「ふしぎ」を喚起させるプロダクトとは?ふしぎデザイン 秋山慶太さん インタビュー (前編)

siranon
KYO-SHITSU
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15 min readSep 14, 2018

KYO-SHITSUの出演ゲストが「今、どのような活動をしているのか」を追い、発信するシリーズ。ゲストのバックグラウンドから今後の展望までさまざまな事柄を掘り下げます。

今回お話を伺うのは、デザイン事務所『ふしぎデザイン』の屋号でプロダクトデザイナーとして活動されている秋山慶太さん。

秋山さんをお呼びしたKYO-SHITSU#9『モノづくり(とその流通)』では、ファッションデザイナー、デジタルファブリーケーションを推進する団体、電子工作と手芸を掛け合わせた制作活動をする方々……様々な観点で「モノづくり」に関わる方々をお招きし、お話いただきました。イベント出演当時は大手家電メーカーのインハウスデザイナーとして勤務していた秋山さん。プライベートでは『電化美術』という電子と美術を組み合わせたプロダクトを提案するユニットにて、様々な作品を制作。その中で秋山さんには『電化美術』としての活動と、普段のプロダクトデザイナーとしての活動から眺めた、モノづくりについての考えをプレゼンテーションしていただきました。

昨年独立し、現在はプロダクトデザインの視点から様々な「作ること」を実践されています。最近のお仕事についてお伺いしました。

お久しぶりです。本日は最近のお仕事から、今考えられているデザインに対しての姿勢など、様々な秋山さんにまつわることをお伺いできればと思います。以前は会社内外それぞれで制作活動をされていましたが、独立してから制作環境はどう変化しました?

区切りが難しいですね。フリーだと、仕事とそうでない境目が良くも悪くもなくなるんですよ。全ての時間が仕事と結びついてしまって、自主制作にあてる時間は減りました。

あと、フリーなりの縛りはあるな、と感じています。例えば、外に出せないクライアントワークです。「Aメーカーは某デザイナーにお願いして作ってもらった」という話が外に出ると、他メーカーが「では予算を上乗せするからこちらでやりませんか?」という感じで引き抜きできるので、それを嫌がるメーカーさんもやはり多い。なので、実際やっている案件でもなかなか公開できない場合がありますね。

一方で、フリーのメリットも感じています。

デザインをして、クライアントに提出する案は自分で決められるので、体感的にはすごくスムーズですね。会社員だと自分のアイディアをマネージャーに見てもらい、部門長に見てもらい、承諾を得られたら会議に出してやっと決まる……という時間が必要です。メーカーの方やクライアント側がそういった手続きを肩代わりしてくれて、自分は制作に集中できるのは、ありがたいですね。

受託という形になることで、より自分の役割がはっきりして、その中でパフォーマンスを上げていくことに注力できるんですね。

そうですね。この1年でフリーランスの仕事のしかたが、やっと見えて来ましたね。

Keyband for teamLab Planets TOKYO

フリーランス1年目で、お仕事の幅も結構変わってきましたか?

はい、幅広く色々なお仕事をさせてもらっています。

例えばこの、TeamLab Planets TOKYO DMM.com内で使われるロッカーの鍵バンドは、ザ・プロダクトデザインな案件です。

こういうものって既製品があるのかなって思ってました。

僕もそう思ってました。(笑)この案件はゼロから作ろう、というものです。

プロダクトデザイナーの吉田真也さんから共同デザインのお話を頂き、2人でデザインをしたものです。ラフ案からのアイデア展開や、形状の作り込みを主に担当しました。普通1年ほどかける製品をこれは3ヶ月で作りました。なかなかメーカー時代では考えられないスパンでしたね。更に、関わる人がプロダクトデザインとしては少なかったのも特徴です。明快にスピード感も編成も違い、ベンチャー気質でのプロダクトデザインを経験したような気持ちですね。

「なぜ?」から学ぶ、おふろじゃぶじゃぶコースター

『大人の科学マガジン』を作っている学研プラスの方と一緒に作った、お風呂で遊べるキットです。一般に流通する製品としては独立してから初めての案件だったので、感慨深いですね。

お風呂の壁に貼り付けて遊ぶおもちゃなのですが、水を流すとくるくる回る、など様々な仕掛けが施されていて、水と遊べるものです。遊びながら「何が起こったんだろう?」「こんな仕掛けは作れないかな?」と親子で考えられる仕組みが施されています。この製品は、本屋さん・おもちゃ屋さん、どちらでも扱ってもらえるサイズで作られてます。独自の流通経路を学研さんが持っていらっしゃるんですよね。

おふろじゃぶじゃぶコースター(ふしぎデザインより)

この案件での作業は、ポンチ絵を頂いて製品として成り立つように3DCGの原画を起こしていく、というものでした。なので、「原案」という感覚に近いかもしれません。ほか、3DCGをパッケージイラストに使っていただいていますね。工場や金型については、やはり学研さんが培われたノウハウがあったのでお任せしました。

学研さんが出していた「科学」の付録が大ヒットしたのは、有名なプロダクトデザイナーの秋岡芳夫さんの尽力が大きかったようです。秋岡さんは戦後すぐの時代から活躍し、大量生産品のデザインからデザイン教育の普及まで、幅広く活動されていました。学研さんでは、もともと工作記事やイラストのお仕事をしていたことがきっかけとなり、コラボレーションが始まったそうです。そういったプロダクトデザインの系譜の一端に関われたことは嬉しいですね。

ふしぎデザインの「ふしぎ」って?

