“A Great Vantage Point” ブロックチェーンのトレンドとキャリア

Kazuki Yamaguchi (yamarkz)
LayerX-jp
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18 min readDec 7, 2018

はじめに

この記事は LayerX Advent Calendar 2018 8日目の記事です。

こんにちは! LayerXの山口(@yamarkz)です。久しぶりにブログを書きます。

今回はブロックチェーンのトレンドの振り返りと今後のキャリア選択について参考になる考え方を紹介したいと思います。

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ブロックチェーン業界の変遷と現状。そして幻滅期

1年弱の出来事と多大な変化

キャリアの話をする前に、これまでのブロックチェーン業界の変遷と現状について振り返ってみたいと思います。
(ちょうど12月ということで振り返るには良い時期かなと)

筆者がブロックチェーン技術に携わり始めて、おおよそ1年弱が経過しました。この1年弱は本当に激動で、色々な出来事がありました。

主要な出来事を列挙してみると。

Bitcoin価格の急上昇 / Bitcoin価格の急落 / Lightning Network メインネットローンチ/ Coincheck NEM流出 / 金融庁規制 / ICOバブルの絶頂期 / ブロックチェーンイベントの乱立 / 多くのブロックチェーンコミュニティの誕生 / Plasmaへの注目 / 新型マイニングマシンの登場 / バグ混入による資金喪失 / 新規取引所プレイヤーの撤退 / ICOバブルの終焉 / STOへの注目 / ステーブルコインの台頭 / ブロックチェーン技術への幻滅 / Liquidローンチ / 価格下落によるマイニング事業者の撤退 / etc..

業界内で特に話題になったトピックにのみ絞っていますが、こう列挙して見ただけでも、本当に話題の絶えない1年だったということが見て取れます。

ブロックチェーン技術は黎明期で進歩が早く、1週間もすれば業界内の話題が移り変わってしまう様な状況です。ある程度成熟したWebと比較すると、恐ろしいほど変化が激しい環境です。

LayerXチームも今ではこういった変化の速さに慣れ、状況に合わせて臨機応変にチームの方向性を変えて進んできていますが、外的要因などが原因で方向性を180度変えることを余儀なくされることが多々ありました。
これほど多く外的要因の影響によって変化を求められる経験は、”一生に一度あるかどうかの貴重なテクノロジー変革の機会に遭遇している”と考えると、貴重な経験ができていると思えることができ、物事を前向きに捉えることができるようになります。

とはいえ、多くの時間を掛けて積み上げてきたものが環境の変化により、一瞬でポシャる経験を何度かしているため、それはそれで渋いなぁというのが本音です。

そんな感じで、この1年のブロックチェーン業界は本当に激動でした。
恐らくこういった状況はまだまだ続いていくんだろうなと予想しています。もしくはこの激動感がブロックチェーン業界の特徴なのかと。

ブロックチェーン領域のほとんどがR&Dのフェーズ

この1年でブロックチェーン技術には本当に多くの期待が寄せられるようになってきました。日本だけで1年前と比べてみると、日本語のネット記事が多く見られる様になり、TVのワイドショーなどでもBitcoinが話題として取り上げられているのを目にしました。
そんな一般の人々からも期待と注目が集まってきているブロックチェーン技術ですが、その多くは過大な評価と誤った見方がされていると感じます。

以前投稿したインタビュー記事の中で弊社CTO 榎本(@mosa_siru)も答えている通り、ブロックチェーン領域は現在ほとんどがR&Dのフェーズにあります。(下記参照)

言い過ぎかもしれないけれど、ブロックチェーンの領域はまだ全てがR&Dのフェーズである側面があって、枯れた技術が存在するウェブの世界に比べると、変化の速さが圧倒的だと思ってます。技術的な側面でのウェブとの違いだと、考え方が異なる部分が多いなと感じています。

ブロックチェーンは大きなポテンシャルを秘めているのは事実ですが、直ぐに社会インパクトを発揮する様な技術ではありません。
期待や注目とは裏腹にブロックチェーン領域全般がまだ未成熟な段階であり、一般の人々が現在のWebやモバイルアプリの様に、障壁なく利用できるようになるには相当な時間が必要になるでしょう。

