LayerX Newsletter (2019/04/22–04/28)
はじめに: 今週の注目トピック
0–1 @th_sat より
今週の注目トピックは、JP Morganによる銀行間クロスボーダーペイメントネットワークIIN(Interbank Information Network)です(詳細は2–5をご覧ください)。リアルタイムなデータ共有を通じて、処理時間の短縮を図るとされています。JP Morganはこの他にも、セツルメント通貨として米ドルにペグするJPM Coinの発行を発表しています。
各金融機関がデジタル化を急速に進めている中で、JP Morganが特に法人分野むけにこうした新技術の取り込みを積極的に進めている様は、世界の従来型金融機関の中でGoldman Sachsと並んで突出したリーディングプレイヤーして業界のデジタルトランスフォーメーションを牽引しています。
IINやJPM CoinはQuorum上で稼働するなど、JP Morganとしてプライベート/コンソーシアムチェーンへの傾注が注目されがちですが、その一方でJP Morgan ChaseはAZTEC(パブリックEthereumにおけるプライベートトランザクション技術)のトライアルにも取り組んでいます。
このように、法人向け金融のように複数企業を交えた情報共有をはかっていく上で、競争関係とデータ共有という一見相反する要件を上手く両立できる仕組み作りの重要性が、今後ますます高まってくることが想定されます。
JP Morganを始めとする業界のリーディングプレイヤーが、こうした業界横断のデータ共有の仕組みをどのようにデザインしていくのか、引き続き注目したいと思います。
0–2 Eisuke Tamotoより
今週の証券トークン分野での注目トピックは既存投資銀行によるST化PoCの実行事例が2点(ソシエテジェネラルとBTG Pactual)登場したことです。(記事の詳細は「2–4 証券トークン」をご覧ください)
先週の記事で、STプラットフォームのHarborの1号案件が失敗したことを取り上げ、魅力的なプロジェクトと、信頼のおけるスキームとを構築する必要がある旨を述べましたが、その実例となる案件が早速登場してきたといえるでしょう。既存金融機関によるST事例になるのでその発行額も大きく、ソシエテジェネラルの社債発行では発行額が100M€に達するということにも注目されます。
さらに特筆すべき事項として、ソシエテジェネラルの発行したST社債のムーディーズによる格付けがAaaを獲得した、ということがあります。企業そのものに加えてアセットも担保に入っているカバードボンドは通常社債よりも格付け評価が高くなるとはいうものの、ブロックチェーン(しかもパブリックチェーンであるEthereum)を利用した社債にも関わらず、高い格付けを獲得した事実は今後STを利用した社債発行等を行う上で大きい意味を持つ先行事例といえるでしょう。実際にEthereumが技術的に強固で高い格付けに値するという評価を受けたために高い格付けになったのか、はたまた利用されている技術は度外視で証券商品にbackedされている財産状況等が良かったために高評価がついたのかは定かではありませんが、blockchainを利用しているからといって格付け評価が落ちるといったことはない、ということが実例として明らかになったといえると考えております。
@th_satさんのpick記事でJPMorganの事例が紹介されているように、今年に入って既存巨大金融機関のBlockchain応用ニュースの登場が多くなってくるように感じられます。今後も世界のプレイヤーでの実証事例が多発してくることが想像されるので、キャッチアップが必要な分野といえるでしょう。
Section 1: Technology
Bitcoinを金融商品としてデリバティブや担保融資を可能とするプロトコルの実装が進められています。商品性を伴うロジックの実装というとEthereumに注目が行きがちですが、価値を直接やりとりできるという意味でBitcoin上の金融商品プロトコルについても有意義な取組実例が幾つも登場するようになってきています。記事中では、先週紹介したCrypto Garageの「ビットコイン価格を事前に固定するデリバティブ取引」でも利用されているDLC(Discreet Log Contracts)の意義などについて解説しています。
また、Ethereumについては、ベースプロトコルのアップグレードであるEthereum2.0に関する概要説明と、オフチェーンによるスケーリング向上を図るセカンドレイヤー技術について、基本事項に立ち返った解説記事を紹介します。
1–1 Bitcoin
- Bitcoinによる金融商品を実現するプロトコルとして、「DLC(Discreet Log Contract)によるオラクル情報(ブロックチェーンに対する外部情報)を用いた予測市場」と「ブローカー無しに担保付き融資契約を行うアトミックローン」の2つを紹介している
