講座」講師の武田です。

このレターでは、人事データ分析に取り組み始めた方に向けて、データ分析の考え方や方法をお伝えしていきます。特に、以下の点でお困りの方の助けになりたいと思っています。

  • 人事の仕事をしているが、データ分析をすることになってやり方が分からない。
  • ピープルアナリティクスのプロジェクトに入っているが、データアナリストとのコミュニケーションがとりにくい。
  • データ分析を独学で学んでいて、応用力を高めたい。

こうした課題感をお持ちの方に向けて 基本的な技術ノウハウをお伝えしていきます

まず1回目の配信ということで、データ分析のイメージをつかんでいただくことを目指します。

人事での分析シーンはさまざま

人事でデータを分析する場面というのはさまざまです。たとえば、エンゲージメントの課題を探ったり、ハイパフォーマーの特徴を見つけたり。

人事業務で遭遇する「実態はどうなっているのだろう?」「問題はどこにあるのかな?」「この先どうなるのだろうか?」というような疑問に対して、 データを使って客観的に答えようとする場面 でデータが活躍します。

もちろん、必ずしもデータだけでこうした疑問を解消できるわけではありません。データ分析は魔法ではなく、様々な制約があるからです。

しかし、データを活用することで客観性を高めることは可能です。人事データ分析に求められるのは、ファクト(データ)による客観的な裏付けであるともいえます。データを意思決定に利用するわけですね。

その一方で、データ活用の幅はもう少し広がっているとも感じています。先ほどあげた3つの疑問を振り返ってみると、

  • 「実態はどうなっているのだろうか?」→現状を把握したい。
  • 「問題はどこにあるのかな?」→問題を発見したい。
  • 「この先どうなるのだろうか?」→将来を予測したい。

という形になります。これらの疑問や要望に対して、 データから何らかのパターンや構造を抽出して着想を得ること もデータ分析の対象となります。

それでは、こうした場面に遭遇した場合に、どのようにデータを加工し、どの手法を用いて分析を進めたらよいでしょうか?

データ加工や分析の技術もまた多種多様で、何から手を付けたらよいか分からないという方もいらっしゃるかもしれません。私は10年以上前に未経験でデータサイエンティストに転身したのですが、まさにこの壁にあたってしまいました。

この壁を乗り越えるには、問題設定や分析手法や方法を身につけることも重要ですが、何より「統計的な考え方や発想法を身につける」ということが重要だったと思います。

当講座では、人事分野に特化しつつ、統計的な考え方をみなさんに身につけていただけるように進めていきます。

データと向き合う

前置きはこのくらいにして、早速データを見ることからはじめましょう。

講座で使用するデータ

当講座では私が自作した仮想の人事データを使っています。これを人事トイデータと呼びます。”トイ”というのは玩具のことで、”トイデータ”というと演習用のデータを意味します。

まずみなさんには、実際のデータを見ていただきたいと思います。以下は人事トイデータの一部を抜粋したものです。

こちらのデータは以下のページからダウンロードできます。現時点でふたつのファイルをダウンロードできるようになっていますが、当講座では「HRトイデータ_人事情報_拡張版.csv」を使っていきます。データの取扱いやライセンスについても下記ページをご覧ください。

人事データ集約にも課題

この人事トイデータは分析しやすいように集約した形になっていますが、実際のデータはこの形に加工することも大変ではないかと思います。

多くの場合、上に示したデータだけでも、①人事システムに蓄積された情報、②勤怠システムに蓄積された情報、③社内サーベイ用システムに蓄積された情報に分かれている場合もあるでしょう。

これらのデータをどうやって統合していくのか、あるいは、統合されていない状態で分析者はどのように加工すればよいのか――。このような疑問に答えるべく、データの前処理についても当講座でも扱っていきます。とはいえ、やはりデータがあるなら分析したい! と思われる方も多いと思いますので、まずは統合された人事トイデータを用いて進めていきます。

データ項目の種類(変数について)

さて、このデータは単年度のデータとなっており、それぞれの行が従業員一人のデータが記録されています。データを横に見ていくと、その従業員の基本情報や時間外の情報がわかるというわけですね。

今度はデータを縦に見ていきます。例として、年齢の列を見てみましょう。このサンプルでは28, 47, 27, 32, 40という値が入っています。ばらばらですね。

このように、何らかのばらつきを持ったデータのことを変数といいます。そして、年齢のように数字で表されていて、足し算や引き算が可能な変量のことを「 量的変数 」と呼びます。

量的変数にもいくつか種類があるのですが、ひとまず量を伴う数字的なものを量的変数として見ておいてください。今回のサンプルでは、年度、時間外時間数_月平均、年休消化率、エンゲージメントも量的変数ですね。

一方、今度は性別の列を見てみてください。
このサンプルでは男, 男, 女, 男, 男となっていますね。少し偏りがありますが、やはりばらばらの値を持っているようです。しかし、この値は言葉になっているので、足し算や引き算ができません。このような変数のことを「 質的変数」または「 カテゴリカル変数 」と呼びます。

変数の種類はデータ分析をする上で大切な概念となりますので、ぜひ覚えておいてください。

変数同士の関係を探る

人事データ分析で多くの方が興味を持つのは、変数同士の関係性ではないかと思います。例えば、

  • 時間外と年休消化率にはどのような関係があるのだろうか?

といった具合です。感覚的には、時間外が多いと年休も上手く消化できていないのではないかと想像できますね。

以下のグラフは 散布図 といい、量的変数同士の関係を表すグラフです。青い点ひとつが1件のデータを示しています。今回のデータは600件ありますので、グラフの中に600個の点があるわけですね。

このグラフからどのような考察を得られるでしょうか? あるいは、何か有益なパターンを見出せそうでしょうか?

何となく右肩下がりに見えなくはないですが、クラスター(固まり)が複数あって何とも言えない気もしますね。実際の人事データ分析でも、このように少しグラフを描いたくらいだとよくわからないという場面にしばしば出合います。

試しに2変数の関連性を示す 相関係数 を算出してみると、-0.26となりました。「やや負の相関がある」ということもできますが、グラフをみるとどうにもすっきりしないのではないでしょうか。

逆の視点で、何か興味深い傾向はないだろうか?と考えて、データを探索していくことも一案です。

当講座では、こうした状況で「打てる手」をお伝えしていきます。

これからお伝えしていくこと

今回はイントロダクションということで、以下の点をお伝えしました。

  • 人事データの分析シーンをお伝えしつつ、講座で使用するデータをご紹介しました。
  • 変数の種類として量的変数と質的変数(カテゴリカル変数)をご紹介しました。
  • データ分析の主たる関心が変数同士の関係性を探ることにあることをお伝えしました。

今後は、変数同士の関係性を探るためのアプローチを順にご紹介していきます。まずは手始めに、データそのものを理解するための道具として、グラフの活用法を中心にお伝えしていきます。

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武田 邦敬
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データサイエンティスト&マネジメント経験を活かして独立。人事データ分析チーム育成支援、製品強化のための機械学習活用支援を行っています。本と本屋と読書と積読が好き。 クニラボ https://ku2t-lab.com/