なぜロイヤリティプログラムがブロックチェーンのディスラプションにうってつけなのか

Kaz Kobayashi
KYUZAN
Published in
8 min readMar 25, 2019

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この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Why Customer Loyalty Programs are Ripe for Blockchain Disruption
著者: Aaron Wiseman

ブロックチェーンはよく、私たちのお金に関する考えを一新させ、金融業界に革命を起こす技術的な進歩である、と言われています。しかしブロックチェーンが大きな変革をもたらすのは、なにも金融業界だけではなく、他にも多くの産業や市場がその変革に適しているのです。 そのうちの1つはロイヤリティプログラム(*1)です。

現在、ロイヤリティプログラムは、市場規模が3600億ドルを超える巨大な業界です。無数の異なったプログラムが、それぞれ独自のポイントを商品との交換や割引に使うことができるシステムを持っています。2017年のColloquyロイヤリティ国勢調査によると、アメリカ人は平均して29もの異なるロイヤリティプログラムに参加していますが、これらのアカウントの約半分は使われておらず、消費者の30%はたったの1ポイントも使ったことがありませんでした。いかにこの業界が変わるべき時期を迎えているかが判るでしょう。

では、なぜロイヤリティプログラムはこのような停滞をしているのでしょうか。現状では、大多数のプログラムがそれぞれ独自のポイントシステムを持っており、消費者の貯めたポイントはその小売業者でのみ交換することができます。この集権的なシステムは、ポイントの価値と実用性を大幅に制限します。”報酬に十分な価値がない”ということが、ミレニアル世代がロイヤリティプログラムの利用をやめる最大の理由です。たとえ、顧客がある1つの小売業者で50ドル相当のポイントを貯めたとしても、ポイントをどのように、どこで、そしていつ使うことができるか、という制限があることを考慮すると、そのポイントは実際の50ドル札と同じ価値を持ちません。

経済学的には、これは資産の流動性と呼ばれます。資産の流動性が高ければ高いほど、簡単かつ迅速に現金と交換できます。資産の流動性が高いということは、それだけ人々が価値を感じるということです。たとえば、資産の流動性を上げると、金銭的価値が最大22%増加する可能性があることがわかりました。

流動性はロイヤリティポイントに大きなパワーを与えます。ビジネスの中に譲渡可能なポイントシステムを構築することで、そのプログラムのメンバーは互いに取引したり、他の企業と取引したり、さらにはポイントを現金に引き換えることさえもできます。

また、互いに信頼のない状態で協同するための、オープンプロトコル(*2)も企業に提供します。中央集権的存在が無いのにもかかわらず、どんな航空会社のポイントにも交換可能な、航空会社のロイヤリティポイントを想像してみてください。

この技術を早期に採用した小売業者は、その優れたロイヤリティプログラムが多くの顧客を引き付けるので、その恩恵を享受できる可能性があります。貯めるポイントに、より大きな価値があるほど、より多くの人々がポイントを得るために、その店舗でお金をつかって、ポイントを稼ごうとするでしょう。

ブロックチェーン上のキャセイパシフィック航空のマイル

一部の小売業者はすでにこのソリューションの可能性に気づいています。キャセイパシフィック航空、シンガポール航空、ルフトハンザドイツ航空は、ブロックチェーン技術に投資し、2つのブロックチェーンベースのロイヤリティウォレットアプリを立ち上げました。なにもこれは航空会社だけに限定されるわけではありません。EZ Rent-A-Carには、メンバーがポイントを暗号通貨と交換できるようにするロイヤリティプログラムがありますし、Hewlett Packard Enterpriseと日本の電子商取引大手の楽天も、独自のトークンを使ってロイヤリティプログラムを作成し、消費者が他の暗号通貨や現金と交換できるようにするプロジェクトに着手しています。

問題は、この分野にイノベーションを起こそうと真の努力をしている企業と、単に容易で無料の広報活動として利用しようとしている企業を見分けることです。たしかに後者の企業もありますが、その一方で業界を刷新しようとする前者のような努力をする企業もあるのです。

たとえば、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学とロイヤリティ代理店のLoyaltyXが提携し、新しい暗号通貨ロイヤリティプログラムの7週間トライアルを実施しました。「Unify Rewards」と呼ばれるこのプログラムにおいて、学生は大学のキャンパス内にある12の小売店で行われた取引10回ごとに、5ドルのEther(*3)を得ました。そしてトライアルに参加した学生には選択肢が与えられました。獲得したEtherを現金に引き換える、他の参加者に送金する、ギフトカードに交換する、または自分のEthereum Walletに送金する、の4つです。暗号通貨分野への関心の高さもあり、大多数の学生(3分の2)がErhereum Walletへ送金することを選択し、ギフトカードとの交換を希望したのはわずか5%で、残りの学生は現金との引き換えを選びました。今回の調査では86%の参加者が、ロイヤリティプログラムでポイントを得ることよりも、暗号通貨を獲得することの方がより魅力的であると感じました。

このような研究、調査が行われているということは単純に、この業界が注目を集め、変化を起こし始めていることを示しています。

しかし一方で、当然ながらこの変化は小売業者にとってのリスクにもなり得ます。小売店の自社製品以外のものと交換できるポイントを顧客に提供することで、ロイヤリティプログラムの持つ、顧客を固定する効果はおそらく減少します。もはや消費者が、ポイントをその小売業者でしか使えないなんてことはなくなり、好きな人や企業に対して自由に使えるようになるでしょう。そして、多くの小売店は、自分のお店でしか使えないポイントではなく、取引可能なポイントを発行することに抵抗を示すでしょう。

加えてブロックチェーンによるソリューションは小売店がポイントプログラムのメンバーを追い出したり、システムを乱用するようなポイントを取り消すことをできなくさせます。また、企業は状況の変化などに応じて、ポイントの価値を容易に変化させることもできなくなります。つまり、ロイヤリティプログラムをブロックチェーンに移行させることは、小売店が持つ権限を低下させることと同義になります。

これらは、欠点が利点よりも多いことを示唆しているのではなく、ブロックチェーンへの移行が、様々な異なる利点と欠点を持ち合わせている、ということを示しています。これらの変化を受け入れる小売店は、ロイヤリティとして得られる、従来よりも多くのポイントを求める新たな顧客からの収益を享受することができるかもしれません。もしうまく使いこなすことができれば利点が欠点よりも多くなるでしょう。

小売店がブロックチェーンがもたらす変化を受け入れようと拒絶しようと、ブロックチェーン革命が到来し、結果として無数の産業が技術的な混乱を経験することは明らかなのです。ロイヤリティプログラムマーケットはその顕著な例となるでしょう。企業は、変化を受け入れて適応し続けるかもしれないし、変化を拒絶して競争から遅れをとるかもしれません。これがどのような結果をもたらすのかは時のみぞ知るところでしょう。

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注釈

*1)優良顧客に対して、なにかしらのインセンティブを与える施策。ポイントカードや航空会社のマイルが、それにあたる。

*2)プロトコルとは、通信を行う相互間で決められた約束事のこと。オープンプロトコルは、誰でも通信を行えるように、その仕様が公開されているものを指す。

*3)暗号通貨プラットフォームであるEthereumにおける、通貨の単位。

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この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文: Why Customer Loyalty Programs are Ripe for Blockchain Disruption
著者: Aaron Wiseman

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