LayerX Newsletter (2019/04/29–05/05)
はじめに: 今週の注目トピック
0–1 @th_sat より
今週の注目トピックは、カナダの金融業界における顧客認証システムや、シンガポールにおける学位証明システムなど、エンタープライズ分野における本格稼働の動きが数多く登場したことです(詳細は2–5および2–6をご参照ください)。アイデンティティや学位証明情報などを組織・業界横断で共有することなど、社会のデジタル化が一段と加速することの一助になると期待されます。法制度面でも、米Washington州のように、ブロックチェーン上の記録について法的有効性を認める動きが見られるようになっており、社会的認知が進んできたことを感じます。
こうした商用化の取組を支える動きとして目立つのが、Azure Blockchain ServicesやAmazon Managed BlockchainといったBlockchain as a Services(BaaS)です。AzureやAWS上に従来と比べてスピーディに環境構築ができることから、今後アプリケーション面の取組がこれまで以上に活発化するのではと見ています。
0–2 Eisuke Tamotoより
今月の証券トークン分野における注目記事は「STプラットフォームのHarborが決済手段としてステーブルコインのGUSDを採用」です。
多くの証券トークンプロジェクトは投資方法として、法定通貨もしくはBTC,ETHのみを受け付けていました。しかしそれでは証券トークンの効果を最大化させるには問題があるとされています。法定通貨の場合、投資を受けたとしてもトークン配布や配当実施の際に法定通貨とトークンとを繋ぎこむオペレーションが発生するために、自動執行とセトルメントというスマートコントラクトが有する価値を活かせない欠点がありました。一方、暗号資産の場合、ボラティリティが大きく、証券商品の投資手段としては不向きで、機関投資家の参加における障壁の一つとされていました。今回のHarborのStable Coin採用以前にも、PolymathはDai, SecuritizeはUSDCを決済手段の一つとして採用しているように、各STプラットフォームがStable Coinの活用を始めました。この動きが進むと、上述の問題が解消され、決済⇨配当まで全てOn-chainで行えるようになるという期待が持てます。しかし一方でStable Coinの分野もまだまだ発展途上と言えます。実際、先月末にはTetherの担保価値が100%と公表されていた一方で実際は74%しかなかった、という問題が発生しました。証券トークン分野の発展にはStable Coinの発展も重要なキーであるので両分野のキャッチアップが今後も必要であると考えております。
Section 1: Technology
Lightning NetworkのBOLT仕様に準拠したソフトウェアPtarmiganがメインネットローンチしました。ベータ版なので少額利用想定ですが、Azure上で公開され、電子工作キットの提供も予定されていることから、今後小型ハードウェア上で動くアプリケーションへの応用機会が広がることが期待されます。
また、Azureといえば、Azure Blockchain Serviceが、JP Morganとタイアップし、今後Quorumというコンソーシアムブロックチェーンをサポートしていくことが発表されました。Quorumはサプライチェーン分野などのコンソーシアムで広く適用事例があることから、今後エンタープライズ分野でコンソーシアム利用を考える際に、スピーディな環境構築がはかれる点で、Hyperledger Fabric同様に注目が集まることが想定されます。記事中ではQuorumとHyperledger Fabricの比較記事も紹介しています。
1–1 Bitcoin
- 主なアップデートポイントは、Hardware Wallet Interaction(HWI)ツールを用いて、LedgerやTrezor等のハードウエアウォレットとの接続を可能にしたことと、複数ウォレットのペアリングをサポートするGUIを提供したことの2点
●Nayuta、Lightning NetworkソフトウェアPtarmigan(ターミガン)をReckless version(ベータ版)としてメインネットリリース
- Lightning Networkは、 Bitcoinの上にペイメント専用の層を設けることによって、 大きなTPS(秒あたりトランザクション数)、 事実上のリアルタイムのペイメントを可能にする技術
