何のためのテクノロジーなのか? 誰かを豊かにするものが、同時に誰かを制約してしまわぬように。
#ClosingSession 5/6
2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「LivingTechの価値と未来」と題して行われた最終セッション(全6回)の5回目をお届けします。話は、これからの都市のあり方について語られたR不動産 林氏、ライゾマ齋藤氏、WIRED若林氏のセッションを踏まえた議論へ。キーワードは“多様性の共存”――。
登壇者情報
- 井上 高志 氏 /株式会社LIFULL 代表取締役社長
- 内山 博文 氏 /u.company株式会社 代表取締役 , Japan.asset management代表取締役
- 中村 真広 氏 /株式会社ツクルバ 代表取締役 CCO
- 上野 純平 氏 /リノベる株式会社 , LivingTechカンファレンス発起人
- 伊藤 嘉盛 氏 /イタンジ株式会社 代表取締役CEO
- 重松 大輔 氏 /株式会社スペースマーケット 代表取締役
- 山下 智弘 氏 /リノベる株式会社 代表取締役
- 佐藤 純一 氏 /株式会社SuMiKa 取締役(当時)/ モデレータ
テクノロジーがもたらす“選択の自由”
佐藤: クラウドリアルティの鬼頭さん、インベスターズクラウドの松園さん、イタンジの伊藤さん、グロービスキャピタルパートナーズの東さんが出られたセッションがありましたが、僕も本当に可能性があるなと思っていて。これは、エリアとか地域といったテーマにも繋がる話じゃないかなと思います。
自分たちの暮らしている地域や、自分たちにとっての象徴的な建物のオーナーシップを手に入れる。地域の人たちがオーナーシップを持つという方法って、今までなかなかなかったと思います。
それが、クラウドファンディングみたいな形で不動産を取得したりとか。今はいろいろな規制もあってなかなか難しいところもありますが、一つの可能性としてすごく面白いなと思います。内山さんがモデレータをつとめられた、東京R不動産の林さん、WIREDの若林さん、ライゾマティクスの斎藤さんが登壇されたセッションもありましたけど、あれは本当に面白くて。議論された内容をLivingTechに絡めて話すのがとても難しいので、どう話そうかと悩んでいたのですが(笑)。
都市計画の話になっているんですよね。内山さん、そのあたりいかがでしょうか?
内山: 登壇者が3人だったので、彼らが日ごろ何を考えているのか、最大限に引きだせたらと思って。全然テクノロジーでも何でもない話になったかのように聞こえたと思うんですけど、実はさっきの話と同じで、大事なキーワードがいくつか出てきたんですよね。
一つは、テクノロジーがあることで何が生まれるか。自由になれる。選択肢が増えるということです。
今まで情報も含めて限られていたし、テクノロジーがないがために、一つの会社に属して働くことが当たり前であるという価値観が一般的だったのですが、だんだん変わりつつある。選択できる働き方が、もっともっと増えていくということです。
自分の話で恐縮なのですが、自らいま実践してるつもりですけれども、僕はいま会社に属してるというよりも、数社と仕事をさせてもらえる立ち位置をあえて選ばせてもらっています。やってみると意外とできるなと。もちろん足りない、もっとこんなのあったらいいなと思うものもありますが。
自由になれるというチャンスを、どれだけ感じられるかだと思います。都市インフラの整備という意味でも、誰のための、何のためのテクノロジーなのか、インフラの整備なのかと考えたときに、僕らにとって幸せじゃないとダメだよねというのが、実は登壇者全員が言っていた話なんです。
僕たちが、どう楽しくそれを選択できるか。
テクノロジーが制約になって、これを使わなければならないようになると、それは幸せではないよね……というのが、僕らの中で出てきた話です。
それは僕も感覚的には分かっていたんだけれども、言葉にして言われてみて、改めてなるほどなと感じました。
ルール・制度という都市の“OS”を、いかにアップデートするか?
