本当は楽しい金融
Feb 5 · 28 min read

以前OpenFinance Networkについての記事を執筆したが、STOプラットフォームの各プロジェクトの違いや、そもそも彼らが何をやっているのかがわかりにくいと感じるため、この記事ではSTOを取り巻くエコシステムを概観したうえで、各プレイヤーの事業の特徴と違いについて見ていきたい (今回も細かい技術の話はあまりしていない)。

かなり有名な国内・海外の記事を多分に引用しているのでどこかで見たことある感の強い内容もあるかもしれないが、おかげで私自身がフルで執筆するよりクオリティが高くなっていることは間違いないのでご容赦いただきたい (引用した記事については随所に記載し、本記事の最後に一覧にしている)。誤り等あればぜひコメント頂きたい。


セキュリティトークン、STOとは

セキュリティトークン (以下「ST」と表記) の定義は一意ではないが、各国の法規制に基づき、有価証券を表現したトークンのことを指す。有価証券がトークン化されたものと考えて良い。STO (セキュリティトークン・オファリング、STの発行) もICO (イニシャルコインオファリング、仮想通貨の発行) もIPO同様、企業もしくは団体が資金調達をするための手段の一種。STOがICOと異なる点は、既存の金融関連法もしくはそれに近しい基準で作られた法規制に対して準拠した形で資金調達を行わなければならないという点にある。つまりIPOとICOの中間の要素を持つ資金調達手段である。既存金融関連の法規制は概ね投資家保護のために作られているため、STは仮想通貨とは異なり当局への届出が必要であり、まだ法規制は流動的だが既存の有価証券に倣えば従来のホワイトペーパーよりはるかに細かい情報の開示を行うことが必要となることが予想される。日本においてはST関連法規制に関して議論中であるためまだ発行されたことはないが、米国や一部欧州の国では昨年末以降徐々に発行され、流通市場にも上場し始めている。

証券のトークン化によって得られるメリットとしては下記の要素がよく言及される。参考記事

・投資家のアセットクラスの拡大
・グローバルな取引を行うことができるようになる
・24時間365日オープンな市場による流動性の増加
・既存金融機関等の仲介による高い仲介コストの削減 (発行、流通ともに)
・フラクショナル・オーナーシップ (断片的所有権、例えば不動産の一部を所有する、等。考え方としては証券化に近い)
・迅速な決済
・コンプライアンスの自動化
・アセット同士の互換性

セキュリティトークンの市場環境概要

デジタルトークンの進化は、金融市場のエコシステムに内在されることにより大きなリスク (ハッキングとか) と直面することになった。しかし、将来的にはRegTechの進歩に伴い、コンプライアンス要件とともにKYC / AMLを (自動的に) 保証するためのコンプライアンス層が作成されるだろう。そうすれば、国境を越えて相乗効果が現れ、ブロックチェーンの恩恵を受けることができる。現時点ではSTのエコシステムはまだ未熟で初期段階にあるが、多くの組織や企業が注目し、議論している。

有価証券のトークン化は、多様な種類の資産間で行われることが期待されている。株や債券といった『伝統的な』資産をトークン化しようと試みる世銀 (オーストラリアにて世銀債を発行) のような例もあるが、独立系のプロジェクトが取り扱うのは主にプライベートエクイティを含むオルタナティブ資産 (ざっくり、株と債券以外の『非伝統的な』金融商品全般を指すと理解して問題ない) だ。オルタナティブ資産はこと米国においては非常に市場が大きいものの、リスクの読みづらさと商品の複雑さに起因する取引周辺業務の最適化の遅れから、基本的に売買されることがほとんどなかったアセットクラスである。トークン化により流動性が創出されれば、投資家はポートフォリオを多様化する機会を得ることができる。

PwCの調査によると、米国の私募証券市場の規模は、パブリック市場の22倍。より多くの機関投資家を獲得することができれば、将来市場は拡大していくものと思われる。

PwCとSecuritizeによると、プライベートファンドはIPOより私募の方が22倍大きくなっている。

実際に現状市場はどうかというと、Polymathを通して15のトークンが発行され、2018年末~2019年にかけてtZEROやOpenFinanceがサービスリリースし、いくつかトークンが上場しはじめている。まだまだ流動性が拡大しているとは言い難い状況ではあるが、STO市場は今がまさに実用化の最初のフェーズにあると言えるだろう。