- まずDLC(Discreet Log Contract)とは、オラクルを取り込むときにオラクルへのトラストを最小化するもの。このDLCを応用して、オラクルが公開した情報をもとにコントラクト実行することによって暗号通貨のデリバティブ・予測市場取引を可能とする。DLCは、オラクルが公開した値でロックした上で、正しい値でしかアンロックできないのが肝。また、公開鍵や署名を集約するSchnorr署名を用いるため、DLCを使って取引していることが外部から分からない。加えて、Lightning Networkを用いたオフチェーン環境での実行可能なところがポイント
- 2点目の「アトミックローン: ブローカー無しの担保付き融資契約(BIP-197)」は、HTLC(Hashed Time-Locked Contract:秘密の値を明かす若しくは所定の時間が経過することによってアセットのロックが解除され利用可能となる仕組み)ベースのアトミックスワップを拡張するもの。融資担保をロックする一方で融資の元本をロックし、条件合致すれば融資可能となる。融資実行後、期限までに返金すれば担保が戻る。一方、もし債務不履行となれば、入札または差押え精算となる仕組み
●LightningのデスクトップAppがメインネットローンチ
1–2 Ethereum
●Ethereum2.0(Serenity)の概要と開発ロードマップ
- Ethereumのアップデートとして構想されているEthereum2.0(Serenity)の主な内容は、「Proof of Work(PoW)からProof of Stake(PoS)への移行」および「Shardingによるトランザクション処理能力の大幅向上」
- PoWの抱える「電力消費やハッシュパワーの寡占」といった課題解決のため、PoSへの移行が検討されている。PoSの場合に想定される「不正チェーン作成インセンティブ(Nothing at Stake問題)」を抑制するため、Casperと呼ばれる独自コンセンサスアルゴリズムを採用。Casperには、Casper FFG(Friendly Finality Gadget)とCasper CBC(Correct by Construction)という二種類のデザインが考えられている
- Shardingは、トランザクションを検証するノード群を1024グループに分けた上で、トランザクション処理を並列化することによってトランザクション検証の効率を大幅向上することを目指すもの。実装においては、メインチェーンとShardチェーンの中間に、両者のハブとなるBeaconチェーンを設けることによって、複数Shardをコーディネーションする構想
- 上記構想の実装にむけて、まずPhase0としてBeaconチェーンを実装。Phase1でShardが実装されるが、トランザクション処理やコントラクト実行にはPhase2のEWASM実装を待つ必要がある
●Ethereum 2.0のステーク報酬を倍増することをVitalikが提案(提案内容原本はこちら)
- 上述のとおり、Ethereum2.0ではPoS(Proof of Stake)への移行が予定されている。PoSではステーク量が多いほどブロックの新規生成・承認権を得やすくなる
- PoS実装ローンチに際して参加を促すべく、トランザクションを検証するバリデータへの報酬を2.5%から6%へと増やそうとするもの
- PoSへの切り替えに際してステーク量に対応するインセンティブが低すぎると、トランザクションを検証するバリデータを十分な量だけ集めることが難しくなる。一方、インセンティブが高すぎる場合、インフレーションを引き起こし、ネットワーク全体としての経済性を下げることが懸念される
●Ethereumのセカンドレイヤー(Plasma、Statechannel)の近況
- Ethereum本体のプロトコル変更を通じたスケーリングとして、上述のようにShardingの導入が検討されている一方、トランザクション処理をオフチェーンで行うことによってスケーリングの改善をはかるものがセカンドレイヤー技術。「State Channel」と「チェーンの親子階層構造」によるものの二つに大別される
●Ethereum ブロックチェーンアプリケーションをスケールする方法
- Payment Channelは、価値を交換する当事者間のオフチェーンチャネルであり、1回のオンチェーントランザクションでネッティング処理を行うもの。例としては、Raidenなどがある。State Channelは、これをペイメント以外の状態遷移に一般化するもの、当事者間で状態を複数回にわたり更新するオフチェーンチャネルであり、最終状態の更新のみ1回のオンチェーントランザクションを行うもの。例としては、特定目的むけState Channel(ストリームサービスむけのSpankChain、乱数を用いるギャンブルむけのFunFair)のほか、汎用フレームワーク(CounterFactual)がある。オフラインのため不正なチャネル閉鎖を監視できない場合の保護サービスWatchtower(Pisaなど)が検討されている
