見直されない法規制、企業ごとの独自規格…空間の進化を邪魔するのは何か? #SharingEconomy 4/9

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2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「シェアリングエコノミー―空間を活用した新たな価値観や収益機会の創出」と題して行われたセッション(全9回)の4回目をお届けします。話題は、シェアビジネスの阻害要因へ。各社が身をもって感じている“ハードル”とは。

登壇者情報

  • Chris Hill 氏 /WeWork Japan CEO
  • 小原崇幹 氏 /and factory株式会社 代表取締役CEO
  • 山崎剛 氏 /株式会社グローバルエージェンツ 代表取締役
  • 重松大輔 氏 /株式会社スペースマーケット 代表取締役(モデレータ)

拡張する「住」のあり方に、追いつけない「建築基準法」

重松: 次にいきます。 皆さんいろいろな取り組みをされていると思います。日本や日本以外の場所でも、世の中のトレンド的に、自分たちの攻めのビジネスをやる上でのハードル、例えば規制や業界慣習などあると思いますが、「こうすればもっと伸びるのに」ということがもしあれば。

あるいは、実はこうやって乗り越えたおかげで一気に伸びるポイントが見えました、という感じのナレッジシェアでもいいのですが、お願いしたいと思います。それでは、また山崎さんから。

山崎: そうですね、僕らがこの事業を始めたのは、12年前ほど前になるんですが、当時はあまりシェアなんていう考え方自体もなかったんです。そこから比べるとマーケットの裾野は非常に広がってきているという感覚は持っています。

ただ一方でいろいろな課題がありますが、一番大きいのは、やはり法規制のところです。例えば建築基準法を見てみると、同じ住宅をつくるにも、通常の1Kタイプのマンションの場合、いわゆるお部屋にトイレ・バス・キッチンがついていると、これは建築基準法上の「共同住宅」になります。

しかし、このどれか1つでも欠けると「寄宿舎」という扱いになります。それぞれをどちらかに変更するとなると、いわゆる用途変更ということになり、建築基準法上いろいろな手続きが増えるんです。

もともと寄宿舎というのは一つの会社の社員が使うための社員寮として例外的につくられたので、当時はそれで良いんですけれども、今の時代では、キッチンが一つ部屋にあろうが共用部にあろうが「それって同じ住居ですよね」という観点でいうと、ここの垣根を超えていろいろな住居をつくるというのはなかなか難しいんです。そういう意味で、非常に苦労されているケースが多いのかなとは思います。

あとは、最近では民泊の話もあります。住宅を住宅として使う場合と、それをショートで貸す場合がありますが、ホテルを長期で貸すのは問題ないんです。そういう「住む」「働く」「泊まる」「遊ぶ」ということの垣根が低くなっていく時代において、そこの垣根を超えるために何かしらの建築基準法上の制約が出てくるというところで、非常に難しさを感じています。

優先すべきは借主の保護か、それともサービスの多様化か?

僕ら住宅をやっている立場として、もう1つ大きいのが借地借家法(編集部注:建物と土地について定めた賃貸借契約の規定。立場が弱いことの多い借主の保護を目的としている)です。ここはけっこう重いですね。

だんだんフレキシブルになってきていますが、所有するよりも、いろいろな場所にどんどん移動していきたいからあまり長い期間住みたくないよねとなってくると、住宅の選択も柔軟になっていきます。我々としてももっと気軽に貸したいという思いがあるのですが、借地借家法上、普通借だろうと定期借だろうと、日本は賃借人の専有権というものが過剰に守られているので、賃料2〜3ヶ月滞納したくらいでは強制で退去はできないんですね。

そうなってくると、貸主としてはリスクヘッジをとらなければならない。なので、やっぱり保証人だったり保証会社だったりとか、借主にとって重い対応というのを、貸主も取らざるを得ないのです。そういうことで、借りることがまだまだやはり重いハードルになっているというのは、今後の日本としての課題になってくるのではないかなとは思います。

根強く残る「独自規格」が、空間のテック化を阻害する

小原: 我々の課題としては、今回のテーマであるリビングテックの中でもよりテクノロジーの側面になるのですが、我々が踏み込んでいるのがIoTの領域。そこでは、通信規格だったりとかテクノロジーの統一化というところで、なかなかメーカー間でまだまだできていないところが多いかなと思います。

実際、我々のスマートホステル &AND HOSTEL の中で使われたIoTデバイスというのは、部屋の中に大体10~12個、ほぼ全て違うメーカーさんのものを入れています。

およそ12メーカーさん程度をつなぎあわせているのですが、テクノロジーの規格の統一化というところがなされていないので、これが実際はけっこう大変で。我々が独自で契約をさせていただき、APIコードを開放していただいています。

それらをつなぎ合わせたIoTプラットフォームアプリを弊社独自で開発していて、それによって、例えば朝起きる時間をセットしておくと カーテンが開き、テレビがついて、電気がついて……と、いろいろなものが連動する体験をつくることができます。

ホームオートメーション時代における、メーカーの価値

今後、住宅やマンションなどホームオートメーションやホームコントロールという文脈は絶対だと思うんですよね。海外だと、Amazon Echoが集中管理したといったことが当たり前になっているように、日本でもその文脈が絶対に出てくると思います。

そのときに日本での壁になるのが、法的な側面でも電波法などいろいろあるわけですが、それよりもさらに重いものが各メーカー単位で規格を独自でやっていることです。「そのメーカーの製品で部屋を埋め尽くさないと、部屋が自動化されない」ということが、今のところではありえるのです。それはもったいないことですし、日本のメーカーさんもすごくいいプロダクトをたくさんつくってはいるのですが、連携がないとなかなか単一の価値としては弱いんですよね。

テレビがついたら電気をつけましょう、部屋を出るときには、鍵を閉めたら自動的に電気も消えるべきだよね、という人間の行動にあわせた提供価値というものがあるべきだと思うんですが、今のところすべてを、例えばAというメーカーで埋めつくさないとできない状況になってしまっているので、そこはもったいないですね。

今、そこの通信規格などの効率化というところはHEMS(編集部注:家庭の使用エネルギーを一元管理するシステム)などいろいろな側面もあったりするのですが、なかなかまだまだ集約化される見込みはなく、そこに対して課題はあります。

我々も、どのメーカーさんに対しても「つなぎあわせたらこんなに価値があるので、APIを開放して広くやっていきましょうよ」と、今どんどん提言させていただいています。そういうところに対しての課題はありますし、我々なりのチャレンジはしているところです。

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