また、デリバティブ (有価証券にスワップand/orオプションという手法を用いて性質を変えたもの) に関してはほぼ全てがOTC取引で、市場規模は1千兆円前後とも言われ、伝統的な金融商品よりはるかに大きい。将来の話にはなるが、有価証券のトークン化の実現により、そのような派生市場をも取り込むことが期待される。なお、dYdXのようにデリバティブの仕組み自体は既に存在しているものの、STに関してはカウンターパーティーリスクをどのように扱うかについて、未だにKYC以上の議論がなされていないように見える。日本ではほとんど見られないが、米国では金融商品のデフォルトは比較的日常的に行われる。ブロックチェーン上で更にリスクの高い商品 (とはいえ現実には存在する) が作られる場合は、清算機関 (オプションの決済や、担保、そしてリスクの管理を行う機関) 等新たな問題に対処する必要が出てこよう。

ST業界のエコシステム

次に、ST業界のエコシステムについて概観する。まず、STが発行される発行プラットフォーム、そして公で取引が行われるセカンダリーマーケットでの取引プラットフォームが存在する。これはざっくり言うと既存金融市場で言う証券会社と取引所の立ち位置に当たる。その周りに、付随関連業務の一部を担うサービスプロバイダーとして、以下のようなプレイヤーが存在する。

・カストディ ・信託 (トークン化された資産の保護)
・ブローカーディーラー (売買の仲介を行うことで流動性を提供する)
・法務サービスプロバイダー (規制対応のため)
・コンプライアンスサービス (KYC、資本政策表管理、不正管理) プロバイダー
・コンサルティングサービスプロバイダー (トークン設計アドバイス等)
・ステーブルコイン、Wrappedトークン
・流動性プロバイダー
・デリバティブ組成プラットフォーム 等

STエコシステムのマッピング (THE BLOCKより引用)

具体的に既に確認されている事例として、Securitizeプラットフォームを使用してSPiCE VC、Blockchain Capital、Lottery.com、および22x (22xFund) がセキュリティトークンを発行し、うち22x以外のSTはOpenFinance Network (以下「OFN」と表記) やtZEROに上場している。下図で役割を確認しながらパートナーシップを追うとSTの流れを掴みやすいだろう。

https://kepler.finance/digital-securities-market-research/ より引用

但し、どのプロジェクトも、発行から流通までサポートするワンストップのサービスを提供したいと考えており、今後上記の分類や勢力図が変わってくる可能性もあるだろう。また、既存金融機関や既存の取引所による参入については未だ詳細が明らかになっていないが、発表はされており近い将来強力なライバルとなる可能性は高い。

STOを行うメリット

投資家がSTを購入する基準は利回り、好きな投資対象が買えるかが主要なものと思われ比較的わかりやすいだろう。一方、資金調達手法がいくつか存在するなか、発行体がSTOで資金調達を行うメリットについては、その目新しさもしくはコストの削減、またはSTOを行うことによる何かしらの付加価値が必要だ。

目新しさは今はまだ問題ない。ブロックチェーンに対する目新しさももちろんだが、ST銘柄は裏付け資産が珍しく、既存金融市場では限られた投資家に対してしか売られないようなものが多い。例えば、絵画や鉱物、等をファンドにしてSTにする例がメジャーなプレイヤーからもよく話題にのぼるが (Polymathあたりがそろそろそういう商品を出すらしいとの話もある)、そのような有価証券を通常目にすることはほとんどない。

資金調達にかかるコストはそれこそ国や条件により異なるが、あるファンドが米国における私募証券発行とSTOの間のコスト比較を試算したデータがある。これによると、コスト削減効果は全体でおよそ4割ほど見込まれるとのこと。また、プロセスの自動化により通常2~8週間程度かかっていた私募証券の決済が数時間〜数日に短縮されるといった、デジタル化による恩恵を受ける部分もある。

https://www.finyear.com/Cost-Benefits-of-STO-vs-Private-Placement_a40021.html より引用