- Ptarmiganは、Lightning Network仕様(BOLT)に準拠したものとしてc-lightning・eclair・LNDに続き世界で4番目にあたり、長期的に小型なハードウェアで動作するLightning Networkソフトウェアを目指している
- 今回のリリースでは、 Microsoft Azureの「マーケットプレイス」で公開し、簡単に起動できるほか、Raspberry Pi Zero上で独立ノードが動作するもの。今後、PtarmiganがインストールされたユーザーのRasPi Zeroと、 Arduinoを接続する基板を限定100個、 原価でユーザーに提供予定であり、Lightning Networkのプロトコルを利用した簡単な電子工作が可能になる
1–2 Ethereum
- Beginner/Use/Learn/Buildという4つのサブカテゴリーで構成
- Beginerカテゴリーは、全くの初心者むけにEthereumとは何かを解説。Useカテゴリーでは、ETH購入やウォレットなど利用にあたってのトピックを解説。Learnカテゴリーでは、Ethereumの挙動やスマートコントラクトの基本に関する解説の他、スケーラビリティ向上にむけたEthereum2.0について触れている。また、Buildカテゴリーでは、開発者むけに、スマートコントラクト開発言語や、開発ツール、セキュリティツール、ベストプラクティスなどについて解説している
●なぜCryptoeconomics LabはPlasmaの開発・社会実装を目指すのか
- Plasma Chamberはスケーリングのためのフレームワークであり、決済の領域で非中央集権性とセキュアさを犠牲にすることなく、実用的な処理スピードを実現可能
- Plasmaは、PoA(Proof of Authority)的なサードパーティーを用意し、かつその機関が不正を行うインセンティブを限りなくゼロにすることでセキュアなネットワークを成り立たせることができる
- PoAを担うオペレータは法人や企業が向いているため、Plasmaを極めて消費者保護能力の高い銀行や取引所が導入したり、P2P性の高いアプリケーションに導入することによって、消費者保護能力が高いまま利便性を向上させることができるとのこと
●2nd ZKProof Workshop(4/10–4/12 at Berkeley Marina)の模様(動画・スライド)が公開
- INGからは、銀行業界におけるゼロ知識証明の応用について紹介された。プライバシーの課題解決にむけた重要なツールとして、ゼロ知識証明を位置付けており、ゼロ知識証明の応用として、KYC・AML、評判マネジメント、来歴、投票、オークション等を挙げた。今後の課題として、セットアップやコミットメントにおけるTrustをどのように定義するか等、ゼロ知識証明をめぐる”標準化”が重要であると述べている
- アイデンティティへのゼロ知識証明の応用についても紹介された。用途として、税金支払の証明・18歳以上であることの証明・無記名投票などを挙げている。その他、「第三者による本人確認済であることを保証したまま投資スキームへ匿名参加するケース」や「ソースを明かすことなく所与のアルゴリズムによって所定の評判スコア計算結果を証明するケース」等が紹介された
- Ethereum上の秘匿トランザクションとしてZetherが紹介された。Zetherはアカウントモデルで、効率的に証明・検証が可能であるとする。応用ケースとして、プライベートな価値移転のほか、オークションや投票などが想定されているとのこと
1–3 Bitcoin/Ethereum以外
●Microsoft、Azureプラットフォーム通じてQuorumをプロモーション
- Azure Blockchain Servicesは、コンソーシアム型ブロックチェーンネットワークの形成、管理、そしてガバナンスを可能にするフルマネージドサービス。Blockchain as a Service(BaaS)として事前設定されたネットワーク上で、開発者がブロックチェーン基盤のアプリやサービスの構築に集中できるようになるとされる
- この中で、JP Morganが中心に開発を進めてきたQuorumが、最初にサポートされる元帳となった。Quorumは、JP Morganの推進するIINやJPM Coinの他、石油取引プラットフォームVaktや、コモディティ取引プラットフォームKomgo、トレーサビリティプラットフォームAURA等で使われている