- Side Chainは、メインチェーンへブリッジコントラクトを介してアンカリングを行って双方向連携するもの。例としては、POA NetworkやLoomなどがある。Plasma Chainは、チェーンの階層構造を通じて、ステートの差分を子チェーンが定期的にルートチェーンへコミットするもの。Plasmaの例としては、Plasma MVP(Bitcoin同様にFungibleなUTXOを用いる)やPlasma Cash(Non-Fungibleなデータモデルを用いる)の他、Plasma Prime(RSA Accumulatorを用いてPlasma Cashのコイン履歴圧縮を行う)などがある
●スマートコントラクト監査における形式的検証(Gnosis SafeおよびOceanプロトコル)
1–3 Bitcoin/Ethereum以外
●異種チェーンの相互運用ソリューションCosmosとPolkadotにおける5つの相違点について
●EY、パブリックチェーン上におけるプライベートトランザクションプロトコルNightfallを著作権の発生しないパブリックドメインで発表する方針
1–4 統計・リスト
Section2: Business
JP Morganによるクロスボーダーペイメントネットワークが発表された他、FedExが国際物流におけるブロックチェーン利用義務付けを呼びかけるなど、ブロックチェーンを「複数参加者間の信用を補完する公共財」として実利用する動きが加速しています。
こうした動静と平行して、規制面でも証券トークンの流通市場についてグローバルスタンダードのポジションを確立しようとする動きがスイスを起点として起こりつつあります。
2–1 Regulation : 規制動向
●スイス、証券トークンのセカンダリー市場むけ包括的規制を導入へ
- スイス政府の当分野に対するオープンな姿勢が感じられる。分散台帳技術(DLT)ベースの証券(DLT Securities)のセカンダリー市場(流通市場)について、グローバルスタンダードの確立をはかろうとするもの
- DLTにフレンドリーな国としての評判を強固なものとするような、DLT関連立法が2020年1月の施行を目指して準備中。マーケットの成熟につれて、規制の注力対象がプライマリー市場(発行市場)からセカンダリー市場へとシフトしつつある
●SECとCFTC、暗号資産取引の詐欺サイトへ注意喚起(原本はこちら)
2–2 Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Tether、裏付け資産950億円相当の不正流用が発覚。NY州司法長官がBitfinexとTether に対して裁判所命令を発令
- 損失を隠すためにTetherの担保となる裏付け資産から不正利用していたとされる。背景には、Bitfinexの資産が顧客への開示無しにCrypto Capital Corpへ預けられ、顧客資産と企業資産が混在する状態に陥っていたとする。なお、このCrypto Capital社はQuadrigaなどの取引所の資産を管理している企業である
- TetherにUSDの裏付けが無いとする主張に対してBitfinexは安全な場所に管理されていると反論している
●AmazonでLightning Network用いた決済行うブラウザ拡張
●Braveブラウザ、ユーザープライバシー保護のもとにユーザーへ広告配信の70%レベニューシェアを行うプラットフォームをローンチ
2–3 Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●クリプト界隈の皆はなぜDeFi(Decentralized Finance)について語っているのか(Forbes記事)
- DeFiは、伝統的な金融商品をオープンでパーミッションレスな分散アーキテクチャのもと、より透明で頑健なものとして再構築をはかるもの。BitcoinやEthereum自体、特定の中央機関によらずに大規模ネットワークによりコントロールされる
- StableなコインとされるDaiは価値が米ドルにペグされボラティリティを減じている。Compoundは暗号資産版マネーマーケットファンドとして利子を得る。DharmaはDebtを発行・アンダーライトし投資リターンを得る
●DeFiプロトコル概観(Dai、Compound、Uniswap、Augur)
- Daiは、担保により裏付けされ米ドルペグの安定性を提供する暗号通貨。Collateralized Debt Positions (CDPs)システムを通じて、一連のスマートコントラクトがDAIの価値を維持。DAIを生成したいユーザーはまずCDPを開設してCDPスマートコントラクトへETHをデポジット。デポジットに対するDAIの量はcollateralization ratioと呼ばれ、これが200%であれば1ETH(仮に1ETH=1000$とする)デポジットに対して500DAIが生成される。デポジットはDAI返金やCDP閉鎖およびDAI焼却されるまでロックされ使用不可となる
- Compoundは、各トークンの需給に基づいてトークンプール(マネーマーケット)の利率をアルゴリズム的に決定するもの。ユーザーはトークンをプラットフォームへ直接供給して利子を稼ぐほか、利子を払ってトークンのローンを受けることが出来る。供給者と借り手が条件や利率を交渉する代わりにプロトコルがモデルを用いて計算する