STOを行うことによる何かしらの付加価値をつけるという選択肢についても考えてみたい。日本においては小さい事業が銀行や証券発行により資金調達を行うことは容易ではなく、ファンドや投資家も多いとは言えないなか、ベンチャー企業が資金を確保する新しい手段としても注目されている。筆者としては、STは既存金融商品のトークン化なので既存金融と同様の過程が求められることが必至であると考えており、STOにより資金調達の選択肢が拡大するとは言えないと考えているものの、現状の雰囲気的には「仮想通貨ならやってみよう」という事業者もいるだろう。

では私募証券発行と異なる明確な定性的メリットは何か。それはブロックチェーンを用いることにより個人投資家に対する売り付けの難易度が下がることだろう。従前のリテール向け証券は発行とその手続きにはかなり手間もコストもかかるが、特定の条件を満たした事業者にとっては大きなメリットがある。例えば、既存金融の文脈では、ソフトバンクは財務状況が弱い (簡単にいうと借金が非常に多い、信用力上リスクがある状態と思っていただいて構わない) 状況においても多くの個人向け社債を発行していた。これはソフトバンクという、一般ユーザーにとって超有名なブランドを持つ企業にとっては非常に有効な戦略だ。個人投資家にとっては潰れそうにないキャリアの社債を高い利回りで買いたいだろうし、さらに毎回白い犬のお父さん等のデザインが入ったマグカップやショッピングバッグ、野球グッズ等のお土産をもらうことができる。それによってソフトバンクへの愛着も高まり、周りの人とその体験を共有し、さらにソフトバンクユーザーが増える可能性も高まると言う好循環を作り上げることができる。そのように、個人ユーザーの囲い込みが不可避なサービスや、知名度を高めたい企業等が話題性に目をつけてSTOを選択するということはあり得るだろう。個人の投資等の選択肢拡大という点でも夢のある話だ。ただし、ソフトバンクの例で言えば、先日IPO直後に割と悲惨なストップ安をつけたことからもわかるように、機関投資家は買いたがらないがリテール投資家には売れる、というような商品が、投資家にとって本当に良いかどうかは別の話として考えた方が良い。

主要プラットフォーム概要

本記事ではメインのプレイヤーであるSTの発行、取引プラットフォームのプレイヤーについて見ていく。なお、どのプロジェクトも「KYCと流通制限により法規制をクリアする」、「トークン化することで流動性を提供する」などとうたっていて、「規制に準拠したプロジェクトなんです」と書いてまとめた気になっている雰囲気の記事もよく見るが (何書くのも自由なんですが、すいません)、正直それは有価証券を発行する以上当たり前だ。重要なことではあるがプロジェクトの差別化要因ではない。

トークン化される資産、もしくは取引されるトークンの裏付け資産の種類は多様だが、各プロジェクトのホワイトペーパーを見る限り、これまで資本市場にアクセスできなかった発行体や、買える商品が限られていた投資家に対する新たな選択肢の提供というビジョンが根本にある。

Overstock2018年Q3収支報告会資料より抜粋

プライマリー (発行) 市場のプレイヤー

ST発行プラットフォームとして、Securitize、Polymath、Harbor、Neufundを紹介する。厳しいライセンスと多くの機能を備える必要があるセカンダリー市場のプレイヤーと比較し、現時点ではプライマリー機能を担うプレイヤーの方が競争が激しい印象だ。どのプロジェクトも中長期的にはセカンダリー市場も狙っており、デジタルセキュリティライフサイクルの全ての要素を管理したいとの考えも読み取れる。ちなみに、細かく言うと「証券発行」とは、証券を最初に購入した投資家が代金を支払うところまでのプロセスを指すため、ST発行プラットフォームにも投資家は存在する。