●Microsoft、Ethereum向けAzure Blockchain開発キットを発表
- Ethereum台帳上にスマートコントラクトの開発・デプロイする方法について提示。具体的には、「Azure Blockchain Service生成」から始まり、「新規Solidity Contract生成・構築」「Azure Blockchain Serviceへのコントラクトデプロイ」までの流れを解説している
●Amazon Managed Blockchain、一般利用可能に
- Amazon Managed Blockchainは2018年11月に発表されたフルマネージド型のサービスであり、スケーラブルなブロックチェーンネットワークを簡単に作成し管理できるのが特徴。Hyperledger Fabric と Ethereum をサポート対象としており、Ethereumについては現在準備中とのこと
●Enterprise EthereumとHyperledger Fabricの比較
1–4 統計・リスト
- Multicoin CapitalやBinance Research、Messari、Circle Researchによるアーカイブリソース。主なコンテンツは、ハッシュ関数やゼロ知識証明などの暗号学、コンセンサスやスケーリングなどのWeb3スタック、クリプトエコノミクスなど
●ConsenSysによるEthereum 開発者むけポータル
- 主なコンテンツは、スマートコントラクト開発言語、統合開発環境・エディタ、テストネット、インターフェース、スマートコントラクトライブラリ、クライアント、ストレージ、セキュリティツール等
●EDCONで発表された日本のブロックチェーンプレイヤーマップ
Section2: Business
今週はPoCや試行をこえたステージへの進展をみるトピックが目白押しでした。ブロックチェーン上の記録について法的有効性を認める法案が米Washington州で成立したほか、カナダの銀行で顧客認証を金融機関横断で提供され、世界経済フォーラムがサプライチェーン標準化プロジェクトを立ち上げたり、シンガポールでデジタル学位認定書発行といった動きが表面化しています。
また、規制面では、FATFのフォーラムが近日予定されており、FATFによるドラフトに対して各方面からパブコメレターが提示されている中、マネロン対策などの方向性がどのように進展するか注目しています。
加えて注目したいのは、SetPrptocolの取組です。各種暗号資産のポートフォリオについて動的にコントロールする仕組みをリリースしています。
2–1 Regulation : 規制動向
●FATFのプライベートセクターフォーラム、5/6–5/7にViennaで開催
- FATFステートメントに対するパブコメレターが、Coinbase・Circle・ConsenSys・CryptoGarageなどが参加しているGDF(Global Digital Finance)の他、Chamber of Digital Commerceなどから発行されている。6月のガイダンスパブリッシュに向けて重要な節目として注目
●米シンクタンクInformation Technology & Innovation Foundation (ITIF)、ブロックチェーン規制に関する政策担当者向けガイドラインをリリース(リリース内容原文はこちら)
- 仮想通貨・データ共有・トレーサビリティ・デジタルIDなどの主要技術として組み込まれる可能性が高いと予測する一方、知見のない規制当局が重要な分野の発展を妨げてしまう可能性について懸念を表明。ブロックチェーンを使用できないよう制限することよりも、合法的にブロックチェーンによる革新をサポートすることを推奨している
●米SECが5/31に予定しているFinTech Forumのアジェンダ発表。当日はSECサイトでライブストリーミング予定とのこと
●米Washington州、ブロックチェーンなど分散台帳に記録された情報を法的に有効で拘束力あるものと認識する法案通過
●タイSEC、デジタル証券に向けた証券法改正を準備(現地での報道原文はこちら)
https://www.bangkokpost.com/business/news/1670664/
- デジタル株式の発行およびトークン証券預託プラットフォームを可能に。この改正によって、トークン証券保管プラットフォームと、セカンダリーマーケットにおけるデジタル株式の発行に道が拓かれる可能性
