現金の価値はどこに? 与信の意義とは? FinTechは何を再定義するのか。
#FinTech 8/8
2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「FinTechが変える暮らしと新たなビジネス」と題して行われたセッションの模様を、全8回に渡ってお届けしていきます。最終稿となる第8回は、前稿に続いて会場からの質問への回答が語られます。
登壇者情報
- 光本 勇介 氏 /株式会社バンク 代表取締役兼CEO
- 大野 紗和子 氏 /AnyPay株式会社 取締役COO
- 榊原 一弥 氏 /株式会社じぶん銀行 執行役員 決済・商品開発ユニット長
- 一村 明博 /株式会社ZUU 取締役 ビジネスソリューション事業部統括 兼 FinTech推進支援室長(モデレータ)
各社のサービスが繋がっていくことが、FinTechの強み
一村: 残り10分、15分ぐらいになりましたので、皆さま方からよろしければご質問等ありましたら。サービスが全然かぶっていないといいますか、いろいろな特色のあるサービスを運営している会社さんが集まっていると思いますので、ぜひご質問を受けて、我々の議論も深まればと思います。
いかがでしょうか。ご質問いただければお答えします。
質問者: ありがとうございました。小僧.comの平松と申します。
paymoさん、あるいはバンクさんの場合はお金を先に出してしまうので違うかもしれませんが、メルカリさんなど他の決済系のサービスの中で、自分の現金に値する価値というのがサービスの中にあると思うんです。
例えば、「メルカリの中にこのぐらい金額があるな」「どこにこれぐらい金額があるな」というものがあって、それが将来的にはつながっていく、というようなイメージがあります。いちユーザーとして、利用しているあるサービスの中にどのぐらいお金があるか、別のサービスの中にどのぐらいお金があるか、という状況がどんどん生まれていくと思っています。
そこがつながっていくと、1つ1つのサービスから現金化する必要もなくなりますし、本当の意味でのFinTechみたいなところになるのかなと思うのですが、そのあたりの将来のサービスイメージとしてどうお考えなのか、聞いてみたいです。
一村: ありがとうございます。多分、大野さんのところが、そういうイメージ。
大野: そうですね。先ほどお見せしたスライドでも少しありましたが、我々も最初にCtoCのサービスと、BtoCのサービスを同じような残高でということをやっていて。
ただ海外へ目を向けたときに、中国の『AliPay』などを見ていても、決済のサービスから投資の商品が買えるなど、いろいろな使い方ができます。
日本でもいろいろ分散しているFinTechのサービスが、お互いに互換性を持ってつながっていったり、まとまっていったりというのは、自然な流れとしてあるんじゃないかなと思います。
我々としても、それを全部上から下まで、自分たちでやりたいというよりは、決済を軸にしながら、提携も含めて一緒にやっていけたらいいなというイメージを持っています。
日本でもいろいろ分散しているFinTechのサービスが、お互いに互換性を持ってつながっていったり、まとまっていったりというのは、自然な流れとしてあるんじゃないかなと思います。
我々としても、それを全部上から下まで、自分たちでやりたいというよりは、決済を軸にしながら、提携も含めて一緒にやっていけたらいいなというイメージを持っています。
一村: 光本さんのところではあります?そういうイメージ。
光本: ものすごくあります。おっしゃっている通り、いろいろなところに、自分のいろいろな“お金”ができちゃうようになると思うんですよね。
今年(編集部注:2017年)の後半にかけてなんて、なおさら個人的に面白い時代になってきたと思っています。極端にいうと、今までお金というものにしか価値が見出されていなかったのに対して、今ではいろいろなものに対して価値が発生する世の中になってきています。
例えば自分の時間や、『VALU』(編集部注:https://valu.is/)のような自分自身の価値だったり、私たちバンクは物に対して値段を付けるようなサービスを提供しております。
今まで気づけなかった、価値として見出していなかったものに対して価値が付きはじめているので、そういった意味では、お金に限らずあらゆるものに価値がついていって、その価値に紐づいて自分が生活していくような世の中になっていくと思います。
ですので、いろいろなところにいろいろなウォレットがあったりとか、自分の所有しているいろいろな価値が存在するような世の中になっていくんだろうなというのは、なんとなくイメージをしていまして。
いろいろなサービスが出てくると思うんですよね。ただ、どういうふうに一括していけるかというのは、何かしらそういうサービスは出てくるんだろうとは思いますが、そのソリューションというのは私もまだ持ててはいないのですが、とても興味はあります。
サービスの観点でいうと、私たちは瞬間的に物をお金にしてしまって、すぐにその方のウォレットにお金をチャージしてしまいますので、今はまだ、現金というかたちでお金を引き出すという導線しかありません。
それを例えば1タップで、『paymo』さんのウォレットに移管させていただいたり、『LINEPay』さんのウォレットに移管させていただいたりとか、もしくは物を一瞬お金に替えて、それをまた物に替えてあげるような導線を作ってあげることもできるかもしれません。
そういった意味で、いろいろな価値のスムーズな導線のようなものは、私たちができる限り作っていきたいなと、なんとなくサービスの目線ではよく思ったりしています。