確かに歴史に少しでも関われる実感は嬉しいですよね。屋号の『ふしぎデザイン』とも相性がいいように感じます。

そうですね。多くの人が連想するプロダクトデザイナーはスタイリッシュな屋号が多いと思うのですが、『ふしぎデザイン』という名前は特徴的なので覚えてもらいやすいですね。

ふしぎデザインの方向性として、スタイリッシュでカッコいい突き抜けた表現をする、ということよりも、親しみや温かみを感じることを意識しています。「これなら自分もできそう」「楽しくなる」というような、少しスキがあってユーザーの想像が膨らむような表現ですね。それもまた、ユーザーにとっても自分にとっても嬉しいのかな、と。なので、以前から、親しみ・優しさ・温かみがあるようなデザインを意識して行っていますね。

ふしぎデザインって、どうやって生まれた言葉ですか?

自分がやっていることって何だろう?と考えると、何かを想像して形にすることなんですよね。会社に所属していたときも、企画した物を形にしていく作業でしたし。そうなると「想像すること」が僕にとって主軸になってきて、作る物を一言でまとめる言葉として「ふしぎ」を選びました。

藤子・F・不二雄のすこしふしぎ(SF)としての文脈にも繋がりますし、言葉が持つ語感も良い。

いろいろなことが想像できてしまう、そういったまさに不思議な文脈や言葉自体が持っている力が「ふしぎ」にはありますよね。

英語で説明する時も伝えやすいです。名刺には「fushigi design」と記しているので、英語圏の方に「この”fushigi”って何?」と必ず聞かれます。英語では文脈がまた違う言い方ができて、レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダーです」と答えていますね。それで納得してもらえることが多いです。

幅広く、自分が考えているデザインの方向を分かりやすくまとめられる言葉なので、良い名付けをしたな、と思っていますね。(笑)

ユーザーに想像させる余地がある表現であったり、そんな「空想させる/感じさせること」がキーワードなのかな、と感じました。

そうだと思います。空想や想像、そういった好奇心を持って新しいことを知ることも、その好奇心を他の人へ伝えることも好きですね。あとは、自分だけの力に限界があるなあ、と感じたときに、ユーザー自身や他のクリエイターの想像力を足してもらい、一緒に考えることでもっと良い物になるんですよね。

好奇心を刺激する、COOKHACKワークショップ at YCAM

そういった好奇心を与えることに繋がる発想で参加されていたプロジェクトが『COOKHACKワークショップ』でしょうか。

このワークショップはYCAM InterLabが企画したもので、オライリーのCooking for Geeksをベースにプログラムを考えていました。僕はそのワークショップ内で使う小道具の制作を担当しています。

COOKHACKワークショップの様子(ふしぎデザインより)

山口情報芸術センターYCAMで開催されたワークショップのデザイン/企画アシスト。近年のYCAMの研究をもとに新しいワークショップを開発する「未来の山口の授業β」の一環として、COOKHACK=「料理、味をハックする」をテーマに据えてプログラムを企画しました。
ワークショップは味覚のウォーミングアップのため、利き酒のようにスープの味を当てる「ワンプッシュスープ」と、素材と調理による味の変化を記録しそこからレシピを考案する「COOKHACK」の二部構成です。それぞれで使われる小道具をはじめ、ワークショップのビジュアル面をトータルにディレクション/デザインしました。
ふしぎデザインより)

経緯としては、フリーになってすぐに、今まで自分が会った方々に沢山コンタクトを取っていた時期があったんです。その中の一つにYCAMがあって、お声がけいただいたんです。YCAM 教育普及担当の石川さんと一緒に制作し、現地で作業できた貴重なお仕事でした。

当時、石川さんが「秋山さんにとってフックアップになったらいいですね」っていう凄いヒップホップっぽいことを言ってくださったのが印象に残ってますね。

COOKHACKワークショップの様子(ふしぎデザインより)

思考を助けるバイオテクノロジー倫理にまつわる本『ゆらぐ はなす つなぐ Gene Drives Elastic Future』

もともと秋山さんはバイオアートにまつわる作品も作られていたので、そういった繋がりも感じました。

そういったバイオの分野で関わったプロジェクトで、ワークショップのための本を作りました。

ゆらぐ はなす つなぐ Gene Drives Elastic Future(ふしぎデザインより)

