地方創生
はじまりはともかくとして、地方創生と言われて久しい。
まず、あたりまえのことだが、すでに充分に発展し、継続している地方においては、わざわざ地方創生を声高に言わなくてもかまわない。これは、やらなくてもいいという意味ではなく、それらではない地域における地方創生とは意味であるとか、やり方がまったく違うだろうという程度に思っておいてもらえばいいかと思う。
ちょっと寄り道になるが、そのようにすでに充分に発展し、継続している地方とはどういう地方・地域であるかを確認してみる。個人的に具体的な経験がある地域を挙げると、神奈川の横浜、静岡の浜松、愛知県のおよそ全域を考えてみる。
横浜は港という大きな産業がある。
浜松は、スズキがあり、またヤマハというよくわからないことになっている企業がある。
愛知県は、言うまでもなくトヨタの存在が大きい。
これらは、たとえばトヨタにしても、トヨタ単体で存在しているわけではない。下請け、孫受け、その他の関連企業が存在している。デンソーなどは、おおまかにはトヨタの下請けとして出発したと言えるだろうが、もはや独自ブランドとして研究開発から製造まで、またその範囲も広く行なっている。
ちょっと寄り道をしたわけだが、これらのような形での地方創生は、現在地方創生を問題としている地域においてはすぐさま実践できるものではない。100年というような時間をかけ、出来上がったものだ。その100年を10年や20年でできるかと言われれば、「そりゃ無理だ」と答えるしかないだろう。
すこし話を変えよう。
島根県においては、プログラミング言語Rubyの開発者が在住のため、Rubyを持ち上げての地方創生を目指している。そのアイディアそのものは、ではどうやるのかという話しだいではある。それ関係で出てきた話をすこし書いてみよう。こういう話だった:
ネットワークが充分に発達したので、島根という地理的な不利な条件は問題とならない。
正直に言えば、そんな馬鹿な話はないのだ。島根においてもネットワークが普及しても、あるいは日本中にネットワークが普及しても、では様々な産業、商店などの物量の違いはそのまま残っている。
松江市では、企業や技術者の移住などを、上の引用を理由に進めている。大規模とは言えないが。上の引用が成立するなら、そのような移住のプロジェクトも成立するだろう。だが、市の担当者は昨年このようなことも言っていた:
あまり芳しくない。なぜなのかがわからない。
当たり前である。ネットが普及する前からの都会と田舎という、つまりは物量の違いはそのままそこにあるからだ。(内輪話になるが、その点を10年くらい前に指摘したのだが、伝わらなかったのか理解できなかったのかのいずれかだろう。) なお、開発者当人はあちこち飛び回っているのだから、松江市をRubyの聖地にしようとしても、どれほどの効果があるのかは疑問としか言いようがない。さらには、そもそも筑波在住のころに開発されたものであるのだから、開発者が在住であるからという理由でRubyの聖地にしようというのも、いささかどうかと思える話でもある。
これが、目の前にエサをぶら下げられた地方創生が辿る道の一つだ。
では、地方創生にはどういうものがあるのだろう。簡単に考えると次のようなものだろう:
- 古くからあるものを打ち出す
- 新しいものを打ち出す
- 古くからあるものをベースに、装いを新たに打ち出す
2. は、当然、そうそう簡単にできるものではない。では、1. はどうなのかというと、これもそう単純ではない。まぁ、また島根ないし松江の話になるが、悪く言う意図はない。具体例として見たからでしかない。
世界遺産にある場所が認定された。あるいはある場所が国宝に認定された。だから、人が来るはずだ。という目論見があったりもする。
これは具体的な地理的条件などに依存する面も大きいが、ちょっとした世界遺産や国宝で、地域が沸き立つなど、どだい無茶な話だ。まずは、その土地へのアクセスの利便性はどうか。その土地の中での、それらへのアクセスの利便性はどうか。宿泊客の人数を捌けるのか。などなど、既存のインフラに依存した条件が山のようにある。
松江から米子に行く途中に、黄泉平坂だと伝えられる場所がある。通るたびに覗いてみたいとは思った。では私がそこに立ち寄ったことがあるかと言うと、ない。なぜか? 車を止めるスペースがどうも見当たらないのだ。ないということはないのだろうが……
「この土地には歴史がある」と言うのは簡単だが、周りから見れば、「だからどうした」でもある。どこの土地だって、埋立地ででもなければ、同じ程度の歴史はある。
1. であろうと、2. であろうと、それが可能なら特段言うことはない。だが、それだけでは不十分だという認識は必要だろう。
では、3. はどうなのか。
意外に思われるかもしれないが、山梨県大月市にも桃太郎伝説がある。もっとも、大昔からあったのか、私が子供の頃以前に、誰かが思いついたのか、それはわからない。ただ、大正時代には大月駅で(?)「桃太郎もち」なるものを売っていたらしい。その線から考えると、民俗学関連の誰かが、あるいは民俗学に触れた誰かが言い出したと考えていいだろうとは思う。
まぁ、面白いのは、犬目、鳥沢、猿橋という地名が桃太郎の家来に繋がるし、岩殿山が鬼ヶ島だったと、その話では言われている。去年の大河ドラマでちょっと出てきた岩殿である。
内陸も内陸なのに、岩殿山が鬼ヶ島とはどういうことなのかとも思われるだろう。当たり前の疑問だ。これは登ってもらうとわかるのだが、貝殻の地層(というのだろうか?)が、見えるのだ。「何万年、何十万年前のだ!」というツッコミはごもっともである。
最近、岡山以外の土地での桃太郎伝説が、(一部で)賑わっているらしく、言い方次第ではあるがそれに便乗して、桃太郎もちの復刻がされたようだ。
いや、今気付いたが、これは3. の例になるのだろうか? よくわからなくなったので、この話は放り出そう。
完全に放り出す前にもう一つだけ。岩殿山山頂は標高634mとのことである。スカイツリーの高さと同じだ。というわけで、最近、なぜか岩殿山に登りに来る人が増えているらしい。634mという数字のなにに惹かれるのかは、私にとっては謎なのだが……
あとは、あれだ。関係ないようなあるようなことだが。甲州商人というような言葉があり、江戸っ子には山梨というのはあまりいいイメージはないかもしれない。
つまるところ、結論は最初の方で書いていた。100年かけた発展を、10年や20年でやるのは、直球でやるならそもそも論的に無理がある。だが、やらなければならないとしても、目の前のエサを頼っても難しい。ただし、やり方次第という面は残っている。難しい問題だとは思うが、上記1.から3.とか、地理的条件とか、広い視野を持って取り組んで欲しいと思う。
なお、山梨リニア実験線の先行区間の起点は山梨県大月市であり、終点はお隣の都留市である。まぁ、実際の運行が始まると、通り過ぎるだけになるのだが。