人事データ分析の切り口をどう見つけるか?

武田 邦敬
クニラボ技術ブログ
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Feb 28, 2024

こんにちは。ニュースレター「人事データ分析入門講座」講師の武田です。本日もよろしくお願いします。

このニュースレターでは、人事データ分析に取り組み始めた方に向けて、データ分析の考え方や方法をお伝えしています。本レターで4回目の配信となりました。

前回まで「考えるためのデータ可視化」 というテーマで、 散布図の見方や活用方法についてお伝えしてきました。レターの中で様々な人事属性を切り口にして散布図を深掘りをしていきましたが、そのアイデアはどこからやってきたのでしょうか?

本レターでは、人事データの分析を進めていくときの切り口について考えてみます。

分析目的に沿ったデータの収集からはじめる

人事データを分析しようとするとき、それには何らかの目的があるはずです。

目的というと少し堅くなりますが、分析テーマと読み替えて少しラフに挙げてみると、

  • エンゲージメントと働き方の関係を知りたい(エンゲージメント改善施策の検討)
  • 採用方式と配属後のパフォーマンスの関係を把握したい(採用プロセスの問題発見)
  • 層別に実施した研修効果を調べたい
  • 所属別の戦力分布を把握し配置に活かしたい

などが人事データ分析のテーマの例となるでしょう。

分析テーマを注意深く見ることで、まずはじめに収集すべきデータが浮かび上がってきます。上の例に対して、分析の切り口に相当する箇所にマーキング(太字)してみると次のようになります。

  • エンゲージメント働き方の関係を知りたい
  • 採用方式と配属後のパフォーマンスの関係を把握したい
  • 別に実施した研修効果を調べたい
  • 所属別の戦力分布を把握し配置に活かしたい

マーキングしている部分に着目し、8つのキーワードを抜き出してみました。

  • エンゲージメント
  • 働き方
  • 採用方式
  • パフォーマンス
  • 研修効果
  • 所属
  • 戦力

データを分析する際には、これらを記録しているデータを特定して探してくることになります。ここであげた8つのキーワードについて、皆さんが普段触っている人事システムやその関連システム、社内サーベイで思い当たるものはあるでしょうか?

少しイメージしてみてください。

少し考えてみると、パッと思いつくものと悩ましいものがありそうですね。

以下の項目は比較的分かりやすいところだと思います。これらが適切に記録し保存されているかどうかという問題はありますが、組織内での意味は一意に決まるものではないでしょうか。

  • エンゲージメント: サーベイ結果
  • 採用方式: 採用時の記録
  • : 役職・グレード・等級など
  • 所属: 部門・本部・部・課などの所属情報

その他のキーワードはどうでしょうか?
アイデアが浮かぶものもあれば、どう測ったらよいか分からないものもあるかもしれません。

例えば、よく議論になる項目に「パフォーマンス」があります。

人ベースで考えると、人事評価や業績評価を利用する場合もあるのですが、その組織の評価方式によって位置づけが変わってしまいます。営業職・開発職などの職種によっても、何をもってパフォーマンスというか違いがでてくるでしょう。

また、人でなく組織のパフォーマンスを見たい場合は、何が指標になるでしょうか。プロフィットセンターとコストセンターで大きく変わってきそうですね。

組織に合わせて計測指標を考える

このように、分析したいこととデータが簡単に紐づかない場合もあります。特に人事分野においては、人や組織といった有機的な対象を分析することになるので、他の分野に比べて難しい場合もあると思います。

その一方で、ピープルアナリティクスが注目され始めてまだ時間がそれほど経っていないから、ノウハウが蓄積されていないという側面もあります。

例えば、マーケティングではデータ分析が盛んに行われていますが、マーケティングの分析対象も消費者や顧客といった「人」です。人の行動を測るのは難しいものですが、長年の研究と実践により、マーケティングにおけるデータ分析は日常的なものになりました。

人事分野においても、アプローチを吟味することでデータを活用することができると私は考えています。実際、携わってきたプロジェクトを振り返ってみると、そのアイデアは年を追うごとに広がっているように感じます。

ここで重要となるのは、それぞれの組織が置かれた状況や経営戦略の個別性です。組織はそれぞれに固有の特徴を持っていますし、人事戦略もまた多種多様です。

何をもって従業員のパフォーマンスを測るのか。
どのように働き方を類型するか。

この問いに対する答えは組織によって変わってきます。

したがって、人事データを分析する際には、分析を始める前にこうした議論を深め、計測指標に対して関係者のコンセンサスを得ることが極めて重要です。

様々な切り口で深掘りしていく

ここまでの話は、分析テーマから分析対象を見つけていくアプローチをご紹介してきました。それでは、分析対象のデータが見つかればそれで終わりでしょうか?

例えば、前々回のレターでは時間外と年休消化率の関係から働き方の分析をしていきました。はじめに作成した散布図だけでは、知見を得ることができませんでしたね。

そこで、前回のレターでは、この散布図を深掘りするために以下の情報を使って情報を分けながら分析を進めていきました。

  • 年代別
  • グレード別
  • 部別

このような「・・・別」と表現できる項目が、分析を深掘りするための切り口になりえます。この引き出しを多く持っておくと、分析を進めるときに様々なアイデアを思いつけるようになってきます。

引き出しを多く持つ、というと難しそうに感じられるかもしれません。

しかし、人事部に在籍し人事業務に携わっている方でしたら、過去の記憶を探っていくと自然に思いつくのではないでしょうか。なぜなら、データ分析に関係なく、人事施策を考えるときに、様々な議論をされているからです。上にあげた3つの切り口(年代、グレード、部)というのは耳なじみのある言葉ではないでしょうか。

一方、人事以外でデータ分析経験を積まれた方の場合、なかなか切り口を見つけられないということこもあるでしょう。

この問題を解消するには、人事に関する定評のある本を読んで、人事分野の基礎的なドメイン知識を身につけることが効果的です。

本ニュースレターやブログで紹介していきたいと思います。

人事データ分析の切り口を整理したマインドマップ

とはいえ、人事データ分析を深掘りするときのヒントはないのでしょうか? というご質問をいただくことが増えてきました。

そこで、これまでの分析経験を整理し、人事データ分析プロジェクトによく登場するデータ項目をマインドマップにまとめました。リンク先よりPDF版をダウンロードできますので、ぜひご覧ください。

まとめとこれから

本レターでは、人事データ分析を進めていくためのヒントとして、分析テーマから必要なデータを考える方法と、分析を深掘りするための切り口についてお伝えしました。

また、人事データ分析プロジェクトによく登場するデータ項目を整理したマインドマップをご紹介しました。マインドマップには様々なデータが掲載されていますので、ご自身の組織ではどのように管理されているか考えてみてもいいですね。ぜひご覧ください。

さて、このように既往の人事システムや関連システムをざっと眺めるだけでも、多くのデータが存在していることが分かります。データ量や項目が多いのはよいことではありますが、逆に戸惑うこともあるかもしれません。

ということで、次回のレターでは、データが手元にやってきたときに分析者がまず初めにやるべきことをお伝えします。

次回もお楽しみに!

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武田 邦敬
クニラボ技術ブログ

データサイエンティスト&マネジメント経験を活かして独立。人事データ分析チーム育成支援、製品強化のための機械学習活用支援を行っています。本と本屋と読書と積読が好き。 クニラボ https://ku2t-lab.com/