そこに暮らす人が、そこにある材料で、自らモノをつくれる世界へ。

#FutureLiving 4/9

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2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「FutureLiving」と題して行われたセッション(全9回)の4回目をお届けします。今回は、VUILD秋吉さんの活動について。いま地方で起こりつつある変化とは? そして建築・モノづくりと人の関係性は、これからどう変わっていくのか?

登壇者情報

- 秋吉浩気 氏 /VUILD(ヴィルド)株式会社 代表取締役 CEO アーキテクト

- 井上高志 氏 /株式会社LIFULL 代表取締役社長(モデレータ)

材料を運ぶのではなく、原産地に機械を持ち込む

秋吉: 宇宙開発において、月面基地を月面の材料を使ってつくるという考え方があります。材料を現地で調達して、そこに機械を持っていくことで場所をつくるという考え方。価値観としては、それに非常に似ています。

たとえば、スマートモデューロというトレーラーハウスがあるのですが、北海道から九州に送るとなると相当な輸送コストがかかります。

僕らがやっているソリューションとしては、そもそもその場に製造する拠点自体を持っていくことを考えています。材料原産地に機械を持っていくことで、それがそのまま建築物になっていく。今まで買い叩かれていたような小規模な林業事業体に対して、付加価値をつけるようなモデルをつくっています。

さきほどの例でいきますと、だいたい半径5kmくらいのスモールなネットワークで、森、製材所、ShopBot、そして敷地、といったバリューチェーンが完結します。これくらいのスモールネットワークで流通が完結し、町が持て余している木を地域おこし協力隊の木樵たちが切りに行って、町所有の軽トラとShopBotを使って製作しています。ほぼ限りなく0に近いコストで、先ほどのような空間がつくれます。

実際にスタートして2年目になるのですが、こういう場が全国に20ヶ所あります。

どちらかというと男性よりも女性のほうが生活空間に興味があるので、自分でこんな家具をつくりたいとか。空間の内装自体も、スケッチを描いて、自分で機械を操作してつくってしまいます。

実際に導入されたのが製材所や不動産屋、工務店、大学といったところなんですけれども、自治体に3ヶ所くらい入っていて。そこは井上さんから説明があったような、いわゆる地方都市と呼ばれているところです。地方に行くほど林産地なので材料は豊富にあります。

先ほど井上さんから、この会場の隣にファブスペースができるというお話がありましたが、ここにも1台導入して。僕らもLIFULLさんと一緒に新しい住環境の開発をやっていくところです。

ワンピースを着た女の子でもモノづくりできる世の中に

井上: この場にあるといいですよね。会社の造作とかどんどん自由に、この場でつくれるように。

秋吉: そうです。やはりLiving Anywhere Weekでやってよかったと思うのは、自分たちで料理を作るとか、自分たちで家具をつくるとか、自分たちでつくることの価値というのを改めて実感させられたのが、この10日間だったわけです。

自分で作るために今まで必要だった……僕もそうだったんですが、つなぎを着てインパクトドライバーを持ってやらなきゃいけないDIYなんて実はやりたくないと思っていて。ワンピースを着た女の子でもそういうものをつくれるという技術を、いま提供しています。具体的にはビスとか、そういう工具を使わないでつくるということです。

井上: 伝統的な組み木の方法を使って、接着剤も釘もボルトも使わないのが基本形ですよね。今は何ヶ所あるんでしたっけ?

秋吉: いま20です。

井上: どのくらいの期間で?