2–2 Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●機関投資家における暗号通貨投資の浸透(調査結果原文はこちら)
- Fidelity Investmentが400社を対象として行った調査によると、機関投資家の22%が暗号通貨を保有しており、約40%が直近5年以内にデジタル資産への投資を検討していることが明らかに
- デジタル資産への投資ポートフォリオ戦略としては、デジタル資産そのものを買う戦略のほか、ETFのようなデジタル資産が含まれた商品を買う戦略のほか、デジタル資産取扱企業を含む金融商品を買う戦略などのバラつき
- 成年2000人調査の結果、2017年秋と比べて価格低迷環境下でもBitcoinの知名度浸透が進んでいることが明らかに
●Tether、現金および現金同等物による担保が74%に過ぎないことが判明
- Tether社は現実はUSDTの発行額の74%のドルしか持っていなかったことが明らかになったとのこと。本来なら「1USDTは1ドルではなく0.74ドルまで価格が下がらなければおかしい」とも考えられるが、現在のところそのような下落は見られない。その理由について考察したのが、次の記事
●Tetherに取り付け騒ぎが起こっていない件のゲーム理論的分析
- Tetherの現金担保が不十分であることが判明してもなお、USDTを巡って銀行の取り付け騒ぎのようにならない理由を、ゲーム理論(Diamond–Dybvig model)で考えたもの
- 救済される見込みがあるなら、取り付け騒ぎを起こすよりも、救済を待つのが、預金者にとっても合理的であると考えられる。そのため、Tetherについても、救済(将来の利益やどこかからの融資や調達)が起こると思われてるいるのではないか、との仮説
- この仮説以外の理由としては、大口は既にTether社が充分な担保を保有しないことを過去の経緯から把握しており、価格に織り込み済み、とも考えられる
●Facebook、ペイメント向け法定通貨担保Stablecoinに向けて「Project Libra」
●TrustToken、TrueUSDなどに続きカナダドル担保のStablecoin(TrueCAD)
●Bitspark、フィリピンペソ担保のStablecoin
2–3 Decentralized Finance : DEXやトークンなど
- 分散取引所、Stablecoin、レンディング、デリバティブ、バンドリング、ファンド、トークン化、KYC・アイデンティティ等といったカテゴリーについて、概要説明および主要プロジェクトがリストされている
●Set Protocol、動的ポートフォリオリバランスプロトコル
- 当初のTokenSetでは静的なトークンポートフォリオセットだったが、今回発表されたのは、トラストレスな方法でロボアドバイザーの役割を果たすリバランスロジックを組み込んだもの。Range BoundとBuy and Holdの2つのストラテジーに対応している
- 今後さまざまな価値がデジタルアセットとして流通することを考えたとき、こうした最適化がソフトウェアとして組み込まれていくことが想定されることから、スマートコントラクトによる自動執行の応用として注目したい
●新しいDeFiの提案 ~なぜMakerDAOは”微妙”に感じるのか~
2–4 Security Token : 証券トークン関連
● Harborが決済手段にステーブルコインのGUSDを採用
- HarborがGeminiと提携してGUSDを決済手段として利用することを発表
- 株式の配当にもGUSDを利用できるように
- 出資から配当まですべてon-chainで一貫して実行可能になる
- Currency.comがベラルーシ国債の発行を計画
- アメリカとFATFリスト記載国以外の投資家が対象
- Currency.comはSTの取引所運営を行う会社
- 現在βテスト版には150,000人以上の投資家が登録
- 今回の発行と同時にCurrency.comのSTセカンダリPFの正式ローンチ
- NBCの取材に対しロンドン証券取引所CEOのNikhil RathiがST利用に前向きな発言
- ロックチェーンが決済の迅速化にも有効であり、証券決済に効果があると説明
- ロンドン証券取引所自体は、社債STの発行を目指すNivaura社に出資を実行
- Nivaura社はUKのサンドボックス制度に従ってEquityの発行実証実験を計画中
- LedgerのCEOにGauthier氏が就任
- 機関投資家にも利用されるカストディとなることを目的に体制を一新
