青臭いやつの思い出

azusa yamamoto
limelight
Published in
1 min readJun 17, 2017

ぼーっとテレビを見ていたら、シュヴァルの理想宮についての番組がはじまった。

社会人になって初めて付き合った男の子が、大学時代に見に行ったんだと言っていた。フランスの田舎道をてくてく歩いて。荷物はバックパックひとつで。

おそろしく青臭いやつだった。

サム・ペキンパーの映画が大好きで、「砂漠の流れ者」のラストシーンを「世界でいちばん美しい映画のラスト」と断言していた。それにオマージュをよせた映画まで作って。

おそろしく青臭いやつだった。

高架下の薄暗い場所で、大人になる一歩手前の少年を被写体にした写真を撮っていた。男が男に惹かれる感情のありようを、ほとんど崇拝していて。

ほんとうに青臭いやつだ。

フランスの田舎道の土埃も、ロケ中のおかしな緊張感も、高架下のじめっとした感覚も、わたしは体験していないのに、今もありありと思い浮かぶよう。

いっしょに見たものとか、したことより、そんな彼自身の思い出についてよく思い返す。それは決まって、何の変哲もない夜。

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