複数の大学間での協働を行い、バイオテクノロジーの倫理について「島」や「アート」「デザイン」とともに考えるプロジェクト「ISLE PROJECT」のために制作したポップアップブック。
ふしぎデザインより)

バイオテクノロジーの倫理について啓発する活動をしている大学の先生方から依頼いただいた案件です。クライアントは『ISLE PROJECT』という団体で、バイオテクノロジーを少しでも自分ごととして捉えてもらうために執筆活動やワークショップを積極的に行っています。

バイオテクノロジーって、一般の生活では普段意識しないけれど実は生活にも関わる大事な役割を担っているんです。そういった先生たちの考えを学習漫画やイラストなどで視覚化して、講義をするときの参考資料や、ワークショップツールとして使える、「思考するための道具」としての本になっています。スペキュラティブデザインという、問題を喚起させるような、物事を考えるキッカケを与えるデザインにあたるものです。

ゆらぐ はなす つなぐ Gene Drives Elastic Future(ふしぎデザインより)

例えばこの漫画には『遺伝子ドライブ』(ゲノム編集という技術を応用した新しい技術)について描かれていて、読むとなんとなくわかるようになる……という感じです。

ゆらぐ はなす つなぐ Gene Drives Elastic Future(ふしぎデザインより)

この仕掛け絵本のように見えるページ。社会には、バイオテクノロジーに関わる色々な人たちがいるし、一見関わってないように見える人たちも沢山いる。そういう人たちがどういう役割を担っているのか、あるいは自分ならどういう立ち位置だろう……近所に住んでるおじいちゃんかな?なんて、議論する時の補助になります。

ゆらぐ はなす つなぐ Gene Drives Elastic Future(ふしぎデザインより)

他にも議論となるためのイラストページも。そのバイオテクノロジーに限らずいろんな技術が高度に発達した世界と、逆にそういったテクノロジーをすべて規制した原始的な世界を描いて、どう感じるか、どっちが良いか、と議論の種になるようなものですね。

遺伝子だったり、バイオテクノロジーに関する要素がたくさん散りばめられている内容になってます。

本も、プロダクトデザインの視点を応用できるんですね。

そうですね。この本に関わる人には、クライアントである大学の先生方、グラフィックデザイナーさん、イラストレーターさん、印刷会社さん、そしてユーザーさんがいます。このプロジェクトでは企画とみんなの橋渡しを担いました。まずは周辺の専門用語を理解するところから始めたのですが、専門的で複雑な話をいかに噛み砕いて伝えるか、というのは難しいですね。

ただ、考え方はふだんデザインするときと一緒ですね。例えば、どういう物がユーザーに求められているのか、どのくらいの予算で動く必要があるのか、印刷会社さんとしてはどういったデザインが難しいか。そういったひとつ一つの課題を解決していく。なので、作業は楽しくもありました。

メーカーに居たときは自分の立ち位置が明確で、その範囲内でなすべきことをする、という仕事が多かったのですが、フリーになってからは(プロジェクト内の)他メンバーがどういう働きをしているか、積極的に意識するようにしています。そうすることで別の役職やクリエイターとユーザー、立場が違う人同士を繋ぐ橋渡し役ができるので。こういった考え方や作法はサラリーマン時代に先輩方を見ていたからこそ、得られたと思っています。

3種類のスキルを、組み合わせる

自分のスキルをカテゴリに分けてみると、デザイナーとしての専門職スキル、サラリーマン的なマネジメントのスキル、そしてもうひとつが自主制作で培った技術や人脈の創作スキルの三つがある。案件や場合によって、それぞれの箱からスキルを出してきて、組み合わせて仕事をしているイメージなんです。

そういったことを意識しながら仕事をしてたりすると、例えば「これはデザインスキルを前面に押し出すことができるな」とか「創作ジャンルで仲良くなったあの人と一緒にこの案件ができるな」とか、一個一個の案件に対しての自分の役割が見えてくるんですね。実際に『ゆらぐ はなす つなぐ』の製作時にイラストの制作をお願いしたイシヤマアズサさんもTwitterで知り合った方で、自分がSNS上で活動していたからこその座組でした。

「プロダクトデザイン」という軸があるからこそ、様々な制作スタイルを使い分けられるお仕事の数々。次回は、制作に結びつく旅に関するお話やそこから得た未来の展望など伺っていきます。(10月更新予定)

撮影:岩佐莉花

秋山慶太
1988年生まれのプロダクトデザイナー。心を動かし共感を生むデザインやプロダクトを作り出すことを目標に、ものづくりに関わるデザインやプロトタイピングを行っている。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、象印マホービン㈱ デザイン室に勤務 調理家電/ 生活用品のデザインを担当。2017年に独立、デザイン事務所 ふしぎデザイン設立。
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メディアアートにまつわるプラットフォームKYO-SHITSUでイベントの運営と編集・執筆を手がける。デジタルデザインスタジオ RANAGRAM所属。プロジェクトのプランニングやアーカイブを行う。