- 不動産投資ファンドのARCHがST調達に向けてPolymathと提携
- Polymathを選択した理由として、管理容易性、分散性にあると指摘
論考系
- 不動産証券化トークンプロジェクトをフランスで行う場合の法的建付けや課題を、「不動産所有権トークン化」「不動産収益配当権のトークン化」「不動産ファンドのトークン化」の三つに分けて解説
- それとともにトークン化することによるメリットデメリットとを解説
- 結論として、不動産所有権をトークン化するのは限界があり、収益配当権トークン化が最適であると解説
- 少額発行時の目論見書免除例外設置や、ブロックチェーン上の情報の証拠能力が判例で認定されたこと、という二つの事例がさらにフランス国内での不動産証券トークン化を容易にさせたと解説
- セキュリティトークン分野の中でもアセット(不動産/動産)の証券化が一番注目されている理由がどこにあるのかを解説
- 今まで法的準拠をしつつ取引相手を見つけるのにはコストがかかっていたジャンルである、不動産などのプライベート証券の分野が、blockchainによってコストが低く法準拠を行い取引相手を探すことができるようになる、と解説
- 課題としては、取引に参加するそのもののプレイヤーがまだ少ない事、トークンを扱えるカストディの存在が少なく機関投資家の参加への障壁が高いことを提示
2–5 Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●カナダの五銀行、SecureKeyによるブロックチェーンベースのアイデンティティシステムをHyperledger Fabric上に構築
- Royal Bank of Canada (RBC)などカナダの5銀行に加えて、デジタルID認証協会や米国国土安全保障省科学技術局、信用格付け機関(Equifax)なども参画した取組であり、今後、Sun Life Financialなど保険会社の参画も想定されている
- 「Verified.Me」と呼ばれるアプリケーションを通じて顧客認証を提供。ユーザーが金融データを他社と共有し、アイデンティティを証明して銀行口座開設・医療記録アクセス・携帯電話購入・公共サービス利用に使うことができる。Hyperledger Fabric上に構築されたものだが、Hyperledger Indyとの相互運用も可能
●カナダとシンガポールの中銀、中銀デジタルマネー間クロスボーダーペイメントを実験
- カナダのProject Jasper(Corda上に構築)を、シンガポール中央銀行のProject Ubin(Quorum上に構築)と接続。両者を「Hashed Timelock Contracts(HTLC)」と呼ばれる技術を使用し接続することによって、仲介者を設けずPvP決済を可能としたもの
- 両行は今回の取組をうけてレポートペーパーを発表しており、HTLCを用いたCorda〜Quorumの接続に関する具体的内容を把握する上で有用
- なお、HTLCを用いた証券決済におけるDvP決済としては、日銀がECBと行ったProject Stellarについて2018年3月にレポートが発表されている
2–6 Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●世界経済フォーラム、サプライチェーン標準化プロジェクト「Redesigning Trust」立ち上げ
- 国連WFPやMaersk・日立・ロッテルダム港など100プレイヤーを交えたもので、利害の食い違う参加者の交わり情報がサイロ化しているサプライチェーンにおいて、透明性と標準化をもたらすべく立ち上げ
- オープンソースロードマップやツールキットの開発を行っていくほか、コミュニティから月次でホワイトペーパーを発表していくとのこと。ガイドラインには、データプライバシー・セキュリティ・パブリック/プライベート問題・相互運用性・デジタルIDなどのテーマが含まれる予定
●シンガポール、学位証明をOpenCertsのデジタル認定書(OpenCertsについてはこちら)
- 学位証明情報にタグ付けや圧縮など施したものをブロックチェーンに記録しておくことによって、確かに認定機関により発行された学位証明であることをチェックできる仕組み
- 学生は学位証明発行手続きを簡素化してデジタル認定書を企業に提示するだけで済み、企業側も受け取ったデジタル認定書の真正性を速やかに検証することができるようになる。学校側としても、証明書の発行に伴う印刷・押印や、企業などからの照会に対する検証といったマニュアル作業を低減できることがメリット
