HATRA×活線 コラボレーション(HATRA 19S/S Collection)

siranon
KYO-SHITSU
Published in
7 min readJan 10, 2019

KYO-SHITSUコラムで連載中のひつじさんによる電子いけばな『活線』シリーズが、ファッションブランド『HATRA』とHATRA 19S/S Collectionの展示にて、コラボレーション。ひつじさんの電子いけばなが、HATRAのモードなファッションを彩ります。

今回のコラボレーションについて、HATRAデザイナー長見さん、ひつじさん両者へお伺いしました。

HATRA 19S/S Collection 展示会

HATRA デザイナー長見佳祐さん

HATRAのアウトラインと、今回の19S/S Collectionのコンセプトを教えてください。

HATRAは「部屋」を主題として、自室のような安心感を外に持ち出せる、ポータブルなスペースとして服を提案しています。

今シーズンのタイトルは『Shapeshifter』。中世から伝えられる、体を自在に変容させる妖怪がそう呼ばれているんですね。今回、それを表現する基盤となっているイメージは、生物学者である南方熊楠の見た「粘菌」の世界と「縮尺」から構成されています。人間も本来「Shapeshifter」であり、その予備動作としてファッションを捉え直す、という意味合いがあります。

また、今回の19S/S展示空間づくりにあたっては、『活線 』に宿る生の気配と、HATRAの服が呼応するような関係を意識しました。

今回新たに導入した3Dシミュレーション手法についてお伺いします。新しい手法を試したことで、どういった刺激がありましたか?

今回導入した手法は、もともとアパレルで普及していた2DCADを応用したものです。平面の型紙データに、縫い合わせ情報と物性、テクスチャを組み込み、ヴァーチャル上で縫製シミュレーションを行います。

(展示会場でのデモンストレーションの様子)

今回新たに導入した手法は、デザイン・プロセスに多くの影響を与えました。例えば、自分が二人いるように判断が下せるようになったことなどが大きいです。

従来のやり方では、スケッチと1/1トワル(仮組みの原寸大サンプル)という、極端な判断材料から出来上がりを想定していました。そこから、今回の手法を導入して無段階の縮尺を得たことで、服が喚起するさまざまな印象を、以前よりもコントロールできるようになったと感じています。

このイメージは今回、テーマにも反映されました。

現代アートやメディアアートの分野で活躍するアーティストとのコラボレーションもHATRAの特徴の一つですが、そこに至った考え、経緯を教えていただけますか。

興味のある作家と共同制作を行うことは、自然なことだと思います。

ひつじさんと出会ったのは、数年前『Weartronica』という複数の分野が集まってファッションを更新するクロスユニットで、外気に応じて形を変えるネックウォーマーを共に制作したことがきっかけです。当時から彼の作品には惹かれていて、いつかご一緒したいとお話していました。

『活線』は道具や素材に対するエンジニアの情が、繊細な回路に儚さを吹き込んでいるようで、無機的ながらすぐれて詩的な作品だと思います。

コラボレーションや新たな手法など、様々な視点を取り入れることでHATRAのファッションが更に拡張されているように感じました。ありがとうございました。

ひつじさんインタビュー

HATRAとのコラボレーションはどのような考えで制作されたのでしょうか?

今回長見さんから展示のお話を伺った際、HATRAのブランドテーマにもある「部屋」というキーワードは、制作におけるヒントになると考えました。

活線シリーズのモデルにもなっているいけばなや、半田ごてを握って行う電子工作は多くの場合、どちらもとても個人的なスケールで制作が行われます。

そのような共通点を感じていたので、自分の部屋でひっそりと作って楽しむような、きれいにまとめつつも決して気張らない、ゆるやかなラインになるよう意識して制作しました。

HATRAのフードパーカーは重力に逆らうような自立するフォルムがあり、そういった特徴ともうまく調和できたのではないかと思います。

今回、コラボレーション用に新たに制作した電子いけばなについて詳しくお伺いします。

5月から数えて約30個の電子いけばなの作品を作ってきました。大きく分けて3つのタイプがあります。導線のコンポジションに注視して気持ちの良い形を探るもの、1つの部品にフォーカスしてその機能を見せるもの、そしてICを使わずに機能する回路を空中で構成した、いわゆる『ディスクリート』と呼ばれるタイプのものです。

今回の展示会では、先述の3つ目、回路を組むタイプを制作しました。マルチバイブレータ回路と呼ばれる回路が1点と、残り3点は弛張発振回路と言う同一の回路を、違うフォルムでそれぞれ制作しています。

(手前)マルチバイブレータ (ほか)弛張発振回路

ファッションと活線のコラボレーションは初めて。どのような刺激を受けましたか?

長見さんから伺ったコンセプトの中に「縮尺」というキーワードがありました。産業の世界では電子回路も小型化が進んでいて、機械によって部品を実装することが多くなっています。

活線シリーズでは、人の手で実装されるスケールの部品を使っていて、どこまでも小さくできてしまう回路やシステムを身体スケールであえて作ることの意味、のようなものも考えていました。そんな中、ファッションの展示会に呼んでいただけた事は自分にとっても良い刺激となりました。

普段はInstagram上でしか見ることができない本作品。展示空間に設置されて改めて、電子いけばなのミニマムな美しさを感じる機会となりました。ありがとうございました。

2つの異分野のクリエーションが交差した展示空間では、HATRAの印象的なフォルムを持つファッションの数々を『活線』が持つ緩やかな変化が静かに彩っていました。
HATRAの最新コレクションの詳細はWEBサイトよりご覧ください。
🔗 HATRA

(写真・siranon / ひつじ)

プロフィール

HATRA

デザイナー長見佳祐により2010年に立ち上げられた、ユニセックスウェアレーベル。フードウェアを中心に「部屋」を主題に居心地のよい服を追求・提案している。現代アートグループ「カオス*ラウンジ」とのコラボレーションなど、クロスオーバーな活動が特徴。
HATRA

ひつじ

1989年生まれ、システムアーティスト。多摩美術大学大学院 デザイン専攻情報デザイン研究領域 修了。コンピュータを用いた表現に関わる広告や商業施設の開発業務に携わる傍ら、「システムと表層の反転」を主題とした表現活動を行う。KYO−SHITSUにて電子部品と国内外のアート作品をつなぐコラム『結線』を連載中。
活線プロジェクト / Live wire project

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siranon
KYO-SHITSU

メディアアートにまつわるプラットフォームKYO-SHITSUでイベントの運営と編集・執筆を手がける。デジタルデザインスタジオ RANAGRAM所属。プロジェクトのプランニングやアーカイブを行う。