佐藤: 中村君は聞いてましたよね。
中村: 聞いてました。そもそも登壇の皆さんのキャラの濃いセッションでしたね(笑)。
どこに着地するんだろうって、そわそわしながら僕も聞いていました。今の話でいくと、テクノロジーによって自由を獲得できるというのは、まさにその通りだなと思いました。
いろいろな選択が可能になり、それこそ途中で自動運転カーの話にもなりましたね。僕も自動運転カーには思うところがあって、キャンピングカーとかも、今もニッチなジャンルとして支持されていますけれども、キャンピングカー×自動運転といったことが実現できると、住む・働くとか、そもそも不動産という概念が変わりますよね。
そういった、テクノロジーが一つ飛び出ることによって、そこに紐づく空間領域もパタパタ変わっていって。選択の可能性がどんどん広がって。そうなってくると、場所や仕事の縛りからどんどん解放されていくんだろうなと思います。
その結果、何が生まれるのかなと考えると……まだ僕も見えてないところがありますが、何となく“狩猟採集民族”のような人間になっていくんじゃないかと思ったりしていて。行きたいところへ行って、例えばコンビニでモノをパッと持って出たら、チャリーンと全部課金されるような。そもそもAmazon Goはそういう考え方じゃないですか。
日々なんとなく普通に生きていたら、なんとなく課金されて、なんとなく仕事になっていて。「生きていたら仕事も消費もしていた」みたいな。それってどういうことなんだろう……全然違うOSが、世の中に埋め込まれているんじゃないかなと思うんですけど。
佐藤: 僕があのセッションで面白いと思ったのは、都市計画の話って、内山さんがよく出すコルビュジェのイメージありますよね。未来の絵を描いて「こういう都市にしたい」と。でも、そこで描かれた“かっこいい”は30年後には陳腐化していて、特にかっこよくはなくなる。
だから、絵をかいてはダメで、その代わりにこういう都市にしたいという“ルール”や、こうしたいという“要素”を書き出すことが重要で。そこにはクリエイティビティが必要なんだと。
今、ルールを作る人たちにクリエイティビティが欠落していることが一番の問題なんだと。ゲームのルール作りにはクリエイティブが必要だというところは、本当に大きな気づきだと思いました。僕らは逆にそういうものを持たないと、都市のことを語るのはなかなか難しいという気づきもありました。
“多様性の共存”が担保されるプラットフォームを、テクノロジーで実現する
中村: あのセッションで、井上さんも質問されていましたよね。
井上: はい。
中村: そこからの盛り上がりも面白かったです。
井上: かき混ぜました(笑)。
中村: 「みんなにとっての幸せ」というものが本当にあるのかというのが、最後のディスカッションだったと思います。
井上: 少し時間が足りませんでしたが、みんなが幸せになりたいと思っている中で、画一的な幸せはないと僕も思っていて。つくづく思う超重要なキーワードは「多様性の共存」なんです。
多様性っていうのは、人それぞれの自分らしくありたいとか、こういうライフスタイルがいいとか、自分の夢はこうだとか、それぞれみんな違うわけで、73億人いれば73億通りあるわけです。
その中でライゾマの斎藤さんが仰った内容で、全く僕も同感だったのが、そういう多様性を受け入れられるようなプラットフォームを、テクノロジーでつくるべきだということです。まさしくその通りだと思います。
都市や街づくりに関しても、多様性を受け入れられるような、ゆりかごのようなものであるべきだと思っています。今までは硬直的なシステム、社会システムだとか都市基盤だとかに合わせられていた人間たちが、テクノロジーによって解放されていく運動の転換点に今いるので、その多様化が認められるような社会インフラや街づくり、そのためのテクノロジーとはどうあるべきだろうという議論に深まってきて非常にいいなと感じました。すばらしいセッションでした。
佐藤: そうですよね。あれは本当に僕も大好きな瞬間で、もっと話を聞いていたいと思った回でした。