- これまでにも、個別の大学レベルでブロックチェーンベースの学位証明を発行する取り組みは見られた他、日本でも先に経産省が学位証明などへの応用を視野に入れたハッカソンを開催するなどしているが、国家レベルの取り組みとして導入を発表したのは、シンガポールが初めて
●東北電力、分散電源用いたP2P電力取引の共同研究へ
- 電力取引実現のためのビジネスモデルや、P2P電力取引の拡大を見据えた最適な設備形成と系統運用方法のあり方を検討するとのこと。その中で、取引を記録する手段としてのブロックチェーンの有効性も検証予定
- なお、東北電力以外も含めた、電力分野における日本の電力会社の取組がこちらに一覧としてまとまっている
2–7 Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●High Fidelity、分散型VRプラットフォーム
●Santiment、暗号通貨データダッシュボード
●Plasm、Substrateの拡張機能提供
Section3: Articles & Papers
資本市場やグローバルサプライチェーンといった多様な参加者・複雑なプロセスを有した業界において、協調と協働を促すプラットフォームとしてパブリックなインフラの登場が期待されています。そうした中で、パブリックチェーンの技術開発を通じて、現在ハードルとなっている課題解決へ向かう流れを整理した論文や、サプライチェーンにおけるアイデンティティを提案した論文、機械学習との連動可能性を提起する論文を紹介します。
3–1 論考
●資本市場へのパブリックチェーンアダプションに向けた課題と対策方向性
- 課題として相互運用・セキュリティ・KYCコンプラ・スケーラビリティなどが挙げられ、それぞれについて進められている対策方向性がまとまっている
- インターネット発展同様に、パブリックチェーンによるイノベーションのスケールは、許可制ネットワークによるものよりも大きなものと想定される。資本市場においても同様に、自動執行やプログラム可能なアセットは、新しいストラクチャーをもたらす可能性があるものとして期待される
- 現在のところ懸念されるプライバシーやスケーラビリティや法令遵守については、エコシステムにおいて新たなソリューションが開発が進められている。それらを踏まえると新しい世代の金融インフラとして、パブリックチェーンの方がより適していると考えられるのではないだろうか
●世界経済フォーラムによるサプライチェーンへの応用レポート(レポート1・レポート2)
- 「サプライチェーン」「サプライチェーン分野におけるデジタルID」についてレポートが公開されている。後者は、ブロックチェーン応用のユースケースとして語られることが増えてきているデジタルIDにについて、サプライチェーン分野から考察したレポートとして特徴的
- アイデンティティ管理を中央集権・分散・連邦型と分類した上で、法規制の観点からアーキテクチャがどのように規定されるかに言及し、「政府〜政府」「政府〜企業」「企業〜企業」それぞれにおけるTrustという3類型からデジタルアイデンティティのモデルを提言している
- 現在のようにサイロ化されたアイデンティティである限り、様々な参加者を巻き込むグローバルトレードのデジタル化が進展しない。標準化やプロトコル化の成熟を経て、中央集権的なアイデンティティからブロックチェーンベースの分散アイデンティティへの移行が進んでいく。業界や政府の協働を通じて、IoTプロトコルとも連動した、検証可能なアイデンティティや資格証明の実現が進んでいくと思われる
●3 Ways Blockchain Could Unleash the Full Potential of Machine Learning
- ブロックチェーンを機械学習インフラのバックボーンとして用いることの意義についての考察記事。計算パワーの観点からは、特定企業に依存せずGPU計算パワーにアクセスできる点を挙げている。加えて、改ざん困難性や透明性の観点からデータのインテグリティを確保できるため、モデルの有用性を確保するデータフィードとしても有用であることを挙げている
- ブロックチェーン技術をデジタル化推進にむけた要素技術の一つとしてみたとき、IoTとの連携を考える例は多く登場している中にあって、今後はこうした機械学習との連動も、ヒト(機械学習)・モノ(IoT)・カネ(デジタルアセット)という三位一体でデジタル化を俯瞰する上で注目していきたい
3–2 論文
●Is Stellar As Secure As You Think?