- Uniswapは、Ethereum上でトークン交換を自動化するもの。ERC20標準準拠トークンとETHのペアに対するマーケットとして機能。ユーザーはコントラクトをデプロイし、ERC20トークンとの新たな交換所を設けることができる。コントラクトはETHおよび関連するトークンの準備金を保持。2つのトークン間のトレードはETHを仲介として用いて行われるが、プラットフォーム手数料は無く、手数料は流動性プールを通じて、ユーザーである流動性供給者へもたらされる
- 「法定通貨担保型のステーブルコインと仮想通貨担保型のステーブルコインにおける担保の意味合いが、制度の維持の観点で論理構造的な違いを持っている」ことについて解説している
- DaiはETHという暗号通貨を担保として「1Dai=1USDという政策目標を達成する」ための「必要条件」として、「Dai発行評価額以上の評価額のETHが預託されている状態を維持する」制度のもと、期待形成による金融政策を行っている、とのこと
- 一方trueUSDのような法定通貨担保型の場合は「1TUSD=1USDという政策目標を達成する」ことの「必要十分条件」が、アービトラージの可能性によって「TUSD発行額と同数量のUSDが預託されている状態を維持する」としている
●Set Protocol、アセット管理戦略に基づく売買トレードを自動化するStrategy Enable Tokenをゴーライブ
2–4 Security Token : 証券トークン関連
● フランス投資銀行のソシエテ・ジェネラルがEthereum上で社債を発行
- ソシエテジェネラルのシンガポール子会社Societe Generale SFHがEUR100Mのカバードボンドを発行
- カバードボンド:発行体とアセット両方に対して償還請求権がpegされた担保の大きい社債
- 社債に関する情報は直接Ethereum上に書き込まれる模様
- ムーディーズ格付けでAaaを獲得
● BTG PactualのREITファンドのSTプロジェクトがソフトキャップに到達
- BTG Pactualは南米最大の投資銀行がREITのSTを実施し、ソフトキャップである3Mに到達
- 譲渡は現在は禁止。今後譲渡解禁の予定だが具体的な日時は未定
● Elevated ReturnsとAlphaPintが不動産証券化STの取引所開設へ向け提携
- 提携して東南アジアの不動産証券化市場を最初に狙っていくと発表
- 利用チェーンはtezosの模様
- Elevated ReturnsがSecuritizeとともに開発したTezosのST規格のPoCは既に完了済み
● タイのBDが夏にかけて不動産証券化STを開始することを発表
- Seamico Securities Digitalが夏にかけてtezosベースで不動産証券化を実行することを発表
- このBDはElevated Returnsが株式の21%を保有している
- タイ政府から既にICO Portalライセンスを取得済み
● クラファンPFのSeedInvestがATSライセンスを取得
- クラウドファンディングPFのSeedInvestがATSライセンスを取得
- クラファン業者がライセンスを取得するのは初
- SeedInvestは仮想通貨業者のCircleに買収されている
- 2019年内にサービスローンチを予定
● クウェートとモロッコ中央銀行間での証券譲渡をBC上で完了
- 二国間のCSD(Central Security Depositories)での証券譲渡をBCを利用して完了
- Tata内のQuartzというブロックチェーンコンサルティングチームがサポート
- private permissionedネットワークであるBaNCSネットワークを利用
- BaNCS上で使われているcash coinsを利用してクロスボーダーのDVP決済を実現させた模様
● シンガポールのプライベート証券OTC取引プラットフォームがethereum上での取引開始を発表
- シンガポールでRMOライセンスを取得している1exexchangeがEthereum上でのDLTを利用したプライベート証券の取引を開始することを発表
- ConsenSysとの協力によって実現
- 同取引上にリスティングされている上場前の株式が取引の最初の対象
- 株主トラッキング&管理にブロックチェーンが利用
- 最初は株主トラッキングだけだがその後自動配当等もスマートコントラクトで実行できるようにする予定
● 仮想通貨融資業社のnexoがSecuritize発行のDigital Asset担保での融資を開始
- nexoがSecuritizeと提携し、自社の仮想通貨融資プロトコルとDS Protocolとを連携させることを発表
- Security Tokenをレンディング担保として利用できるようになった
論考系
- 弁護士事務所のDilendorf and KhurdayanがSecuritize、Openfinance networkとともにセカンダリー上場までのガイドラインを発表
