“生きるためのコスト”を下げる? Living Anywhereの可能性とは。
#FutureLiving 3/9
2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「FutureLiving」と題して行われたセッション(全9回)の3回目をお届けします。LIFULL井上氏が孫泰蔵氏らと取り組むLiving Anywhereの活動。その先に見据える、働き方・生き方、そして社会のパラダイムシフトとは。
登壇者情報
- 秋吉浩気 氏 /VUILD(ヴィルド)株式会社 代表取締役 CEO アーキテクト
- 井上高志 氏 /株式会社LIFULL 代表取締役社長(モデレータ)
“生きるためのコスト”は、ますます下がっていく
井上: 企業は自社の技術や“企業らしさ”というものを、必要な人に、必要な時に、必要な場所に、自由に提供できる。行政においても、必要な人に必要な時に、自由に提供できる。こうしたテクノロジーが確立し、いろいろな制約から解放されていくと、住まい方も働き方も変わっていく。
Living Anywhereで実現したい一つの方向性としては、生活費を大幅に安くできないか、コストダウンできないかということも考えています。
例えば我々はエネルギーに非常に高いお金を払っています。遠く離れた国から原油を運んでくる時の、タンカーの輸送代にも大変なコストがかかります。
それを生成して、発電して、ここに電気が来ているわけですが、この電気はエネルギーが発電されてからここに届くまでにだんだん減衰してきますので、発電時のエネルギーの多くをロスしながら、ようやく届いていることになります。ここには大変なコストがかかっているのです。
実際には地球に降り注いでいる太陽エネルギーたった1日分で、全人類73億人の1年分のエネルギーを補ってあまりあるわけですが、それを変換するテクノロジーがまだまだ幼稚である。こんなところからも、実はコストダウンを図っていくことが可能なのではないか。
これからロボットや人工知能やシンギュラリティで、人間の仕事は50%奪われるかもしれないとか、80%奪われるかもという予測もありますけれども、むしろそれは良いことなのではないだろうか。
今まで人間がやらなくてはならなかったことを、AIやIoTやロボティクスにどんどん任せることで、本来人間がやりたいことに働き方をシフトしていくことができる。
「働く」が変わり、社会が変わる
また生活コストに関しても、ざっくり言うと生涯賃金の40%がリビングコストに使われています。この40%の生涯賃金の支出が、例えば半分、もしくは三分の一になれば、そもそも働いて生活費をかせぐという、働くことの意味合いそのものも変わってくる。
そんなにお金を稼がなくとも生活は十分にできる。そんな社会をつくっていった時に、例えば地方創生に多いに役に立つのではないかと。
地方行政に詳しい方はご存知だと思いますが、地方行政の歳出のうち、上下水道のメンテナンスや道路の補修といった社会インフラを維持することだけに、20%から30%の支出が発生しています。
人口は減少している、世帯数は減少している。でも社会インフラとしては、田舎のほうででおばあちゃんが一人暮らししていたら、やはり電気は届けなければならない。このようなことで、行政としても支出が多いのですが、これを劇的に変えられるのではないか。
それが可能になると、都市に集中して住む必要がなくなってくるので、スラム化や都市化の問題も解消され、集中から分散に向かっていくのではないか。
途上国開発も、被災地支援も
また途上国支援として、例えばアフリカがこれから上下水道を整える、電気網を引いてくる、通信網を引く、さらに道路の整備をするとなると、途上国といえども数10兆円から100兆円、200兆円の社会インフラ整備コストがかかってきます。しかし、これがLiving Anywhere、オフグリッドになればその投資がいらない。
つまり、アフリカで固定電話が普及する前にいきなり携帯電話が普及していったように、社会インフラを作らなくても十分に潤沢な生活ができるのではないか。このようなことも我々としては目指しています。
あとは急に災害があった場合にも、移動可能な“可動産”になっていれば……キャンピングカーの未来型みたいなものですが、これを自動運転で。レベル5の自動運転カー5,000台に「被災地に行け」とボタンを押せば、被災地まで自動運転していき、そこで生活ができるようになる。こういったことを目指していきたいと考えています。
Living Anywhereを、夢物語にしないために
一例として、VUILDの秋吉さんに自己紹介と取り組みのご紹介をしてもらいます。住宅というジャンルですね。
スマートモジュールというのはこういったコンテナハウスのようなもので、これも実際に試してみましたけれども大変快適な居住空間でした。
HOTARU(編集部注:2017年に社名変更し、現社名はWOTA株式会社)というのは、水の循環システムを作っているベンチャーです。
通常4人家族で1ヶ月シャワーを使いますと、1,600リットル位の水道代がかかります。これが、水を循環させてろ過して使うようにしますと、だいたい1ヶ月40リットルくらいあれば回せるのではないかと。すると毎月1,600リットル使っている水道が40リットルですむ。それによってリビングコストは劇的に下がるし、環境負荷も劇的に下がる。
これをシャワーだけではなく、お風呂だったり台所であったり、お手洗いに広げていくことにチャレンジしている会社もあります。
ということで、Living Anywhereの概念と、テクノロジーの片鱗についてお伝えしました。ここからは、秋吉さんにバトンタッチしたいと思います。
アーキテクトであり、メタアーキテクトである
秋吉: はじめまして、秋吉と申します。冒頭に井上さんからクリエイターの話がありましたけれども、私はどちらかというとクリエーションの側の人間でして、住宅――暮らしを支えるハードウェアとしての家、みたいなところを担当している人間です。
名刺にも「アーキテクト」と「メタアーキテクト」と併記しているんですけど、建築家的に自分のクレジットで作品をつくることもありますが、一般の人が建築家や大工になれるシステムづくりとして“メタなデザイン”ということをやっていて、それをビジネス化しています。
バックグラウンドは、学部で建築設計を学んで、修士でデジタルファブリケーション、いわゆる3Dプリンティングを研究している研究室にいました。今はさらに木構造の研究でドクターを取ろうとしています。
3Dプリンタに代表されるように、今まで高品質なものをラピッドで作れる環境は、ある程度値がはったんですけれども、例えばこのShopBotという木材加工機。80年代だったら3,000〜4,000万円したものが、今は300〜400万円程度で買えてしまう。
そういう技術を、いわゆる住宅産業や家具産業の超上流である材料供給者にインストールする仕事をしております。
VUILD秋吉氏の実践
例えば、高知県佐川町にこの機械が入っています。先ほど「こんな場所にこんなものがあったらいいな」という暮らし方の自由の話がありましたが、ここでは現地の住人と一緒に、現地に生えているヒノキを使って、休憩所を作りました。
ここは景勝地なんですけど、この岩の前でみんながなんというか……プリンを食べたいといい始めてですね。プリンを食べるための小屋をつくってくれという話があって(笑)。
僕はパソコン1台だけ持って行き、1日目に設計、2〜3日目にみんなで切り出し、4日目に組み立てをして、5日目に設置するということを5日間の合宿でやってきました。
普段それぞれ集落の家にこもっていた人たちが、こういう場所でこういうことをしたいんだといったときに、テクノロジーを用いて、ラピッドに・手軽に、自分たちが欲しい空間を、自分たちで作れるようになった。
その結果、新たに“場”というかコミュニテイが生まれ、もちろんその上に“生きがい”みたいなものも生まれている。こうしたものをつくり出していく取り組みです。
この価値観とLiving Anywhereの考え方がシンクロしていると思っていて、孫泰蔵さんと井上さんと一緒にやらせていただいています。