技術的な観点で、ERC20トークンは代替可能 (fungible) だが、既存金融業界には、ABS (資産担保証券) を含む様々な証券があり、これらの証券は代替可能ではない。また、株式のように分割ができるような商品設計も必要であるし、何より法規制に準拠する流通制限機能の実装も必須である。これらを解決するため、Polymathプラットフォーム用のST20規格、Swarm用のSRC20規格、Harbour用のR-token規格、およびEthereumコミュニティ用のERC-1400 / ERC、および1410規格およびERC-1404規格がそれぞれ開発されている。Neufundは独自規格を持たないがどのプロジェクトもメインチェーンはEthereumで、全てオープンソース。ただしDSトークンは独自チェーンに移行すると発表している。各プロジェクトの比較は下記。

Kintaro Capitalのブログを参考に筆者作成

法規制準拠の要件として、どのプラットフォームにも必ず流通制限に係る機能が実装されるが、ERC-20等のEthereumの既存規格に加えて必要になる (各プラットフォームに実装されている、もしくは今後されるだろうと思われる) 機能の主要なものを下記に列挙する。ここではクラウドセールコントラクトに含むべき内容は記載していない。

・発行されてからすぐには売却できないロックアップ条件
・送金時にKYC情報を確認し、送金可能な相手かどうかを確認する
・投資家のトークン購入可否を判断するためのKYC / AML情報に基づいたホワイトリスト
・投資家が資格を剥奪された場合、売却はできても購入はできなくなるような仕様。AML/CFTにひっかかった場合にアカウントを凍結する等の柔軟な仕様

Securitize

発行機能を包括的に提供していることに加え、投票、議決権、配当を実現するDSプロトコルを開発者向けに公開している。これは他のプロトコルと互換性があるため、例えば送金時にPolymathやHarborのホワイトリストを参照することができる。RFE (ReadyForExchange) APIでDSプロトコルと取引所を連携して、法規制を遵守した形で取引ができるようにする計画もある。

また現在、IBMとコロンビア大学が共同で行うブロックチェーン関連企業向けのアクセラレタープログラムにおいて、HyperLedgerブロックチェーン上で償還満期の短いコマーシャルペーパーをはじめとした社債を発行するプロトコルの開発に取り組んでいるそうだ。伝統的な金融商品に対する取り組みにも注目したい。

利用フィー体系がユニークであり、財務体質含め業界内での競争にどのように効いてくるか気になるところだ。また、どうでもいいがCEOのカルロスは日本に10年程度住んでいたことがあり、日本語が話せるらしく、グローバルブレイン等の日本企業から出資を受けている。

Polymath

STOの概念を提唱した実質生みの親とも言えるプロジェクト。内部トークンであるPOLYを用いて、ST発行 (トークンセール) に必要なプレイヤーをP2Pでマッチングさせる。本記事で取り上げるプロジェクトの中で唯一マーケットプレイスとしての役割を果たす。KYCプロバイダーと法務サービス・プロバイダーに加えて開発者も参加しており、法律やプログラミングの知識がないユーザーはマーケット上で書類作成や実装の依頼をすることができる。
トークンやWalletはKYC情報と紐づけられる。送金後に送金を取り消すRevert機能が実装されている。

既に15のSTを発行した実績があるとされており、Polymath自体のICOの規模の大きさも相まって最も勢いのあるプレイヤーとの印象を受ける。マーケティングにもかなり力を入れている様子だ。これもどうでもいいことだが、やはり元証券マンとしてはBull (牛) をロゴに使うのはセンスの塊だなと思わざるを得ない。これに対して助言サービスを提供するサブユニット (使用しなくても良い) はMatadorと呼ばれている。

Harbor

取引プロトコルのベースとなるコンプライアンスプロトコルを提供。ネイティブトークンは存在しない。特に不動産 / REITに特化している。

証券交換に係るパブリックプロトコルを提供する0xと連携し、相互運用性 (interoperability) の面で0xリレイヤーエコシステムによる取引を円滑にすると発表している。ホワイトペーパーでも流動性ゴリ押しな印象。