- 「既存金融機関はブロックチェーン技術の応用方法を理解できていないこと」「ブロックチェーンから入ったプレイヤーは簡単にセカンダリにもリスティングできると考えていること」という互いのミスマッチが存在していること、に問題意識をもってこのレポートを発表
- ビジネススキーム策定、法準拠確認等の既存証券発行と同様のプロセスの重要性と基礎的ガイドラインとを説明
- Stellar上でSTをローンチした場合のセカンダリー方法について考察
- StellarでのDEXトレードについても考察を加えている
2–5 Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●JP Morgan、QuorumベースのクロスボーダーペイメントネットワークIIN(Interbank Information Network)、Société GénéraleやUBSなど220行が参加し3Qローンチ予定(JP Morganによる参加行リストはこちら)
- クロスボーダーペイメントなどにおける銀行間情報共有や安全なメッセージング・ファイル送付などを備える(情報共有のみでトランザクション処理は行わない)。従来はコンプライアンス観点で数週間程度要していたペイメントを、リアルタイムなデータ共有を通じて、エラーに即時対応できるなど処理時間を短縮するとのこと
- Ethereumをフォークした許可制ブロックチェーンであるQuorum上で稼働。JP Morganは、セツルメント効率向上を目指して、ドルにペグ付されたJPM Coinを2月に発表したばかり。IINは2017年にパイロット版が稼働したあと、現在は無料だが、徐々にサブスクリプション課金が導入される見込み
- JP Morganの発表したリストによれば、日本から名を連ねているのは、みずほ銀行・三菱UFJ銀行・三井住友銀行・りそな銀行・農林中金の他、七十七銀行・名古屋銀行・京都銀行・関西アーバン銀行・近畿大阪銀行・みなと銀行・武蔵野銀行・但馬銀行・あおぞら銀行・琉球銀行・愛知銀行・新生銀行・沖縄銀行・群馬銀行・肥後銀行・大分銀行
- 銀行間のクロスボーダーペイメント向けには、IBMが決済ネットワーク「IBM Blockchain World Wire」を発表している中、IINを交えた競争が今後展開されると想定される
●Infosys、インドの銀行7行と貿易ネットワークIndia Trade Connect設立
- 分散化された共有ネットワーク上で、所有権の検証・書類の認証・ペイメントを行うもの。貿易金融プロセスのデジタル化を通じて、自動化と透明性向上、効率的リスク管理を実現することを図る
●三井住友銀行、貿易金融プラットフォームMarco Polo Network用いたサービス開始へ
- 輸出業者〜輸入業者の貿易取引において、銀行や保険会社・監督官庁・税関などが関与し、信用状や保険証券など70種類以上の書類が必要。貿易金融プラットフォームは、これらの業務プロセスをデジタル化して効率化を図るもの
- Marco Polo Networkは、CordaとTradeIXの技術を用いる貿易金融コンソーシアムであり、仏BNP Paribasや独Commerzbankなどの欧州主要金融機関が参加。貿易金融コンソーシアムとしては、この他にwe.tradeやVoltronがある
●ふくおかフィナンシャルグループ、地域ポイントサービス本格稼働
- 傘下のiBankマーケティングが構築したポイント管理システムを、銀行が運営するマイレージサービス向けに提供し、地域ポイントプラットフォームとして本格稼動したもの。ブロックチェーンの拡張性の高さを活かすことによって、柔軟かつ独自性のあるポイント発行ができるポイントプラットフォームを安価で提供できるとしている
2–6 Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●FedEx、国際物流におけるブロックチェーン利用義務化を主張
- 国際物流業務は、膨大な書類手続きを巡る業務の複雑さや、偽造品輸送の回避といった課題を抱えている
- そうした中、企業間を連携した正確な情報共有を通じた業務効率化に取り組む上で、オープンなブロックチェーンの利用を業界全体で普及させる必要があると主張
- 先週紹介したICC(国際商業会議所)におけるトレーサビリティプラットフォームを始めとして、サプライチェーン・国際物流の文脈で業界横断(港湾や税関をふくめて)での取組本格化に期待したい
- 電気自動車に搭載するリチウムイオン電池に用いられるコバルトなどの鉱物資源の生産元を、Hyperledger Fabric上に構築したシステムでトラッキングすることにより、OECDの定める調達基準を充たすことが狙い
- コバルトを始めとするレアメタル利用は電気自動車に限らず広範な製造業で見られることから、今後様々な業種とも連携した動きになる可能性がある
●現代自動車、Hyundai AutoeverとBlockoで履歴トレーサビリティシステム共同開発
- サービス履歴や走行距離など、前の所有者に関する情報を保持することによって、買い手が事故履歴などを偽造されることを防ぐことが狙い