開放ではなく、銀行側がAPIを活用する可能性
大野: 今のお話にもあった通りですけれども、デジタル化したお金のような概念があると思っていて。どのサービスでも、デジタル化された状態でお金があると、紙で持っているよりも動かしやすいですし、それがスムーズに動いていって活性化していくというのは面白いと思います。
榊原: 今のそのアイデア、すごくいただきたいんですけれども。ここは銀行がやっても面白いかなと思って聞いていました。
ヨーロッパなどを中心に、銀行は自分たちで何もものを考えられないから、APIを開放しろと言われていて。誰でも残高や入出金明細を見れるように、簡単に接続できるように、APIを開放しろと。お前たちはそれだけやっていればいいと。
そういうことができるのはFinTechの企業さんなので、そういうところへ提供だけすればいいと言われているんですが、それでは我々にとってつまらないなと思っていて。むしろ逆に我々のほうがAPIをいただいて、我々のアプリの中でそういう表示をして、銀行がハブになるというのは、1つのアイディアだなと思っています。
昨日ちょうど『LINEPay』さんとのサービスもスタートしたのですけれども、今度『AnyPay』さんともスタートし、どんどんそうやってつながっていきますから、我々はそれはぜひ使いやすい形で実現したいなと考えております。ありがとうございます。
すべての価値の見える化で、現金の価値は下がっていく
一村: ありがとうございます。個人的には、2方面からその動きがあるかなと思っています。1つは現金以外に、今までお金でしか尺度を統一できていなかった。ところが今、例えばヒューマンキャピタルローンなどという考え方があります。
例えば、SNSでどんな人とつながっているのかがその人の価値として換算されて、その人の与信能力に反映されるという考え方です。
私47歳ですけれども、当然ながら20歳の方よりも私のほうが資産は持っているんだけれども、本物の将来のことを考えると、その20歳の方のほうが将来性が高いと考えたら、その彼のほうがローンの与信枠が大きかったりとか、こんな考え方が1つあります。
つまり、いろいろなところに価値を、いわゆる見える化することによって、その価値の総体がその人の価値だという考え方になってくると、今おっしゃったようないろいろなところにポイントがあるようなものと、似たような話になると思います。
もう1つは参考までになんですけれども、ケネス・S・ロゴフさんが書かれた『現金の呪い』(編集部注:現金の呪い――紙幣をいつ廃止するか? / 日経BP社)という書籍があります。時間があったら、見ていただきたいんですけれども、簡単に言うと、現金が1番コストが高いじゃないかというお話です。
ドイツなどはユーロ紙幣の高額紙幣をもうやめるという話があります。日本だとすると「もう1万円札やめよう」ということです。保管、セキュリティーのところで、1番コストが高いのは現金じゃないかという考え方です。
両軸で進んでくると、今、みなさんがおっしゃったように、それが起点となるのが仮想通貨ですし、今持っている銀行さんのデータかもしれない。今後いろいろな可能性が出てくるかと思います。2軸から間違いなく、現金の価値自体が下がっていくということは言えるのかなと思いました。
与信不要のサービスは、FinTechで実現できるか
光本: 少しその部分でお話させていただくと、まだ私たち社会実験中なので何とも言えないんですけれども、世の中って、あらゆる与信で成り立っていると思うんです。
紙幣はコストでしかないという話をされていましたけれども、私は与信もコストでしかないと思っておりまして。もちろんお金を提供するからには、その人が信頼できる人かどうかという与信を取るのは、当たり前ですし絶対に必要なのかもしれません。
しかし考え方を変えて、与信なくして運営できるサービスや、回せるお金の流れといったものを作れたら面白いんじゃないかなとか。コストがかからなくなって、もっといろいろな可能性が生み出されてきたりするのかなと、最近すごく思います。
『CASH』というサービスもまさしくそうなんですけれども、その人が本当に物を送ってくれるかどうかって分からないんです。その人の与信を調べていることがコストなので、であれば振り込んでしまえと(笑)。祈りながら待っていて。与信なくしてサービスが成り立つかどうかにチャレンジ中です(笑)。
一村: 我慢強さが必要ということですね(笑)。
大野: 与信という意味でいうと、与信のためだけのプロセスっておっしゃる通り手間ですし、UXもよくないと思いますね。そこで、いろいろなサービスが連携していったときに、サービス上でのユーザーの振る舞いをデータとして利用することはできると考えています。
例えば中国でも、物を借りる行為がモバイルで管理されていて、その方がきちんと傘を返しているか、本を返しているかとか。過去の行動に基づいて、その人の共通のソーシャルスコアといいますか、信頼度のようなものが存在していて。
新しいサービスを使う際にはそのスコアがもとになるので、わざわざその人を評価しなくてもよいという世界もあると思うんですよね。いろいろなサービスの連携の先には、そういった世界も見えてくるのかなという気がします。
一村: はい、ありがとうございました。驚くことにちょうど、75分予定通りになりました。終盤の2分間だけ、異様に盛り上がった感じがありましたけれども(笑)。
我々Facebookもオープンにしていますので、もし今後ディスカッションであったりビジネスであったりご所望であれば、ぜひお問い合わせください。フランクにお話していきたいと思っています。75分間ご清聴いただき、本日はどうもありがとうございました。
(終わり)