Neufund

ドイツに本社を置き、Binance、マルタ証券取引所と提携する欧州で最も有力なプロジェクト。ドイツ証券規制に準拠したETO (Equity Token Offering、株式を表証するトークンの発行) を行っており、EU圏の投資家が参加できる。株式をトークン化できるという点でクラウドファンディングに近い役割を担う。

NEUはNeufundの株式のような存在であり、トークンを保有する投資家はプラットフォーム全体のETから配当を得る仕組み。

セカンダリー (流通) 市場のプレイヤー

ここではtZERO、OpenFinance Networkについて説明する。流動性を提供するプロジェクトとしてBancorやAirswap等も存在するが、ここでは板取引可能なマーケットプレイヤーに限定する。

両プロジェクト共にATSライセンスを保有している。また、クリアリングと決済のプロトコル (セカンダリー取引の周辺業務) 、株主名簿作成等の周辺機能についても実装されており、日本の既存金融業界で言うクリアリング機構とほふり (証券保管振替機構) あたりの役割を代替したワンストップサービスを提供している。プライマリーのプロジェクトは概ね網羅的にパートナーシップを結んでおり、現在はそれぞれの戦略で事業拡大を狙う。

tZERO

販売対象は投資機関投資家のみ。優先株を自らSTOしたTZROトークンを発行しており、利益の10%を投資家に分配する。2019年Q1サービスリリース予定。National Securities Exchangeライセンス (取引所と同様の、上場基準を設けることができる最強のライセンス)の認可を得るため、ボストンオプション取引所 (カナダ籍の複数の取引所を運営するTMXグループの傘下) とのジョイントベンチャーを発表。

Overstockという1999年からNasdaqに上場する小売通販サイト運営企業が買収したものの、小売事業を全売却して結局ブロックチェーンに全振りに戻ったプロジェクト。グループには投資ファンドもあり、コーポレートストラクチャーやICOの経緯等、バックグラウンドが非常に面白いプロジェクト。2019年1月には世界初のビットコイン納税サービスの提供を発表した。

OpenFinance Network

2018年末、世界初の米国規制準拠ST取引プラットフォームサービスをリリース。適格機関投資家、一般投資家に関わらず取引をすることができる。CEOであるJuan M. Hernandez含め、チームが長年のオルタナティブ投資経験を持っていることが他のプロジェクトと大きく違う。FidelityやMerrill Lynch等のグローバルでもトップの金融機関と取引がある。まだ開発中だが、既存金融機関とのAPI連携、KYCサービスの共有により、ライセンスを保有する既存金融のサービスからシームレスに上場トークンを取引できるAPIを提供する予定 (例えば野村證券の口座からOFNに口座を開かなくてもトークンが売買できるようにすることも可能になる)。

Regulation D、S、A+、CFのフォーマットを利用可能。手前味噌だが詳細は筆者過去記事もご参考いただきたい。

STO市場への新規参入ハードル

STを取り扱うためにはライセンスが必要となる。そのため、STO市場に参入可能なプレイヤーとして、暗号通貨取引所よりも伝統的な証券取引所の方が有利な立ち位置にある。ロンドン証券取引所やNasdaqはまだサービスインしていないまでも、参入を表明している。一方で、マルタやジブラルタルなど、政策の柔軟性が強い国の中には、仮想通貨取引所のライセンス取得が比較的容易である可能性が高いという見方もある。

STOに必要なライセンスは主に下記と考えられる。なお、RAE以外の3つはBD→ATS→RIAと段階を追わないと取得できない性質のもので、それぞれランクアップさせるために9~12ヶ月程度を必要とする。

BD(ブローカーディーラーライセンス)、ATS / ATLS(代替取引システムライセンス)、RIA(登録投資顧問ライセンス)、RAE(清算および取引執行ライセンス)

CoinbaseはST市場において急成長している取引所として有名だが、 ライセンス取得を目的に2017年から3つの金融機関の買収に成功し、現在はBD、ATS、RIAのライセンスを取得。このように、今後クリプト界隈のプレイヤーが買収、またはtZEROのようにジョイントベンチャーもしくは提携を行うことで、ライセンスの取得を狙う事例は増えるだろう。