- 後続記事で紹介する自動運転車両データも含めて、車両の動態に関して従来捕捉できなかった情報が蓄積され、さらには業態をこえて金融・サービス業などと共有されていく。これによって、従来難しかった観点でのリスク評価が可能となったり、モニタリング・フィードバックが可能になり、それらを活かした新規サービス提供へと発展することが展望できる
●米ネバダ大、自動運転車両のデータに関する完全性・正確性保証へむけてFilament社と協業(プレスリリース原本はこちら)
●Samsung、Ethereumベースのネットワークで独自トークン発行検討
●フィリップ・モリス、タバコ収入印紙プロセスの自動化・トラッキングなどの分野でパブリックブロックチェーンの利用を検討
●中国の国家外貨管理局、トレードファイナンスへの活用へプライベートブロックチェーン構築・試行
●Nike、商標「cryptokicks」を申請(申請原本はこちら)
●JR東日本、スマートシティ実現に向けたサブスクリプションモデルにおけるサービス利用の改ざん防止・支払い透明性確保にむけた実証実験
●中国電力、IBMクラウド上で電力融通システムの実証実験(プレスリリース中の図版はこちら)
●電通国際情報サービス(ISID)、エシカル消費に関する実証実験を実施(プレスリリース原本はこちら)
2–7 Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●ZenGo、鍵情報管理の不要なキーレスウォレット
●Arwen、コインのカストディを交換業者へ譲渡することなく取引所で取引可能とするセカンドレイヤープロトコル
●BOLT、Lightning Network向けにブラインド署名やゼロ知識証明でプライバシーを付与
●Rhombus、スマートコントラクトへのオラクル情報提供をプログラム可能としスケジュールやオンデマンドベースのオラクル起動を行う
●Nayuta Shop、Lightning Network用いたペイメント
●BlockRecord、Ethereumベースの事実証明アプリ(補足解説はこちら)
●Coda、ノードにzkSNARKsの計算とトランザクション検証という2つの役割を課すことを通じて、ブロックチェーンのステートサイズを一定に保つ(ホワイトペーパーはこちら)
Section3: Articles & Papers
LayerX R&Dチームとして、次世代のPoSコンセンサスプロトコルCBC Casperとその形式検証に関する論文「Refinement and Verification of CBC Casper」を発表しました。論文の内容について、日本語で解説した記事はこちらになります
3–1 論考
●Circle Researchの2019 Q1振り返りレポート
- MakerやUniswap・dYdX・Compound・AugurにロックアップされたETH量は四半期で18%増加し、中でもUniswapのロックアップ量は15倍
- JP MorganによるJPM CoinローンチやIBM/StellarによるStablecoinを金融機関が取り扱うほか、EYがゼロ知識証明を用いたプライバシートランザクションプロトコルを研究したり、70%の中央銀行が中銀デジタルマネーを研究など、暗号通貨を巡る機関化の動き
- その他のトピックとしては、「EOS・Tezos・CosmosなどPoS型プロトコルへのステーキング」や、「Maker・Dharma・Compoundといった分散型クリプトレンディング」、「Binanceなどの取引所が主導するトークンリスティング(IEO: Initial Exchange Offering)」など
●WEFによるサプライチェーン向けブロックチェーンのレポート
- サプライチェーン分野におけるユースケースとして、以下の五分野を挙げている
- 商品の来歴トレーサビリティ(Origin Trade、Skuchainなど)
- 情報伝達・データ共有とトランザクション実行通じたグローバルオペレーション効率化(WaveやCargoXによるB/Lなどの書類処理自動化、海運会社ZimによるWave利用、Trucklなど)
- スマートコントラクトによるプロセス自動執行(国際港湾システム協会IPCSAはB/Lのロジスティックプロセスで同期をとりながらB/Lのエンドースプロセスをコントロール。デリバリーオーダーはB/L提示で自動的にリリース)
- 輸出入における情報共有通じたトレードファイナンス(VoltronやMarco Poloなどのプロジェクトの他、BofAML・HSBCおよびシンガポールIDAによるL/C取引プロトタイプ)
- 金融支援における用途の監査証跡通じた汚職防止(国連WFPによるシリア内戦難民むけにバウチャー用いた購買サービス)
- 全ての発生しうる事態を記述し尽くすことはできないという「契約の不完備性」に備えるため、アルゴリズムで自動化するだけでは不十分であり、契約の予期しない事態に意思決定すべくコントロール権持つオーナーを配置したり、再契約またはコントラクトの更新が必要となる