秋吉: 2年目に入ったところなので。

井上: じゃあ2年で、20ヶ所くらい。すごいですね。

秋吉: 2020年までに100ヶ所というのを何となく目標にしています。

今は言ってみれば「モデムはあるけどインターネットがきていない」といった状態なので、僕らのビジネスとして出そうと思っているのは、そこに優秀なデザインデータあるいはテクノロジーノウハウを蓄積して、一般の人に流すこと。さらに、例えば都心の案件に対して、今までの選択肢としてはどこかの会社のセントラル工場に送られちゃうものを、地元が宮崎だから宮崎の木材を使って自分の家を作りたい、といった多様な選択ができるようにしたいなと。

井上: 地産地消ながらも設計データはみんなでシェアするという。

秋吉: そうです。その最終出口を固めるということを、今までやってきたわけなんです。

具体例としては、蒲田にある賃貸物件の1階に機械が入っていて。DIY賃貸の拡張版というか多様性のあるモデルとして、その機械で板をウィーンと切って自分で造作家具をつくれるようにしているとか。

あとは自治体だと、画面左上は高知県佐川町の町長ですけど、住民と一緒にアイデア出しをして、実際に彼らと一緒に木材を使って公共空間を整備していくことにも活用されています。

建築を“重いもの”から“軽いもの”へ

ここからは先ほどの技術的な話になるのですが、私がシステムに落とす前に、プロフェッショナルとして具体的にどんなことをデサインしているか。これは「SLUSH TOKYO」という投資家と起業家のイベントが3月にあったのですが、背景のこの構造物を設計しました。

要件としては、カルロス・ゴーンさんのようなVIPな方も参加されるので、こういうものを吊り下げても倒れないようなもの。ただし木材でつくってください、と。

木材でつくる上で、燃えない材というのが、たまたま予算内で調達できるのが5mmというペラペラな板しかなくて。それをいかに木を組むことで構造物にするのかということをやりました。

これが実は8mあるのですが、こういうふうに大人でも持てるんだけど、人が乗っても壊れない構造形式を、コンピュータに計算させて設計させていて。

さらに、一個一個パーツが違うんですけれども、そのデータをコンピュータから吐き出して、先ほどの機械が切り出して、人が組木で建てていくと。

それを組み合わせていくと、単に横並びにするのではなく半分の状態に出来たり、フレキシブルに空間を構成していける。そういうことを技術的にはやっています。

つまり、人が持ち運びやすかったり組み立てやすいように、軽く、いかに組み立てやすくするかという意味で最適化しています。

ものが軽くなると、移動させやすくなります。日本の住宅とか障子とか、軽やかだからこそフレキシブルに空間を仕切ることができたものを、いま再びデジタルの技術で戻していこうとしています。

オープンソースのモノづくりと、責任の所在

これは、「移動可能な橋」もできるのではないかと提案していて。一個一個の部材が……実はかつて宮大工が使っていたような、木の嵌め合わせのみで作るということをやっています。

このあたりを繰り抜いているのは、例えば橋をかけるときに、だいたい普通の鉄骨なんかをコンピュータでやると、一般的な規格材でバシッと真四角にやってしまいます。しかし人体がそうであるように、不要な部分をそぎ落とすことが……人間をはじめ生物はそうやって成長してきたわけですけども、この技術を使えば、いらないところは繰り抜いて、繰り抜くことでシャープな軽さになっていって、一般の人でも持てるようなものになっていく。

実際これは全長16mの構造物で、ボランティア8人で組み上げるんですけれども、素人でも高機能なものが作れるようになっています。

井上: これは構造計算……どれくらいの重さまで耐えられるかというのは?

秋吉: 全部コンピュータでやっていて、大人1人乗れるようになっています。

井上: そのバランスが難しいと思うんですけれども、引き算をして軽くするけれども、耐久性とか構造上の耐荷重があるとか、それはデザイナーや設計者の経験則によるんですか? それとも誰でもできるようになる?

秋吉: 最終的に「オープンソースの家」というものが現実になってくるときに、クレジットというか、最終的に誰が責任を取るかという問題になってくるのですが、これに関しては、最終的に我々がプロとして監修はしています。計算上、成立はしているんだけれども、現場レベルで微妙な緩みがあるとやっぱりダメなので。そのへんは監修者として責任は持っておかなければという感じですね。

ただ、この荷重に見合うかどうかというところまでは、全部コンピュータで設計できるようにプログラムを組んでいます。ですので、例えば同じものや変わったものを作りたいという時でも、そのシステムにアップして、データをダウンロードすれば、あとは現場レベルで建てるだけです。

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