また、発行・流通を除く付随業務に関しても、KYC等に付随するセンシティブな情報であったり法律会計税務等の専門職としての知識、究極の話サービスプロバイダーとしての社会的な信用が必要とされるため、完全に分散型になるには時間がかかると思われ、直近では既存のプレイヤーが徐々に集まって来ることになるだろう。

最後に小話:セキュリティトークンが実現するアセットクラスに関する考察

最後に、STが今後どのように金融市場に浸透するか、トークン化の難易度を決める要素と現時点での課題について考察してみたい。例えばトークン化することで流動性は本当に高まるのか、パブリックチェーンにすることが良いかどうか等、STプラットフォームに関する議論は多く世に存在するが、ここではSTが “投資商品として金融市場に浸透する” ために必要なハードルという視点で考えている。

ST業界を牽引するオルタナティブアセット

現時点では基本的に現時点でSTプレイヤーはオルタナティブ商品を取り扱うことを前提としている。各プレイヤーも主張しているように、OTC取引 (店頭取引) が主要となっている金融商品 (例えば社債やCDS、一部のFXやREIT) に関しては、規制とコストと利便性の面でもともと中央集権的なインフラが整っていないためセキュリティ・トークンの仕組みが導入されやすいと考えられる。

既存の大手投資銀行おいてもこの動きは見られる。例えば、2018年8月、ゴールドマンサックスやウェルズ・ファーゴ、JPモルガン、シティグループなど、世界最大手金融機関が名を連ねてNYを拠点とするブロックチェーン技術を用いたFintech企業Axioniに総額35億円を投資したと報じられた。同社は調達資金を使ってCDSをメインに取り扱うSTプラットフォームを開発するとみられている。

既存金融と比較したときのSTが抱える潜在的な課題

伝統的な金融商品については、取引所や証券会社による仲介システムが既に存在している上場株やリテール投資家向けの商品等は利便性も透明性も流動性も高く、利回りが低いといえど今後も長期間に渡り存在し続けるであろう。それは既存インフラからのスイッチングコストが高いとか、ユーザーのITリテラシーの問題もあるがそれ以上に、①商品自体のリスクに対する情報がブロックチェーン上に集められるまでに時間がかかるとみられることと、②発行体にも投資家を選びたいという気持ちがあるからだ。Nasdaqの元CEOのRobert Greifeld氏が最近、5年以内にすべての証券がトークン化すると発言していたりもするが、筆者個人の意見ではかなり難しいように見える。

誤解しないでいただきたいのだが、既存金融機関は既得権益を振りかざしてイノベーションを阻害したり、軽視・批判もしくは無視しようとしているのではない。また、そのdisruptiveな技術に気づいていないわけでもない。現に世界最大の投資銀行たちはこぞってブロックチェーンに投資し、多くの特許を取得しようとしている。単に現時点では、既存金融とブロックチェーンの得意とする領域、つまり土俵が異なるというだけの話だ。部分最適化が進み装置産業化しているタイプの業務フローを新しい技術で代替しようと考えると、同様のシステムを作ることよりも何倍も大きい苦労をせざるを得ない。このセクションでは、世銀債のように伝統的な金融商品をブロックチェーンに乗せる場合に何が必要かというお題について、頭の体操だと思って考えていただきたい。

上記2つの課題について考察する。まず、投資とは何かという原点に立ち戻ってみたい。投資とギャンブルをあえて二項対立の概念として定義すると、投資は正確な情報分析から導かれる資金供与であると言える。つまり、ギャンブルプラットフォームでないのであれば、ブロックチェーン上で金融資産を扱う場合、まずは投資家から適切と認識される程度の情報開示が盛り込まれることが必須となるだろう。これは、オルタナティブ資産においては特に非常にコストがかかる。詳細は後述したい。
既存金融に関しては投資家も結局は会社の公式ホームページや、EDGARやEDINETといった国が運用するシステム等から情報をダウンロードして分析しているわけなので、それらの機能がブロックチェーンを用いたサービスの一部機能として代替されてしまったら、その時は (大規模なハッキングのような事件が起こらない限り) 証券会社等リサーチ面での付加価値を上げたいと考えるプレイヤーがその動きに追随し、一気にブロックチェーン技術の導入が進む可能性もあるだろう。未だ公募STが発行された例は米国法規制下においては見られず、現状Regulationと呼ばれる私募のフォーマットによる発行に対応しているが、情報開示の点がクリアできれば公募によるST発行も可能となるだろう。但し、日本在住の皆様であれば記憶に新しいように、企業が開示している数字でさえも正しくない場合は、即座に証券の価格は暴落してしまい、加えてその後どのタイミングでその証券をデフォルトと判定するかという明確な基準も未だ定まっていないという状況もある。
上記を総合して考えると、ST投資家が十分に正確かつ必要十分な情報を知ることができるという保証は現時点ではなさそうだ。