- クロスボーダートランザクションなどペイメント向けプロトコルのStellarについて、safety および livenessの観点からFBAがPBFTより優れているとは言えないとの考察
- FBA(Federated Byzantine Agreement)は、権利が一部のバリデーターに集中するBFTの分散版として、2015年に開発されたもので、「Sliced Quorum」によるコンセンサスアルゴリズムが特徴。これは、ノード多数決によるものでなく、ノードを「Quorum Slice」という重複を許した小集合に分けて、各ノードの信頼できるノードのみを承認者とするもの
- コンセンサスラウンド完了にあたり、各ノードはquorum slice(ノードにより信頼されたノードを含みノードから特別なメッセージを受信)を形成しているが、この考察では、ノードの影響をPageRank (PR)およびNodeRank (NR)を用いて定量的に計測した結果、Stellar Foundationが運営するわずか2つのノードを消去するだけで連鎖的にコンセンサスプロトコルがうまくいかなくなることが判明したとのこと
●Event-Driven Strategies in Crypto Assets
●Understanding Cryptocurrencies
●Decentralized Finance on the Ethereum Blockchain
●Exploring the Monero Peer-to-Peer Network
●A Taxonomy of Blockchain Technologies: Principles of Identification and Classification
●Blockchains, Real-time Accounting, and the Future of Credit Risk Modeling
●Sharing of Encrypted files in Blockchain Made Simpler
●Blockchain Enabled Privacy Preserving Data Audit
●Atomic Crosschain Transactions for Ethereum Private Sidechains
●Empirically Analyzing Ethereum’s Gas Mechanism
●Bug Searching in Smart Contract
●Characterizing Code Clones in the Ethereum Smart Contract Ecosystem
●Please, do not decentralize the Internet with (permissionless) blockchains!
●Biometric Template Storage with Blockchain: A First Look into Cost and Performance Tradeoffs
●BlockLoc: Secure Localization in the Internet-of-Things using Blockchain
●Blockchain: Emerging Applications and Use Cases
●Blockchain Enabled Privacy Preserving Data Audit
●Self-Sovereign Identity Solutions: The Necessity of Blockchain Technology
Section4: Future Events
5/13–5/15に予定されているConsensus 2019に向けてNYCがBlockchain Weekとしてイベント盛り山積ですが、同じ米国東海岸であるBostonでも時期を揃えて各種のBiz/Tech両面のイベントが開催されており、これらから発信されるトピックについても注目していきたいと思います。
●Business of Blockchain 2019(5/2 at MIT Media Lab, Cambridge)
●Boston Blockchain Week(5/2–5/11 at Boston)
●Mining Summit(5/3 at Boston)
●Fluidity Summit (5/9 at NYC)
●Ethereal Summit(5/10–5/11 at NYC)
●Magical Crypto Conference(5/11–5/12 at NYC)
●Consensus 2019(5/13–5/15 at NYC)
●Token Summit (5/16 @NYC)
●IEEE International Conference on Blockchain and Cryptocurrency(5/15–5/17 at Seoul)
●Eurocrypto(5/19–5/23 at Darmstadt, Germany)
●Malta AI & Blockchain Summit (5/23–5/24 at Malta)
●SEC FinTech Forum(5/31)
●Bitcoin Lightning Hackday Munich(6/1–6/2 at Munchen)
●Breaking Bitcoin(6/8–6/9、at Amsterdam)
●Decrypto Tokyo 2019(6/8–6/9 at Tokyo)
●IEEE Security & Privacy on the Blockchain (6/17–6/19 at Stockholm)
●Zcon1 (6/22–6/24 at Split, Croatia)
●Crypto Valley Conference(6/24–6/26 at Zug, Switzerland)
●ETHIndia(8/2–8/4 at Bangalore)
●Web3 Summit (8/19–8/21 at Berlin)
●ScalingBitcoin (9/11–9/12 at Tel Aviv)
●Baltic Honeybadger 2019(9/14–9/15 at Riga)
●Starkware sessions (9/16–17 at Tel Aviv)
●DeVcon(10/8–10/11 at East Asia)
バックナンバー
#1 (2019/04/01–04/07)
#2 (2019/04/08–04/14)
#3 (2019/04/15–04/21)
#4 (2019/04/22–04/28)
Disclaimers
This newsletter is not financial advice. So do your own research and due diligence.