- コントラクトの更新を分散的に行おうとすると複雑なコードになるため、ガバナンスの仕掛けを組み込んだ独自チェーンの方が効率的。これを認めない場合には、形式的証明などを用いて可能な限りバグを消し込むなどが必要であると述べている
- この論考で示された論点に関連した議論としては、EthCCでVladが講演したブロックチェーンガバナンスがある。これは、「スマートコントラクトが不完備契約である中、巻き戻しやコントラクトのアップデートは認めないと、問題発生時に対処できず、現行法との乖離が生じるが、そのためにはガバナンスの仕組みもあわせて整備が必要」とするものであった
●Ethereum Foundation運営に関する6つの提案
- Ethereum のさらなる普及・発展を加速させるため、Ethereum Foundationについて、以下の観点から提案アイデアが挙げられている
- 「Ethereum Foundationは開発でなく研究に専念すべくEthereum Research Foundationに改名すべき」「フルタイムCTOを配置したEthDevとしてEthereum 2.0などの開発に取り組むべき」「EthMarketを組成し市場に正しくメッセージングすべき」「EthHubをEthEducationに発展させ開発者むけ教育を強化すべき」「EthBizDevを組成して適用・普及にむけた情宣活動強化すべき」「Ethereumガバナンスカウンシルを技術・ビジネス両面の体制で組成すべき」とのこと
●Placeholderによるクリプトアセット評価論考”Value Capture and Quantification: Cryptocapital vs Cryptocommodities”
3–2 論文
●Refinement and Verification of CBC Casper
●How many transactions per second can bitcoin really handle
●Sharing of Encrypted files in Blockchain Made Simpler
●Deductive Proof of Ethereum Smart Contracts Using Why3
●Enhanced IoV Security Network by using Blockchain Governance Game
●d-MABE: Distributed Multilevel Attribute-Based EMR Management and Applications
●Bitcoin and Blockchain: Security and Privacy
●Blockchain-based Bidirectional Updates on Fine-grained Medical Data
Section4: Future Events
Ethereumの技術カンファレンスDevconの第5回開催地に注目が集まっている中、公式アカウントから東アジア地域で10月上旬に開催されることが発表されました
●CryBlock 2019–2nd Workshop on Cryptocurrencies and Blockchains for Distributed Systems(4/29 at Paris)
●Fluidity Summit (5/9 at NYC)
●Ethereal Summit(5/10–5/11 at NYC)
●Magical Crypto Conference(5/11–5/12 at NYC)
●Consensus 2019(5/13–5/15 at NYC)
●Token Summit (5/16 @NYC)
●IEEE International Conference on Blockchain and Cryptocurrency(5/15–5/17 at Seoul)
●Eurocrypto(5/19–5/23 at Darmstadt, Germany)
●Breaking Bitcoin(6/8–6/9、at Amsterdam)
●IEEE Security & Privacy on the Blockchain (6/17–6/19 at Stockholm)
●Zcon1 (6/22–6/24 at Split, Croatia)
●Crypto Valley Conference(6/24–6/26 at Zug, Switzerland)
●ETHIndia(8/2–8/4 at Bangalore)
●Web3 Summit (8/19–8/21 at Berlin)
●ScalingBitcoin (9/11–9/12 at Tel Aviv)
●Baltic Honeybadger 2019(9/14–9/15 at Riga)
●Starkware sessions (9/16–17 at Tel Aviv)
●DeVcon(10/8–10/11 at East Asia)
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