実際に暗号通貨の送金やDappsなどを使ったことがある人ならわかると思いますが、単純に ”物の売買を行なう” や ”サービスを利用する” という体験をするだけでも、従来の行動以上に意識するべきことが多く、心理的障壁を感じます。

まだまだ未成熟で課題や障壁が多く存在する反面、それらの課題を解決するべく世界中からブロックチェーン領域に天才たちが集まり始め、実利用に向けた課題解決を目指し、日々議論や実装が行われています。

活発な議論が進んでいる技術 Plasma

エンジニア以外にも、ディレクター、マーケター、研究者、金融、弁護士、政治家、スタートアップ、ベンチャー、大企業、ファンドマネジャー、etc…

一重にブロックチェーンと言えど多くの異なる職種のプロフェッショナルな人材が集まってきており、総合格闘技的領域に変わりつつあります。

理想と現実の距離は遠く感じるものの、こういった天才たちの取り組みにより、これまで世界を大きく変えてきたWebやモバイルの様に日常生活に溶け込む形で利用される未来は、そう遠くはないのかもしれません。

ブロックチェーン技術は幻滅期に

2018年12月の今、ブロックチェーン技術は幻滅期に入ってきています。
これはガートナーが今年の10月に発表したハイプ・サイクルで述べられました。(下記参照)

業界に身を置いている者としてもこの幻滅感は肌で感じており、半年前とは全く異なる状況、特に雰囲気が大きく変わってきていると感じます。

2017年半ばから2018年6月頃にかけてICOバブルが起きました。

急拡大するICOマーケット

ICOという新たな資金調達手法の確立により、世界中の投資家からブロックチェーン領域に多くのお金が流れはじめます。
Whitepaperを書き、優秀そうな仲間を揃えるだけで数十億の資金が調達できるといった状況です。日本のスタートアップ業界の一般的な資金調達額が3000万~1桁億であることと比較すると、多くのICOプロジェクトは実利用可能なプロダクトも無い状態から調達を成功させていたため、ICOという投資環境がかなり異常であったということがわかります。これまでで最も多くの資金を集めたEOSはICOで40億ドルもの大金を調達しており、この金額の大きさからもICOバブルの凄さを感じられると思います。

そして、ICOバブルは2018年7月頃を目処に終焉を迎えます。

ICOを実施するプロジェクトは7月以降激減し、途中実施していたプロジェクトも最低目標調達額に達することができず撤退を余儀なくされました。

7月以降を目処に調達額は激減

半年前にはカンファレンスイベントに行くと、その多くの参加者が「ICOやるぞ!」と声を高々に上げていたにも関わらず、今ではそう言った話も全く聞かなくなりました。
このバブルが終焉を迎えた要因はいくつか考えられるのですが、一番の要因は ”テクノロジーとしての可能性の現実を見始めた” からだと思います。

バブル期には「ブロックチェーンはウェブを超える可能性を秘めている!」などという煽り文句がそこかしらから聞こえてきました。
が、現時点でのブロックチェーン技術の実用可能範囲はとても狭く、これまで夢に描いたもののほとんどは実現することが困難だということに気づき始めます。

ICOで思い描いていた夢の多くは幻想に終わりました。

こういった現実を見始めたことによる幻滅期の到来と、それまでに起きていたバブルな状況が悪いという話ではなく、先端技術のトレンドならばどれも一時期は必ず訪れる通過点の様なものです。

バブルが終わり、幻滅期に入った今だからこそ、ブロックチェーンはその技術としての真価が問われているのだと思います。

それでも前に進む

暗号通貨を絡めたメディアサービスである ALIS の開発・運営を行なっているCTOの石井さん(Sota Ishii)が以前、以下の内容のつぶやきをされていました。

幻滅期は定期的に訪れるもの。そういった時期でも淡々と行動する人が後に大きな機会を掴む」と。

現在のブロックチェーン業界で大きな存在感を放っている Coinbase / Bitmain / ConsenSys などは過去の幻滅期の時代(2012年~2014年)に創業され、現在の規模にまで成長してきています。そういった事実からも幻滅期こそ周りに流されず、淡々と前に進むことだけが未来の大きな機会を掴めるのだと思います。

さて、そんな日々激動な変化が起き、幻滅期を迎えているブロックチェーン業界において、どういったキャリア選択をしたら良いのでしょうか?

