顧客体験そのものをデザインせよ―LivingTechにおけるデザインの役割。

#HomeTech/IoT 8/8

--

2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「暮らしの中で顧客接点・価値体験を持ち続けるには?」と題して行われたセッション(全8回)の8回目をお届けします。シリーズ最終回は、Airbnb 長田氏とYKK AP 東氏が語ったLivingTechにおけるデザインの役割について、そして質疑応答の様子をレポートします。

登壇者情報

  • 長田 英知 氏 /Airbnb Japan株式会社 執行役員 ホームシェアリング事業統括本部 統括本部長
  • 月森 正憲 氏 /寺田倉庫株式会社 上席執行役員
  • 東 克紀 氏 /YKK AP株式会社 経営企画室 事業開発部 部長
  • 木村 大介 氏 /リノべる株式会社 Connectly事業責任者
  • 福岡 裕高 氏 /アーキタイプ株式会社 取締役/パートナー(当時)/ モデレータ

LivingTechにおいてデザインの果たす役割

福岡: 最後にこのテーマです。

4名に話してもらう時間がないですが、長田さんからきっかけをもらったテーマです。

なんやかんやで、シェアビジネスは「タクシー」と「ホテル」の代替が世界で圧倒的に伸びました。

Uberはアプリそのもののデザインというか、僕たちのスマホを通じて車を呼ぶという体験、デザイン。長田さんから、今日のこの4名の登壇においてもデザインというテーマ、デザインが果たす役割はどのようなものかという話が出ていたので、最初に長田さんに話していただいて、締めに向かいたいと思います。

長田: 弊社は創業者が3名いるのですが、うち2人がデザイナー出身で、サービスのデザインを非常に大事にしています。いま日本でビジネスを展開する中で、もちろん日本の社会にあったサービスのデザインというところと、併せて社会自体をいかに新しくデザインできるかというところも考えています。

今回、さまざまな事業をそれぞれの会社さんがやっておられる中で、モノあるいはサービスと、いろいろなデザインの考え方があると思うのですが、なぜ今日仰ったようなサービスをデザインされたのか、プロダクトのデザインをされたのかをお伺いしたかったんですね。

福岡: 1人にしましょう。

長田: じゃあ、YKK APさん(笑)。

なぜ窓を、そういった形のサービスのデザインとして考え始めたのか、きっかけなどを伺えれば。

東: 窓って、先ほどお話のあったAtmophみたいなことも、たしかにできます。

しかし窓といっても、うちの商品の場合は開口部の穴が空いたところ、外と接する部分に付いているものなので。窓の将来像としては、外と接しているからこそ、外の様子を中に伝えて窓が機能する、というようなデザインをしていきたいと思っています。

要は、窓が考える。奥さんが来たら、エアコンが嫌いだからエアコンのスイッチを止めて窓を開けるとか。そういうことができたらなと。

顧客体験自体をデザインする|Airbnbのデザイン思想

福岡: 改めて、Airbnbの体験というのは、レスポンスが早かったり、顧客体験の部分で評判が上がっていると思うのですが、日本で事業をしている長田さんとまわりの仲間にとって、Airbnbにとってのデザインってどんな感じですか。

長田: 顧客体験自体をデザインしていく、というところが我々の中にはあります。

例えば、プロフィール紹介の文章の長さがどのぐらいであるべきかとか、もちろんUIの見え方がどうあるべきかというのもありますし、相互レビューを通じてホストとゲストがお互いをレビューすることで信頼性を担保するとか。

カスタマーサービスでもなるべく早くレスをするとか、あるいはどういったプロセスで安心して使っていただけるかを考えるとか。

すべてデザインというものを大切にしています。

福岡: 体験するものなんですね。

長田: そうですね、体験。

福岡: 体験をデザインする。

長田: そうですね、はい。

福岡: はい、というわけであっという間に時間が経ちました。せっかくなので、質疑応答をしたいと思います。

言語化されていないニーズを、いかにあぶり出すか

福岡: どうでしょうか、会場から質問はありますでしょうか。皆さんに質問するのでも構わないですし、一人一人に聞いていただいても構いません。

質問者1: オープンハウスの森井と申します。

今まさに、我々も不動産業の中でスマートハウスに取り組み始めているところです。リノべるの木村さんに質問で、いろいろ試された中で残っていったという話があったと思うんですけども、何か今後また新たに出て来るものも、AIスピーカーをはじめとしてあると思うんですけれども。「こういうものがあったらいいのにな」という声はお客さんの中から出て来ているのではないかと思います。