2つ目に、発行体自身が自らの資金面のステークホルダーについて中央集権的でありたいという、直接的には経済合理性に欠いた側面を含んだインセンティブが働いている場合も少なからずある。特に株の場合は、保有者が自社の経営に関わる『株主』となるわけなので、企業側が投資家との関係性に気を配る理由がよりわかりやすいだろう。例えそれが債券であっても、よくわからない投資家に買われた金融商品は市場で好ましくない動きをし、次回資金調達をしたいと思っても投資家が買ってくれないという状況は起こる。そのような状況に備えて定期的な、もしくはディール前の大掛かりなロードショー (投資家に直接自社について説明して回るツアーのようなもの) をお金をかけて、リソースを割いてまで行うのだ。

オルタナティブ資産を扱うSTプラットフォームの課題

オラクル問題と情報開示:現時点で発行されているトークンはほとんどがVCやファンドのものだが、将来的には実物資産を裏付けとしたABS (資産担保商品) が組成されることもあるだろう。特に安定性の高い不動産は、トークン化が急がれていることと思われる。一方で、その際、どのように裏付け資産の価値を測定するのかというオラクル問題に関しては注意すべきだろう。例えば米国の情報開示は日本と比較して大幅に進んでいるのは事実だが、日本では不動産の情報開示は非常に遅れている。申し訳程度にNOI (不動産のリターンを示す指標としてよく用いられる) の水準が棒グラフになってはいるが、過去の家賃もわからず市場全体の動きとその不動産を比較することができない。また、例え情報が開示されていたとしてもその情報を分析する格付機関やセルサイドアナリストのようなプレイヤーが市場にいなければならないだろう。分析や調査のファンクションについて記述しているプロジェクトは現時点では見当たらない (既存金融の役目だと思われているのかもしれない)。

プライシングと発行コストの問題:また、プラットフォームにSTが充実すればするほど安く資金調達することが難しくなると言う問題もあるだろう。投資家が全員裏付け資産のキャッシュフローから理論値を導き出して検証するようなプロ並みのリテラシーがあるのであれば話は別だが、そうでない場合プライシングは本来横並びでだいたいの水準が決められる。投資家にとってはリターンと対象への応援の気持ちしか投資動機がないため、資金調達する力のない企業は自社を投資家に売り込まざるを得なくなり、人気商売となり結局オフチェーンでコストをかけなければならないという状況になる可能性もある。

以上、様々な課題を挙げたが、筆者はSTOが既存証券にまで食い込んでくれるものと思いっ切り信じている勢である。これらの問題は既に当事者であるプレイヤーには認識されていると思われるため、いずれ解決されるだろう。界隈の動きについて気になる方がいらっしゃれば是非お話ししてみたい。また、STに関しては既存金融機関含め事業を仕込んでいる状態にある強力なプレイヤーが多く、恐らく公開されている情報はごく一部でしかないだろう。詳しくはわからないまでもそろそろインパクトの大きいアウトプットが出てもおかしくない状況だと思っており、このブログを公開した数ヶ月後には全く状況も勢力図も変わっている可能性もあると感じる。資本市場に存在する一定のニーズを捉えることができれば、これまで仲介業者担っていた役割が一部移管もしくは拡大され、資産が多様化したり、一般投資家の選択肢が大きく広がる日も遠くないのかもしれない。


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