その答えは、次に紹介するバンテージポイントという考え方が1つの指針になります。

バンテージポイント(有利な場所)とキャリア

A Great Vantage Point

本記事のタイトルにもある”A Great Vantage Point”というのは、Web界隈ではとても有名な梅田望夫さんが寄稿した記事「若者はバンテージポイント(若者は有利な場所) でキャリアを磨け」から抜粋したキーワードです。

(余談ですが、梅田さんはWeb業界では超絶有名な「ウェブ進化論」という本の著者です。こちらはぜひ一読をすることをお勧めします)

梅田さんの記事はコチラ

自分がこの記事を読んで胸を熱くしたのはその内容はもちろんのこと、記事が寄稿された時期とタイミング、そして現在の状況が絶妙に重なっていたからです。

梅田さんが記事を寄稿されたのは2004年の1月。この年はWebの代名詞とも呼べるGoogleがIPOを実施し注目を集めたり、今ではSNSの覇者となったfacebookがこの年に創業されました。この頃の日本はiPodが初めて国内発売がスタートしたり、国産SNSのmixiが生まれたのもこの年です。
この時期はWeb技術がマスに広がりを見せ始めてきたものの、今の様に当たり前に使われているレベルではなく、これからもっと便利にしていくぞ!といった状況でした。

梅田さんは記事中で自身の経験とRoger McNameeの言葉から若者に向けて、今後のキャリアを選択する上で重要な1つの指針(考え方)を示しています。

その指針を示した言葉が、

A Great Vantage Point (見晴らしの良い場所に行け)

です。

世界で何が起ころうとしているのかが見える場所に行け。シリコンバレーなら、まずはGoogle。GoogleがダメだったらApple。いやYahooかな。Oracleだっていい。シアトルならMicrosoftだな。こういうところは皆、「a great vantage point」((見晴らしのきく地点、よい観戦場所)なんだ。そういう会社で職を得れば、世界でこれから何が起ころうとしているかが皆見える。the next big thingが来たとき、そこに陣取っていれば、見ることができる。

記事中で取り上げられているIT企業(Google, Apple, Yahoo, etc…)は2004年当時も存在感を放っていました。そこから14年後の今、それらのIT企業は世界規模にまで成長し、今尚社会に大きなインパクトを与え続けています。

この14年前に述べられた言葉(問い)と、現在の状況(答え)は”A Great Vantage Point”という考え方の正しさを長い年月を掛けて証明しているといえます。

最先端の世界を外から見ているのと、中で経験するのとでは大違い。見えるものが違い、日々の濃度がぜんぜん違うから、その中で皆、知らず知らずのうちに成長することができる。

“バンテージポイント”に身を置くことで大きな変化を目の当たりにすることができ、そこでの経験は大きな学びと、新たな機会(the next big thing)を生み、自然と成長することができます。

「a great vantage point」での人との出会いは、本当に重要なのである。旬の時代のジェネンテック、インテル、アップル、オラクル、シリコン・グラフィックスといった会社で、いい仕事をして、いい出会いがあった人たちには、その後のキャリア機会が大きく開いたのである。

経験と機会に加え、そういった場所に集まる人たちとの繋がりは先立つ未来の転機に繋がる可能性も秘めています。

どういった場所に身を置くのが適切なのだろうか?という迷いを持っている方は、その業界における”バンテージポイント”はどこだろう?と考えてみるとその答えが見えてくるかもしれません。

ビジネスとテクノロジーの交差点にあるもの

先端テクノロジーを駆使し、新たなビジネスの立ち上げを目指すスタートアップ業界では、1つの地点(企業/領域)に集まった人々がその場を離れ、各々の活動を行い、成功を収めたグループを”マフィア”と呼ぶ文化があります。