木村: たくさん来ています。

質問者1: そういった声で聞かせていただける部分をお聞かせ願えればと思います。

木村: 前提の話をすると、お客さんの「こんなのあったらいいな」という声は意外と必要なかったりするんですよ。

というのは、やはり人間って自分のニーズを言語化できないので、欲しいなというものが本当に欲しいとは限らないんですよね。

なので「こういうのが欲しい」と言われた時は必ず、「そうするとあなたの生活はどのように変わりますか」と聞き返すんですよ。そのようなことを繰り返していくと、これは価値ありそうだなというのはたくさんあります。

一つの例を言うと、さっきもちょっと話しましたが「あなたの家を今貸したらいくらですよ」とか「売ったらいくらで売れるよ」とかをこちらから出してあげるのは、めちゃくちゃ価値があると思います。

人力でやったりもしているんですけど、「そうなんですか⁉」と驚かれるんですよ、やっぱり。それをシステム的にできれば、もっと住宅業界全体が変わるのではないかと思っています。

「今まで以上にスマートなソリューションを」4社が描く未来予想図

福岡: 他、質問はありますでしょうか?Airbnbの人にストレートに質問できる機会は滅多にないです。大丈夫ですか。であれば、せっかくなので、これいきますか。

スマートホーム、スマートハウスという切り口があるのでしょうが、お一人お一人の事業においてどういう絵を描いているかというところを、ポエムでもメッセージでも良いので、一人ひとりから一言もらいたいと思います。

長田: まずホームシェアをする上でスマートハウスである必要があるかというのは、必ずしもそうではない。

福岡: 家を持たない方もいらっしゃるかもしれないですよね(笑)。

長田: という前提はありつつも、空間の使い方で私が考えているのは、パブリックスペースとプライベートスペースの垣根が変わっていくのかなと思っています。それは家を貸し出すというところもありますし、あるいは自分の家というのがどこまでの範囲なのか。

自分の家が例えば東京にあったとしても、もしかしたらAirbnbを使うことによって世界中に自分の家を持つことができるということもあると思います。

そういったものをいかに、自分の信頼を貯めていくことによって使っていけるのかが、より大事になってくるのかなと思いますし、そうしたものもパッシブに補完するようなスマートなソリューションがこれから出てくると面白いのかなと思っています。

福岡: Airbnb、長田さんの立場からすると、家そのものがスマートかどうか以上に、家と僕たちの関係性なんですね。

長田: そうですね。我々はコミュニティということを大事にしていますが、やはり人と人の繋がりがあって初めて家が貸し出される、あるいは家を借りることができる。そこのコミュニケーションをいかによりスマートにしていくか。よりマッチングを上手くしていけるかというところで、スマートということが大事になってくるのかなと思っています。

福岡: いつか定額制でAirbnb使い放題みたいなサービスもできるかもしれない?

長田: どうなんですかね。

福岡: でも家そのものというよりは、家と僕たちの関係性なんですね。

長田: そうですね。もっと言うと、人と人との関係があって、その中に家があるというのが正しいのかなと思っています。

福岡: では、寺田倉庫さん。

月森: ただ単に倉庫というものを使って家の中をすっきりするというものではなくて、きちんとものを管理しましょうよというのは引き続き訴えたいです。

今までの倉庫事業者、トランクルーム事業者は保管するだけだったので、預けたものをいかに活用できて上手く暮らすことができるか。

私がやっているminikuraで、生活に倉庫を取り入れる。そんな世界を実現したいと思っています。

家の中にものがないということを本当にいいと思ってもらえるような、そういう社会を作っていきたいと思っています。

福岡: ありがとうございます。最後にお二人から。

東: ちょうど家にものがないということで、先ほどちょっと説明しましたが、ガラスが壁のような性能を持って、断熱材になって、そこにいろいろなものが集約されていく。部屋の不要な電化製品が集約されていくというところを、メーカーとしてはやっていきたいなと。

福岡: ありがとうございます、締めです。

木村: 先ほどご質問をいただいた時にちょっと外れた回答をしてしまったかなと思うのですが、私はスマートハウスの概念をすごく広く捉えていて。

空間の使い方の変化という将来像を話すと、うちの社長の山下がすごい家マニアなんですよ。めちゃくちゃ調べているし、詳しいので、「あ、そうなんだ」という話がいっぱいあるんですよね。

そういうものって今までは詳しい人しか享受できなかったんですが、そういうものを誰でも享受できるようにするというのが、私が描いているスマートハウスの未来像です。

それを自分のサービスでは提供していきたいと思っています。

福岡: あっという間に終わりの時間になりました。本当にありがとうございました。4名の登壇者にもう一度大きな拍手を。

(終わり)

--

--