最も有名なのがWeb決済サービスのPaypalで、Paypalの出身者達は後にYouTubeやfacebook、LinkedInなどを作り上げました。
彼らのことをIT業界の人は”ペイパルマフィア”と呼んでいます。

ペイパルマフィアについては下記の記事を参考

ペイパルマフィアについて触れるのは「成功者グループを”マフィア”と表現するのが面白い」という話ではなく、”ペイパル”というWeb時代の決済サービスという”バンテージポイント”が、その後のキャリアに大きな影響を与えていることの裏付けの根拠になっていることを示しているからです。

ペイパルはWeb登場以前から存在したビジネス活動である”決済”と、新たに登場した”Web”というテクノロジーの交わりから生まれました。バンテージポイントはこういったビジネスとテクノロジーの交差点で大きな変化が起きる所に生まれます。

ペイパル後の成功とペイパルでの経験に絶対的な関連性があるのかと言われると、僕は彼らではないので明言はできません。しかし、少なくともPaypalというバンテージポイントでの経験と知識、そして繋がりが後の成功に寄与していることは、後の成功の数と大きさから明らかです。

こういった事実からもバンテージポイントに身を置くことの重要性を感じることができます。

ブロックチェーン領域におけるバンテージポイント

では、ここまでの話を踏まえてブロックチェーンの領域に戻った場合、
バンテージポイントはどこなのでしょうか?

その答えは、取引所です。

ここ数年のバンテージポイントは間違いなく取引所です。暗号通貨と法定通貨の世界を繋ぐ入り口として存在し、多くの情報とお金、そして優秀なメンバーが集まる場として存在していました。

USで最も大きな暗号通貨取引所であるCoinbaseがそれを物語っています。

Coinbaseはブロックチェーン業界ではトップ3に入る巨大企業に成長しており、企業成長以外にも業界に多くの優秀な人材を排出していることでも有名です。Coinbase出身者で個々人の活躍を見せはじめているメンバーをペイパルマフィアに擬えて、”コインベースマフィア”と業界では呼んでいます。

ブロックチェーンの領域でも既にこのサイクルが回りはじめており、次のバンテージポイントがどこになるのかは要注目です。
個人的な予想ですが DEX / Stablecoin / Trust / Oracle / Wallet / STOなどはこの1年で席が埋もれはじめており、この領域の中から新たなキラーアプリ、そしてバンテージポイントが生まれてくると予想しています。

市場が飽和してきているWebやモバイルとは違い、ブロックチェーンはまだまだフロンティアであるため、チャンスが多く眠っています。

LayerXではそういったフロンティアを模索しながら進み、
次の”見晴らしの良い場所”としてインパクトを残していける様、日々前進しています。

最後に

少々エモい記事になってしまいましたが、ブロックチェーン業界の振り返りと現状の整理。そして、これからのキャリア選択に活かす指針について紹介してきました。

ブロックチェーン業界は日々話題が絶えない状況です。技術が生み出す価値自体がマス(大衆)に広がるにはもう少し時間がかかりそうですが、基盤は日進月歩で着実に成長してきています。
LayerXではそういった基盤の成長に貢献しつつ、ユーザーに新たな価値を生み出すサービスを提供していきたいと考えています。

キャリア選択の指針の話では「A Great Vantage Point (見晴らしの良い場所に行け)」という考え方を紹介しました。この話はWebやブロックチェーンに限らず、全ての領域と仕事に当てはまる考え方だと思っています。

本記事を読んで今後のキャリア選択の参考になれれば幸いです。

宣伝

オフィスの守り神 けんすう

最後に宣伝になりますが、LayerXはビジネスとテクノロジーの交差点、そしてブロックチェーン領域におけるGreat Vantage Pointとなり、そこで一緒にチャレンジしてくれる方を募集しています。

気になる! という方の応募も歓迎していますので、ぜひ以下の募集ページからのご応募お待ちしております。

LayerXがどういったチームなのかを詳しく知りたい!という方は、
弊社CTOが書いた記事をご覧ください!

参考資料

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Kazuki Yamaguchi (yamarkz)
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Software Engineer / Blockchain / Bitcoin / Ethereum / Research & Development